電羊倉庫

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最近見た映画(2021年09月)

残酷で異常(2014年、カナダ、監督:メルリン・デルビセビッチ、91分)

 他のレビューサイトでも書かれてたけど、タイトルで損していると思う。『残酷と異常』なんてドストレート攻撃的なタイトルを見たら、そりゃあ『シグルイ』的な残酷無惨物語と思うでしょう。そういうショッキングなシーンはほとんどなく、タイムリープ物としてはかなりオーソドックスで死に戻りを繰り返すタイプ。自分の犯した罪を繰り返し、自分が死ぬたびに地下(?)に戻されるわけだけど、グループディスカッションや再体験を含めて、全体的にキリスト教の煉獄のイメージなのかな。妙に自殺が悪く言われているところや主人公が取った自己犠牲的な選択もそれっぽい。過去改変が現実や煉獄にどの程度影響力を持つのかはちょっと不明瞭だったけど、この映画の主題ではないからよし。ある意味『バタフライエフェクト』や『Steins;Gate』にも通じるラストは前者よりはやや優しく、後者よりはやや厳しい。

《印象的なシーン》マンホールから顔を出したシーン。

 

 

狂った一頁(1926年、日本、監督:衣笠貞之助、69分)

 タイトル一点集中突破で視聴を決めた。『ドグラマグラ』的なものを期待(いや、それは正しかったんだけど)して、いざ見始めて最初の五分くらいは「おっ、雰囲気があって良い映画じゃん」とか考えるくらいの余裕があったけど、十分を過ぎたあたりで「えっ、もしかしてこれ台詞ないやつか」とやっと無音映画だと気づいた。映像として見る分は楽しかったけど、ストーリーはほとんどわからなかった。正直、Wikipediaで粗筋を確認するまでどういう話かすら理解できないレベル。夢か現か、正常か異常かみたいな主題(?)はかなり好みだったけど、映像だけ見てもいわゆる精神病患者の描写が偏見と侮りに満ちている。実際のところどうだったのかはあまり知らないけど、いくらなんでもそれは違うんじゃないかな……。ほかに類型の作品を観てないけど、少なくとも本作を観てる限り、ほぼ同時代に活動した夢野久作の「正常と異常は紙一重」って考え方は、あの時代にしてはずっと進歩的だったんじゃないかな。

《印象的なシーン》夢か現か、牢獄で女性が躍るシーン。

狂つた一頁

狂つた一頁

  • 井上正夫
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幻夢戦記レダ(1985年、日本、監督:湯山邦彦、72分)

 一作で完結する長編アニメが見たくなって視聴。古き良きファンタジーアニメって感じで、作画もCV陣も良かったし、ストーリーも綺麗にまとまっていた。世界観もいかにもなファンタジーで、知性持った喋る犬とか遺跡に眠る巨大兵器、大きな植物が生い茂る森林、細い骨格のロボで追いかけまわしてくる雑魚敵など、この時代には生まれてもいないのに妙に懐かしくて楽しい。少女が壮大な冒険を経て成長し、現実の世界に帰っていくってストーリーは昔は嫌いだった(『ハリー・ポッター』や『ダレン・シャン』みたいにファンタジー世界に住み着くのが好きだった)けど大人になったいまはむしろそっちのほうが好きだし、現代のライトファンタジーはそういうのが少ないような気がするから逆にねらい目なのかも、なんて思ったりした。

《印象的なシーン》ゼルが陽子を幻の世界に引き込むシーン。

 

 

ゴジラ(1954年、日本、監督:本多猪四郎、69分)

 ゴジラシリーズは『シン・ゴジラ』くらいしか観たことなかったので、とりあえず第一作目かなということで視聴。『シン・ゴジラ』への批判で多かったのが「人間ドラマが薄かった」とか「市民視点が欠けている」だったと思うけど『ゴジラ』を見るとちょっと納得できてしまう。『シン・ゴジラ』は事態への対処をほぼ政府関係者なのに対して、『ゴジラ』で撃退のキーを握る芹沢博士は民間の研究者だし、主人公格の尾形も民間企業に勤めている。そういう「官」に頼らず「民」で事態を突破するのが一つのカタルシスだったのだろうし、それを求めるのなら『シン・ゴジラ』は不満だったろうなあ。ゴジラを山越しに見るシーンや闇夜に上陸するシーンなんかは昔の映画と思えないほど迫力があって怖い。あとはやっぱり鳴き声で、なんともいえない甲高い声は不安を掻き立てる。それはそれとしてゴジラが大暴れして建築物を破壊するシーンは楽しくもある。傑作ですね。

《印象的なシーン》海底で一人、オキシジェン・デストロイヤーを起動する芹沢博士。

ゴジラ

ゴジラ

  • 宝田 明
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サイコ(1960年、アメリカ、監督:アルフレッド・ヒッチコック、109分)

 超有名作。どういう話か全く知らなかったけど、シャワーシーンが有名ってことは『Steins;Gate』に出てきたから知っていた。前半と後半で物語がガラリと変わるなんて思いもしなかったから、新鮮に誰がどこでどのくらい殺されるんだろうとワクワク(?)して観ることができた。映画の技術的なことはよくわからないけど、テンポも良くて適度に不安を煽ってくれるから最後まで飽きることもなかった。冒頭の逢引の妙な生活感が、中盤、そして終盤のサスペンスシーンの緊迫感に繋がっているんだろうなあ。

《印象的なシーン》シャワーを浴びているマリオンを襲撃するノーマン。

 

 

ゴーストバスターズ1984年、アメリカ、監督:アイヴァン・ライトマン、105分)

 かなり前だけど、リブート版が公開されて賛否両論になっていたころ、ある人が「オリジナル版は現代では笑えない描写が多いけどリブート版は倫理にかなった笑いになっている」とオリジナル版を下げてリブート版を上げていた。そんなにいわれるほどなのかなと思っていていたけど、半分正しかった。ピーターの言動はかなりキツイ。セリフ回しも行動原理も仲間への軽口も、ほとんどすべてがキツイ。本作に限らず一定以上昔の軽薄キャラはいま観るとキツイのが多いのかもしれない。ただ、そのキツイ軽薄さは中盤くらいである程度おさまって、それ以降からはちゃんと笑えるレベルになっていたと思う。そういう意味では件のリブート肯定派の人の評価はちょっと不公平だ。どん底から徐々に成功しスターになっていくのストーリーは単純明快で楽しい。死人がほとんど出ない*1し、最後は丸く収まってハッピーエンドになるあたり、基本に忠実でいい映画だと思う。

《印象的なシーン》街を闊歩するマシュマロマン。

 

 

*1:記憶があやふやだから断言はしないけど、たしか死人はでなかったはず