電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

案内所

ポルノグラフィティ

《〇〇選》

「風景描写」10選

「心情描写」10選

「離別の歌詞」10選

「比喩表現」10選

「嘘と本当」10選

「悲観と陰鬱」10選

《もっと評価されるべき》

「俺たちのセレブレーション」

「Love,too Death,too」

「青春花道」

《歌詞解釈》

「ハネウマライダー」というポルノグラフィティを唄った曲

「メビウス(仮)」の可能性〔ぬいぐるみ、ネオメロドラマティック、老いた人〕

「ネオメロドラマティック」という寄り添い方

《ライブ感想》

「続・ポルノグラフィティ」感想〔おったまげて我が目を疑い震えた〕

「暁」感想[何度も終わりが来て時間感覚がバグった。そして温故知新な新曲]

「PG wasn't built in a day」の簡単な感想

《アルバム感想》

ポルノグラフィティ

10thアルバム『RHINOCEROS』感想

11thアルバム『BUTTERFLY EFFECT』感想

12thアルバム『暁』感想

岡野昭仁

1stアルバム『Walkin' with a song』感想

《そのほか》

ポルノグラフィティのちょっとしたデータ集

ポルノグラフィティの色彩

 

 

音楽系

《アルバム感想》

King Gnu全アルバムの(簡単な)感想

《そのほか》

タイトル縛りのプレイリスト

死ぬまでにお琴を習いたい

King Gnu、Official髭男dism、ハルカトミユキ[ブロガー経由で聴き始めたアーティスト]

 

 

映像作品

《最近見た存在する映画》

―2021年―

(ベスト5:「ミッドサマー 」「閃光のハサウェイ」「一分間タイムマシン」「バスターの壊れた心」「残酷で異常」)

09月(残酷で異常/狂った一頁/幻夢戦記レダ/ゴジラ/サイコ/ゴーストバスターズ)

10月(ミッドサマー/ジェーンドゥーの解剖/俺たちホームズ&ワトソン/片腕マシンガール)

11月(閃光のハサウェイ/SF巨大生物の島/カフカ「変身」/ヘンゼル&グレーテル/一分間タイムマシン/とっくんでカンペキ)

12月(ソウ/バスターの壊れた心/昆虫怪獣の襲来/項羽と劉邦 鴻門の会/あたおかあさん/ヤツアシ)

―2022年―

(ベスト5:「スキャナーズ」「ヘレディタリー」「孤独なふりした世界で」「メメント」「ドロステのはてで僕ら」)

1月(コマンドー/カルト/道化死てるぜ!/銀河ヒッチハイクガイド)

2月(マーズ・アタック!/ヘレディタリー/透明人間/ディアボロス/良いビジネス)

4月(プラットフォーム/ビンゴ/名探偵コナン 時計じかけの摩天楼/スマイル/Run Baby Run)

5月(曲がれ!スプーン/トップガン/ゾンビーバー/地下に潜む怪人)

6月(ハードコア/イミテーション・ゲーム/プロジェクトA/玩具修理者/Shutdown)

7月(ウィッカーマン/スキャナーズ/ゲーム/デッドコースター/縛られた)

8月(夏への扉/ポーカーナイト/蜂女の恐怖/デッド寿司/健太郎さん/高飛車女とモテない君)

9月(ガンズ・アキンボ/孤独なふりした世界で/ショウタイム/ストーカー/ジャックは一体何をした?/ANIMA)

10月(メメント/コラテラル・ダメージ/パニック・フライト/ミッション:インポッシブル/靴屋と彼女のセオリー/Two Balloons)

11月(キャメラを止めるな!/トレマーズ/ドロステのはてで僕ら/ルール/DAICON FILM版 帰ってきたウルトラマン/16.03)

12月(ファイト・クラブ/一度も撃ってません/必殺!恐竜神父/デストイレ/ドッペルゲンガー/Lost Senses)

―2023年―

(ベスト5:「ユージュアル・サスペクツ」「トップガン マーヴェリック」「騙し絵の牙」「ゴーン・ガール」「MONDAYS」)

1月(ユージュアル・サスペクツ/凍った湖/タッカーとデイル/ヒルコ/チャンスの神様/それからのこと、これからのこと)

2月(賢者の石/秘密の部屋/アズカバンの囚人/炎のゴブレット/不死鳥の騎士団/謎のプリンス/死の秘宝 PART1/死の秘宝 PART2)

3月(トップガン マーヴェリック/ゲット・アウト/スリー・フロム・ヘル/ファウスト/お雛様のヘアカット/おるすばんの味。)

4月(ノイズ/ミラクル・ニール!/ハード・コア/悪夢のエレベーター/I Just Wanted to See You/滲み)

5月(真・三國無双/かっこいいスキヤキ/アフリカン・カンフー・ナチス/とっととくたばれ/Letter to you/逢魔時の人々)

6月(名探偵ピカチュウ/隣のヒットマン/ブラック・レイン/マンディブル/ひとまずすすめ/ひとまずすすんだ、そのあとに)

7月(八つ墓村/プラネット・オブ・ロボット/Mr.&Mrs. スミス/パーム・スプリングス/ラ・ジュテ/モーレツ怪獣大決戦)

8月(騙し絵の牙/死体語り/ゲームの時間/N号棟/二人でお茶を/そこにいた男)

9月(地獄の黙示録/ゴーン・ガール/バブルへGO!! /僕らのミライへ逆回転/真夜中モラトリアム/ワールドオブザ体育館)

10月(明日への地図を探して/ロブスター/ビバリウム /PicNic/毒/白鳥)

11月(MONDAYS/ウィッチサマー/セミマゲドン /もしも昨日が選べたら/奇才ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語/ネズミ捕りの男)

12月(コマンドーニンジャ/18歳の"やっちまえ"リスト/デス・レース /クレイジー・キラー/サマーゴースト/フランケンシュタインの怪物の怪物)

―2024年―

1月(きさらぎ駅/ザ・シスト/アドレノクロム/ヴィーガンズ・ハム/マレヒト/狐狸)

2月(ベイビー・ドライバー/ゴーストライダー/バーン・アフター・リーディング/ファイナル・ガールズ/予定は未定/失恋科)

3月(ドグラ・マグラ/21ジャンプストリート/フォードvsフェラーリ/地球、最後の男/パパにとってママは?/黄金色の情景)

《最近見た存在しない映画》

―2021年―

(ベスト5:「ビーイング」「劇場版ヒストリエ 完結篇」「脱走と追跡のサンバ」「劉邦項羽」「アゲハ蝶とそのほかの物語」)

10月(ビーイング/ボッコちゃん/劇場版ヒストリエ 完結篇/文字を喰う人)

11月(脱走と追跡のサンバ/プリティ・マギー・マネーアイズ/劉邦と項羽/ニッポンの農業の夜明けの始まり/暗がり)

12月(アゲハ蝶とそのほかの物語/ショート・ストーリーズ/エコに行こう!/三国志な一日/生涯)

―2022年―

(ベスト5:「ゴースト&レディ」「スペースキャットvsアースキャット」「ご機嫌直しまであと何単位?」「蟲の恋」「組織は文字でいっぱい!」)

1月(乙嫁語り/色彩、豊かな日常/夢野久作の「冗談に殺す」/時は貨幣なり)

2月(ゴーレム ハンドレッド・パワー/珈琲ハウスへようこそ/白猫姫/歩道橋の上から見た光景)

4月(美亜へ贈る真珠/フラッシュ・ムービー/ちょっとだけUターン/旅に出よう)

5月(李陵/従者の物語/アイアン・ドリーム/スケッチ)

6月(命のネジを巻く旅人サバロ/熱いぜ辺ちゃん!/天使のわけまえ/瞳の奥をのぞかせて/花束と空模様の理由)

7月(そばかすのフィギュア/クラッピー・オータム/流浪の民/夢みる頃を過ぎても/ご機嫌直しまであと何単位?)

