電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

防犯の論理/倫理を知りたい

ちょっと前の話だけど「Panasonic Melodious Library」でレイ・ブラッドベリ「霧笛」が紹介されていたとFMリスナーの母から伝え聞いた。「Panasonic Melodious Library」は小川洋子先生が古今東西の本を紹介するという読書好きが手を叩いて喜びそうなラジオ…

山野浩一『花と機械とゲシタルト』[権威に対する多様な見方の物語。10年後にまた感想書きたい]

ありがとう小鳥遊書房……本当にありがとう。 山野浩一*1の唯一の長編作品で国内SF随一の稀覯本としてつとに有名だった本作だけど、実は一度読んだことがある。大学卒業してすぐくらいのころにどうしても読みたくて、ネットの海と神保町の穴蔵*2を探し回ったけ…

最近見た存在しない映画(2023年1月)

空色(1980年、日本、監督:今井八朔、60分) 60分という、映画としては決して長いとはいえない時間で幼少期から壮年期までを違和感なく描いているのはもっと評価されてしかるべき。遊び盛りから働き盛り、純真から欺瞞、自由から責任、と移り変わっていく様…

最近見た映画(2023年1月)

ユージュアル・サスペクツ(1995年、アメリカ、監督:ブライアン・シンガー、106分) あっ、これだったのか。 やや凝った構成(現在/病院、現在/警察、過去の三パートある)で開始しばらくはちょっと混乱したけどわかってしまえばそれほど複雑な話ではない。…

ポルノグラフィティ18thライブサーキット「暁」感想[何度も終わりが来て時間感覚がバグった。そして温故知新な新曲]

ハイ・ヴォルテージ。 熊本公演に現地参加、武道館公演に配信で参加。配信は演奏開始五分前くらいから配信が始まって事前アナウンス*1も聞ける。悪霊に絡めた注意事項は楽しいけど、悪霊を喜ばせたいのか退治したいのかよくわからなくて少し笑った。 配信は…

tvk『この動画は再生できません』[モキュメンタリー的ヒト怖と緩い空気のコントの融合]

全四話で一話が25分程度と手軽に観れるホラーコメディドラマ。前半が投稿された動画を丸々流し、後半でかが屋の二人が演じるオカルトの専門家二人が動画を分析するという構成。それぞれ、女子高生のTikTok、ストリーマーの生配信動画(Twitch?)、カップル…

ポルノグラフィティ「ネオメロドラマティック」という寄り添い方

うおおイントロ最高!テンション上がるぜ!ライブで盛り上がる最高の一曲!!歌詞も小気味よくてスッと頭に入ってくる。歌詞は……歌詞……うん?……「ボイルした時計」の……「皮をむく」?……んん?……えっ、なに?どういうこと?時計に皮はないだろ……。 ネオメロド…

最近見た存在しない映画(2022年12月)

リボーンの棋士(2024年、日本、監督:及川肇、128分) 役者も演技巧者揃いでビジュアルの再現もかなりレベルが高い。ビジュアル面では特に土屋は完璧に近い役者を連れてきていた。エピソード自体はやや端折られていたけど川井役の役者の演技力はもっと絶賛…

最近見た映画(2022年12月)

ファイト・クラブ(1999年、アメリカ、監督:デヴィッド・フィンチャー、139分) 有名作なので視聴。とあるゲーム作品経由で仕掛けのことは知っていたけど物語の筋や落着がどうなるのかは知らなかった。基本的な設定(「ファイト・クラブ」という組織やタイ…

フジテレビ『世にも奇妙な物語 SMAPの特別編』[ゾッとする、意味深長な、笑みが零れる、どこか安心する、呵々大笑な……オチのついた物語たち]

世にも奇妙な物語シリーズはレギュラー放送していたころは割とちゃんと見ていたけど、季節に一回くらいになってからは観たり観なかったりというレベルのたいしたファンではないから偉そうなことはいえないけど、やっぱりこの『SMAPの特別編』が頭一つ抜けて…

夢野久作『少女地獄』[ぷうんと匂い立つ血の香りと破滅への想い]

夢野久作といえば『ドグラ・マグラ』のイメージが強いと思うけど、どちらかというと短編作家という印象が強い。長編や中編も書いているけど、それよりも短くスパっと終わる作品の方が夢野久作の良さが出ていると個人的には思っている。そんなに構成にこだわ…

フィリップ・K・ディック『人間以前』[ファンタジーと子供たち。そして最良と最悪の発露]

「地図にない町」(The Commuter)翻訳:大森望 現実崩壊。とてもシンプルな作品で、ほかの同系列の作品と違って緊迫感には欠けるけど、あちらが主観的な恐怖ならこちらは徐々に現実を侵食されていくことへの客観的な恐怖を味わうことができる。過去改変によ…

最近見た存在しない映画(2022年11月)

ネオ・デビルマン(2018年、日本、監督:湯間博激、136分) 同じくネットフリックスオリジナルの「DEVILMAN crybaby」と同時配信されていた作品をなぜいまごろかというと「DEVILMAN crybaby」でダメージを受けすぎて手を出せなかったからで、だいぶ遅くなっ…

最近見た映画(2022年11月)

キャメラを止めるな!(2022年、フランス、監督:ミシェル・アザナビシウス、112分) フランスの人もいろいろ大変なんだろうなあ。 ああ、いつもの「全く無関係の作品をあたかも関連作品かのように錯誤させてとりあえず興行収入を稼ぐタイプのあくどい邦題」…

『トゥルーマン・ショー』[トゥルーマンと恋人と毒親とおれたち]

※ネタバレを含みます。 ―――――― 「おう、お前が一番好きな映画を教えてくれや。もちろん人生に教訓を与えてくれる考えさせられるような重厚な映画なんだろうなあ?ああん?」と胸倉掴まれ拳銃突きつけられても、「やっぱり『バック・トゥー・ザ・フューチャー…

