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ポルノグラフィティ12thアルバム『暁』感想

 新藤晴一大博覧会、名優岡野昭仁七変化。聴きだしたらもうほとんど『スキャナーズ』。おれは壇上で頭を爆発させて、あとは二人が超能力バトルじゃい。

 第一印象は「明るい」。もちろん重たいバラードや激しいロックもあるし、なんならそういう曲のほうが印象に残っているくらいなんだけど、通して聴いてみるとどういうわけか爽やかな気持ちになれる。ラストの曲が「VS」というのもあるかもしれないけど、暗めの曲に皮肉や後悔の色が少ないというのが大きいんじゃないかと思う。どちらかというと郷愁っぽさがあるというか、前作『BUTTERFLY EFFECT』での「Fade away」や前々作『RHINOCEROS』での「AGAIN」と比べるとそんな印象がある。詳しくは個別で書くけど、それこそ「証言」はその二曲に勝るとも劣らないほど沈痛だけど、悲壮感はそれほど大きくなくて、どこか力強さがあるというか。そういう意味でアルバムタイトル『暁』は本当にぴったりなネーミングだと思う。

 音楽的なことはなにもわからないけどやっぱり「纏まっている」と思う。曲調も歌詞の系列もバラエティ豊かだけど、統一感というか……どう言葉にしていいかわからないけど複数の人が原作を担当して同じ人が作画したオムニバス漫画を読んだ気分に近いかな。全編を新藤晴一さん*1が作詞していて、インタビューでも、

新藤 1人で書いているから、全体的なバランスが取りやすいところはあったかな。かっちりした書き言葉を使い、漢字に意味を持たせて書いた「暁」のような曲があるから、「ジルダ」ではしゃべり言葉にしてみよう、みたいな。アルバムとしてそういったバランスは絶対に必要なものだから、そこにやりやすさを感じられたのはよかったところかな。(音楽ナタリー「ポルノグラフィティ「暁」インタビュー|岡野昭仁と新藤晴一が5年ぶりのアルバムに注ぎ込んだ等身大の音楽」より)

と言っている。そういうバランスが統一感に繋がっているのかなと思う。ただ、逆に言うと岡野昭仁さん*2の歌詞が存在しないだけ既存のアルバムよりバラエティパック感はやや薄い……と思うのはおれが歌詞を重視しすぎるからかもしれない。同じインタビューで

──昭仁さんは今回、既発曲も含めて10曲作曲していて。楽曲のタイプもかなりバリエーションに富んでいる印象です。(同上

と、もりひでゆきさんが言っているのを昭仁は肯定している。音楽感性ゼロヒューマンのおれも楽曲の多様さは理解できる。そういう楽曲の多様さ、歌詞を含めても明暗/日常・非日常/アップテンポ・スローリズムと隙が無くて、陳腐な表現になるけど名盤だと思う。

 以下、収録曲の感想。

 

 

1.暁(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁tasuku 編曲:tasuku, PORNOGRAFFITTI

 アップテンポ。言葉数の多さでは「真っ白な灰になるまで、燃やし尽くせ」を思い出すけど、内容でいえば社会派の色合いを持ちながら実は内省的で内側に向かった歌詞であることも含めて「THE DAY」の系譜だと思う。弱者に手を差し伸べたり優しく慰めたりせず、発破をかけて前を向かせる。まるで自分に言い聞かせているかのように。自分の行動が大きく何かを変えるなんて断言はできないけれど、その小さな行動の一つ一つが寄り集まって大きな意味を持つこともありえる。理想に偏らず、けれど現実に対して過剰に失望することもない。“その日”が来る前の夜明けが浮かんでくる。

 音楽面:唸るような声の低さ/〈期待〉〈失望〉の頭の発音の強さ/〈どれほど待っている? 暁〉の〈暁〉の寸前にスッと音が切れる瞬間/後ろでずっと鳴っているマシンガンみたいな(たぶん)ギター/終盤の目が回るようなギターソロ。

期待と失望とは いつだって共犯者
乱反射をして視界を奪う その手口は見抜いているのに

暁

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2.カメレオン・レンズ(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:篤志ポルノグラフィティ