8月(ゴースト&レディ/死ね、マエストロ、死ね/嘔吐した宇宙飛行士/蟲の恋/ネコと時の流れ)

9月(コンフェッション/シリウス・ゼロ/悪霊少女/組織は文字でいっぱい!/なき声)

10月(スペースキャットvsアースキャット/戦いの華/スーパーウルトラメガバトルドッチボールマッチ/ウオッチ・メイカー/宝石の値打ち)

11月(ネオ・デビルマン/永遠の森/頼むからゼニを使ってくれ!/猫語の教科書/魔法と科学)

12月(リボーンの棋士/シンパスティック・ドリーム/すべての種類のイエスたち/天下無敵宇宙大将軍コーケイ/眼は語る)

―2023年―

(ベスト5:「天使のハンマー」「鄭七世」「閣」「時が乱れ過ぎている!」「害虫駆除」)

1月(空色/空間/空論/空虚/そらのはてへ)

2月(天使のハンマー/ファスト・ミュージック/もう勘弁してくれ!/スター・マウス/贈り物の意味)

3月(花と機械とゲシタルト/閨/ステンレス・スチール・リーチ/もう一度あなたと生きたいから、一緒に死にましょう/宇宙船生物号)

4月(裏バイト:逃亡禁止 劇場版/プロット・プロップ・プロンプト/鬨/鄭七世/未明の友)

5月(AWAY/閣/異星人対策完全マニュアル/ミュージック/走る)

6月(ソーシャル・エンジニアリング/スピニング/闢/落下/ガソリンスタンドでの一幕)

7月(早乙女さんにはもうデスゲームしかない/テアトルからの逃避/時が乱れ過ぎている!/閲/白い糸)

8月(午後の大進撃/俄雨/タイムマシンのハウツー/閭/一夜限りの友情)

9月(世界の果てまで何マイル?/閃/この夏、あなたのために華を/文字化けして読みにくいけど頑張って/雪景色)

10月(7.62ミリ/首/闌/グッド・デイ/世界は喜びで満ちている!)

11月(地球に磔にされた男/有名悪女になったので好きに生きたいと思います/閥/おとなしい凶器/小説工場)

12月(と、ある日の二人/闘/メビウス/偉大なる夢/害虫駆除)

―2024年―

1月(ドリブレッドをおくれ/カラー・プレリュード/輝くものは全て宝石/残響で踊る人/氷の礫が融けゆくように)

2月(ザ・リーチ/海鳴り/農場を守れ!/チドと危険に遊ぼう/竜が乗った女から生まれた男)

3月(解放区/シンデレラ・グレイ/異端なスター/Low Love/ディッジュディリ・トゥーリィ)

《映画》

『トゥルーマン・ショー』[トゥルーマンと恋人と毒親とおれたち]

《ドラマ》

『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』[色とりどりの作品を押さえた良質なドラマ作品]

『世にも奇妙な物語 SMAPの特別編』[ゾッとする、意味深長な、笑みが零れる、どこか安心する、呵々大笑な……オチのついた物語たち]

『この動画は再生できません』[モキュメンタリー的ヒト怖と緩い空気のコントの融合]

『この動画は再生できません2』[ミステリ要素強めのホラーコメディ。ずっと眺めていたい緩さも健在]

《その他》

観たいのに入手困難な映画やドラマ

 

 

書籍の感想/雑記

《国内SF作家》

山野浩一

『山野浩一傑作選Ⅰ/Ⅱ』[不確かさ、漠然とした不安、そしてやっぱり文章がかっこいい]

『いかに終わるか: 山野浩一発掘小説集』[単なる落ち葉拾いに終わらない作品群。傑作につながるモチーフ、不条理そのもの等]

『花と機械とゲシタルト』[権威に対する多様な見方の物語。10年後にまた感想書きたい]

梶尾真治

『美亜へ贈る真珠[新版]』[ほろ苦い恋物語にSFのエッセンス]

星新一

―単作―

「白い服の男」[普遍性という最高の美点]

ショートショート集―

『ボッコちゃん』〔ファンタジー/SF強めの初期傑作選〕

『ようこそ地球さん』〔ズレの物語/よそ者たち〕

〈そのほか〉

杉山俊彦 『競馬の終わり』〔競馬とSFが楽しめる暗く楽しい問題作〕

 

《海外SF作家》

フィリップ・K・ディック

―長編―

『宇宙の眼』[ぼくがかんがえたさいこうのせかい=他人には地獄]

『最後から二番目の真実』〔情報の虚実を扱った薄暗いけど明るいラストの作品〕

『去年を待ちながら〔新訳版〕』〔ディック詰め合わせの良作〕

『フロリクス8から来た友人』〔主人公がだいぶ不愉快だけどそれなりに面白い物語〕

『ヴァリス〔新訳版〕』〔理解できたし面白いけど……やっぱり残念〕

―短編集―

ディック短編傑作選

『アジャストメント』[生涯のテーマからさらっと笑えるコメディまで]

『トータル・リコール』[娯楽色が強くすっきり楽しく読める短編集]

『変数人間』[ショートショート、超能力、時代]

『変種第二号』[戦争と人造物+サスペンス=不安]

『小さな黒い箱』[変色した社会問題と神について]

『人間以前』[ファンタジーと子供たち。そして最良と最悪の発露]

新潮文庫三部作

『悪夢機械』〔魘される悪夢から喩えとしての機械までバラエティに富む短編集〕

『模造記憶』〔有名作と隠れた傑作となんともいえない作品とここでしか読めない短編と〕

『永久戦争』〔機械による戦争、政争、存在しない戦争、星間戦争〕

―そのほか―

SFといえばフィリップ・K・ディック

ロジャー・ゼラズニイ

『地獄のハイウェイ』[単純明快な娯楽作品。やっぱりロードノベルが好き]

〈アルフレッド・べスター〉

『破壊された男』[めくるめく展開とハイテンポな文章がたまらない]

『イヴのいないアダム』[キレる名作短編とオムニバス式中編]

ハーラン・エリスン

『死の鳥』[エリスンのベスト短編集]

『世界の中心で愛を叫んだけもの』[暴力の嵐、愛情の渦、薬物の雷]

〈そのほか〉

『夏への扉』[ちょっとアレなところはあるけど楽しい小説]

『ストーカー』[古典的な冒険と現代的な発想の飛躍]

 

《アンソロジー

『世界ユーモアSF傑作選』〔会話よりもシチュエーションで笑いをとるタイプが多い〕

『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』[想像よりずっとバラエティパック]

『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』[短くキレのあるアンソロジー]

『博奕のアンソロジー』[多種多様な競技。審判としての博奕]

《文芸》

O・ヘンリ『O・ヘンリ短編集(一~三)』〔世界で愛される名作。いろいろな短編があって素晴らしいけどちょっと訳語が古めかしい〕

ロアルド・ダール『キス・キス』[意地悪いよなあ……]

ロアルド・ダール『あなたに似た人』〔暗がりの奇妙な味〕

J.L.ボルヘス『伝奇集』[短編小説/短編集の良さを再確認できた]

湊かなえ『往復書簡』[徐々に明かされる情報とオチの謎解きが気持ち良い短編集]

湊かなえ『往復書簡』[詳細感想版]

夢野久作『少女地獄』[ぷうんと匂い立つ血の香りと破滅への想い]

《ノンフィクション》

〈競馬〉

『名馬を読む』[中国史書で言えば本紀。生涯戦績、繁殖成績、社会現象、特異な事績など]

『名馬を読む2』[世家、列伝など。周縁事情、馬の関係性、時代、個性]

『名馬を読む3』[バラエティ豊かな名馬たちと最新の顕彰馬キタサンブラック]

〈歴史〉

『古代中国の日常生活』[小説仕立てで追体験する日々の営み]

『中国傑物伝』〔文明の擁護者、過小評価された男、バランサー、晩節を全うした者たち〕

《雑記》

夢野久作はサイエンス・フィクションの夢を見るか?

