電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2022年10月)

スペースキャットvsアースキャット(2222年、アメリカ、監督:ジェフリー・ライバー、222分)

 物語の筋自体は単純明快で、地球を侵略に来た外来種宇宙猫スペースキャットと彼らを撃退すべく急ごしらえのチームを組んだ在来種の地球猫アースキャットが可愛らしくも真剣に争う、という『キャッツ & ドッグス』を思い出させる二項対立のアクションコメディ作品。ところどころに往年の名作映画のパロディがあるらしいけど、おれは『キル・ビル』と『フラップ・フリップ・フロー』くらいしかわからなかったけど、有識者によると優に15作品の名シーンへの敬意が仕込まれているらしい。

 地球猫アースキャットは5匹。幼猫と成猫を切り替えられるパフ=マフィン、ヒトではない存在を魅了できるピネロピ、ユーモアのセンスがある治癒者ベンジャミン、九つの命をもつ美貌のレディ・キャット、そして皮肉屋で頭脳明晰なヘリックス。宇宙猫スペースキャットも同じく5匹いるけど、能力と性格は本編の重大なネタバレになるのでここには書かない。けれど、地球猫アースキャットに負けないほど個性的なことだけは保証しても良い。

 物語の筋は単純だけど描写には工夫がある。魅力的な10匹の猫たちがそれぞれの長所を活かして策謀を張り巡らせ、ときには物理的に戦うのだけど、両陣営どちらかを極端に持ち上げる/下げることなく対等の存在として描いているのは流石。ただ、この年代に作られたにしては特殊効果がややお粗末なのは残念。実は続編があるらしいけど、どこを検索してもでてこない。見つけた人がいたらぜひご一報を。

《印象的なシーン》「わたしもおまえのところへ行く。エジプト人の歩みで」

 

 

戦いの華(2020年、日本、監督:宇森周、120分)

 どう見ても三国志だけど三国志では無いという不思議な映画。どちらかというと架空戦記に近いかな。登場人物の名前は元ネタの姓とあざなを一文字をくっつけたものになっていて、各キャラクターの関係性も史実(というか『三国志演義』)に近い。劉玄と関雲と張徳は義兄弟だし曹徳は人材マニアで孫謀はどこか保守的な面があり呂奉は異様に強いけど裏切る。余談だけど関係性は主に赤壁の戦いのころくらいをモチーフにしているらしく孫謀と関雲が致命的に仲たがいしているわけではない。

 前半は『三国志演義』の赤壁の戦いをモチーフに三つ巴の戦いが描かれる。特に曹徳が関雲を口車に乗せて味方につけるシーンは鳥肌が立つほど素晴らしい。ただ、いわゆる三国志らしいシーンはそのあたりまでで、瑞獣が現れてから以降は時空の裂け目からなだれ込んできた異世界のモンスターと一致団結して戦う、というかなり飛躍したストーリーになっている。

 もちろん、三国志の知識があったほうが楽しめるけど、知識がないと理解できないとかそういうタイプの映画ではない。三国志ファンからは賛否両論らしくて、怒るのも大人気ないとは思うけど好意的に取れないのも、まあ仕方ないよなあ。軽く感想を漁ってみたけど「たしかに変わった作品だけど『反三国志』よりは原作に忠実だろ」という意見には笑った。

 演出は凝っているしハイテンポな展開は見ていて飽きない。難しいことは考えないで純粋に楽しく観るのが良いだろう。少なくとも中盤からは三国志のことはいったん忘れるべき。

《印象的なシーン》軍楽隊を犠牲にして諸葛孔を救出する孫謀。

 

 

スーパーウルトラメガバトルドッチボールマッチ(2016年、日本、監督:可児玄道、91分)

 タイトルから察せられる通りの内容の作品。あたまがわるい。超能力バトルドッチボールデスゲーム作品というべきで、地位も名誉も持った一人前の大人が国の存亡をかけてドッチボールをするなんて、ふつうは白けてしまいそうだけど、役者が演技巧者揃いであまりに熱が入った芝居をするものだから途中でやめられずに最後まで観てしまった。ただ、物語は珍妙奇天烈な展開に加えて、無理が過ぎてほとんど不条理劇のような収束を迎えるものだから、感想サイトであらすじを確認しながらもう一周しないと話の筋を把握できない。

 特殊効果はかなり安っぽく、音楽回りもないほうがマシという惨憺たるありさま。ただ、ギャディスの旋回カメラワークがかなり有効に使われていたのはもっと褒められてしかるべきだと思う。

 まあ、たまにはこういう作品も悪くないかもしれない。

《印象的なシーン》手から離れた瞬間に弾けて六つに分裂し相手選手に牙をむくボール。

 

 

ウオッチ・メイカー(2014年、スイス、監督:ジョルジュ・ハウザー、124分)

 ファンタジー的な世界観だけど魔法や幻想生物の類はほとんどでてこない。そういう意味ではややジャケット詐欺気味だけど、そういう作風を期待せずに観れば決して悪い作品ではない。少なくとも一部の人たちが酷評するほどの作品ではない。何も持たない状態で惑星に放り出されて時計を作ることを競わされるという設定だけど、個人的には星新一「宿命」を思い出す。

 それぞれの開始地点に見合った方法を手探りで模索していく序盤は心躍らされるけど、それ以降は起伏に乏しくかなり単調。ただ全編を通して映像的な美しさは素晴らしい。特に中盤のクライマックスで登場するクオーツ*1の輝きは必見の出来栄え。

 ちなみに「太陽の光」「水が落ちる速度」「火が燃える速度」「砂や水銀が落ちる速度」「開花の時点」と時間を計る方法が描写されるけど、どれも機械式の時計が発明される以前の原始的な時計の形態で、現実世界でも再現可能みたいだ。ただ、脱進機構の説明はあまり正確ではないらしい。その辺の事情は字幕翻訳の専門用語監修についていた人がまとめたサイトがあるから、ぜひご一読を。

《印象的なシーン》「舵手が砂を食べたらしいな。さあ、上がってこい」

 

 

宝石の値打ち(2021年、日本、監督:真崎有智夫、9分)

 それなりに楽しい作品だけど、ちょっと無理筋なところがある。まあ、ショート作品ならこんなものかなあ。あと、正直おれにもこういうところがあるから気を付けようと思った。わりと本気で。

《印象的なシーン》「……薬指のサイズ、測らせてもらえない?」

*1:正確にはクオーツではないけど、現実世界で言うところのクオーツ