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ポルノグラフィティ「離別の歌詞」10選

1.サボテン(作詞:新藤晴一

 詩的な表現で彩られたストレートな失恋の歌。どちらが悪いとかそういうことではなくて、もっと根本的な不一致(もしくは相互不理解)が描かれている。ほぼ一貫して降り続ける雨は〈心深く濡れてしまうだろ〉や〈溢れるくらい水をあげてる〉と水を介した心情表現に一役買っている。岡野昭仁さん*1の歌い方も相まってどこか希望が見えそうな最後の一文は「サボテンSonority」で否定されてしまっているのも物悲しい。

雨のにおい 冷たい風 不機嫌な雲
窓際の小さなサボテン
こんな日にでも君ときたら水をあげてる
溢れるくらい水をあげてる

サボテン

サボテン

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2.カルマの坂(作詞:新藤晴一

 童話のような世界を背景にやるせなく虚しい物語が紡がれる。幼かったころは金で買われた少女がどんな目に合うのかよくわかっていなくて、だからこそ大人になったいま聴くとより辛くなる。最後の一文の突き放し方が新藤晴一さん*2の作家性である客観視がよく表れている。ポルノグラフィティ史上最も共有した時間が少ない二人の別れだと思う。

「神様がいるとしたら、なぜ僕らだけ愛してくれないのか」

カルマの坂

カルマの坂

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3.Winding Road(作詞:岡野昭仁

 雨天の寒さと指の描写が印象的な曲。雨が降る水辺のほとりを一本の傘だけで歩く二人……なのに別れの場面、しかもそれが嫌いあった末の別れなのかすらハッキリとしない。少なくとも視点者はまだ相手が好きみたいだから、相手のほうから別れを告げられた……のかなあ。けど〈深く深く束ねた指〉なんて言ってるしなあ……と煮え切らない。晴一とは別のベクトルで抽象的で、これがネガティブに振り切れると「Fade away」になる。

もうすぐ冬がやってくる この指かじかむ前に
やっと今外せて良かった 冷たい風には負けそうだから
温もり残ったままなら終われそうで

Winding Road

Winding Road

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4.農夫と赤いスカーフ(作詞:新藤晴一

 最新曲*3の「ナンバー(仮)」にも通じる絵本的な世界観の歌詞で爽やかな別れの曲。ポルノの曲では比較的珍しく夢を追うひとを見送る立場の歌。改めて見直してみると歌詞中には〈彼のひと〉という言葉以上の情報はなく、もしかしたら恋人(もしくはそれに類する存在)ではなくて、姉や妹、もしくは単なる女友達なのかもしれない……なんて考えると案外解釈の幅は広いのかも。

都会から
届いた
赤いスカーフ
農夫と赤いスカーフ

農夫と赤いスカーフ

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5.横浜リリー(作詞:新藤晴一

 ファンの間でも解釈が分かれているみたいだけど、〈仁義なんて流行らない言葉〉なんて表現を使っているくらいだから、やっぱりそういうことだと思う。夢を持った臆病な男がどんな結末を迎えたか……後半の歌詞がただただ悲しい。「ルーシーに微熱」のような「嘘を許容する」歌詞が印象的だけど、「ルーシーに微熱」とは視点者の性質が真逆なのも興味深い。

ここに帰って来さえすればね また愛してあげるわ
仁義なんて流行らない言葉 海に投げ捨ててよ
横浜リリー

横浜リリー

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6.小説のように(作詞:岡野昭仁

 ポルノの失恋曲は全体的に「縋る男」が多いけど、特に昭仁はその傾向が強く「小説のように」はその中でも受け身な弱々しさについて比類がない。受動的で採っている題材が題材だけに線の細い文化系のハイティーンが浮かび上がる。「夕陽と星空と僕」もそうだけど、昭仁の失恋歌は「色や輪郭線」という絵画を連想させる言葉がよくつかわれている。一枚の絵か、もしくは淡い色彩の漫画のイメージがあるのかもしれない。

今流す涙にはそれと同じ結末が見えているんだろう

小説のように

小説のように

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7.冷たい手~3年8ヵ月~(作詞:岡野昭仁

 晴一と白玉雅己さんが作詞した「Search the best way」の陰に隠れがちだけど昭仁の作詞の中でも対比の表現が巧く使われていて、もっと注目されてしかるべき曲だと思う。〈冷たい手を握る〉〈汗ばんで乾かない〉〈軋んで熱を持ってしまった〉〈二人だけで温めたストーリー〉と温度や湿り気が状況と対比を作っていて、後半の〈君の匂い〉と五感に訴える表現には一貫性があり、頭を揺さぶる。比較的明るい曲調だからこそ慟哭のような後半の歌詞が胸を打つ。タイトルにもなっている〈冷たい手〉が死別を思わせるけど、どうだろう。

もしも僕の部屋に君の匂いが
残っているのならば返してあげるから
あんなに注ぎ込んだ愛の結末
救われないのならば溢れて還らないでいい

 

 

8.デッサン #1(作詞:新藤晴一

 デビュー前の昭仁の体験を基に晴一が作詞したらしい*4。清々しいほどのダウナーで投げやりで無責任、それなのに一丁前に痛みは感じる。ポルノでは珍しく諍いが克明に描写されていて、それだけに視点者の態度が痛々しく、哀しさや憂いはあまり感じられないけど、それだけに昭仁の真に迫った歌い方が際立つ。全体的に映像的な描写が多く、特に下で引用している歌詞は印象的。〈はじけて消えていった〉のは、たぶん雨粒だけではないのだろう。

空の高い所で生まれた雨粒が
僕の足元に落ちて、今はじけて消えていった。

デッサン#1

デッサン#1

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9.クリシェ(作詞:新藤晴一

 月並みな表現、という意味のタイトルの通り、非日常的な特別感のある言葉はほとんど使われていない。それなのにこんなに苦しく胸に迫る。〈熱〉〈音〉〈涙〉と形として残ることはないものに「愛」や「思い出」を重ねていて、それはきっと悲しみも同じなのだろう。〈悲しみが 降り続き 僕を飲み込む頃〉〈二人が出逢ったわけを じっと感じてる〉はきっとそういうことだ。時間の経過と後悔の表現も秀逸で〈ガードレール〉も〈太い鎖〉も世俗的なのに組み合わせるとこんなにも詩的になる。愛おしい人との別れを描いた晴一の歌詞の中でも頭一つ抜けた作品。

もし時を戻すことができて 胸にたくさんの花束を抱いて
あなたの前に立った姿を描く 幸せな眠り 訪れるように

クリシェ

クリシェ

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10.フラワー(作詞:新藤晴一

 絵本を思わせる世界観の曲。高い視点から、「花」に仮託して、大きな命の流れを唄っていて最期の瞬間に何を遺せるのか、「一人の生涯」という重いテーマを正面から描いている。終わりの描写も過剰に哀しくはなくどこか力強くて、雲間から光差す冬の晴れ空を思わせる。一個人ではない「離別」を描き切ったという意味ではポルノの一つの指標になった曲だと思う。一貫して三人称的で、そういう意味では同じような題材の「海月」と比較してみるのもおもしろいかもしれない。

ねぇ 君は寂しくはない? 雨やどりのバッタが言う
静けさと遠き雷鳴 笑ってるわけじゃないの

フラワー

フラワー

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*1:以下敬称略

*2:以下敬称略

*3:2022.02現在

*4:「君はぼくがパセリが嫌いなことくらしか知らないだろ」って……そりゃあギターも蹴られますわ