漢の歴史と正当性の感覚

印象的な小説のタイトル650選

 

 

漫画の感想/雑記

岩明均の描く女性と「自分ではない者を良く描く」ということ

キミは熱血ギャグ漫画家、島本和彦を知っているか?

 

 

嘘八百を書き連ねた創作文章

思い出:フリーにはたらく

思い出:手帳

思い出:「急に寒いやん」

生きていくためにとっても大切な薬物の話

さいきんよくみる変なゆめ

 

 

そのほか雑記

星新一はアル中を救う

学習:意味が分かるようになった瞬間

好きの言語化と嫌いの理由

読書感想文と方程式

はじめての遊戯王

完全初心者がマスターデュエルでプラチナtier1に上がった感想

野球のニュース見て漫画読み返してなんか落ち込んだ話

防犯の論理/倫理を知りたい

諡号と追号と名前の不思議

どうでもいいから読書が好き、だけど学ぶこともあるよね

江面弘也『名馬を読む4』[栄誉の二レース、年に一度の栄光、忘れられない勝ち方、砂塵の競走]

 活字で読む名馬たちの物語。一冊を通したコンセプトがあるわけではなく、どの名馬/名レースも同じ紙幅で描かれていることから、全体の感覚としては二作目に近い。また「はじめに」にある通り一章は『名馬を読む』というより『名伯楽と名手を読む』といった感じの内容になっている。簡潔で明瞭というシリーズの良さも十分に発揮されている。また章内である程度年代をばらけさせているのもバランスがとれていて良かった。知っていた馬、知らなかった馬、最近知った馬。

 一章で印象的だったのはワンアンドオンリーVSイスラボニータ。前話のラストを受けて橋口師を中心とした語り口になっており、その人柄について述べつつ彼が定年直前に栄冠を手にし、そしてライバルのイスラボニータに騎乗して惜敗した蛯名騎手がダービーを勝たぬまま引退して調教師となり、最後の二行につながる。とても綺麗な構成で調教師と騎手の関係とその変遷を描いた文章のなかで一番好きかもしれない。

 二章はエアグルーヴ。近年の名牝に慣れすぎていてエアグルーヴがいかに規格外の馬だったか失念しそうになるから、定期的にこの文章は読みかえしたい。レースぶりもさることながら容姿の描写も印象深く、繁殖成績についての伊藤師の(良い意味での)見立て違いが最後にさらりと述べられているのもお洒落。医学/調教技術が整った現代に生まれていたらどんな競走馬になっていたんだろうなあ……と思わずにはいられない。

 三章はタップダンスシチー。微笑ましくも胸が熱くなる。主戦騎手がこんなに率直に「乗りたくなかった」と言えるのも、佐藤騎手の人柄とタップダンスシチーの個性、そして両者をとりまく人間関係が良好だったからこそなのだと思う。全体を通した「漫才コンビのような関係性」に例える表現がすごく良い。才能はあるけど人間性にやや問題があるボケ担当とそれを上手く御しながら決してなれ合いはしないツッコミ担当。古き良き男の友情、でもある。

 四章はヴァーミリアン。挫折、状況、怪我、と数多のアクシデントに見舞われ、決して平坦とはいえない競走生涯はGⅠを九勝もした名馬にしてはあまりに泥臭くて、だからこそ魅力的だった。六歳で最盛期を迎えGⅠを二勝もしているのに、どうしてもドバイワールドカップでの敗戦やカネヒキリに先着できなかったことのほうが頭に残ってしまう。実力はたしかなのに思うようにいかず、どこか華に欠ける印象すらある。そこに妙なリアリティ(??)があって、どこか歴史上の人物……一見敗戦が多いように思えるけれど冷静に見てみると名将以外の何者でもない、という人物に重なる。

 五章はアーモンドアイ。もう、なによりこのジャパンカップは本書で唯一リアルタイムで観ていたレースで、もうキセキの大逃げやラストの混戦を含めて面白すぎていまでもたまに思い出したかのように観返したりしている。個人的にコントレイルを応援していたから残念ではあったけど、もうあれは仕方ないと思えるくらい強かった。繁殖成績、どうなるんだろう。夢が膨らむなあ。

 最後のいくつか細かいところを。P97にエアグルーヴ秋華賞の敗因として有名なパドックでのフラッシュについて若干の疑問が投げかけられている。よく耳にする話だし理屈としても正しそうだったから通説として疑わなかったんだけど、実際は(というか理論的には)どうなんだろう。まあ、敗因が単一のものであることのほうが珍しいのだから原因の一つだったかも、くらいの認識で良いのかもしれない。P137で花田清輝「勝った者がみな貰う」という評論があったけど、これが法月綸太郎「負けた馬がみな貰う」の元ネタ*1だと思うんだけど、どうなんだろう。P173でエイシンヒカリ芦毛相手の種付けを嫌がると書かれているけど、そんな視覚的な好みもありえるのか……とちょっとびっくりした。ヴァーミリアンを優先したから個別では書かなかったけどマルシュロレーヌの記事もいいなあ。チームプレイとしての競馬がこれ以上ないほど魅力的に描かれている。

収録内容

《第一章 ダービー 勝った馬、負けた一番人気》

「キーストンVSダイコーター
カツトップエースVSサンエイソロン
アイネスフウジンVSメジロライアン
フサイチコンコルドVSダンスインザダーク
ワンアンドオンリーVSイスラボニータ
「ロジャーバローズVSサートゥルナーリア」

《第二章 年度代表馬の栄光》

キタノカチドキ
サクラローレルマヤノトップガン
エアグルーヴ
ゼンノロブロイ
アドマイヤムーン
「モーリス」

《第三章 ぶっちぎりの快感》

ダイナナホウシュウ
テスコガビー
サッカーボーイ
タップダンスシチー
エイシンヒカリ

《第四章 砂の王者は世界を目指す》
ライブリマウント
アグネスデジタル
ヴァーミリアン
「トラセンド」
「マルシュロレーヌ」

《第五章 ジャパンカップ・メモリーズ》
メアジードーツ
「ハーフアイスト」
シングスピール
スクリーンヒーロー
「アーモンドアイ」

*1:もしくはグレアム・グリーン『負けた者がみな貰う』かも

最近見た存在しない映画(2024年3月)

解放区(2025年、日本、監督:今井八朔、109分)

 最初の数分を除いて一貫して夜の景色で構成された映画。やや画面が暗くて見ずらいところはあるけど、それだけにファンファーレや花火で彩られる画面の華やかさが際立っている。ほぼ一貫して夜という意味で逆『ミッドサマー』と評していた人もいてちょっと笑ってしまった。夜の国という設定でロードムービーということで個人的にはがぁさん『だいらんど』を思い出す。

 三人の青年たち(〈ヘッドフォン〉〈怖がり〉〈サラサラ〉)の友情と成長を基軸としつつ〈女王〉を筆頭とした四人の魅力的なサブキャラクターの物語も描かれている。もちろん、本筋は主人公三人だからサブキャラクターたちの掘り下げは少ないのだけど、その少ない描写時間でこれだけ濃厚なキャラとストーリーを描けていることはもっと高く評価されてほしい。

