電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2022年6月)

命のネジを巻く旅人サバロ(1993年、日本、監督:江路村秋草、97分)

 アニメ化してるなんて知らなかった。こういう隠れた作品を見つけられるのもAmazonプライムのいいところですな。まあ、有料チャンネルに課金が必要で妙に高かったけど、草上仁先生の作品の中でもトップクラスに好きな作品の映像化となれば見ないわけにはいかない。

 とてもやさしい物語で、淡い色彩が世界観とかみ合っている。動画のレベルは高いとは言えないけど、動きで魅せるタイプの作品ではないから特に気にはならなかった。ただ、ネジを巻くシーンがすべて使いまわしなのはちょっとなあ。テレビアニメならそれでいいけどせっかく劇場公開のアニメなんだから。

 この当時主流だったであろう役者が多数出演していて演技のレベルは高い。特にサバロの最後の一言は本当に完璧だった。あの短い一言に深く重たい感情が乗っていて、情報量に圧倒される。そこだけリピートしたくらい、本当に素晴らしかった。

 旅行く先々で事件を解決していくタイプのロードムービーだけど、それほど大仰な事件は起きず、主人公の能力も派手ではない。「命」や「人間関係」がテーマだけど過度に説教っぽくもない。それがとても良いと思ったんだけど、感想を漁ってみたら「物語に起伏無くて退屈」「ファンタジーなのに派手さがない」みたいなことを書いている人もそれなりにいた。「起伏が無くて退屈」はいくらなんでも不当な評価だけど「派手さがない」は正直わからなくはない。ただ、そういうタイプではないと理解したうえで観れば満足度は高い作品のはずだ。

《印象的なシーン》「サミナ」

 

熱いぜ辺ちゃん!(1988年、日本、監督:飛火、105分)

 麻雀を題材にしてはいるけど、人情物語の色が強く『カイジ』や『アカギ』を期待すると肩透かしを食らうかもしれない。福本伸行先生の初期作品特有の猥雑さは、80年代後半という雰囲気とよく合っている。近作なら『最強伝説 黒沢』に近く、お世辞にも上品とは言い難いけどヒューマンドラマとして質が高い。

 個人的には原作の13話「チャンス」のエピソードが挿入されていたのが嬉しかった。あとはかなりマイルドになっていたけど木島一家のエピソードもキッチリまとまっていている。初めて原作を読んだのはたしか中学か高校の頃だったと思うけど、そのときは三沢がなんだか嫌な奴に見えたけど、いま観ると(そして原作を読み返すと)理想と現実への認識がアンバランスというか、わがままと言われればそれまでだけど、極端なところがないところがとても魅力的で、そういう風に感じられるほどにはおれも多少は成長できているいるのかな、なんて思ったりもした。

 ちょっと残念だったのは、終盤のパートに全く触れられていないところ。まあ、本来は辺ちゃんが中国に旅立って終わりで、それ以降のやつは後年書下ろしたパートで、映画化されたときには影も形もなかったのだから仕方ないんだけど、観てみたかったなあ。

《印象的なシーン》「再見サイチェン!」

熱いぜ辺ちゃん 1

熱いぜ辺ちゃん 1

Amazon

 

 

天使のわけまえ(2011年、日本、監督:稲垣邦正、105分)

 各種レビューサイトで書かれている通り、コメディ部分が若干寒かったけど「天使と酒造」のどちらも描写の造詣が深く、タイトルのダブルミーニングもキチンと機能している。やや難解なところはあるけど、決して取りつきにくいストーリーではない。ただ、前提知識がある程度あったほうがより深く味わえるのも間違いないから、もし興味があるのならいくらか本を読んでみるか、もしくはネタバレを回避しつつある程度の知識を提供してくれるサイトがいくらかあるみたいだから、その辺を覗いてみてもいいかもしれない。個人的には酒については下記のリンク、天使については天使論序説 (講談社学術文庫)がおすすめ。

 擬人化された天使、身体を持たない上位存在、樽のなかのウィスキー、エタノールの味……と、列挙すると却って怪しげだけど、この辺の言葉がどういう意味を持つのか、調べてから観るもよし、観終わってから調べてみるもよし。時間の流れの雄大さを含めて、人類の業を正負両面から考えることもできる。

《印象的なシーン》「ウィスキーに特効薬はないんだよ」

 

 

瞳の奥をのぞかせて(2019年、日本、監督:今井八朔、120分)

 ポルノグラフィティの同名楽曲を舞台演劇化し、好評につき実写映画化したというちょっと変わった経緯を持つ映画。

 雰囲気はとても良い。無暗に登場人物を増やさないのも、群衆の顔が意図的に見えにくくなっているのも、これが「二人」の物語であることを強調している。酒や車、書置等の小道具は原曲のイメージを最大限生かすように配置され、彼らの心情を間接的に表現している。そういう意味では工夫のある良い映画なのは間違いないと思う。

 ただ、暴力的なシーンが不必要なほど強調されているのはちょっとどうかなあ。構成として必要ならともかく、この映画にはそれほど必要はいえない代物だったし、正直そのあとのアクションシーンも併せて間延びするだけからバッサリ削ったほうが良かったと思う。あと、原曲の描写の美しさに映像が追い付いてないのは残念。もうちょっと頑張れたと思う。

 ラストは賛否両論らしく*1、おれはどちらかというと否定寄りだけど、ああいうタイプのオチが好きな人には、忘れられない作品になるはずだ。そういう意味では客を選ぶタイプの映画だったのかもしれない。

《印象的なシーン》「さよなら」

瞳の奥をのぞかせて

瞳の奥をのぞかせて

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花束と空模様の理由(2026年、日本、監督:真崎有智夫、30分)

 良くまとまったショートムービー。低予算映画らしく喫茶店で物語が完結するけど、ちゃんと物語以前の事情がわかるように描写されているし、こういう映画にしては画面も凝っている。意外性には若干乏しいけど綺麗にオチもついていて好感触な作品。

《印象的なシーン》「……はい」

*1:もちろんラストシーンの出来自体には文句のつけようがない。特に音楽方面は絶賛されていて、曲の質も挿入されるタイミングもほぼ完璧。そこに不満を漏らす人はすくなくともおれが検索した範囲には存在しなかった