電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た映画(2021年11月)

閃光のハサウェイ(2021年、日本、監督:村瀬修功、95分)

 正直、見るのを躊躇していた。出来が心配だったわけじゃなくて原作を読んでいて結末を知っていたから。三部作の一作目ということもあって結末はそれなりに明るいものだったけど……。

 出来自体は作画、演出、役者と三拍子そろって素晴らしかった。前半に穏やかな色彩の都市部や地上に生きる人々を描写がすごく良くて、同時に辛かった。とくにタクシー運転手の台詞は印象的で原作小説を読み返してて、あれが原作にあった台詞と知ってびっくりした*1。戦闘シーンで言えば、やっぱりガウマンとレーンの空中戦は見ごたえがある。速すぎず、遅すぎない、殺陣や撃ち合いの経過がわかりやすい。街の被害描写を含めて意図的に怪獣映画っぽく作ってるのかな*2。ただハサウェイの初戦闘シーンが夜間と言うことを忠実に反映して画面が暗すぎたのがちょっと残念。

 まだ原作通りの結末にするかはわからなくて、二作目は特に原作からの変更点が多いらしい。正直それでも続きはあまり観たくない……けど観るんだろうなあ。

《印象的なシーン》後退しつつミサイルをバルカンで迎撃するレーン。

 

 

SF巨大生物の島(1961年、アメリカ、監督:サイ・エンドフィールド、100分)

 映画史とか映画の技術の発展史に詳しくないから断言はできないけど、この時代にこのレベルの映画を作れるのは相当すごいのでは? 

 タイトルにもなっている巨大生物とのアクションシーンが複数あるけど、巨大蜂が一番好き。他の生物よりハラハラさせられたし、作り物の巨大蜂も細部が凝っていて迫力があり、特に羽の動きが妙にリアルでとても気持ちが悪い。序盤で漂着者が二名増えるわけだけど、都合よく女が二人生き残って船員が死ぬのは、都合がいいというかなんというか……。

 こういう表現が正しいかはわからないけど、全体的にRPGみたいだった*3。とてもオーソドックスだけど、最後までちゃんと観客を楽しませようとする工夫があって、こういうのを古き良き映画というのかな、なんて思った。

《印象的なシーン》巨大蜂が巣の中にハーバートとエレナを閉じ込めるシーン。

 

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カフカ「変身」(2020年、イギリス、監督:クリス・スワントン、85分)

 哀しい。原作は高校の時に流し読みしただけで、そのころは「変な話だなあ」くらいしか感じなかったけど、大人になって改めてストーリーを追うと哀しくて仕方ない。

フィルマークス」には家族を責めるコメント(「外見が変わっただけで中身は同じなのにあんな対応は酷い」とか「妹は親すら締め出す嫌な奴」とか)があったけれど、ちょっと不当だと思う。グレゴールの変化で深刻なのは単純な外見ではなく行動の変容と相互理解不能なことだ。たしかにグレゴールの行動に一切悪意はないけれど、あまりに異質な行動とグレゴール自身が行動の弁明をできない状況は周囲に強い負荷をかける。それに家族も最初はそれなりに親身に接しているし、とっさに出た妹の「化物!」というセリフだって状況を考えればとっさにそんな悪態をついてしまいたくなる気持ちだってわかる。だからグレゴールが一方的に悪くて、家族は全然悪くないという単純なものではなく、もっと切実で辛くやるせない物語だったはずだ。

 だからこそグレゴールの死後の家族の反応と手伝い女の空気の読めなさ*4が際立ち、すべてから解放されたラストの明るさ*5と呆気ない幕切れが物悲しい。生理的に嫌悪させるような巨大な毒虫のデザイン*6は秀逸だと思うけどCGの質感的に非現実感が強すぎて浮いてしまっているのは否めない。ただ、原作に色濃かった「グレゴリーに起きた不条理」という側面がやや薄いような気もする。

 映画本編とは関係ないけど、もしかしたら『賢者の石』のころのダーズリー一家にとってのハリーってこういう存在だったのか、とも思った。ハリーにもグレゴールにも悪意がないところを含めて。

《印象的なシーン》グレゴールの最期。

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ヘンゼル&グレーテル(2013年、アメリカ、監督:トミー・ウィルコラ、88分)

 荒川弘百姓貴族』で存在を知っていて、アマゾンプライムで発見したので鑑賞。そんなに込み入った筋はないけどアクションはレベルが高いし爽快感もあり、程よい長さで終わる。ハクスラゲームみたいなもので深く考察したり何かを学び取ったりすることはないけど、そういう映画とわかればけっこう楽しく観れる。

 殴ったり蹴ったりしてもなかなか死なないなあと思ったらパンチ一発で簡単に粉々になったり引きちぎられたりと、この世界の生物は硬いのか柔らかいのかよくわからない。主人公二人の体質を特殊にしたことで魔女の使う魔法が「物を持ち上げてぶつける」という物理攻撃にシフトさせたのは工夫があって面白い。

 本国の批評家からは大不評みたいだけど、良くも悪くもそこまで酷評するようなものでもないと思う。ただ、ベンはもうちょっとちゃんと悲しめよ。なにへらへらしながらついてきてんだ。

《印象的なシーン》序盤の街の外れに住んでる魔女との戦闘で箒を打ち落とす場面。

 

 

一分間タイムマシン(2015年、アメリカ・イギリス、監督:Devon Avery、6分)

 シンプルイズベスト。よくできたコントのように爽快で、単純で、クスリと笑える。ブラックだけどちゃんとユーモアもある。それにしてもこの俳優の人、死体の演技が上手いなあ……。

《印象的なシーン》「レジーナ2号、これに感謝しなさいよ!」

 

とっくんでカンペキ(2012年、アメリカ、監督:Devon Avery、3分)

 3分! 終始台詞がないこと、そしてその三分という短さもあってMVのようだった。ただひたすら可愛らしく温かい気持ちになれる。

《印象的なシーン》ラストシーン。

 

*1:ちょっと富野由悠季っぽくないセリフだと思ったから

*2:ペーネロペーΞガンダムは「怪獣っぽく」というオーダーの元デザインされた

*3:複数人で漂着し協力してサバイバル。この時点でいくつかの伏線を張り、いくらかの敵と戦い、追加の漂着者が現れる。新しい住処を発見し、目標に向けて邁進していたところに外部からのトラブル。あわや全滅の危機と思わせて序盤の伏線を回収しキャラクターが増え、最終的な目標が提示される。あとは時間制限を設けギリギリの作業で焦らし、犠牲を出しつつも成功。物語は幕を閉じる。

*4:家族たちと違いグレゴールを揶揄ったり妙に明るく接してくれているが、これは彼女が家族たちと違い身近に接する必要がないゆえの明るさだ。毎日一時間かそこら接するのと常に自分の居住空間に居るのとでは訳が違う

*5:現代に生きる我々が介護や鬱病の問題と重ねてみるのは当然だけど、原作を書いた当時のカフカがそんなことを意識して書いたかは疑問がある。なにせカフカは『変身』が暗く見えることに不満を抱いていたのだから

*6:原文は「Die Verwandlung」で直訳すると「有害生物」が近いらしい。それが反映されているのか中盤くらいから産毛のようなものが生えてより獣っぽくなっている