 個人的にはやっぱり〈月飼い〉が頭一つ抜けて魅力的だった。彼が恋人との別れを語るシーンは決定的な言葉はないけれど、おそらくは死別であったことを描きつつ〈女王〉がその恋人であるかのように匂わせているところがとても良い。すごく好きな設定。彼と〈古老〉と〈アビ〉が酒を酌み交わすシーンはクライマックスの序曲としては完璧だったと思う。

 ラストで〈サラサラ〉が〈女王〉から黄金の冠を戴くことで場面が転換して、この映画が夢であった(夢オチ)かのような描写があり、それを非難している人も結構いた。気持ちは分かるけど、彼らが夜の国で受け取ったものが部屋の中に残っていること、そしてそもそも三人がいる部屋自体がどこか現実離れしていることから、そんな単純なオチでもないと思うんだけどなあ……。

《印象的なシーン》「朝が嫌い」とつぶやく〈月飼い〉の恋人。

 

 

シンデレラ・グレイ(2026年、日本、監督:中藤正男、128分)

 童話『シンデレラ』に題をとりながら現代日本を舞台に多感な一人の少女を描いている。あまり好みのストーリーではなかったけど、繊細な心情描写は素晴らしく、過不足ない物語の起伏、濃すぎず薄すぎないキャラクターたちには惹きつけられる。カラフルな街並みと対比的なモノクロームな主人公の色彩感に頭がくらくらする。

 愛されたいと切に願いながら、優しくされると苛立ってしまう。正直、そんな複雑なこと言わないでくれ! と思ってしまうけど思春期(の終わり)の描写としては手放しで賞賛したいものがある。個人的には直近で読んでいた『Yuming Tribute Stories』の綿矢りさ青春のリグレット」を思い出した。峻烈な後悔。もう取り戻しようがないあの人。

 魔法≒魔女が存在しない『シンデレラ』と評している人がいたけど、個人的にはちょっと違うような気がしている。この映画における魔法は変身のアイテムなんかじゃなくて、傷つくことを恐れずにもう一歩だけ踏み出して能動的に行動することだった。そして落久保は本質的に憶病でそれが言えずに王子様を失ってしまった。魔法が存在しないというより魔女の誘いを蹴ってしまったシンデレラというほうが正しいと思う。

 刺さる人には生涯にわたって消えない傷痕を作る素晴らしい映画。

《印象的なシーン》心の声に感応してすべてが消え去る一瞬の描写。

シンデレラグレイ

シンデレラグレイ

  • 米津玄師
  • J-Pop
  • ¥255
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異端なスター(2020年、日本、監督:加藤積治、107分)

 好きだけど嫌いだけど好き。

 功成り名遂げたロックスターの回想という形式をとっていて、どんな事件があっても彼らは最終的には白髪の老人になっても仲良く暮らしていることを前提にできるから、ある意味では安心して観られる映画。おれはけっこう波乱万丈だなあと思って観ていたけど、バンド経験者が「こんなのは修羅場のうちに入らん」みたいなことをブログに書いていた。まあ、ヒトは「自分の方が苦労している」と主張したがちな生き物だからその辺は差し引いてみたほうがいいと思うけど。言葉のリズムが耳心地良くて、テンポに溺れて台詞を聞き逃してしまいそうになる。すごい脚本のセンス。

 前半と後半で対比が取れる構造になっている。始まりのライブと終わりのライブは光と闇/成功と失敗で対比をとりたくなるけど、あれは決意の差が如実に表れたライブで客の完成はそれほど重要な要素ではなかったのだから、あれは未熟と成熟で対比を作っているのだと思っている。あのライブで回想が終了し現在に戻ってくるのだから、演出の意図としてはおれの解釈が正しいと思うんだけど、あんまり同じ意見を見かけなくて自信が揺らいでいる。

 賑やかで明るい雰囲気はあるけど、ストーリー自体はかなり重めで、先述の回想の構成でなかったら途中で観るのをやめていたかもしれない。浴びせられる暴言が妙にリアルで心が削られ、静まり返った会場と浴びせられる冷たい視線に体温を奪われる。そして、だからこそ彼らがラストシーンで唄う歌が心にしみる。明日への活力になる。

《印象的なシーン》会場で災害呼ばわりされても輝く笑顔を見せて演奏を続ける場面。

異端なスター

異端なスター

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Low Love(2021年、日本、監督:佐々木雄倫、98分)

 気だるく虚しい恋模様を描いた映画。どうしようもなく煮詰まった二人の関係がふわふわと浮き上がってしまいそうなくらい軽く描かれている。すごい。自殺を思わせる描写は、ともすれば道化のようで映画館では笑い声(もちろん忍び笑いだろうけど)が聴こえたらしい。それも複数の会場で。そして、その笑いがどれほど残酷なものだったかを後半の展開で突き付けられる。すげえ。もうここまでくると感心してしまう。

 事態の行方は芳しくないのに、それでも二人だけの愛の世界にどっぷりと耽溺してしまう二人の姿は痛々しく、そして多くの人が予感する通りに破滅していく。胸が抉られるのにどこか爽快感があるのはどういうことなんだろう。不思議だ。

 ヴィンチと称する部屋で二人が密会するシーンはすべて定点カメラで撮られているのだけど、これが内と外の時間の流れの変化を明確にしてくれている。191がヴィンチの召使として立ち振る舞うときにシルクハット、ニット帽、スニーカーと演じる役割を変えるのだけど、その人数の増減は想いの消滅を暗示しているようだった。打ち捨てられだれもいなくなった部屋はうすら寒くて、あまりにも物悲しい。

《印象的なシーン》「痛み分け、ですね」

ロウラヴ

ロウラヴ

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ディッジュディリ・トゥーリィ(2026年、日本、監督:今井八朔、5分)

 台詞のない映画でどちらかというとMVに近い。前半部で掻き鳴らされるギターの音が忘れがたい印象を残す。激しい前半部と穏やかながら起伏のある後半部でかなり印象が変わるけれど、短編映画にしては珍しいんじゃないかな。

《印象的なシーン》ギターを担いで街を疾走する男。

最近見た映画(2024年3月)

ドグラ・マグラ(1988年、日本、監督:松本俊夫、109分)

 大学生くらいのころにレンタルで視聴済み。2020年にBDが出たんだけど(主に資金的な)諸事情があって躊躇していたのを今回思い切って購入した。

 夢野久作的なおどろおどろしい雰囲気や現実ぐらぐら感覚、それに大正期の精神医療におけるいかがわしさも十二分に表現されていてストーリーも大よそ原作の流れに沿ったものだったと思う。詳しくは後述するけど原作のディティールをかなりそぎ落としていて、それが本作の分かりにくさの原因となっているのだけど、その反面シンプルに纏まっていて最低限度物語の筋を追えるようにはできている。

 そういう意味では原作を読まずに鑑賞するのはあまりお勧めできない……けれどあの長くて衒学的で独特で癖のある文章で紡がれた破綻しているようで破綻していないけどなんかちょっとおかしい小説を読破しろ、と安易に口にすることはできないわけで……そういう意味ではかなり人を選ぶ映画なのだと思う。

