なんとなくカロリーが高い小説が読みたくなって再読。
べスターのほかの作品、例えば「ごきげん目盛り」なんかもそうだったと思うけど、短い言葉を連続させることで迫力を出してテンポを作るスタイルは素晴らしい。あとエスパー同士の会話をビジュアルイメージを絡めて描写しているところ、16章の集団カセクシス法の現実崩壊感もたまらない。ストーリー展開も早く、特に今作は警察と犯人の視点を自在に操って攻撃と防御を繰り返す感じがはらはらさせられる。
むかし読んだときは無理筋な話だったなんて思った記憶があるけど全然そんなことはなかった*1。まあネットで説明が少なくて分かりにくいって言っている人がいたけど、それはたしかにそうかもしれない。SFの宿痾でもあるし。その辺は二週目だから余計に楽しめたということかな。ただ、書いた通り、SFなんか全然わからなくても純粋にクライムストーリーとして楽しめるんじゃないかな。
……それはそうとラストがちょっとなあ。おれが洗脳嫌いだからというのがあると思うけど……《破壊》は《極刑》よりずっと残酷じゃないかな。山形浩生さんの指摘*2でもあるけどおれも『1984年』と『幼年期の終わり』はやってることが同じことだと思う。ナチュラルにエスパーによる優生思想みたいなの出てくるし、結局彼らがやってるのもそういうことだよなあ。あとパウエルの最期の叫びはよくわからん。
読み終わったあとに『分解された男』の方をちょっとつまみ読みしたけど本当に全然違う。訳された時代が違うし、いろいろな意味で伊藤典夫さんと比べるのはちょっと違うような気がする*3けど、やっぱりこっちのほうが圧倒的だ。
*1:ゼラズニイのときもそうだったけど、こういうパターンが多いのは成長なのか元が愚劣すぎただけなのか……
*2:でもそれは逆に人民を愛するビッグブラザーが、道に迷った子羊を巧妙に導いて正道に引き戻した慈愛の物語ともなる。SF の名作とされるクラーク『地球幼年期の終わり』は、まさにそういうお話だ。ビッグブラザーのかわりにオーバーロードを置けば、両者はかなり似たような話だ。片方は全体主義の悲劇だが、片方は人類進化のポジティブな話と思われているのに……(「大森望(とそれを敵視する人々)についてぼくが知っていた二、三のこと:1980 年代からの遺恨とは (v.1.3) 」8ページ)
*3:技量も違うかもしれないけど、かかっている時間が違いすぎるから比べるのはちょっと不公平な気がする