電羊倉庫

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もっと評価されるべきポルノグラフィティの楽曲「俺たちのセレブレーション」

「俺たちのセレブレーション」(作詞:岡野昭仁新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:江口亮,PornGraffitti)

 

 

 

 いや、わかります。そりゃあ高くは評価されないでしょう。タイトルはダサいし歌詞は統一感がないし、同時期にリリースしてた「青春花道」や「東京デスティニー」とセットで叩かれている……というと言いすぎだけど、あまり好かれてはいないイメージがある。

 一つは流れが悪かったというのもあると思う。この路線を否定したいという思惑があったはずだ。「青春花道」→「東京デスティニー」→「俺たちのセレブレーション」→「ワン・ウーマン・ショー 〜甘い幻〜」という流れでリリースされているわけだけど、ジャケット写真やタイトルを含めてどこか「ダサかっこいい」みたいなものを目指していた節があって、ロックにしろポップにしろラテンにしろバラードにしろEDMにしろ、ポルノファンが求めているのは純粋な「カッコよさ」であることに変わりはないわけで、「万が一この路線の曲がヒットして、主流の一つにされたら困る」という思惑もあったと思う。そういう「流れ」を含めて現在まで評価が低いというのもあると思う。

 まあそれは仕方ない。これを過敏と言えるのはその後に「オー!リバル」や「THE DAY」「カメレオン・レンズ」などの「正統派カッコイイ曲」がリリースされることを知っているからなのだ。

 あと多いのが歌詞への批判。この曲は一番を岡野昭仁さん、二番を新藤晴一さん(以下敬称略)が作詞しているのだけど、これが嚙み合っていない、何が言いたいのかわからないという批判が多い。

 

 で、ここからが擁護。まず大前提としておれは音楽的なことがわからない。いまだに作曲と編曲の違いがわからないし、一度「コード進行」なるものを調べてみたことがあったけど何を言っているのか全く理解できなかった。こんなに真剣に読んだのにわからなかなかったのはフィリップ・ディックヴァリス』を読んだ時以来だった。だから曲に対する批判も称賛もできない。あと、この時期*1にちょうどポルノから離れていて、「THE DAY」あたりから復帰したという都合のよさがあって、リアルタイムの危機感のようなものを共有できていない。その辺は差し引いて読んでもらいたい。

 最大の擁護点は歌詞だ*2。「俺たちのセレブレーション」は「ハネウマライダー」と並ぶ*3ポルノグラフィティというバンドを歌った曲」だ。多少は引用するけど、丸々載せるとさすがに著作権的にまずいだろうから前後半サビと指定して説明する。

 

前半〈丸い月がずっと笑いかけてくる〉から〈振られたら振られるほど募る一途な恋心〉まで。

 前半は「メジャーデビュー前のポルノ」だ。彼らは〈丸い月〉に魅せられて音楽を始めたけどなかなか思うようにはうまくいかない。明確なビジョンがあるわけでもなく一歩進んでは二歩下がる。賞レースでもなかなか一位に手が届かない*4。もどかしい日々が続く。

 ここでの〈月〉が何かを指しているのかというと「何かデカいこと」だ。なに言ってんだこいつと思う人もいるだろうけど、これは特に昭仁がよくライブ等で言っていることで、現実的な目標である「メジャーデビュー」やもっと抽象的な「ポルノの楽曲が大きな影響力を持つ」とか、そういういろいろなことが含まれた言葉だと思う。そんな〈月〉=「何かデカいこと」に憧れ進み続けるけど、なかなか到達できない。けれど憧れたからにはもう戻れない。そんなインディーズ時代のもどかしさが昭仁のストレートな手法で描かれている。

 前半部のサビの〈アポロ〉は宇宙船のアポロ11号。おそらく多くの人々が感動したであろう人類の月への到達。「何かデカいこと」の象徴の一つだ。あれが幻想ではなかったように自分たちもやれるはず。そんな決意のサビだ。

 