 かなり良い映画だった。まずはなにより役者陣が素晴らしい。ビジュアル、声質、演技力、どれをとっても原作のイメージの通りで完璧だったと思う。なかでも正木博士は頭一つ抜けていて、この映画のいかがわしさと薄暗さをその底抜けの明るさで却って引き立てている。音楽が良い。冒頭とラストの時計の音も含めてなんだか不安になる。原作では作中作に没入することで睡眠等による暗転を使わずに時間の経過やそれに伴う状況の変化から主人公の意識を切り離しているのだけど、これもかなり効果的に再現されている。作中作は大枠で「キチガイ地獄外道祭文」「地球表面上は狂人の一大解放治療場」「脳髄は物を考えるところに非ず」「胎児の夢」「空前絶後の遺言書」があるのだけど、個人的には「空前絶後の遺言書」の語り口(特にK・C・MASARKEYのパート)が好きだったからなんだったらもっとナレーション的な処理を入れてくれてほしかったくらいだけど、流石に映画的には良くないか。

 ちなみに主人公の男の躁鬱的な気分の上がり下がりには面食らったところもあったけれど、原作を読み直してみると本作の主人公に限らず夢野久作のキャラクターはけっこう躁鬱的なところがあってそういう意味ではかなり原作に忠実なキャラクター造形だったんだなあと感心した。

 先述の通り原作はそれなりにページ数が多くて(角川文庫は上下巻併せて703ページ、ちくま文庫の全集では644ページ)しかもディティールに凝っていて時間の流れも比較的緩やかなうえに時系列が何度も前後する構成だから筋を追っているうちになにがなにやらわからなくなる(だからこそ戸惑い面食らいドグラ・マグラなのだ)けど、それをかなり単純化して必要なパーツをピックアップできているというのは賞賛に値する。そして、そんなシンプルに仕上げていながら、ちゃんと原作の多様な解釈の可能性*1もそれなりに確保できているのは、もっと高く評価されるべきだと思う。

 監督インタビューでも語られていたけど、『ドグラ・マグラ』が映像化不可能と言われていたのは、この小説が反小説的(……というらしい)できちんと物語が収束せず通常の小説の体を為していないからで、そこの『ドグラ・マグラ』の良さがある。この映画はそこをかなり考慮して練り上げられている。ただ、序盤に若林博士が病院に入ってくるシーンはいらなかったと思う。あれがあると主人公の主観外で若林博士の現実が存在していていることがはっきりとわかってしまう。もっと閉鎖的で……SF風に言えば内宇宙インナーユニバース的な演出に終始したほうが原作の現実ぐらぐら感をより補強できていた気もする。

《印象的なシーン》喋る正木博士の肖像画

 

 

21ジャンプストリート(2012年、アメリカ、監督:フィル・ロード/クリストファー・ミラー、109分)

 凸凹コンビのコメディ映画。未熟な若者が成長するタイプの映画だから序盤はちょっとイライラするところもあったけど、コミカルな展開*2は笑えるしラストでちゃんとフラストレーションは解消される。学生に戻った二人が互いの属性を取り換えて、そして本当の学生時代とは真逆の道を辿り、二人ともそれぞれ成長する。良い青春コメディ映画だった。やっぱこういうの良いなあ……。

 個人的にはトリップ描写がポップで気持ち悪くてとても良かった。あと、これは他の映画でもそうなんだけど、アメリカの若者って本当にあんなにホームパーティーやっているのかな。めちゃくちゃ気軽に大麻を吸っていることも含めてなんだか異文化過ぎてびっくりする。

 当時の自分たちの常識が通じない/人間関係の構築が御法度/バレてはならない秘密がある……と疑似的なタイムトラベル映画ともいえる。ちなみに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』よろしく作中で口にしたことはかなり実現している。カーチェイス、ハト、爆発、銃撃戦など。プロムと初逮捕を含めて、最初と最後の事件が対応してるのもちょっと時間SFっぽいところがある。

《印象的なシーン》盗聴中に勇気を出したシュミットの成長を喜ぶグレッグ。

 

 

フォードvsフェラーリ(2019年、アメリカ、監督:ジェームズ・マンゴールド、153分)

 原題が「Ford v Ferrari」「Le Mans 66」の二種類あるのはどういうことなんだろう。アメリカとそれ以外のヨーロッパでタイトルが違うってことなら、原題というより英題ということなのかな。

 両タイトルおよび邦題が示す通りフォード社がル・マンフェラーリ社に挑むのだけど、実質的な内容としては巨大企業フォード社vs実務のシェルビー・アメリカンを基軸に進んでいく。「フォードvsシェルビー」というほうが実態に近い。モータースポーツのことも車のことは何もわからないけど、それでも十二分に楽しめた。娯楽性の高さ、上司とのいざこざ+親子のコミュニケーションを主軸にした人間ドラマ、マシンが重要なファクターであることなど、全体的には『トップガン:マーヴェリック』に近い映画だったのだと思う。いや、時系列からいえば『トップガン:マーヴェリック』が『フォードvsフェラーリ』に近いのか。

 まあ「レーサーは広報の一員」っていうのは確かにそうなんだろうと思う。広報を兼ねているプロスポーツは勝たなければ話にならないけど、ただ強くて勝てばいいってわけじゃないのが難しい所なんだろうなあ。シェルビーとケンの喧嘩のシーン良いなあ。特にケンの妻が椅子を出して座って眺めるところが粋というかグッとくる。綺麗な映像で作られているからわからなくなっていたけど、1960年代の話なんだよなあ。作中のテレビの映像で時代の古さが提示されるのがおれみたいな知識のない人間にはありがたいし、作中描写をより真に迫ったものにしてくれている。

《印象的なシーン》「来年もぶっちぎりで勝とう」

 

 

地球、最後の男(2011年、アメリカ、監督:ウィリアム・ユーバンク、84分)

 うーん……全体的な意味は分かるけど細かい所が引っかかるというか、説明が過小で映画に乗り切れない。月並みな演出と忌避されるかもだけど、ナレーションで独白入れた方が良かったんじゃないかなと思ってしまう。なんだかよくわからなかった(特に冒頭の南北戦争っぽい描写は一体なに?)から感想と解説を検索したらこんなAmazonレビューを見つけた。なるほど、そういうことだったのか。こんなにちゃんと解釈出来てみんなすごいなあ……。本当はこの解釈が正しいかをもう一度映画を観ることで確認すべきなのだろうけど、あまりそういう気にはなれない。

 映像はそれなりにレベルが高い。食料事情やICCの描写を含めてツッコミどころはあるみたいだけど、現実とは違った科学の発展を遂げた、しかも未来の世界ということでおれは納得している。キューブリック『2001年:宇宙の旅』リスペクトの作品というの通説(??)みたいだけど、そういえばあの映画もわかるようであんまりわからなかったなあ。クラーク版を読んでいたからまだ理解できたけど……。

 説明は最低限で解釈は受け手に任せる、というの一つの素晴らしい試みだとは思うけど、やっぱりもう少しちゃんとわかるような作りにしてほしかった、というのが正直な感想。

《印象的なシーン》終盤に訪れた(?)無機質な機械室。

地球、最後の男(字幕版)

 

 

パパにとってママは?(2022年、アメリカ、監督:奥本はじめ、25分)

 ストーリーはオーソドックスで纏まっていてちゃんと面白い。会話劇に終始して場面移動がほとんどないのは25分という時間制約に適った作りだと思う。ただ、台詞の聴こえ方がちょっと変だった。もしかして音声は後付け? 吹き替えみたいな形式だったように聴こえたのだけど、クレジットにはそういう表記はない。機材の問題なのかな。

《印象的なシーン》「もしよかったら私にも日記を書かせてもらえない?」

 

 

黄金色の情景(2023年、日本、監督:増本竜馬、10分)

 ちょっと違うけど福本信行『銀も金』の神威兄弟を思い出した。演技を含めた全体的な雰囲気は好き。ただ、映画概説の「彼がこれほどお金にだらしがないのには理由があった。 」はちょっと……理由、提示されてない気がするんだけどなあ……。