フィリップ・K・ディック『小さな黒い箱』[変色した社会問題と神について]

「小さな黒い箱」(The Little Black Box)翻訳:浅倉久志 解説にある通り『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の原型となった短編*1で、ディック諸短編の中でも特に重要な作品。ディックが人間性について「感情移入能力」を重視したのは『アンドロイドは…

荘奕傑『古代中国の日常生活』[小説仕立てで追体験する日々の営み]

ジャンルとしては学術書だけど記述は物語形式で、どちらかというと「古代中国の市民生活を題材にした短編小説集」に近い。文体もシンプルで読みやすく肩ひじ張らずに楽しめるし学術的な小難しい話もそんなに多くない。ちょっとでも古代中国に興味がある人(…

最近見た存在しない映画(2022年10月)

スペースキャットvsアースキャット(2222年、アメリカ、監督:ジェフリー・ライバー、222分) 物語の筋自体は単純明快で、地球を侵略に来た外来種の宇宙猫スペースキャットと彼らを撃退すべく急ごしらえのチームを組んだ在来種の地球猫アースキャットが可愛…

最近見た映画(2022年10月)

メメント(2000年、アメリカ、監督:クリストファー・ノーラン、113分) めっちゃ面白かった。見てなかったことを後悔した、というレベルで面白かった。こんな感覚は久しぶりだ。描写の順序が順列ではないうえに時系列が二本あるせいで一度観ただけではちゃ…

湊かなえ『往復書簡』[詳細感想版]

通常版が読んでもらえているので詳細版を作りました。 《構成》 全編が手紙のやり取りで構成された連作短編集。作品ごとに主要キャラクターは入れ替わるけど、登場人物や赴任先の国など、小さなつながりがある。ただ、それも直接関連しているわけではなく、…

フィリップ・K・ディック『変種第二号』[戦争と人造物+サスペンス=不安]

「たそがれの朝食」(Breakfast at Twilight)翻訳:浅倉久志 現実崩壊。短編の諸作品の中でも最も明快にディック的な「不安」が描かれている。時間軸の設定が絶妙で、近すぎず遠すぎない時間設定はラストシーンに説得力を持たせてくれるし、最後のセリフの…

ハーラン・エリスン『世界の中心で愛を叫んだけもの』[暴力の嵐、愛情の渦、薬物の雷]

ここで書いた通り、エリスンは好きだけどこの短編集にはどこか苦手意識みたいなものがあった。話の筋は小難しくてよくわからないまま、暴力の嵐のど真ん中に放り込まれて、ただ翻弄されて終わり、とそんなイメージ*1が強くて……。けど、上記のブログにも書い…

最近見た存在しない映画(2022年9月)

告白―コンフェッション―(2000年、日本、監督:川本伸治、105分) まずはやっぱりビジュアルが素晴らしい。原作の作風が割と劇画寄りなことを加味しても浅井と石倉のどちらも原作のビジュアルを忠実に再現しているのはもっと評価されるべき。原作はほとんど…

最近見た映画(2022年9月)

ガンズ・アキンボ(2019年、イギリス・ニュージーランド、監督:ジェイソン・レイ・ハウデン、98分) 魔法の杖の代わりに金属の銃を握らされた生き残った男の子っぽいおじさんが、名前を言ってはいけないあの人みたいなスキンヘッドのおじさんに殺し合いYouT…

NHK『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』[色とりどりの作品を押さえた良質なドラマ作品]

原作にかなり忠実なドラマ。15分という尺も、間延びはしないけどアレンジの幅が程よく残っていて絶妙。素晴らしい。気軽に観れる明るい作品、思想色が強く鬱々とした作品、意外なオチがついた作品、雰囲気を楽しむ作品と、星新一*1の作品の中でも色とりどり…

漢の歴史と正当性の感覚

最近、渡邉義浩『漢帝国―400年の興亡』を読んだ。 漢帝国―400年の興亡 (中公新書) 作者:渡邉 義浩 中央公論新社 Amazon 歳をとってからのお勉強*1は「何だっけこれ」と「誰だっけこいつ」との闘いになる。おれも一応の義務教育と一通りの受験勉強を経験した…

フィリップ・K・ディック『変数人間』[ショートショート、超能力、時代]

「パーキー・パットの日々」(The Days of Perky Pat)翻訳:浅倉久志 偽物。真剣にお人形さん遊びをやっている大人たちは滑稽だけど切実さがある。何度読んでもルールがよくわからないけど、このゲームの本質は懐古にどっぷり浸り変化や進歩を徹底的に拒む…

最近見た存在しない映画(2022年8月)

黒博物館Ⅱーゴースト&レディー(2020年、日本、監督:富士鷹和宏、119分) 素晴らしい。もちろん一作目の「スプリンガルド」も素晴らしいアニメ化だったけど、今作はそれを上回る、オールタイムベストに挙げられるくらいの完成度。原作のファンだけでなく史…

最近見た映画(2022年8月)

夏への扉 -キミのいる未来へ-(2021年、日本、監督:三木孝浩、118分) 原作を予習して視聴。 思ったよりずっと面白かった。若干期待値が低かったからというのもあるけど、十分満足できる。特に冒頭で世界観(現実の世界とは違うパラレルワールド的な世界)…

ロバート・A・ハインライン『夏への扉』[ちょっとアレなところはあるけど楽しい小説]

初読では割と印象が薄くて、話の筋は三分の一くらい(P126くらいまで)しか覚えてなかった。ということで印象はあまりよくなかったけど、読み返してみると思っていたよりずっとおもしろかった。 少しずついろいろな情報を小出しにしていくストーリー構成や、…