電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2022年4月)

美亜へ贈る真珠(2017年、日本、監督:梶渡司、96分)

 お気に入りの短編小説がついに映像化する、ということでとても楽しみにしていたおれの期待を裏切らない素晴らしい作品だった。短編を100分近くの映画にするにあたってそれなりに肉付けがなされているけど、無駄はなく良いテンポで進んでいく。原作ではやや薄かった美亜とアキの描写が大幅に強化されていて、間接的に、ある意味での狂言回しとしての紀野*1の複雑な情感がより深く描写できていたと思う。ただ、個人的には紀野が回顧するシーンに、原作にあったエコーのような演出が入っていたらなお良かったと思う。

 哀しくも美しいラストシーンは邦画史に残る……というと大げさすぎるけど、少なくともおれの個人史に消えない足跡を残してくれた。さっき肉付けことを書いたけど、ラストシーンには蛇足を付けずきっちり終わらせてくれる。あの一言で物語が締まるからこその傑作とよく理解してくれた!本当、このラスト数分のために何度も観返したくなるほど素晴らしかった。

 本編とはちょっと関係がないけど、原作の「航時機」が「タイムマシン」に直されていたのはちょっと不満。いや、元の言葉「time machine」が直訳でそのまま意味が通じるようになったからそうなるのも当然かもしれないけど、なんとなくこの作品では元のままのほうが風情があったような気がする。

《印象的なシーン》スローモーションで堕ちていく涙と少女の無垢な笑顔。

 

 

フラッシュ・ムービー(2023年、日本、監督:耀光輝、88分)

 初めてタイトルを見たときは今は亡き「Flash Player 」で作られた映像コンテンツ群を題材にした映画だと思ったけどさすがにそんなニッチなものじゃなくて、「光」や「輝き」に類する言葉をタイトルにした楽曲を題材に短いストーリーがオムニバス形式で描かれている。全体的に大きな事件が起きるわけではなく日常の延長線のような出来事が多いけど、メリハリがあるし、取り上げる題材によってはそれなりに深みも持たせている。こういう表現が正しいかはわからないけど優等生的な映画だった。

 それぞれモチーフになった楽曲が挿入歌となっていて、挿入のされ方もそれぞれ工夫がある。要所で挿入されるところは共通しているけど、テレビやラジオから流れたり登場人物がスマートフォンから流したり、といろいろあったけど、半分くらいは役者が歌っていた。もちろん、そうなると役者によって歌唱力はまちまちで、Vaundy「東京フラッシュ」は主人公が歌手設定なだけにかなりレベルが高かったとけど、PerfumeFLASH」はもうちょっとどうにかならなかったのかなあ……というレベルだった。岡野昭仁「その光の先へ」も役者の歌唱力がかなり低かったけど、あれは下手なことに意味があるから良かったわけだからなあ。あと、本人登場のKING GNUFlash!!!」と[Alexandros]「閃光」はちょっといろいろな意味で反則ですわ。出てきた瞬間ちょっと笑ってしまうけど、いざ歌いだすと圧巻の歌唱力で感動を誘う。

《印象的なシーン》「その光の先へ」を口ずさみながら立ち上がる少年。

その先の光へ

その先の光へ

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ちょっとだけUターン(1991年、日本、監督:西田島彦、71分)

 単純明快なコメディで、注文通りに料理がでてくる嬉しい作品。原作より小次郎の悪行が柔らかく表現されていたけど、それ以外はほぼ原作の通りだったと思う。島本和彦先生の熱血コメディの中でも特に好きな作品で、期待値はかなり高かったけどそれに見合う作品だった。演出もキャストもレベルが高いけど、特に線の太い作画がいかにも島本作品という感じでたまらない。

 アクションもレベルが高く、いいタイミングでいい画が入ってくる。最後の乱闘シーンはぐるぐるとカメラが回転する感じがいかにもこの時代の作品で、なんだか嬉しくなってくる。

 ラストシーンはある意味報われないわけだけど、例え報われなくても全力で助けに向かうという古き良き熱血作品のかっこよさがある。主題歌も爽やかで熱く、非の打ちどころのない作品。

《印象的なシーン》尾崎にめぐみを紹介するときの絶妙な間。

 

 

旅に出よう(2001年、日本、監督:井出九、80分)

 かなり単純なロードムービーで、感想を漁ってみたら「起伏が無くてつまらない」「眠くなる」という意見も多かった。たしかに娯楽として高いレベルにあるかといわれると肯定できないし、おれもこういう映画は基本的に好きではないんだけど、なぜかこの映画は好きで、観終わった直後になんとなく流し見してしまうくらいだった。やっぱり映像のレベルの高さかなあ。

 バス、タクシー、電車、船、バイクで街から街へと移動し人々や動物と触れ合い旨いものを食う。スタートの波輝坂町からゴールのウィントナミまでに五都市と十八の村落*2をめぐるわけだけど、風光明媚な観光都市もあればほんとうに何もない平地の田舎町もある。そういう意味ではバラエティに富んでいるけど、特に感動的な出会いがあるわけでも衝撃的な事件に出会うわけでもない。本当に不思議な映画で、それなのにフィルムに映る人々は魅力的で動物たちは生き生きしていて食べ物は食欲をそそる。クィツアンでの食事は見た目がかなり異質なのにこれほど美味しそうに見えるのはどういうことなんだろう。特にシャンキンジンなんかはあまりに美味しそうだから詳細を検索してみたんだけど、本当、心の底から後悔した。知らないほうがいいことも世の中にはあるらしい。

《印象的なシーン》リンミンバトが飛び立ち男たちが踊り狂うシーン。

 

*1:原作でいう「私」

*2:公式サイトの記述ではそうらしいけどちょっと少ないような気がする