 シングル曲。ファン人気が極めて高い曲だけど、実は初聴きであまり高く評価していなくて、何度か聞き流しているうちに徐々に好きになった。ポルノファンの中でもかなり珍しい部類に入ると思う。ここでも書いたけどアルバム収録曲の中に留まらず過去作の中でも晴一の特色が出ている歌詞で「わかるようなわからないような、けど意味する情報の志向だけははっきり理解できる」という絶妙な比喩と散りばめられたオブジェクト、鮮烈な赤と青が脳を痺れさせる。相互不理解は晴一の永遠のテーマなのだと思う。

 音楽面:何かを急かすような〈no,no,no〉/〈What color?〉の抜けていく息遣い/〈双子の月が〉や〈無常に光る〉を追走するギター/何の楽器かわからないけどイントロの心音みたいなやつ。

デタラメな配色で作ったステンドグラス

カメレオン・レンズ

カメレオン・レンズ

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3.テーマソング(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:立崎優介, 田中ユウスケ, Porno Graffitti)

 シングル曲。かなりストレートな応援の歌で晴一版「キング&クイーン」のイメージ。昭仁と晴一の応援ソングという意味で比較してみると「キング&クイーン」のほうが視点が高いのは普段の作詞傾向とは逆になっているのが面白く、「テーマソング」のほうがどこかへそ曲がりで王道の中に隠れた小道が潜んでいる。ある意味では「ヒトリノ夜*3に「君の愛読書がケルアックだった件について」を付け加えてこの時代に溶け込ませた歌詞のような気がする。

 音楽面:〈諦め 苛立ち 限界 現実〉の声色の変化/さわやかなコーラス/高揚感を煽るクラップ/スパっと切れるラスト。

「ただ自分らしくあれば それが何より大切」
などと思えてない私 何より厄介な存在

テーマソング

テーマソング

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4.悪霊少女(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:江口 亮, PORNOGRAFFITTI

 ……えっ、なんて?

 生まれて初めて昭仁の言葉がよく聴き取れなかった。いや、これまでも聴き取れなかったり聞き間違えたりすることはあったけど、かなり長いフレーズ(歌詞カードの二行分くらい)を聴き取れなかったは初めてだった。それくらい短い時間の中に言葉が詰まっている。「ウェンディの薄い文字」に連なる少女の物語。「ウェンディ」は成長を思わせるにとどまったけど、「悪霊少女」は涙の色を使い分け自分の感情を隠す術を獲得して大人への一歩を踏み出す。娘の成長に狼狽して大仰なところに相談して大げさなアドバイスを受けて頓珍漢な行動に出る父親はユーモラスで楽しいけど、読み方によっては「古臭い倫理観で娘の指向をつぶそうとしている」とみることもできる。

 音楽面:〈逃れられない〉の八秒近くあるロングトーン/父親と母親の言葉での一歩引いた歌い方/場面が変わるときの「ダダダダダン」/ギターソロ寸前の(たぶん)バイオリン。

その日から少女の涙は 七つの色合いを帯びてく
誰にも読み取られない思い 密かに隠して生きていくのだろう

悪霊少女

悪霊少女

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5.Zombies are standing out(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:tasukuポルノグラフィティ

 シングル曲。聴けば血沸き肉躍るポルノロックの集大成。カッコよさでは他の追随を許さない。歌詞のほぼすべてが気持ち良い音で構成されていて、英詞がかなり良い方向に作用している無二の曲。若者文化のアイコンとしてのゾンビは同時に「かつての栄光をもう一度目指すことを決意した二人」でもあると思う。

 音楽面:〈眠ってはならぬ〉の一音を区切るような歌い方/〈Bullet〉の発音/イントロで撥弦楽器(ベース?ギター?)が始まる寸前の重低音/鬨の声のようなギターソロ。

光がその躰を焼き 灰になって いつか神の祝福を受けられるように
I still pray to revive

Zombies are standing out

Zombies are standing out

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6.ナンバー(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:トオミヨウ, PORNOGRAFFITTI

 ライブで先行披露されていた曲でアレンジと歌詞の一部が変わっている。(仮)ではどこか不穏な雰囲気があったけど、それがかなり軽減されている印象。なんというか数字を盗まれた後の描写が「現実を正しく認識できなくなって元の世界に帰れなくなった人」みたいで……。そういう意味で〈Life goes on〉は歌詞全体の意味を大きく変えてくれた一文だと思う。日々の暮らしからの一時的な逃避という意味では自然系「星球」といえるかもしれない。