後半〈不時着した月の砂漠を見渡せば〉から〈瞳に涙涙涙流せと言っている〉まで。

 後半は「メジャーデビュー後のポルノ」だ。メジャーデビューを果たし〈月〉に着陸したものの、それは〈不時着〉だった。デビュー曲が華々しく売れたものの、それは彼らが想像していた通りの着陸ではなかった。少なくとも楽曲はプロデューサー主導だったし、バンド名であるポルノグラフィティのような尖りに尖った楽曲を作っているわけでもない。もちろん、それが決定的に不満であるわけでなかったはずだ*5

 そして右も左も分からないままデビューシングルが大ヒットし、わけもわからずにスターになる。この時期には周囲の年長のミュージシャンがみんな異次元の生物……〈緑色の肌した生き物〉に見えていた。自分たちより遥かに高いレベルで、素晴らしいパフォーマンスで観客を魅せる。彼らは虎視眈々と〈俺のガールフレンド〉=「ポルノを好きになってくれたファン」を音楽で奪いにかかってくる。まだ確固とした自信があるわけではなく、いつファンが離れてしまうか不安で仕方ない。もしかしたら自分たちのレベルでは場違いなのではないだろうかとすら思うこともあった*6

 そして〈逆回転みたいなヴォイス〉から現在(リリース時2014年)に移る。デビュー15周年を迎えベテランの域に足を踏み入れたが年齢性別不詳の〈逆回転ヴォイスみたいな変な声〉が「お前は誰なんだ」と問いかけてくる。そして答えられない。むしろ答えがあるのなら教えてくれと言う。〈半端なおれ〉というのは自虐で、最初に目指したロック一本で行くことができなかったポルノグラフィティというバンド*7のことを指している。

 後半部後の〈アポロ〉は1stシングルの「アポロ」だ。わけもわからずヒットするという〈不時着〉だったかもしれないが〈降り立った〉のは事実だ。そこから積み上げてきた15年も嘘ではない。だとしたらもう一度、初心に帰って〈月〉を目指すことができるはずだ。そして〈晴れ姿のラビット〉は有名な月の模様である餅つきするウサギで、つまり現ポルノグラフィティのメンバー二人を指している。

 

 インディーズ時代から始まり、デビュー後の四苦八苦、そしてベテランの域に足を踏み込んだ当時までのことを4分16秒の曲に圧縮している。サビの〈アポロ〉は挿入された位置によって意味が変わる。打ち合わせないで書いた歌詞らしいけど、見事な出来で、それなりに筋は通っている。だから「噛み合っていない」という批判はちょっと不当だと思う。昭仁の直球と晴一の変化球の食い合わせが良くなかったのは否定しようがないけど……。

 

 もちろん、こんな歌詞解釈は自分勝手なもので、絶対にこう読み取らなければならないというわけではない。パッと聴いてしっくりこなかった人が多いのならそれが全てだ。けど、こうやって一つの解釈を読んでみると、それこそ「ひとひら」のように〈違う歌〉のように楽しめるかもしれない。もしそう思えてもらえたのなら幸甚。「俺たちのセレブレーション」はベスト十曲には上がらないだろうけど、もうちょっとだけ良くしてあげてほしい。明るいお祭りの曲でもあるのだから……。

*1:というより『∠TRIGGER』と『PANORAMA PORNO』あたりがすっぽり抜けていた

*2:というか曲は普通に良い曲だと思う。批判も特に見かけないし

*3:ハネウマライダー」については別で書く予定

*4:『ワイラノクロニクル』(2001 シンコーミュージック)P33-34

*5:でなければ二十周年ライブにプロデュサーをスペシャルゲストで呼んだりしない

*6:ファンからすればデビュー後からずっとレベルが高かったと思えるけど、いくらかのインタビューを読むと、特に昭仁はどこか過去に対するコンプレックスがあるというか、本当に最近になるまでミュージシャンとして自信が持てずにいたんじゃないかと思える節がある。もちろん個人的な感想だけど

*7:一応断っておく、というかファンだったら誰もそうは思っていないだろうけど、たしかに本間さんがもってきたラテン調のポップというものがポルノの顔になっているのは事実だけど、それをもって半端者というのはちょっと自虐が過ぎると思う