電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た映画(2022年7月)

ウィッカーマン(1973年、イギリス、監督:ロビン・ハーディ、100分)

『ミッドサマー』に影響を与えた映画ということで視聴。

 思っていたよりずっと『ミッドサマー』だった、というか『ミッドサマー』が『ウィッカーマン』だった。大枠のストーリーは同じだけど、差異も多い。主人公の立ち位置の違いや『ウィッカーマン』のほうが個人描写があっさりしていることもあってホラー味は薄いけれど、北欧のお洒落感(?)が欠けているからか異物感は強い。主人公を比較すると不安定な若い女性と頑迷な中年男性とほぼ逆の属性と性格になっているのも面白く、主人公の倫理観が固まっているだけに『ウィッカーマン』のほうが文化衝突の色合いも濃い。

 郵便局で売られているお菓子の造形、収穫祭の写真≒夏至祭の写真、トーテムをぐるぐる回る人々、太陽神ヌアダの絵、キリスト教との対立、燃え上がる建造物、来訪者の最期、など共通のモチーフも多数あり、たしかに影響は大きかったんだろうなあとわかる。

 オチは彼が信仰する教義*1からすると、本当に「救いがたい」ものだったはずで、贈られる合唱も相まって哀しい。

《印象的なシーン》最序盤のにやにやと笑う島民たち。

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スキャナーズ(1981年、カナダ、監督:デヴィッド・クローネンバーグ、104分)

 意外とゴアシーンは少ない。露骨なのは序盤と終盤くらいで、それ以外はものを破壊したり銃で撃たれて血が出る程度。そういう意味(?)ではゴア描写が苦手な人でも手が出しやすいかもしれない。ただ、当然の帰結として「超能力者バトル」ものとしては若干物足りないものになっている。二回の人体破壊描写はいわずもがなのすばらしさで、個人的には電話回線を経由してコンピューターをスキャンするシーンがサイバーパンクっぽくて好き。

 ストーリーの構造自体は単純だけど、ちょっとわかりにくいところもある。事件が起きた後に説明がなされる(冒頭主人公の「苦痛と攻撃」が説明なく描写されて「主人公がスキャナーという特異体質者で思考の受信/敵対者への攻撃ができる」ことが説明される、みたいなのが繰り返される)という構造が原因だと思う。あと組織/人間関係が入り組んでいるのもわかりにくさの一因ではある。ただ、この辺は正直おまけ程度で、ラストの対決とその意味さえ理解できればそれで充分な映画ではある。

《印象的なシーン》頭部破裂。

 

 

ゲーム(1997年、アメリカ、監督:デヴィッド・フィンチャー、128分)

 深いことを考えずに観るのなら文句なく面白い。画面は派手でストーリーは二転三転、アクションありサスペンスあり兄弟家族ありビジネス描写ありとてんこ盛り。もちろん緩急もキチンとついていて緊張ばかりで疲れるということはない。そういう意味ではとてもいい映画のはず。

 ただ、やっぱりオチ……というか設定の段階でオチを逆算して考えてしまうと「いやいや、いくらなんでもそれはちょっと」と困惑してしまう。オチにもっと説得力を持たせるのならもっと傲慢さを強調するとか、キーパーソンの彼が味方であることをもっと強調するとか、もしくはもっとフィクション係数を高めて、コメディっぽいけど実は……みたいな筋書きにしたほうが良かったのでは……。ただ、巨大な力に状況を操作されて周囲がなにも信頼できなくなってしまうところはどことなくディックっぽくて個人的にはワクワクした。

 後味は悪くないけど居心地が悪い。Wikipediaからの孫引きになるけど宮崎哲弥さんは「自己啓発セミナーでの人格改造の過程を映像化したもの」と解釈したらしい。なるほど。あのラストシーンの居心地の悪さを見事に説明した言葉だと思う。

《印象的なシーン》銃がオートマチックではないことに狼狽するクリスティーン。

 

 

デッドコースター(2003年、アメリカ、監督:デヴィッド・エリス、90分)

 自然現象ピタゴラスイッチ殺人映画。

 もろにB級なタイトルだけど、思っていたよりずっと良く出来ていてサスペンス要素も盛り込まれているし、殺し方の創意工夫も素晴らしい。もちろんゴア描写もレベルが高く、きつくなりすぎるところはキチンとごまかしているところも良い。ただ、中盤で提示された対応策と終盤の回避策が対応していないような気がするけど、どうなんだろう。あと、このタイトルでジェットコースターがでてこないのはどういうことなの。

 なぜか悲壮感がなく単純にスプラッタ映画として楽しむことができる。登場人物たちが比較的事態に対処するタイプで妙に前向きに見えるからか。あと、悲鳴を上げるキャラクターが少ないからかもしれない。

 あとで調べて知ったけど、これ『ファイナル・デスティネーション』の直接の続編なのか。ネットフリックスの関連作品に挙がっていたから世界観が共通する程度の関連性なのかと思ってた。まあ、前作を観ていなくても十分楽しめるとは思うけど、邦題はもうちょっとさあ……。

 ラストはある意味「爆発オチ」。

《印象的なシーン》エアバッグ

 

 

縛られた(2017年、アメリカ、監督:レイモンド・ウッド、12分)

 いい話ではあると思うけどちょっとメッセージ性が強すぎる、というのが正直な感想。ただ、これまでのショートフィルムの中でも頭一つ抜けた作品だから観ても損はしないと思う。邦題が「縛られた」なのも、それが物理的な意味だけじゃない、と考えると良く出来た邦題かもしれない。ただ違和感がすごいからもう一工夫ほしかった。

《印象的なシーン》立ち去る侵入者たち。

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*1:キリスト教で火刑にどういう意味があるのかというと……