電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2021年12月)

アゲハ蝶とそのほかの物語(2018年、日本、監督:今井八朔、81分)

 恋と旅をテーマに古今東西の老若男女多数派少数派たちの九つの物語が、タイトルの通りポルノグラフィティの楽曲を基に紡がれている。

 とても端正な映画で映像のレベルも高い。ポスターにも使われている「アゲハ蝶」のジャケットだけど、これは合成した画像らしくて実在する蝶ではないらしい。というわけで映画に登場する蝶もほぼCGで処理されているはずで、だとしたらかなり流暢な動きをしていたし、蝶を指に止めるしぐさも自然だった。表題曲(?)の「アゲハ蝶」と2018年現在の最新アルバム『BUTTERFLY EFFECT』がかけ合わさった「バタフライ効果」の設定も秀逸で、映画の世界観や物語の幅を広げるのに一役を買っている。ただ、時間と空間を行ったり来たりする構成の都合もあるけど、それぞれの短編の関係性や時間の経過がやや把握しずらかった。

 九つの物語は開始時にセリフや看板、手帳などの文字情報で原作の楽曲が明らかにされているけど、ほかにも自分が気付いただけで十六曲のモチーフが使われていた。中でも特に、雨に打たれて街を彷徨う男(「Fade away」)が深夜の繁華街からシームレスに深閑とした鬱蒼と茂る深い森(「音のない森」)に迷い込む描写は現実世界のようでも、精神世界のようでもあり、とても印象的だった。あとは「メリッサ」のMVに出演していた女性が結婚式の花嫁役で出演していたのは良かった。あと、中盤に出てきた「老いた道化」は岡野昭仁さんで、「サウダージ」と「メリッサ」の合わせ技だったのだと思う。そうなると新藤晴一さんもどこかで出演していたと思うけどちょっとどの場面だったかわからなかった。二週目はその辺の小ネタを拾いたい。

《印象的なシーン》吟遊詩人が愛の詩を唄う無音の演出。

 

 

ショート・ストーリーズ(2008年、イギリス、監督:アトール・クロスランド、93分)

 複数の作家の短編/ショートショートを題材にした、とても丁寧な映画。個人的に好きな短編が多く使われていて、特にダール「満たされた人生に最後の別れを」の原作ラストの一文に句点が打ってないことの意味を忠実に反映した映像を作ってくれたこと、O・ヘンリ「千ドル」が小気味よく気持ちのいいストーリーに仕上がっていたこと、サキのクローヴィスものがクローズアップされいたのはうれしかった。

 この映画のすごいところは、この三人以外にもほぼ無名ともいえるような作家の作品まで拾い上げているところだ。なんか知ってる筋だなあと思ってあとで調べたらマックス/アレックス・フィッシャー「家計簿の恋」だとわかった。本国での知名度はわからないけど本邦ではあまり有名ではない作品だと思う。基本的に同じ世界観で物語が展開しているから明確な区切りがあるわけではなく原案/原作を作中で確認することはできなく、そういう意味ではエンドロールのクレジットを見るのがとても楽しかった。

 ただ、邦題は原題/原作の通り「キス・キス」でよかったんじゃないかな。そりゃあ、ダールの物語だけではなかったしタイトルで内容が把握しにくいし、悪くすると官能系の映画と勘違いされたかもしれないけど、あのよくわからない印象的なタイトルがよかったと思うんだけどなあ。

《印象的なシーン》「首」の絶妙な雰囲気を再現していた序盤のくだり。

 

 

エコに行こう!(2005年、アメリカ、監督:ポール・シェパード、74分)

 うーん……いや、言いたいことはわかるし、おれもどちらかというとそっちの立場だけど、それにしても悪趣味が過ぎる。とてもじゃないけど人に勧められる映画じゃない。まあ、これも度が過ぎればギャグになるというか、ブラックコメディーみたいな雰囲気があってよかった……のかなあ。

 ただ、ある意味では公平だ。あの宇宙人(?)たちは全生物の代表を自称して人類に「目には目を」的な復讐を代行すると宣言して、真っ先にエコ推進派*1が、「植物だって痛みを感じる」という名目のもとに炒められたり酢漬けにされたりして、そんな目に合うエコ推進派(?)の人々を嗤っていた人々も同じように膾切りにされたり炙られたりしていく。かなり好意的に解釈すれば、対立する意見を一方的にブチのめして留飲を下げているわけではなく、不条理で一方的な暴力を描いているともいえる。特にラストに出てくる光合成によって「何者も害せずに生きられる」新人類がどんな目にあったかを暗示する描写からしても、制作の意図はそっちにあったのかもしれない。そう考えると、なんだか筒井康隆「死にかた」みたいだなあ。

 もちろんゴア描写はレベルが高く、「それどうやって撮ったんだ?」と思うようなものも多かった。終盤手前くらいの農業従事者を農作物のように収穫するシーンなんかが印象的で苗木(?)から実をつけて成熟し、とても美味しそうに食されるシーンなんかは、2000年の頭に作られたとは思えないほどリアルで美麗だった。マジであれ、どうやって撮ったんだろう……。あと、監督は複数名の合同ペンネームらしい。まあ、いかにもな名前だしね。

《印象的なシーン》主人公がエコバッグを頭にかぶって逃走するシーン。

 

 

三国志な一日(2023年、日本、監督:冨沼彪、133分)

 ジャンルとしては歴史映画だけど、手法としてはドキュメンタリーに近い。古代中国の後漢末の街並みや習俗などが精密に再現されていているのは序の口で、ときおりナレーションの形で挿入される補足や対比としての高貴な身分の人々の暮らし、そして北方騎馬民族や南方の少数民族たちの暮らしもきっちり抑えている。あまりちゃんとチェックはしていないから断言はできないけど最新の古代中国史の研究も反映している。古代中国史が好きな人間ならあっという間の二時間なはずだ。

 ただちょっとタイトル詐欺っぽいのはいただけない。いわゆる『三国志』らしい描写はほとんどない……いや、あるにはあるけどすべて人名を伏せてエピソードだけを紹介しているだけで、それも秦漢期などほかの時代のものと量的にはさして違いはない。後漢末期から三国時代は周知のとおり戦乱の時代だったわけだけど、それらしい描写はほとんどない。まあ、比較的安定し始めた三国鼎立後の洛陽や許昌なのだと強弁できなくはないけど、あまり誠実とは言えないと思う。後漢末期というよりは前漢全盛期である文景の治の辺りのイメージが強い。

 余談だけど、監修者の中に大学時代の恩師の名前があってなんだかうれしかった。

《印象的なシーン》忠実に再現された古代中国式のトイレ。

 

 

生涯(2062年、日本、監督:真崎有智夫、4345分)

 心底後悔した。

 こんなこと、知りたくなかった。

《印象的なシーン》病院の天井のシミ。

 

 

*1:って翻訳されてたけど、過激/穏健を問わなず比較的環境問題に意識が高い人々というくらいの意味みたいだ