電羊倉庫

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ポルノグラフィティ「比喩表現」10選

1.ジョバイロ(作詞:新藤晴一

 新藤晴一さん*1による比喩の百鬼夜行。敷き詰められた「演劇」「宇宙」「花」に関する言葉は今目の前にある恋への不安や閉塞感を強調する。多用される「広さ」を表す言葉と「隣にいる恋人」という狭さ、そして破綻の予感による息苦しさの対比は見事。場面ごとに切り離されて連続性が失われるはずなのに、全てが繋がっているように感じるのは描かれる世界観に統一感があるからなのだろう。〈篝火〉〈赤い蜥蜴〉〈燃え尽きる〉と、暑い夏の夜を想起させる。

銀の髪飾り 落としていったのは
この胸貫く刃の代わりか

ジョバイロ

ジョバイロ

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2.ビタースイート(作詞:新藤晴一

 冒頭の強烈な比喩表現が脳を揺さぶる。全体を覆う暗い雰囲気とそれを補強する寒色は、月だけが輝く静かな深夜を連想させる。一般的に「甘さ≒恋」を象徴するチョコレートで失恋の痛みを表現しているのが秀逸で、ほかの曲にもよく使われる「キャンバス」が使われているのも面白い。〈例の月光を受け継ぐ〉はあのときの憂鬱な感情がリフレインしているということかな。主観的で陰鬱な描写は岡野昭仁さん*2の作詞のようですらあるけど、決定的に違うのは切実さだと思う。良くも悪くも昭仁の作詞より切実さが低く、だからこそ辛い題材なのに聴きやすくなっている。

憂鬱を色にすれば あの夜 忍び込んでいた蒼い月光の様になるだろう

ビタースイート

ビタースイート

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3.カメレオン・レンズ(作詞:新藤晴一

 相互不理解を「色彩」「月夜」「硝子細工」に乗せて表現している……と思う。「カメレオン・レンズ」に限らないんだけど、晴一の比喩は「わかりそうで、わからなくて、けどなんとなくわかる」という絶妙な表現が多くて、その最たる例がこの曲だから、明確に「こういう意味の歌詞」とは断言できない。同時に別の方向を観ることができるカメレオンの瞳は、同じ位置にありながら別のものを見ていることを表しているのだろう。おれは晴一の歌詞で「君」が出てくると「過去の自分」と解釈しがちだけど、この歌ではさすがにそうは取れない……かなあ。

深紅のバラもワインも 色を失くし泣いてるの?
君がいるこの世界は こんなに鮮やかなのに

カメレオン・レンズ

カメレオン・レンズ

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4.A New Day(作詞:新藤晴一

 晴一得意の演劇≒映画を題材に人生を唄う歌詞のなかでも群を抜いて実直に前向きだけど、「絶対にできるよ」みたいな全肯定的な言葉ではなく「やってみなければわらない。自分の人生は自分で頑張れ。先のことなんか誰にもわからんぞ」という、客観的というかちょっとだけ突き放した感じというか、そういう言葉で鼓舞してくれる。歌詞の内容を含めて「THE  DAY」との定冠詞の違いが面白い。

君主演映画のシナリオライター
そんなに手を抜いた物語を描くようなら
クビにしてしまえ

A New Day

A New Day

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5.アニマロッサ(作詞:岡野昭仁

 晴一が暗喩を得意とするのと対照的に昭仁は直喩を使うことが多く、「アニマロッサ」はその中でも際立った出来栄えの作品だ。比較的直截で映像的なスピード感のある表現で男の泥臭さが描かれていて、特に決意の描写が印象的で、曲調も相まって顔をあげる勇気が出てくる。昭仁のポジティブ面の代表選手。ここで取り上げたから今回は取り上げなかったけど「Fade away」は昭仁のダークサイドの代表になる。

粉雪の結晶のように 美しい形のものなんて望まない
ましてや 締まりの悪い馴れ合うばかりのものなら もう無くていい
キリキリと張り詰めているピアノ線のように繋がることを望んでる

アニマロッサ

アニマロッサ

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6.一雫(作詞:新藤晴一

 長く活動を続けてきたからこその歌詞。おれたちみたいな盆暗には想像すらできない苦労と愉しさの中にいるからこその比喩表現。これはすべてのアーティストや作家たちに共通なのだろうけど、年齢を重ねれば重ねるほど非会社人であることに思うことが出てくるのだと思う。それをきっちり比喩と擬人化の技法でフィクションとして仕上げているのは見事の一言。〈時間は距離じゃない〉は、ただ長く続ければ先に進めるわけではないのだからただ漫然と続けるのではなく新しさにも挑戦し続けよう、という決意だと思う。

拙い言葉でも チープな音符でも
乾いた雑巾を絞った一雫

一雫

一雫

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7.瞳の奥をのぞかせて(作詞:新藤晴一

 全体を覆う流麗な表現とは対照的に破綻を予感させる不実な愛の描写。特に下で取り上げた一文は不実な愛の時間の比喩表現から現実的な行為を思わせる描写へと〈甘噛み〉を介してスムーズに移行させているのが素晴らしい。先の見えない愛への不安やあまりにうまく立ち回る相手への不満など、一方的な被害者ではないがゆえの視点者の絶妙な心理を描いている。

いけない時間は甘噛みのように 淡い赤色 消えない痕を残して

瞳の奥をのぞかせて

瞳の奥をのぞかせて

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8.ダイアリー 00/08/26(作詞:新藤晴一

 晴一にとっての夢の象徴としてのギターは、先に挙げた「一雫」にも共通する。音を奏でる〈guitar〉も歌詞を創り出す〈ペン〉も晴一にとって欠かせないもので、その二つを同じ線上で扱い、〈夢を描く〉と絵のイメージを付けたしている。晴一の歌詞の中では比較的フィクション係数が低い、それこそ半ば日記的な歌詞だ。

あいかわらずGuitarを離さずにいるんだよ。
それは夢を描くペンでもあったんだし、前からそうだし。

ダイアリー 00/08/26

ダイアリー 00/08/26

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9.ネオメロドラマティック(作詞:新藤晴一

 アップテンポなリズムに乗せて抽象的……というよりむしろシュールレアリスムの絵画のような表現が押し寄せてくる。おれなりの歌詞解釈はあるけど、たぶん衆目が一致する解釈は絶対に出てこないんじゃないかな。歌詞が深いとか浅いとかそういうことではない、この曲の最大の魅力だ。個人的には一つの世界観を比喩表現を交えて描いた、という意味では「ジョバイロ」よりも「ミステーロ」に近いと思う。

いつも感じている 寒く深い闇の
この場所がもう既に 街の胃袋の中

 

 

10.ギフト(作詞:新藤晴一

 才能についての比喩で、これ以上に優しく、そして前向きなものはない。英語の「gift」から贈り物の箱をイメージさせ、それを擬人化(自分の心を客観化?)して語りかけ、そして最後にギフトの「大きさや装飾」といった外見ばかりが気になっていたけど、まだ中身すら見ていなかったことに気づかされるという構成。素晴らしい。途中挿入される「挑戦」と「都会」のイメージは、どちらも「夢見る若者」にとってなじみ深い。抜きんでた表現は少ないかもしれないけど、全体を通してみるとポルノの歌詞の中でも卓越した比喩表現が使われた曲だと思う。

リボンもなくて色だって地味で みすぼらしいその箱が
なんか恥ずかしく後ろ手に隠していた

ギフト

ギフト

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*1:以下敬称略

*2:以下敬称略