乙嫁語り(2018年、日本、監督:江間シャーリー、95分)
ただでさえハイレベルな昨今の劇場版アニメ界の中でも群を抜いた作画レベルの高さ。これを広いスクリーンで見ることができるというだけで映画館に行く価値があった。人間や動物たちの動きもさることながら、刺繡の精密さ、そして衣類や絨毯などの布の質感、そして人口密度の低い広大な自然の風景、どれをとってもリアリティとフィクションの均衡がとれていている。もちろん、目玉は刺繍なわけだけど個人的に驚いたのは馬や羊、ヤギといった動物たちだ。かなりの回数見返したけど、おそらくほとんどがCGで処理されているはず。作画で表現するのも、もちろん難しいのだけどあれくらいアップになっても鑑賞に堪えられるリアルな質感のCGが作れているのは本当にすごいと思う。毛並み、動き、吐息の描写、そのすべてがハイレベル。少し感想をあさったら動物ものとして高く評価している有識者も多かった。
ストーリーはほぼ原作通りで、おおよそ三巻の終わり*1くらいまで。もちろん、いくらかはカットされているけど目くじら立てるようなほどではない。いや、上映時間からすればかなりゆとりがある作りになっている。
もし好評なら続きを作ってほしいなあ……*2。
《印象的なシーン》「………嫁心ついたね」
色彩、豊かな日常(1949年、日本、監督:青野琥珀、71分)
これはすごい。モノクロ映画なのにはっきりと色彩が感じ取れる。もちろん、モノクロ映画でも色の濃淡というのがあるのだけど、この映画ほど色彩を感じ取れる映画も珍しいんじゃないかな。
ただ、ストーリーはあってないようなものというか、単純明快すぎてちょっと退屈だったのが個人的にはちょっと残念だったけど、まあ、そんなストーリーを期待するほうが間違っているのかもしれない。けど、それにしても、なんというか起承転結もなく、かといって日常を描いているわけでもなく……うーん、どう言い表して良いかわからない。ただつまらない映画ではなかったのは確かだった。
こういう映画を観るとちょっと映画史にも興味が出てくる。技術的にはどのくらい先進的だったんだろう。ちょっと気になる。
《印象的なシーン》藍色の瞳と鈍色の指先。
夢野久作の「冗談に殺す」(1979年、日本、監督:土原直樹、64分)
なかなか見ごたえのある映画で薄暗い雰囲気が夢野久作らしくてとても良かったけど、ちょっと残酷なシーンを強調しすぎというか……まさかと思うけど本物を使ってないよね? 軽く調べてもそんな悪評は見当たらなかったし、さすがにそんなわけはないだろうけど……。
原作が短編小説ということもあって、そのままでは尺が足りなかったらしくそれなりにオリジナル描写があったけど、悪くはない……どころかかなり良い改変だったと思う。原作では終盤にしか登場しない老刑事(原作ではAだけど映画では赤沼という名前になっていた)がかなり序盤から登場し、物語の核心に絡んできたのは良改変だと思う。もちろん、そのせいで原作のニュアンスがかなり変わってるわけで、それを非難している人もそれなりにいたけど、個人的にはかなり満足のいく作品だった。
本編への感想とはちょっと離れるけど、やっぱり77年に公開された「夢野久作の少女地獄」が好評だったことを受けて製作されたみたいで、同じように日活ロマンポルノから配給されている。どうりで原作にないセクシャルなシーンがふんだんに盛り込まれているわけだなあ*3。
《印象的なシーン》ラストシーンの迫真の表情。
時は貨幣なり(2017年、日本、監督:真崎有智夫、77分)
なかなか面白い発想の映画だったけど、その理屈はちょっと変なんじゃないかな。経済学はちょっとかじっただけだから具体的な批判はできないけど、なんだかおかしい気がする。クレジットを観たけど監修に経済学者やエコノミストのような有識者が入っていなかったのも気になる。かるく感想を漁ってみたら理論的に突っ込みどころも多いらしくかなり評判が悪かった。まあ、けどその辺に目をつむれば面白い映画だった。繰り返しになるけど、発想はかなり面白いし。もし類似の作品が出るのなら次はキチンと監修を付けて作ってみてもらいたい。