電羊倉庫

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もっと評価されるべきポルノグラフィティの楽曲「青春花道」

「青春花道」(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:tasuku, Porno Graffitti

 

 

 いや、おっしゃりたいことはわかります。ダサいって言いたいんでしょう。そりゃあ、おれだってそう思います。初めてジャケット見たとき正気を疑ったし、曲の良し悪しはわからないけど、あまり現代的じゃないことはおれでもわかった。ここでも書いたけど、やっぱり流れというのがあって「この系統が主流になったら困る」と考えた人も多かったのだと思う。

 

 けど、逆に言うと副流としては悪くない曲じゃないかな。

 

 もちろん「副流としてもあんまり……」という人もいると思う。ポルノグラフィティの副流系の曲にも名曲はいくらでもある。その中に「青春花道」を入れれるのか、というと……という人も多いかもしれない。当然とは思う。けど、実はそういう人にこそ「青春花道」の良さを説明したい。ここでもちょっと書いたけど、「青春花道」の歌詞はいつもの新藤晴一さん*1とは違った技術が使われている。

 晴一の歌詞といえば暗喩、それも「意味が分かりそうで分からないけど意味する情報だけは理解できる」という絶妙な比喩でおれたちを楽しませてくれる。過去から現在までをかけて高く評価されている晴一の歌詞はほとんどがそこに分類される。もちろんそうでない曲もある。代表曲の一つである「サウダージ」は印象よりずっとストレートな失恋の歌詞だし、ファン評価の高い「ギフト」や「ブレス」も比較的実直な歌詞だ。

「青春花道」はそのどちらでもない。比喩といえる表現はほとんどない。そして表現の美しさも頭抜けたものがあるとはいえない。けど素晴らしい。そう断言できるくらいの歌詞がある。具体的で現実的な描写によって前後の事情を完全に理解させる。しかも極めて短いフレーズの中で。

 実際に見てみよう。

 

放課後の渡り廊下 君の肩は震えてた
“ありがとう”は間抜けな僕の最後の本音

 情報はシンプルで、学生が〈放課後の渡り廊下〉という人気の少ない静かな場所で、肩の震えが分かるほど近くにいて、主人公は何か……例えば落としたものを拾ってもらったりとか、そういう深い感謝ではない何気ない言葉を口にしただけで、そしてそれが最後の本音になった。つまり、それ以降口から出るのはすべて本心ではなく相手を気遣うにしても自分を取り繕うにしても、全て嘘だった。嘘になるようなことを立て続けにしてしまった。思い返したくないような記憶であることがこの短い文章から読み取れ、情景もはっきりと頭に思い浮かぶ。

 

友達に背中押され 君と越えたあの夜は
二人から無邪気な笑みを奪っていった

 前段のエピソードと連続性があるかはわからないけど、もしあるとしたら更に碌でもないことになる。〈二人から無邪気なを奪って〉しまった〈あの夜〉が何を指しているのかは明白で、ここで重要なのは最初の〈友達に背中押され〉ってところで、彼らが青年であるにしろないにしろ、二人なりに真剣な試みであったのならまだしも、そういうことですらなかった。場所も行為も、おそらくそのすべてが最低だった。そして、二人がどの程度の関係性だったか、〈友達に背中押され〉るほどではあるけれど、自分たちでどうにかしようというものではなく、そして結果として無邪気に笑えなくなるような経験をしてしまう、してしまえるほどの関係性だったことがわかる。

 

旧校舎で二人聞いた 彼方に響く 雷鳴“怖いね”と言った瞳

 同じく時系列は不明確だけど、雨天か曇天で同じように人気のない、おそらく暗い空間でまるで瞳が喋ったかのように錯覚するほど至近距離にいる。口が見えない、瞳だけが視界に映るような距離。

 

 

 エピソードがそれぞれ連続しているにしても、独立しているにしても綺麗な思い出というにはあまりにも生々しい。そして、どれも共通してはっきりと情景が思い浮かぶ。その状況になった前提、そしてその文章ののちに何が起きるか……もちろんそれまでの歌詞にも短いフレーズではっきりと情景を思い起こせるものはあったけど、それはあくまで比喩表現を介してであって、喩えを使わず具体的な描写だけでこれほど濃密な情報をおれたちの頭の中に叩き込んでくる曲はほかにはない。頭の中で圧縮された情報の塊が爆発する快楽は他の追随を許さない。従来の楽曲の歌詞が魔術としたらこの曲は技術によって支えられている。

 少なくとも歌詞の方面ではもっと評価されても良い曲だと思う。

 

 ただ、MVに関してはまったく少しも擁護できないほどダサいとは思う。

「恒常公開ショート版」


www.youtube.com

「期間限定公開フル版」


www.youtube.com

 ダサい。ぐうの音もでないほどダサい。……なんだけど「俺たちのセレブレーション」なんかと同じで、MVの二人はとても楽しそうで、なんだか童心に帰っているようですらあって、たまに観たくなる魅力がある。

*1:以下敬称略