ポルノグラフィティの作詞は岡野昭仁さんと新藤晴一さん(以下敬称略)の二人が担当していて多様性があっておもしろい。今回は心情描写で選んだ。
1.サウダージ(作詞:新藤晴一)
まあ、まずはこれでしょう。「涙の滴を飲み干したい」「物言わぬ貝になりたい」「恋心に語り掛ける」「失恋を夕日に例える」と、細かくちりばめられた比喩や擬人化の技法が失恋した女性の悲しみと寂しさ、そしてある種の強さを浮き上がらせている。失恋を絶妙な技術で描いていて、後発の歌詞に比べてシチュエーションやテーマが単純明快なだけに心情描写の工夫が光る。
諦めて恋心よ 青い期待は私を切り裂くだけ
あの人に伝えて…寂しい…大丈夫…寂しい
2.うたかた(作詞:岡野昭仁)
失恋歌ではたくさんの秀作があるけど、失恋をしかけている歌詞ならやっぱり「うたかた」だ。心情を表す言葉として身体の反応を入れているところが秀逸。「胸は満ちて/爛れ息が苦しい」「足を止められない」「せめて眠りにつかせて」という失恋の際にいる苦しさは、蜻蛉や夜光虫の「生きること自体の苦しさ」とリンクする。昭仁にしてはやや暗喩的で、誤解を恐れずに言うと昭仁の描く「サウダージ」だと思う。
数多幾千うたかたと消えた想いを
空へと放って燦々と浴びてみようか
3.グラヴィティ(作詞:新藤晴一)
ポルノグラフィティ史上もっとも純真な歌詞。緩やかに規則正しく揺れているブランコに仮託して仄かな不安と強い期待、そして実直な愛情が表現されている。もちろん解釈はわかれるだろうけど、個人的には結婚前夜の一場面という気がする。一歩を踏み出した先が「暗い闇の底に待つ地面」なのか「あなたの手」なのか……曲を聴いた人の意見は一致するはずだ。
永遠でなくてもいい 限りある命と
愛しい時が流れて
小さな泡になって消えていく瞬間
それさえ愛したい
4.ラック(作詞:新藤晴一)
ロックという言葉の定義はわからないけど、「ラック」はポルノグラフィティ随一の反骨と怒りの歌だ。こういう純粋な怒りの表現は行き過ぎると聴いていられなくなるけど、「ラック」の怒りは直截なようであまりそうではない。鬱憤ではあっても失望ではないというのほうが近いかな。具体的な生活の匂いがしないことが良い方向に作用していると思う。荒んだスラム感は軽快に踏まれた韻で強化され胸に迫る。
凍っちゃうや 欠落感 欠落感
のどの乾きにも似てて何かが足りない
5.蝙蝠(作詞:新藤晴一)
受容という表現の一つの到達点。ポジティブな印象が薄い黒という色を、「酸いも甘いも知った末の色」として、同じく良いイメージがない蝙蝠を「身を寄せ合う」温かい存在のように表現している。なにより素晴らしいのは最後の「触れてもいいかな」。おそらく何か色々なことがあった相手に対するこれ以上ない肯定の言葉と行動のはずだ。こんな発想は幼い人間には絶対にできないけどけど、大人になりきってしまった人間にもできないと思う。
僕らは今更 白い鳥じゃない 身を寄せ合う蝙蝠でいい
密やかに空を じゃれあい泳ぐ 誰をも寄せ付けないままに
感じていたい
6.夕陽と星空と僕(作詞:岡野昭仁)
風景描写のほうにも入れたかったほど冒頭の表現が美しい。人を愛するということが相互理解であることが描かれてる。二度挿入される「さよなら。」と、性格や嗜好そのほか人間を形作るものを「君/僕の形」と表現し明確な言葉にできない……寂しさのようなものを歌っている。ある意味、忘れようとしても忘れられない男の哀しい性を的確に表している。
君の形 僕の形 重ねてはみ出したものを
わかり合う事をきっと愛とか恋と呼ぶはずなのに
7.Fade away(作詞:岡野昭仁)
ドン底ネガティブ岡野昭仁心情吐露ソングの極北。何が起きているのか、何をされたのか、何をしているのかは全くわからない。ただやるせなく、苦しく、つらいことだけが切実に伝わってくる。「regret」「n.t.」「音のない森」らが連なるドン底ネガティブソングの集大成。深夜の大都会、土砂降りの雨の中をただ当てもなく歩き続ける男の姿が目に浮かぶ。
命を削る音より 嘲笑うやつらの声響く
8.EXIT(作詞:新藤晴一)
伝えたい感情は溢れているのに表す言葉が見つからない。「パレット」で「窮屈な服を着せているみたい」と表現されたシチュエーションが「狭い出口に言葉たちが殺到していて立ち往生する」と喉につっかえて出ていかない息苦しさがより強調されている。ラスト直前に穏やかな日常の日々が強調されているところが辛い。ただ、表現されている感情自体は哀しさというよりはやるせなさに近い。
狭い出口に言葉たちが殺到していて
もどかしく立ち往生する やるせのない日々
9.ROLL(作詞:岡野昭仁)
昭仁のラブソングの傑作。「咲かせたものをすぐに枯らせてしまう」「独りよがりの愛情」「苛立ちだけなげた」と、完璧からは程遠い人間が最後の最後に相手の苦しみや悲しみに気づき、そしてすべてを受け入れ二人で歩んでいこうと成長する。明確な時系列は存在しないのに感情の表現だけでまるでストーリーを追っているかのように感動を味わえる。「愛が呼ぶほうへ」みたいな広い愛と一味違った対個人のしなやかで強い愛を描いている。
君に触れ 君を抱き ぬくもりや呼吸を感じ
二人の愛 答え知り 手にしたと信じていた
10.ゆきのいろ(作詞:新藤晴一)
絵心のない身からは「ただの白じゃ冷たくて」なんて言葉は絶対に出てこない。人生をキャンパスに例えて、多彩な色を加えてくれる「君」がいることで前に進めると歌う。ここでの「君」はストレートにとれば「恋人」だけど、ポルノグラフィティにとっての「ファン」と解釈することもできる*1。いわゆる明るい曲調ではないけど描かれている感情の流れはどこか晴々としていて前向きな気持ちになれる。
雪の色は何色だろう?ただの白じゃ冷たくて