 音楽面:〈残る田園〉の上にあがるイントネーション/〈Shall we dance?〉の発音/イントロのどこか遠くから聴こえるような(たぶん)バイオリン/ラストの「デェーン」。

ジェリービーンズ 溶かしたように 目に映ったものが歪む

ナンバー

ナンバー

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7.バトロワ・ゲームズ(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁,トオミヨウ 編曲:トオミヨウ, PORNOGRAFFITTI

 これほどタイトル通りの曲も珍しい。というかタイトルがこんな感じじゃなかったら動揺していたかも。第一音について、最初は昔のWindowsかと思ったけどPSの起動音のような気もする。なんとなくSFの匂いがして嬉しい*4けど、かなり崩した言葉がちょっと目につく。歌詞の内容と曲の短さから「悪霊少女」と並んで現代の若者をターゲットにした作品という印象。彼らに刺さるかはわからないけど試みとしては素晴らしいと思う。ゲームに仮託した現実での競争も描いている。

 音楽面:冒頭のローテンションな低い声/〈鉄則〉の掠れかかった声/イントロ終わりのクラップ音/うにょにょした電子音っぽいやつら。

まだ脳は濃い目のドーパミンに酔って
血走った赤い目が見ている世界線はどっち

バトロワ・ゲームズ

バトロワ・ゲームズ

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8.メビウス(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:tasuku, PORNOGRAFFITTI

 ライブで先行披露されていた曲でアレンジと歌詞の一部が変わっている。(仮)と比べて郷愁が強化され、壮大さがやや抑えめになった印象。英詞が削られまったく別の意味の日本語に換わっているけど、基本的な感想はここに書いたものと変わらない。あくまで個人的な感想だけど、やっぱり恋愛的な離別ではなく思い出との離別だと思っている。ただ、歌詞の変化で「親子」は成り立たなくなったかも。(仮)での補正もあるけどアルバム収録曲の中で一番好きな作品。

 音楽面:〈ごめんなさい ごめんなさい〉に重ねられたコーラス(?)/〈こういうこと?〉の疑問符とは思えないほど力強い緩急のついたロングトーン/〈わすれてほしいよ〉の後の左右から聴こえるギター/アウトロで昭仁と共に歌っているようなギター。

チャイムがなっている うちにかえらなくちゃ

メビウス

メビウス

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9.You are my Queen(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:tasuku, PORNOGRAFFITTI

 最初に英詞で書いてから日本語に逆翻訳したような印象のある歌詞。最初と終盤に入るチリチリした音は「月明かりのシルビア」のようにカセット録音をしているという表現なのかな。とても可愛らしい歌詞で親から子への愛情か、もしくは(ポルノにしては珍しく)精神的な成長が早かった男の子が未成熟で我儘な女の子に微笑みながら付き合っている、という印象。

 音楽面:全編を通した優しい声色/「NaNaNa ウィンターガール」のような〈レディさ〉の発音/後ろで「ティロティロティロ」と高速で鳴っている弦楽器/〈1000年に一度〉の前の無音。

Like a knight 悪い夢の中の悪魔だって倒しましょう

You are my Queen

You are my Queen

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10.フラワー(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:篤志ポルノグラフィティ

 シングル曲。ここで書いたことがすべて。深刻なテーマだけど過剰に暗くはなく、後半の力強さは希望すら感じさせる。情景が映像として目の前で流れ始めるような歌詞の表現は長い時の流れを五分半という短い時間の中に凝縮するのに一役買っている。寓話的な柔らかい世界観で描かれる生命の流れは圧巻。

 音楽面:優しくも哀しい〈笑ってるわけじゃないの〉/英詞部分の哀しさと強さが入り混じった表現/〈ただ荒野に芽吹き〉の辺りから鳴り始める重低音(バスドラム?)/明るすぎも暗すぎもしない絶妙なギターソロ。

星たちは 蒼い闇の夜に映える
生と死がひきたてあうように

フラワー

フラワー

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11.ブレス(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:tasukuポルノグラフィティ