《印象的なシーン》機嫌を直せと金額を増やし続ける兄。

黄金色の情景

黄金色の情景

  • 田口ゆたか
Amazon

*1:主人公=呉一郎でシンプルに収束した/途中登場した作中作が正しい/かなりの部分が主人公の妄想でここは病院ですらない/疑似的にループしている/そもそも本作自体が呉一郎の子孫が見ている胎児の夢……等々挙げていくときりがない

*2:特に終始様子のおかしな科学の先生には笑った。

ポルノグラフィティ19thライブサーキット「PG wasn't built in a day」の簡単な感想

 福岡公演に参戦してきました。

 すげえ近かった。うっひょひょひょ、やったやったやったたー! 人生でこれ以上ステージに近づくことはないと思う。肉眼で壇上の人々が見えて、生の声なんじゃないかと錯覚しそうなほど間近な声が、楽器が、床を這って伝わって全身が震える。マジで二・三歳くらいは若返った気がする。あと目視で岡野昭仁さん*1新藤晴一さん*2を見たんだけど、いや、本当にヒューマンだったんだなあ。画面越しの人々だったからこれだけ近くで観ると不思議なもので「本当に(種としては)同じ人間だったんだなあ」と変な感動をしてしまった。ファンタジー生物かSF知性体の仲間みたいに思っていたところがある。スーパー滑舌ボーカリストとギターを持った詩人も人間なんだなあ。この近さの衝撃、心理遺伝しそう。そんな予定はないけど。

 直近二回のツアーはそれなりに詳しく感想を書いてきたけど、今回がどうして簡単な感想なのかというと、ネット配信がないからだ。おれは音源の感想にしても映像の感想にしてもけっこう観返さないと感想が書けない(映像を観ることで現地での記憶が甦る)タイプで、前二回は時間が許す限り見返してようやく書けたところがある。今回はWOWOWを含めて配信はまったくないみたいで、そうなると貧弱な記憶力に頼らざるをえないからどうしても簡単な感想になる。詳細な感想はDVD/BDが発売されてから書く予定。

 以下、簡単な感想。

 体験型総合アミューズメント施設ポルノグラフィティランドの開園。門が開いて入場するや否や日曜日の憂鬱を吹き飛ばすべく歓声を上げながらライド系のアトラクションに吶喊して思うままに声を出してテンションを上げて童心に帰りひとしきり楽しんだところで、併設された映画館で社会派の映画を鑑賞して大人に戻り、やや落ち着いた気持ちを盛り上げるべくラストスパートをかけて園内を駆け巡り声出して跳ね回り駆け巡って、最後は夕暮れの寂しさをかみしめながら手を振ってさようなら。

 あくまでおれの観測している範囲では、だけどこのツアーが福岡……いや九州史上もっとも声が出ていたと思う。すげえ声出てた。意外だったのは「DAY」系の曲をやらなかったこと。近年を代表するヒット曲「THE DAY」を筆頭に、それこそ歌詞中に「ローマは一日にしてならず」が登場する「Ouch!!」や「A New Day」のような公演タイトルに絡めた選曲がほとんどなかったのは予想外だった。なんだったらド頭一発目は「Ouch!!」なんじゃないかと予想していたんだけど、大きく外してテンション爆上げ「Fu-Fu」であたまおかしくなった。

 最初の四曲でタガが外れるほど声出した。いや、こんなに声出したの高校部活動以来ですわ。ド頭一発目の「Century Lovers」は意外過ぎて頭が追い付かなかった。「テーマソング」を観客一同で歌えたのは本当に嬉しい。「キング&クイーン」と「Mugen」は「あっ、そういえば声出しソングだった」と頭の中バグっちゃいながら本能で声が出た。

 おいおいそのMCで「俺たちのセレブレーション」じゃねえのかよ、と「REUNION」は安定してカッコよい。……と思ってたら演るのかよと「俺たちのセレブレーション」は明るくお祭りソング。「アニマロッサ」「メリッサ」はどちらも昭仁の声の伸びがやべえ。やはり咽喉の筋肉はすべてを解決する。

 センターステージでの「Sheep ~song of teenage love soldier~」「ジョバイロ」はアコースティックでレア曲と定番曲をじっくり味わう。音圧で歌詞が染みる「フラワー」。花道に灯る誘導灯の演出が美しい「夜間飛行」。

 インタールードが超かっこいい。晴一がコーラスっぽいのを歌っていた気がするから新曲のインスト版なんじゃないかなと期待している。「オレ、天使」と「170828-29」は気分を高揚させるロックだけどメッセージ性が強く、「アビが鳴く」にも続いている。時事を想起させ、一本の映画を観たような充足感のあるパートは「解放区」でエンディングを迎える。

 じゃあもう一回テンションを上げましょうと「空想科学少年」だけど、この曲も一筋縄ではいかず前二曲のことを考えてしまう。「ハネウマライダー」「アポロ」「サウダージ」の定番三連発は純粋に楽しくちょっとだけ終わりが頭よぎって寂しさを感じながらも心は高揚した。そして本編ラスト「オー!リバル」で一度テンションを上げ切る。

 アンコールは「アゲハ蝶」と「ジレンマ」。クラップとワイパーと声出しの三点セットに一抹の寂しさが入り混じる。「ジレンマ」は撮影OKだったけど、カメラを向けながら手を振って声出して移動する二人を追いかけて身体の向きを変えてと忙しすぎて頭バグった。ソロパートは「渦」が最高だった。

 席がほぼ最前だったことも含めて人生最高のライブかもしれない。終了後数日は体調が悪くなるくらいはしゃいだ。すげえ楽しかった。本当、楽しかった。非アルバムツアーということで16th「UNFADED」を思い出すけど、どちらかというと全般的に選曲が新し眼で知名度の高いシングル曲も多かったから、そこまで詳しいわけじゃない人でも十二分に楽しめたんじゃないかなと思っている。

 もちろんアルバムツアーもやってほしいけどこんな感じのセットリストがまったく読めないツアーもやってほしい。あと、できれば最終日だけ媒体は問わないから有料で配信してほしい。おれみたいにブログを書く人じゃなくてもライブの熱冷めやらぬうちに画面越しに追体験するのも、新しい音楽ライブの楽しみ方だと思うから。

*1:以下敬称略。

*2:以下敬称略。

フィリップ・K・ディック『ヴァリス〔新訳版〕』〔理解できたし面白いけど……やっぱり残念〕

 思ったよりずっとわかる話だった。

 旧訳で読んだときより物語の筋をちゃんと理解できたのは翻訳のおかげなのか年月がそうさせてくれたのか。新訳のほうが俗語をちゃんと俗っぽく翻訳してくれているみたいで、少なくとも本書については新訳のほうが正しいような気がする。おれは英語がほとんど読めなくて原文にあたることもできないから、作品の状況や設定的に荒い言葉遣いのほうが正しいはず、という推論をしているに過ぎないけど。本当はやるべきなんだろうけど、旧訳で読んだときの印象がかなり悪いから旧訳を読み返して比較する気にはなれない。ちなみに神学の蘊蓄はほとんど無視した。たぶん読まなくても問題ないと思う。特に巻末に纏められているのも含めて「トラクタテ・クリプティカ・スクリプチュラ」は完全にスルーした。

 初読の時はマジで何を言っているかさっぱり理解できなくて物語の筋すらわからなくなり「ディックが完全にイカレてしまった」と思ったけど、そういうわけではないらしいことがわかった。少なくとも視点者フィルとしてはちゃんと客観性を保っている。そしてP139から始まるモーリスの説教は正しく、そしてこういう描写ができる程度にはディックも正気をだった。少なくとも七章くらいまではフィル≒ディックがかなりまともで、それ以降もちょっと入れ込んでいるっぽいところはあるけど、それなりには良識を保っている。

