1.LiAR(作詞:新藤晴一)
名は体を表すポルノグラフィティの「嘘」の代表曲。鮮烈な色調が印象的で、花に関連する言葉と人工物を巧みに織り交ぜて「自然と人為」という対称的な比喩表現によって相互不理解や嘘を表現している。二人(?)がどういう関係性だったのか、明確な表現はないに等しいのに、聴者の脳裏に浮かぶ情景は同じものになるはずだ。〈僕も上手な嘘つきね〉という一言で、視点者が単なるお人よしでないことがわかる。
Liar Liar 今夜 可憐に咲かせてよ
Liar Liar 一輪 プラスティックな花びらが
この身に残す狂おしい傷痕 赤い血
2.LIVE ON LIVE(作詞:岡野昭仁)
もしかしたら間違った見方かもしれないけど、ポルノグラフィティの二人にとって偽りない本当のことっていえるのはやっぱりライブなんだと思う。そういう意味で、ライブそのものを唄ったこの曲はポルノグラフィティの「本当」を体現している。岡野昭仁さん*1の歌詞の中でも特に描写が写実的で、後段の歌詞はもしかしたら喉の調子を崩したときのことが織り込まれているのかもしれない。昭仁の歌詞の中でも特に目で楽しませてくれる歌詞でもある。
叫ぶよ 嗄れても
弾ける 想いを
3.夜間飛行(作詞:新藤晴一)
気づいているはずなのに知らないふりをする。それは明確な嘘ではないけれど、たぶん同じことだ。新藤晴一さん*2の歌詞の中でも一二を争うほど情緒的で綺麗な描写の中で展開されるどうしようもない関係性。タイトルも現代を生きるおれたちには感傷的でゆったりとした印象を与えるけど、元の言葉の意味を考えると「危険」を感じずにはいられない。静謐で閉塞感の強い夜を想わせる。
甘く香るの 私好みじゃないパフューム
4.ウォーカー(作詞:新藤晴一)
やや変わり種だけどこの曲も「虚実」を取り扱っている。「ダイアリー 00/08/26」がそうであるように晴一は「理想と現実」を比較するのに幼いころの自分の理想と成長した自分の姿を使う。〈賞味期限が切れる夜〉の〈ミルク〉には、「一雫」のような才能の枯渇を連想する。ある瞬間にそれまでできていたことができなくなることへの恐怖なのだと思う。
迫る僕におどけてみせる自分 今日も見ては見ぬふり
5.ルーシーに微熱(作詞:岡野昭仁)
とても賑やかで華やかな夜。模造毛皮を纏って踊るルーシー。女の嘘を許すのが男の甲斐性、なんて言葉があるけど視点者のふるまいには嘘を纏う弱さを包む優しさがある。「舞踏と嘘」のイメージは同じく昭仁作詞の「月明かりのシルビア」とも共通している。あちらがどこか静かな夜を想わせるのと対照的なのは、たぶん他人の描写の有無の違いだろう。どちらも、どこか視点者が紳士的……というより奉仕的なのも面白い。
僕ならば誰よりも上手く無傷のまま
騙されてあげるよ
6.空が青すぎて(作詞:新藤晴一)
状況が掴みにくいけど、たぶん自分から別れを切り出しているのに、いま自分が口にしている言葉が本当にならないでほしいと願う矛盾した心情が描かれている。どこか辛さや苦しさが薄いのは、生活の中で感情が擦り切れてしまった末の別れだったからなのかもしれない。時間の経過は〈出しすぎたシャーペンの芯〉に仮託されている。
切なさの階段を上ったり下りたり
僕たちは確かに恋をしてた
7.星球(作詞:新藤晴一)
嘘とはちょっと違うけれど、非日常と日常の対比という意味で選出。非日常へ逃避する、という言い方は良くないのかもしれないけど、決して否定的な意味ではなく特別な一日を提供したうえで、けれど日常の現実を拒絶することはなく、そしてそこに帰っていく人を最大限肯定している。晴一の作詞の中でも随一の優しさがある。
Song for you あなたがたゆたえるほどのテンポで
時計の針は緩めておいた
8.MONSTER(作詞:岡野昭仁)
かなり内省的な歌詞で、自分自身と向き合う内容。もちろん、これがそのまま昭仁の心情とは思わないけどフィクション係数は低めだと思う。飾り立て偽ってきた自分から等身大、本当の自分に戻ろう。前向きに解釈するなら原点回帰して再出発しようということになるかな。曲調が明るいこともあってほかの自省的な歌詞より聴きやすいけど、ある程度の人生を送っている人にはほぼ平等に刺さる普遍性がある。
もう隠せないと覚悟を決めたら 不意に怖くなったよ
少しだけでいい 勇気を下さい キミはどんな風に見てたの?
9.CLUB UNDERWORLD(作詞:新藤晴一)
とてもフィクション係数が高い曲で、偽りの役者たちが集うクラブを舞台に少ない言葉数で嘘と本当を描いている。ありのままの自分をさらけ出して生きていけたらいいだろうけど、そんなことをしたら大変なことになるのはたぶんみんな同じなのだろう。だからこそ、この歌の言葉は魅力的になる。この時期特有の皮肉っぽさも相まって明るい曲調なのに、どこか退廃的でもある。
どうやら消したいのは ただ他の何もかもみたい
それじゃ いっそあなたの方 消し去ってあげよう
10.∠RECEIVER(作詞:新藤晴一)
歌詞がすべてを物語るポルノグラフィティの「本当」の代表曲。メッセージ性が極めて強いけれど、決して押しつけがましくはなく、高い所からなにかを見下すこともしない。晴一の作詞で最も力強く、そして明日を生きる活力をくれる。ちりばめられた言葉の工夫が素晴らしい。音で聴くのが歌詞の本懐なんだけど、この曲に関してはぜひ目で歌詞を確認しながら聴いてほしい。
命が消えてく きっかけ 幾千数多限りなくあるけれど
命が生まれる きっかけ たった一つだけという不思議さよ