電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た映画(2022年9月)

ガンズ・アキンボ(2019年、イギリス・ニュージーランド、監督:ジェイソン・レイ・ハウデン、98分)

 魔法の杖の代わりに金属の銃を握らされた生き残った男の子っぽいおじさんが、名前を言ってはいけないあの人みたいなスキンヘッドのおじさんに殺し合いYouTuberを強制される物語。

 設定を一目見ただけでだいたいどうなるのかを了解できる、という意味ではとても親切な映画。さっきまで猛者たちを瞬殺していたのに銃の撃ち方すら知らないド素人を殺すのに手間取ったり、そのド素人が覚醒したら急に射撃が上手くなったりすることへの説明は一切ないけど、そんなことを気にするほうがどうかしている。痛快で楽しく、まあそこそこ勧善懲悪でアクションシーンはよくできている。特に終盤は倫理観ゼロヒューマンズによる最低下劣な『トゥルーマン・ショー』といっても過言ではなく、B級映画の面目躍如といったところ。個人的には「生き残ってしまったらエンディングで扱いに困りそうなキャラクター」を上手に処理していったなあ、と感心した。

《印象的なシーン》「いわば殺人スターバックス、皆殺しマクドナルドだ」

 

 

孤独なふりした世界で(2018年、アメリカ、監督:リード・モラーノ、93分)

 タイトルが気になって視聴。かなり好き。本当、冒頭の五分くらいは説明もなく淡々と作業を進めるだけで味気ないけど、それさえどういうわけか魅力的。目を惹く展開や派手なアクションも小粋なコメディも特異なSF的発想もない。なのにこんなに気に入った。まだ、どう表現していいかよくわからないけど、少なくとも今年観た映画の中ではかなり上のほうにくるかもしれない。

 ただ、設定への説明がかなり薄いことや、後半の展開がかなり……古典的というか、はっきり言って陳腐なのは否定できない。ちょっと検索してみたけど、やっぱりそこが引っかかっている人も多いみたいで、さっき挙げた娯楽要素の薄さと併せて人を選ぶ映画なのかもしれない。ただ「謎だらけで終わった意味不明な映画」と言っている人もいたけど、それはちょっと不当だと思う。彼女の首の傷だって終盤に描写があったし、二人の心情の変化や行動原理も意味不明とはいえない。もちろん具体的な言葉による説明は薄いからわかりにくいのは否めないけど……。

 終末後の世界ポストアポカリプスで変わり者の男女二人が共同生活をするという意味ではアルフレッド・べスター「昔を今になすよしもがな」を、ヴィジュアル面での評価は高いけどストーリー自体は良くいっても古典的、悪く言えば陳腐な映画として『ファンタスティック・プラネット』を思い出す。どちらも好きな作品だから、結局こういうのが好きなのかもしれない。

《印象的なシーン》図書館で住所が書き留められた本を必死に探すデル。

 

 

ショウタイム(2002年、アメリカ、監督:トム・ダイ、95分)

 やっぱり堅物のベテランは軽薄な若者と組ませるに限る。最初は「いやいや、いくらなんでも街の治安も報道者の倫理観も劣悪すぎるだろ」と思っていたけど、その辺が受け入れられれば楽しい映画。軽薄な若手でしかなかったセラーズが別方向に才能を開花させたり、人間味が薄かったプレストンが動物に愛着もったりするのも、ベタだけど良かった。終盤の展開も序盤の「ちょっとそれは……」をある程度解消してくれるし、派手な画面で楽しい。往年のポリス映画へのパロディもあるらしいけど、その辺はよくわからなかった。

 個人的に主人公二人に人殺しをさせなかった、させないように工夫したのは好判断だと思う。いや、殺したようなもんだろってシーンはあるけどトドメをささせないっていうのはコメディを作るうえでけっこう重要(特に今作のような刑事ものでは)で、後味がどういうものになるかを決める要素のはずだから。

《印象的なシーン》最後の突入前に二人が同じことを思いつく場面。

 

 

ストーカー(1979年、ソビエト連邦、監督:アンドレイ・タルコフスキー、164分)

 だいぶ前に読んだから記憶があいまいだけど、原作の終盤に出てきた設定をピックアップして膨らませた作品という印象。映像的な素晴らしさは本当に流石で、色調の変化も相まってただ画面を眺めているだけで楽しめる。哲学的な会話はそんなに興味をひかれなかったけど、二度ほどある明らかにカメラに向かって話すシーンはなぜかゾクゾクした。ゾーンの描写が素晴らしい。なんというか少年が思い描く冒険を大人がキッチリ作り上げているというか、深刻で重苦しい映画なのにどこかワクワクしてしまうのはそういうところがあるからだと思う。ちなみに、映像はもちろん褒められるけど音響も素晴らしくて、特に水たまりを踏み抜いた時の水音はしばらくそこだけリピートして聴いたくらい好き。ピチョッチャッピッショ。

 ただ、これは各種感想サイトでも言われていたけど、いくらなんでも長すぎるし派手な展開があるとは言えないから、人を選ぶのは間違いない。おれも薄暗い映画館で観たら眠くなっていたかも。

 ちなみにWikipediaから知ったんだけど製作会社の公式YouTubeチャンネルで無料視聴することができる。当然YouTubeの広告が入るから興ざめするところはあるけど手軽に高画質で合法的に観れるのだからそれくらいはねえ。原語版しかないけど、日本語字幕も実装されていて、精度もそれなり。数か所あからさまに妙な訳出や誤字があるけど、少なくとも自動翻訳ではないみたいでちゃんと場面に合った翻訳になっている。

《印象的なシーン》部屋の直前、雨が降り出す場面。

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ジャックは一体何をした?(2017年、アメリカ、監督:デヴィッド・リンチ、17分)

 セリフ回しは好きだけど微妙に会話がかみ合っていない。何って言われたら良く分からないけど、雰囲気は楽しめる。言葉が分からないはずの猿も撮り方によっては人間っぽい仕草に見えるという実験映像かなあ……と思いながら眺めていた。

《印象的なシーン》妙に薄そうな珈琲。


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ANIMA(2019年、イギリス、監督:ポール・トーマス・アンダーソン、15分)

 映画というかミュージックビデオに近い。それなりにストーリー性はあるけどセリフは一切ないから推測するしかない。ただ、ダンスのレベルは高いし場面展開がそれなりにあって退屈はしないはず。15分でキッチリ終わるところも好印象。

《印象的なシーン》白い坂みたいなところでもみくちゃにされるシーン。


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