 ……ただ、解説でも指摘されていたようにそもそもフィル=ディック、ファット=第二の人格という解釈自体が間違いで主従は逆だったのかもしれない。こざこざと小煩い心の声はむしろフィルのほうで、作家生活すら本来の自分の「やるべきこと」ではなかった……というのが本書でのディックの認識だったのかもしれない。それが真実だとしたらとても哀しいけれど、続編二作のことを考えるとそのほうが正しいような気もしてくる。

 アイデンティティの分裂(喪失)、奇妙な理論、弱々しい上位存在、突破口かと思われた存在への手のひら返し等々を含めて冷静に読むと他のディック作品と連続しているというのは解説の通り。P198から語られる反復説っぽい理論や小説のタイトルが作中に登場することを含めて、どこか夢野『ドグラ・マグラ』を思い出す。

 ちょっとおかしい人が極めて真剣に作った作品。そういう意味でも『ドグラ・マグラ』と同列の作品で、そして極めて理知的な人が作ったおかしな作品という意味で『虚航船団』とは対照的だと思う。

 

 いくつかメモ。

 P210「オークランドの~」のテキスト好き。あまり意味は分からないけど、純粋に文章としては好き。P243に「Vast Active Living Inteligence System」の訳語「巨大活性諜報生命体システム」がある。全体的に新訳のほうが良かったと思っているけど、これだけは旧訳の「巨大にして能動的な生ける情報システム」のほうが好き。どちらが正しいかはともかく、旧訳のほうが陰謀論世界の用語っぽくて印象深い。『ヴァリス』が伏線と暗示の塊の映画というアイディアは面白い。もっと創作としての純度をあげて陰謀論的世界を描いていたらピンチョン『競売ナンバー49の叫び』になれたんじゃないかな……というのは贔屓の引き倒しか。

「忘れろ。お前、頭おかしいんだよ、ファット。エリックとリンダ・ランプトン並に狂ってる。ブレント・ミニと同じくらい狂ってる。 グロリアがシナノンビルから投身自殺して、自分を炒り卵サンドに変えた時以来、八年ずっと狂ってるんだ。あきらめて忘れろ。わかったか? お願いだから、たった一つそれだけ頼みを聞いてくれよ。ぼくたちみんなのために、たった一つその願いを聞き届けてくれって」(P378)

 ここのくだり、これが本当は決定的だったはず。なのに、もう一度ひっくりかえってしまった。

 まだ読んでいないけど『市に虎声あらん』の解説によればディックのこうした神学への傾倒は晩年に突然始まったわけではなく、処女作からしてそういうものだったらしい。そういう意味では晩年に毛色が変わったというわけではなくて、どちらかというと原点回帰に近い。旧訳ではマジでほとんど理解できずに嫌になって記憶があるけど、一応ちゃんと読めて理解もできて良かった。映画『ヴァリス』の設定はSFとしてもけっこう面白かったし。

 ここでも書いたけど、個人的にはそこじゃなくてもっとミクロな視点の救いというか、もっと地に足の着いた救いとか、もしくは現実に沿った倫理的なものを追究してほしかったというか……神様(上位存在?)とそれにともなう願望充足に向かわないでほしかったなあ。

 理解できたしそれなりに面白かったけど……やっぱり残念だ。

最近見た存在しない映画(2024年2月)

ザ・リーチ(1953年、アメリカ、監督:ジェフ・シャセット、70分)

 おどろおどろしい雰囲気と不条理な宇宙生物の襲来、その対策に関する人間関係のいざこざ科学技術に創意工夫、そしてもう一段のオチ……と古典的な怪獣映画。もちろん映像技術的には現代の映画には及ばないけど事態が進展するテンポや恐怖感を煽る演出などは優るとも劣らない。シンプルイズベスト。

 ちなみに『ウルトラQ』に影響を与えた作品として特撮ファンの間では有名らしい。冒頭とラストの胞子っぽい描写が印象的でこれが『寄生獣』にも影響を与えた……と書いている人もいて、まあ気持ちはわかるけどあれは地球上で発生した生物って設定だからちょっと違うんじゃないかな。映像的にもそんなに似ていないしなあ……。

 個人的には悪役(?)のオドネル将軍が好き……いや、好きというか嫌な奴だけど部下からの信望はありそうなところが絶妙で、こういう映画に出てくるステレオタイプの軍人のなかではバランスが取れている。そして、そんな人物なのに最後の最後にすべてをひっくり返す独断専行の愚を犯してしまうところが軍人の本質と矛盾しまくっていて印象深い。

《印象的なシーン》宙に浮かび上がるひる。

 

 

海鳴り(1980年、日本、監督:白瀬直、123分)

 銀行を舞台にしたサスペンス映画。警察、暴力団、主人公一行の三つ巴で物語が進むのだけど、息もつかせぬ展開に加えて軽妙洒脱な時子と古谷の会話がめちゃくちゃ楽しくて二時間があっという間だった、というのは『週刊心象』の評論の通り。殺人と窃盗の二つの事件が複雑に絡み合うミステリ要素は、もうおれには複雑すぎて一回では理解しきれなかったけど、多くのミステリファンが絶賛していたからたぶんちゃんと整合性がとれたものになっていたのだと思う。

 主演は演技もさることながら言い表しがたい存在感があって目が離せない。本作と併せて二作品にしか出演していないのがつくづく悔やまれる。俗なうわさで申し訳ないけど、結婚したとも故郷に帰ったともいわれている。変わり種では実はタイムトラベラーで自分の世界線に帰っていったというのもあるくらいだ。まあ、これだけ行方が杳として知られなければそんなSFじみた噂もたつよなあ。

 本作への感想とはちょっとズレるけど、やっぱり同監督の次回作『雨の伝説』との連続性が各所で指摘されている。特に両作共に同じように交差点に佇む猫が印象的で、「猫の交差点二部作」と評している人もいるらしい。

《印象的なシーン》「目覚まし時計をひっくり返した子猫の写真」を見つめる男。

 

 

農場を守れ!(1992年、日本、監督:木杉庄司、88分)

 1992年を代表するカルトムービー……という前情報だけで観たけど、噂に違わぬ怪作だった。明らかに低予算で小道具からはなんともいえない安っぽさが漂い、役者陣もお世辞にもレベルが高いとは言えないのに、異形の生物たちの造形も相まってアクションの迫力はすさまじい。しかもミリタリーに詳しい人々から賞賛されている辺り、農村の小道具は適当でも兵器類には大変こだわっているらしい。シンプルに纏まっていて文句なく面白いのに絶賛するのに躊躇してしまう。まさに怪作。

 原作は短編小説でストーリーはやや引き延ばされている(本編前後が追加されている)けど、上述の通り間延びしているということはなくて作品の補完に終始している。ただ、原作からかなり人数が削られているのが作品の安っぽさに繋がっていて、それはかなり残念ではあった。まあ予算の都合があったんだろうけど、もうちょっとどうにかできなかったかなあ。

 全然違うけど、なんとなく『世にも奇妙な物語』の「BLACK ROOM」を思い出した。秘密を抱えて豹変する親族、ブラックユーモアは共通しているけど、画面全体の明暗とミリタリ要素の濃度はほぼ真反対といっても過言ではない。比較してみると面白いかもしれない。

《印象的なシーン》「即刻、居間に出頭せよ」

 

 

チドと危険に遊ぼう(1999年、アメリカ、監督:ロドリック・ギャドマン、122分)