 シングル曲。「テーマソング」と同じく比較的ストレートな応援歌。「自分の視線の先に未来がある……と信じるだけで断言はしない」「未来は確かに存在するけど向こうからやってきたりもしない」と「テーマソング」より一筋縄ではいかない晴一の気質がでている。どこか無責任というか投げやりな言葉のようだけど、断言や成功の予言はある意味運命論的で、そこから一歩引くことで、未来に足を踏み込んでいく本人の行動=努力を最大限肯定している。あと〈ネガティブだって君の大事なカケラ〉はなんとなく晴一から昭仁への最大の賛辞なんじゃないかな、と思っている。

 音楽面:出だしのフラットな〈ポジティブ〉/嚙み締めるような〈旅人のように〉/全編を通して鳴っている低い音/〈faraway〉を引き継ぐように鳴り始めるギター。

気分次第で行こう 未来はただそこにあって
君のこと待っている 小難しい条件 つけたりはしない
迎えにも来ないけど

ブレス

ブレス

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12.クラウド(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:宗本康兵, PORNOGRAFFITTI

 思い出。ある意味では明るい「MICROWAVE」。情報共有サービスに進化した冷蔵庫。クラウドサービスに保存「できる情報」と「できない感情」の対比が「デジタルとアナログ」「天高い上空と地面を歩く自分」「明確な情報と不確かな感情」と対比を作っているのが美しい。失恋後を描いた歌詞だけど、どこか『WORLDILLIA』くらいの頃の瑞々しさと爽快感があるのは、きっとアルバムの全曲を晴一が作詞したからだと思う。全体のバランスをとる過程で生まれたささやかな稀ソング。

 音楽面:〈笑えるかな?〉の語尾/昔を懐かしむような〈ここに刻まれている〉/郷愁を感じさせるアウトロ/〈いつかは聞きたくなるのかな?〉の辺りで右側から聴こえる弦楽器。

ログインパスワードは覚えてる 忘れるわけのない数字さ
毎年二人で祝ったからね その後のストーリー 何も知らず

クラウド

クラウド

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13.ジルダ(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:tasuku, PORNOGRAFFITTI

 軽妙洒脱なMr.ジェロニモ。ふんだんに散りばめられた非日常体験の言葉が時間と空間と属性を飛び越えてフィクションへと没入させてくれる。会話のさざめきから始まるのは「Jazz up」を思いださせる。晴一の歌詞では比較的珍しくヒトの一人称視点で一つの流れが描かれている。道義的にはちょっとアレだけど、このくらい自信を持った人間は気持ちがいい。それにどんな過程をたどっても結局は揉め事が起きるような関係性にはならないような気もする。……というのは物語的に考えすぎか。アルバムの中で最も楽しい曲だから小難しいことを考えずゆったりと楽しむのが正しいのかもしれない。

 音楽面:〈Cheers〉のクライマックス感/アウトロのフェイク/お洒落全振りのギターソロ/〈オペラの後は〉からボーカルと二人きりのギター。

時間は歪むとお惚けた科学者がずっと昔に解き明かした
それを信じるのなら恋に落ちるのなど 瞬きの間で十分すぎるだろう

ジルダ

ジルダ

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14.証言(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:江口 亮, PORNOGRAFFITTI

 直観は「死別」。最善を尽くしたのに理不尽な暴力がすべてを奪い去ってしまった。それが病魔なのか殺人なのか世相なのか、もっと別の何かなのかはわからないけど、不条理に愛を奪われた。ちょっと語弊があるかもしれないけど、晴一の描く「Fade away」だと思う。けれど「Fade away」に比べて辛さはやや薄い。これは晴一と昭仁の作詞スタイルの違い(三人称視点と一人称視点)もあると思うけど、やっぱり「証言」にはどこか希望があるからだと思う。耐えがたいほど辛いことが起きているけど、あの「愛」は確かに存在していて、だから苦痛に塗れていても歩き続けられる。最善を尽くしたがゆえに痛切だけど希望がある。「Fade away」の抉るような孤独、「AGAIN」の痛烈な後悔とも違う色合いがある。

 もちろん、個人との別れだけではなくアーティストとしての離別と解釈することもできる。おれの持病*5もあるけど〈たくさんの星が証言してくれるはず〉はアーティストにとってのファンを、〈どんなに離れても 声が聞けなくても〉のくだりはこの世情で制限されたアーティストとしての活動を思わせる。

 音楽面:冒頭に四行のどこか突き放した「語り手」感/ラスト三行の切実さ/フェイクと競演するアウトロのギター/〈value the most〉の辺りで流れる「キュキュキュキュ」という弦楽器(バイオリン?)の不安感と焦燥感。

騒々しいくらい希望を歌ってた鳥たちは遠くに行ったのか?
季節はもう巡らないの?
悲しみはこのまま凍てついてしまうのか?

