電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た映画(2022年5月)

曲がれ!スプーン(2009年、日本、監督:本広克行、106分)

 少し不思議なコメディ映画。物語が動き出すのがやや遅いし派手な結末もないけど、飽きることなく楽しく観ることができる、という不思議な映画。なんでだろうと思ったけど、たぶん会話のテンポ感だと思う。同製作陣同世界観の「サマータイムマシン・ブルース」でもそうだったけど、セリフ回しや仕草がちょっと舞台っぽくて、実写映画でそれをやられるとどうしても違和感が出てしまうのだけど、会話のテンポ感がそれを打ち消してくれる。

 細かい前振りも効いていて、特に終盤に明かされるマスター関連の情報は、中盤の細男との些細な会話がキチンと前振りとして機能しているところが素晴らしく、たぶんSF者のほうが喜ぶ仕掛けになっていると思う。

 個人的には妙にリアリティのあるテレビ局の描写がかなり良い味を出していると思う。一貫した優しい世界ではなくて、それなりに辛い現実の世界と穏やかなカフェの世界が対比的になっているけど、どちらも描写が極端ではないところがフィクション係数をうまく調節してくれて、ラストシーンに趣を添えてくれる。ただ、あの下りはちょっと長すぎてクドイかなあ、とは思った。

《印象的なシーン》最後の握手。

 

 

トップガン(1986年、アメリカ、監督:トニー・スコット、110分)

 続編が公開されるということで視聴。某所で「改めてみてみたら物語は単純だし、アクションシーンもそれなりだし、名作っていうほどかあ?」みたいな意見があって、単純なのは確かにそうだったと思う。というか「マッドマックス」とか「コマンドー」とか「ランボー」みたいなもので、アクション映画は単純明快なほうが観やすくていいんじゃないかな。そういう意味では間違いなく名作だったと思う。

 戦闘機のパイロットが主人公ということしか知らなくて、だからこんなに青春要素(恋愛や栄光と挫折)が強いとは思ってなくてちょっと面食らったけど、そういう範疇ではとてもよくまとまっていてオーソドックスに楽しめた。描写のある登場人物たちはみんな魅力的で、特にグースは悪友と常識人のバランスが良くてとても良かった。あと音楽が良いとも聞いてはいたけどメインテーマなんかは「あっ、この曲「トップガン」の曲だったのか!」となんだかあべこべに感動したりもした。

 本編とはちょっと離れた零れ話として、本当かはわからないけど同じく某所で見た「この映画以前は軍事ものの映画で米軍が機材を貸してくれることはほとんどなかったけど、この映画では気前よく提供してくれて、それ以降なんでも使わせてくれるサムおじさんになった」というエピソードが好き。

《印象的なシーン》「俺にとってはお前だけが家族だ」

 

 

ゾンビーバー(2015年、アメリカ、監督:ジョーダン・ルビン、85分)

 岸谷轟/裏谷なぎ『R15+じゃダメですか?』で紹介されていて気になったので視聴。重すぎない単純明快なスプラッタ映画を摂取したくなる発作に見舞われることがあって、そのたびにコメディホラーっぽい映画を漁ったりするけど、ホラーとして真っ当すぎたりいくらなんでもふざけすぎてたりで、いまいち目的に合わないことが多かった。

 で、この映画なんだけど……素晴らしい。まさにこういう映画を観たかった!同系列の当たり映画に「道化死てるぜ!」があったんだけど、あっちはまだ感情移入ができて可哀そうと思わなくはなかったけど、こっちにはそれが一切ない。いかにもフィクションな悪人ではなくて、その辺に居るような嫌な奴で口が悪く倫理観もあまり持ち合わせていない。だから彼らがどんな目に合おうと全く心は痛まないし明るく楽しく鑑賞できる。

 ラストの古典コントみたいなオチも冒頭と対になっていて好き。ただ、あいつらはなんであそこに来てたんだろう。

《印象的なシーン》エンディングの歌。

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地下に潜む怪人(2014年、アメリカ、監督:ジョン・エリック・ドゥードル、93分)

 閉所恐怖症のおれには延々と地下墓所を潜り続けていくというシチュエーション自体がかなり怖い。全編が主観視点POVで撮られていて、画面の揺れが激しすぎて何が起きてるかわかりにくい所もあるけど、全体的には意味不明なところは少なかった。不安感や閉塞感が徐々に強くなっていくところはとても良く出来ていて、だからこそちょくちょく挟まる強襲吃驚みたいなのはやめてほしかったかなあ。

 宗教的な要素が強く、地獄……というか死者と生者の中間という意味で煉獄のようなイメージが強く、彼らが終盤に取った行動もキリスト教的な気がする。ちょっとネタバレ気味の感想になるけど、地下≒地獄から抜け出す手段がマンホールなのは「残酷で異常」と共通しているけど、欧米圏ではそういうイメージがあるのだろうか?

 全体的にちゃんと怖くて面白かったけど、主人公がなんかちょっと嫌だった。とても悪い意味でおれたちみたいというか、一定分野に夢中になりすぎてて視野狭窄で他人をいいように使ってもたいして罪悪感をもってないというか……。

 あと本編の感想とは離れるけど「地下に潜む怪人」は、ちょっと邦題のつけ方が悪すぎる。これじゃあ地下に潜む殺人鬼と対峙する話みたいだ。あと、最序盤の縊死体を不自然にスルーするのはちょっとどうだろう。もちろん、あれが出た直後彼女がどうなったかを考えれば、あれがどういう存在だったのかはわかるわけだけど……。

 あと、題材が題材だけによくわからないところも多かったけど、その辺はfoundfootazineさんの記事がとても分かりやすくて良かった。

《印象的なシーン》石を手に入れてからの反転した世界。

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