 ……うわお。すげえ。まさに奇想。文字通りの「脳力の比べあいブレインレース」が繰り広げられる映画。本題のレースもさることながら面白いのは原作の冒頭にちょっとだけ描写されたハンティングがピックアップされて本編の半分ほどを占めているのはかなりの冒険だったと思う。そして、それが好意的に評価されているのは前半を通して登場人物三人にちゃんと感情移入させ、しかもチドが相互理解不能であることを随所で匂わせるという後半にむけての助走としての役割をキッチリ果たしているからだと思う。

 レースが始まってからの色調の変化があまりにも悲しい。原作では意識の変化が地の文として表現されていたけど、本作では色調と時間の流れの変化として表現されている。個人的にはあの地の文が好きだけど、映像作品としてみるならこれが大正解だったのだいうのも十二分に理解できる。

 変種の異星SF映画という意味では『ファンタスティック・プラネット』や『不思議惑星キン・ザ・ザ』を思い出したけど、そのどちらとも違う長所と欠点がある。画面的な強さでは『ファンタスティック・プラネット』のほうが上だけど、ストーリーの強度ではこちらが上。(社会風刺を含めた)ややブラックなユーモアとしては『不思議惑星キン・ザ・ザ』が優れているけど、全体のテンポ感を含めた完成度では本作が優っている。試しに三作はしごして観てみたら自分がいまどの時代のどの場所にいる誰なのかよくわからなくなってきた。脳がぱちぱちする。

《印象的なシーン》自分の身体を追いかけるロイガー。

 

 

竜が乗った女から生まれた男(2040年、日本、監督:真崎有智夫、30分)

 漢の高祖がまがりなりにも一官職にこぎつけるまでを描いた短編アニメで正直アニメとしてのレベルはそんなに高くないけど着目点が好みで結構気に入っている作品。この時期の劉邦と蕭何の関係性の解釈がすごく良い。ちなみに「母方の姓~」と「兄ぃ」といのはあくまで俗説に過ぎないらしい。

《印象的なシーン》呂公宅で諫言する蕭何を見つめる劉季。

最近見た映画(2024年2月)

ベイビー・ドライバー(2017年、イギリス/アメリカ、監督:エドガー・ライト、113分)

 すごい。冒頭一発目のカーチェイスだけで元が取れる。音楽とカーアクションは文句なく素晴らしいけれどストーリーは良くも悪くもオーソドックスで新鮮味はない。個人的にはもうちょっと捻りがあってほしかったけど、ちゃんとハッピーエンドっぽいしまあいいか!

 コメディのタグがついていたからもっと気軽な映画だと思っていたけど、微笑ましいシーンはあっても声をだして笑えることはほとんどなく、死人は多いしややシリアスな展開もあるしでちょっと戸惑ったところはある。ベイビーについても善人とはいえ死人が出ている犯罪に関わっているわけで……けどあまり救いがないのもちょっと……けど償いもないってのはいくらなんでも……と終盤モヤモヤしていたけど落としどころとしては悪くなかったんじゃないかなと思う。ドクが絆されたのも結局はベイビーの善性が理由だった……なんだろうけどなんだか唐突感は否めない。

 登場人物はみなキャラが立っている。チームのメンバーは犯罪にかかわるだけあって一癖も二癖もあって倫理観も壊れているけど個性があって魅力的。その中でもバディとダーリンは特に好印象だっただけに終盤の展開がちょっと納得しがたいところがあるんだよなあ。

《印象的なシーン》ラストの順走と逆走のカーチェイス

 

 

ゴーストライダー(2007年、アメリカ、監督:マーク・スティーヴン・ジョンソン、110分)

 アメコミが原作らしくかっこいい映画。街頭の付ける消すのせめぎ合いがカッコ良くてあまりの意味の無さに笑った。いくつか「……ん?」と思うシーンもあったけど、まあ良し!

 原作がどのくらいの冊数あるのか知らないけど、圧縮してでも原作の良いシーンを映像化しようという努力の跡が見えて、だから展開にスピード感はあるけど設定をあまり活かせていないような印象がある。始まりからある程度の終わりまでを詰め込んでいて継ぎ接ぎを感じてしまうのは……邪推に近いかもしれない。

 他人に話せない事情を抱えて自分では制御が難しい絶大な力を授かり、けれどそれは社会のためになることでアンチヒーローだけど正義を忘れてはいない。やむにやまれぬ事情で約束をすっぽかっし本当のことを話しても信じてもらえず不義を疑われ喧嘩別れになるけど、実は大きな仕事に関わっていることが理解してもらえて誤解が解けて謝罪されてそれを鷹揚にそれを許しながらも一緒に入られないと告げる。基本になっているのは中二病的な楽しい設定だけど、この辺がどこか当時の社会人ウケを狙っているように感じられる。

《印象的なシーン》バイクが変形する場面。

 

 

バーン・アフター・リーディング(2008年、アメリカ/イギリス、監督:イーサン/ジョエル・コーエン、96分)

 登場人物全員が俗物で品性下劣でスラプスティックに駆けまわって無意味に死んでいき嘆き悲しみ保身に走っては失敗してのたうち回る。お下品な悲喜劇。結局誰も幸せになっていないよなあ。それにしても……コケシって。なんとなく原語がどんな言葉だったかわかってしまうだけに笑ってしまった。

 思っていた感じのコメディではなかったけれど、こういう映画と知ったうえで観ればそれなりに楽しい……かもしれない。個人的にはどういう心持で観ても好きになれない映画だったけど気楽な映画ではあるからそういうのが好きな人ならそれなりに楽しめると思う。それにしても不倫ヒューマンしかいないなあ。

《印象的なシーン》「まったくどいつもこいつも」

 

 

ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ(2015年、アメリカ、監督:トッド・ストラウス=シュルソン、91分)

 B級スラッシャー映画がほしくて鑑賞。思ったより凝った設定でちゃんとした映画だった。80年代スラッシャー映画に詳しいとより楽しめるらしいけど、そうでなくても意図は理解できるだろうしメタっぽいコメディはちゃんと笑える。『ラスト・アクション・ヒーロー』との関連性を指摘している人も多かったけど、個人的には『ジュマンジ』の親戚にあたる作品のような気もする。

 流血暴力逃走追跡エログロナンセンス、という映画を望んでいると肩透かしを食らうくらいゴア描写は少ない。設定や倫理観がちゃんとしているということを含めて思っていた映画ではなかったけど個人的には意外な収穫というか、予想以上に好きなタイプの映画だった。ラストに続編を匂わせるのもこういう映画の典型なのかな。ただ、そのオチだとすると「死後の世界説」にも信憑性が出てきてちょっと……と思わなくもない。

《印象的なシーン》「こっちのセリフだよ」

 

 

予定は未定(2018年、日本、監督:磯部鉄平、27分)

 走るシーンの青空が印象深い。懐古的な感情を含めた非現実的な願望と決別して、ちゃんと地に足をつけて前を向けた、というストーリーかな。ただ紙ヒコーキが飛んできてもそれを開けるより先に周りを見て持ち主を探すべきでは? 

《印象的なシーン》「ちょっとくらい皺があっても結婚できるんです」

 

 

失恋科(2018年、日本、監督:長谷川徹、25分)

 フラッシュモブ失敗後の気まずい雰囲気が辛くて笑える。とんでもないレントゲンですげえ笑った。あまりに悲しすぎる診断室前の待合。他のものはともかくフラッシュモブへの彼女の言動はその通りすぎる。最新の科学は素晴らしいなあ。ちゃんと前振りもしていて良いオチだあ! 全体的な雰囲気を含めて『世にも奇妙な物語』みたいでとても良かった。

《印象的なシーン》「男は妊娠しないでしょー。それと同じです」