証言

証言

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15.VS(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:近藤隆史、田中ユウスケ、Porno Graffitti)

 シングル曲。やっぱり「神VS神」のイメージが強烈で聴いていると頭が2019年の暑い夏の日の東京ドームに還っていってしまう。爽やかな回顧と意欲的な決意が印象的。「プッシュプレイ」と強い関連性を見出せる曲でポルノ史上最も「過去の自分と現在の自分」の関係性をポジティブに捉えている。ほかにも「AGAIN」「ダイアリー 00/08/26」にも出てきた〈夜ごと君に話した〉言葉が登場しているし、「AGAIN」については〈地図〉も共通している。〈君〉は昔日の自分自身、〈地図〉は未来予想図を思い起こさせる。いまの自分は決して万能ではなくて、あの日の志や願いはすべて叶ったわけではないけど、まだ歩み続けることができる。シングル50曲目、メジャーデビュー20周年を迎えたポルノグラフィティにとっての一つの標となる、ある意味では長年のファンのための一曲だと思う。

 音楽面:〈ぎゅっと目を閉じれば〉の「ぎゅ」/〈無邪気に描いた地図〉の「む」/イントロのピアノ(?)/新鮮な空気を吸うようなギターソロ。

バーサス 同じ空の下で向かいあおう
あの少年よ こっちも戦ってんだよ

VS

VS

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――――

 楽器については全くの無知(ギターとベースの区別がつかないレベル)で、いちおう自分なりに調べはしたけど間違っているところもあるかも。ただ、だいたいどの辺のことを指しているのかはわかってもらえると思う。

 以下、アルバムへの感想とはちょっとズレる話。

 最近、競走馬の本を読んでいたから(と『ウマ娘』に嵌っている)というもあるけど、『暁』は異系交配アウトブリードが上手くいったアルバムという印象がある。なんというか、従来の自分たちの色ではない外部のものをうまく取り込んでいるというか、うまく説明できないけどかなり良い意味で最近の若手アーティストのテイスト(というか当世流行のニュアンス)を取り入れているような気がする。

 そういうのをうまく取り入れるのってとても重要だと思う。元から自分の中にあるものだけで突っ走れるのはごく短い期間だけで、どこかで自分になかったものをどこからか調達しなくちゃいけない。自分の中にある色を組み合わせてやっていっても結局自家中毒になるだけだから。近親交配インブリードは強力で魅力的な曲を創り出してくれるけど、それを繰り返した先にあるのは袋小路でしかない。遅かれ早かれ外の血は絶対に必要になる。

 けど、なんでも取り入れればいいというわけではない。母系の良い所をきちんと引き出せる種牡馬をちゃんと選んで導入しなくちゃいけない。外の血は必要だけどそれを選んでうまく組み合わせるのはそんなに簡単なことじゃないはずだ。良血や能力が種牡馬としての能力を保証するわけではない。組み合わせる牝馬によって変わってくることもある。

 このアルバムはそれがとても上手かった気がする。いままでなかった要素をうまく「従来のポルノグラフィティ」に組み合わせられている……と、思う。本当に、音楽低偏差値人間の理屈不在の感想だから正確なものじゃないかもしれないけど、昭仁の歌い方、晴一の作詞、そして二人の作曲とアレンジャーたちの編曲に現代っぽさを感じた。外の風をうまく取り入れることができた、という意味でも『暁』は一つの指標になったんじゃないかな。

 気が早すぎるけど次の曲が楽しみでならない。

 

 

*1:以下敬称略

*2:以下敬称略

*3:〈100万人のために唄われたラブソングなんかに/僕はカンタンに想いを重ねたりはしない〉

*4:直接的なSF描写はほぼないけどなんとなくギブスン『ニューロマンサー』に出てきそう

*5:晴一の描く恋人は半分くらいポルノのファンのことを指していると思い込む病