電羊倉庫

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フジテレビ『世にも奇妙な物語 SMAPの特別編』[ゾッとする、意味深長な、笑みが零れる、どこか安心する、呵々大笑な……オチのついた物語たち]

 世にも奇妙な物語シリーズはレギュラー放送していたころは割とちゃんと見ていたけど、季節に一回くらいになってからは観たり観なかったりというレベルのたいしたファンではないから偉そうなことはいえないけど、やっぱりこの『SMAPの特別編』が頭一つ抜けていると思う。五作品はどれも役者良し脚本良し演出良しと素晴らしい完成度で、なにより全作品オチがキチンと意味を持っているのはもっと高く評価されてもよいはず。全体的にどこか薄暗さがあるけど、シリアス一辺倒というわけではなくて「BLACK ROOM」「オトナ受験」とコメディ作品もある。もちろん、この二作品もブラックユーモア的で華やかに明るいわけではない。

 一作目の「エキストラ」は『トゥルーマン・ショー』を役者側から描いたような作品。当時の(そして現在の)日本社会の構造を題材にしているけれど、過剰な説教臭さはなくて不条理劇として楽しむことができる。「13番目の客」は共産主義社会(というより理想の管理社会)を題材にしているのかと思っていたけど、いま観ると、俗世との切り離し方や修行の考え方から出家から還俗を題材にしているように思える。「BLACK ROOM」は最高のコント作品。どこか恐ろし気な雰囲気で進みつつ実は……という構成で、翌年放映された「マンホール」とは真逆の作品ともいえる。「僕は旅をする」は家族の関係性や役者の使い方で若干混乱させられるけど、小難しいことを考えずに起きたことだけを理解できれば存外シンプルな作品と気づける。「オトナ受験」は、もしかしたらジェンダー的な方面で議論が起きるかもしれないけど、状況を考えればもっと気楽に捉えるべき作品のはず。そういう意味で、最高のオチがついた作品。久しぶりに腹の底から笑った。

 ベストは難しいけど「BLACK ROOM」かなあ。マジで完璧なコント作品と思う。コメディなのに二週目のほうが素直に笑えるという珍しい作品でもある。どこか不穏な雰囲気を出しつつ会話で笑いを誘い、終盤でその“不穏な雰囲気”自体完全な前振りとして機能する怒涛の展開で想像もしない方角でオチがつく。壮大(?)な割に描写範囲はミニマムと一工夫加えれば舞台演劇にもできるんじゃないかとさえ思えてしまう。

 ラストのストーリーテラーのセリフが、いまとなってはなんだか悲しい。

 過去作の一部はFODで配信されていて、本作はDVDになってそれなりに流通しているけど、世にも奇妙なシリーズは著作権の問題等でソフト化されていないものも多い。個人的には2002年の春の特別編秋の特別編が(思い出補正を含めて)大好きだから観返したいんだけどなあ。どうにかならないかなあ……。

 

 

作品リスト

エキストラ(脚本:中村樹基、演出:星護、出演:香取慎吾
13番目の客(脚本:深谷仁一/落合正幸、演出:落合正幸、出演:草彅剛)
BLACK ROOM(脚本/演出:石井克人、出演:木村拓哉
僕は旅をする(脚本/演出:佐藤嗣麻子、出演:稲垣吾郎
オトナ受験(脚本:大野敏哉、演出:河毛俊作 、出演:中居正広