電羊倉庫

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山野浩一『いかに終わるか: 山野浩一発掘小説集』[単なる落ち葉拾いに終わらない作品群。傑作につながるモチーフ、不条理そのもの等]

 いやあ、楽しみにしていました。山野浩一*1は比較的寡作で傑作選が二冊*2と長編が一冊、連作集が一冊しかない。そこにきて本作が主に「単行本等に未収録だった短編」を収集して一冊にまとめてくれた。まだ見知らぬ山野浩一がこんなに読めるんだ! もちろん、専業作家よりは数が少ないけれど未読の作品がまだこんなにあったと、ただそれだけでこんなにうれしい。

 全体的に『傑作選』に比べてSF色が強い作品が多かったと思う。宇宙船や人類の破綻と破滅、地獄のSF的な解釈など。もちろん、そこは山野浩一で一筋縄ではいかないわけだけど、そういう意味ではむしろ山野作品に触れてこなかった人(ある程度SFが好きだけど山野浩一を読んだことがなかった人)にこそお勧めできる作品だと思う。解説にもあったけど、本書から『傑作選』へ進むのがむしろ正道なんじゃないかな。

 モチーフとしては「電車」や「学生運動≒ゲリラ」「野鳥」のような『傑作選』の作品にも共通するものが多数登場しているところも興味深い。習作的な側面があったのかなあ。あと「グッドモーニング!」に出てくるボートなんかは筒井康隆脱走と追跡のサンバ』を思い起こさせるけど、どうなんだろう。不条理的な悲喜劇という意味でも共通している気がするけど、やっぱりぜんぜん関係ないただの偶然なのかも。

 ベストはちょっと迷うけど「宇宙を飛んでいる」かな。軽く感想をあさってみると「死滅世代」や「都市は滅亡せず」がベストに挙げられていて、たしかにこの辺の作品に哲学的な深みだったり思索や批判性では劣っているのかもしれないけど、この作品が一番「不条理」そのものを描いていて、その短さも相まって、とても純度の高い作品に仕上がっていると思う。そういう意味では「嫌悪の公式」も捨てがたいけど、「宇宙を飛んでいる」の時間感覚の喪失や閉塞感が好みなのでこっちを選んだ。

収録作

《「死滅世代」と一九七〇年代の単行本未収録作》
「死滅世代」
「都市は滅亡せず」
「自殺の翌日」
「数学SF 夢は全くひらかない」
「丘の上の白い大きな家」
「グッドモーニング!」
「宇宙を飛んでいる」
「子供の頃ぼくは狼をみていた」
廃線
《一九六〇年代の単行本未収録作》
ブルートレイン
「麦畑のみえるハイウェイ」
「ギターと宇宙船」
「箱の中のX」
「X塔」
「同窓会X」
《21世紀の画家M・C・エッシャーのふしぎ世界》
「階段の檻」
「端のない河」
「鳩に飼われた日」
「箱の訪問者」
「船室での進化論の実験」
「不毛の恋」
「氷のビルディング」
「戦場からの電話」
「永久運動期間は存在せず」
ヘミングウェイ的でない老人と海
「鳥を釣る熊さん」
「鳥を保護しましょう」
「確率の世界」
「二重分裂複合」
「無限百貨店」
「快い結晶体」
「石の沈黙」
「機械動物園」
「私自身の本」
「廊下は静かに」
《未発表小説、および「地獄八景」》
「嫌悪の公式」
「地獄八景」

 

 

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 本筋からは外れるけどいままで山野浩一作品からSFへの批判性を感じ取ったことがなくて(ここでも書いたけど漠然とした不安感や現実-非現実、不条理小説として読んでいた)解説を読んで初めて批判的な側面に気づくことができた。おれにはその批判が正しいかはわからないけど、人によって着眼点ってぜんぜん違うという意味では面白い体験だった。

 解説で岡和田さんもちょっと困惑しているみたいだけど、遺作となった「地獄八景」がこれまでの山野浩一からするとかなり異色作で、適切な例えかはわからないけど「ヘレディタリー」を観ていると思ったら「カルト」だった、みたいな。決して「カルト」が「ヘレディタリー」に劣るわけではないけど、同じ儀式を絡めたホラー映画でも真逆の作品なわけで、ちょっと面食らうよなあ。

 

 

*1:故人は敬意をこめて呼び捨てにしています。以下すべて同じ

*2:絶版の短編集四冊分がほぼ重複