電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た映画(2022年12月)

ファイト・クラブ(1999年、アメリカ、監督:デヴィッド・フィンチャー、139分)

 有名作なので視聴。とあるゲーム作品経由で仕掛けのことは知っていたけど物語の筋や落着がどうなるのかは知らなかった。基本的な設定(「ファイト・クラブ」という組織やタイラーというキャラクター)や演出(メタフィクション的な語り掛け等)はすごく好き。ただ、種明かしのカタルシスがやや物足りなかった。あと、これは製作陣も自覚的だったみたいだけど、「ファイト・クラブ」の理念はどう考えてもマチズモだよなあ……。

 自助グループは『ヘレディタリー』にも登場したけど、こういう集会っていまでも一般的なのかね。映像的な工夫は素晴らしくて、こういうタイプの小説を映像化するうえで最良の方法だったと思う。不眠症と犯罪というテーマは『タクシー・ドライバー』と共通するけど求めていたものは逆だった。『タクシー・ドライバー』はもっと大きな流れを期待していて、『ファイト・クラブ』はもっとミクロな視点の物語を期待していた。そういう意味ではちょっと拍子抜けというかしっくりこなかった。

 結局なんだかいい感じの雰囲気で終わったけど、なんかそれもちょっと納得いかないというか……。あと、Wikipediaに「人が一人しか死なないのに暴力的と判断され……」みたいな記述があるけど、いや死人は少ないけどこの映画の暴力性はそういう問題じゃないでしょ。

《印象的なシーン》カメラに向かってタイラーの映画館での仕事を説明する主人公。

 

 

一度も撃ってません(2020年、日本、監督:阪本順治、100分)

 タイトルに惹かれて視聴。最初は「うーん……まあ、雰囲気は好きだけどなあ」と視聴を若干後悔したけど、終わってみればけっこう面白かった。キャラクターには好感が持てるし、舞台や小道具の雰囲気も素晴らしい。ただ、ラストにもう一段オチというか、彼の本業についての成長があれば良かったと思う。心情描写が足りねえよと言われていたのを、今回の経験を糧に素晴らしい作品を作り上げて、それをあの新人編集に見せるところで終わり、とか。

 これはレビューサイトでも言われていたけど、タイトルでオチが分かってしまうのはちょっとどうかなあ。あとコメディとして純粋に笑えるシーンがあまり多くなかったのも残念。呵々と笑えるコメディ作品というよりは穏やかな気持ちで観る映画だった。

 全体の雰囲気や登場人物の年齢からしてメインターゲット層はもっと上の世代なのだろうけど、それにしては過度に説教っぽくはなくて気楽に観ることができる。

《印象的なシーン》居酒屋での市川、今西、福原の会話。

 

 

必殺!恐竜神父(2021年、アメリカ、監督:ブレンダン・スティアー、70分)

 細かい所に突っ込みを入れているうちになぜか頭がスッキリしてくる映画。

 年末に頭を使う映画を観たくなかったので視聴。それにしてもこいつらよく笑うなあ。血が止まらないって、いや止まってるだろ。挿入歌つきの濡れ場で関係ないやつらが混じってたけど、術で居場所を探知していたってこと? というかあいつらいつのまに竜の戦士の存在を認めてたんだ? 組織のトップは中国、構成員に韓国、忍者は日本と極東アジア欲張り三点セットはちょっと笑った。

 ただ序盤に低予算であることをメタっぽく自虐的に描写してるけど、うーん……ちょっと違うベクトルだけど『カメラを止めるな!』はそういう方向でも秀逸な作品だったんだなあと思う。……と思っていたけど、本作はそういう映画のパロディみたいな側面もあるらしい。勉強不足(?)でした。

 総じて爆笑はしないしアクションも高レベルではないけど、クスっと笑える作品ではあるから気楽に観るのが吉。

《印象的なシーン》通告:今日潜水課(裸?)取済

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デストイレ(2018年、アメリカ、監督:エヴァン・ジェイコブス、54分)

 年の瀬にトイレが詰まってキレそうになったので視聴。なーにがデストイレじゃ。こっちはトイレがデスじゃい。本当に低予算で映画を撮るとこうなるんだなあ。2018年でもこんなにも低品質な映画を作れるのはある意味感動的でもある。もちろん、高品質を望んでいたわけじゃないけど、これは流石になあ……。たかだか五十分の映画で眠くなったのは初めて。

 良かったところ。「トイレが俺を笑う」ってセリフはちょっとディックっぽくて好き。黒電話しか登場しなかったりとベトナム戦争帰還兵という設定は守っていて好感が持てる。こういう映画にしては字幕の翻訳がちゃんとしているのも良し。

 悪かったところ。キリがないから一部。そんなにネットリ歯磨きのシーンを映さないでくれよ……。ベトナム戦争のシーンは実際の記録映画みたいだけど、そんな真面目な映像をあんな使い方しないでくれよ……。便器の底にカメラ(スマホ)が入っているの映しちゃだめでしょ。

 こんなのでもプロの作品として流通できるのだから「どんな出来だろうが完成させることが何より重要」という学びを得ることもできる。ある意味勇気をもらえる作品。

《印象的なシーン》忘れがたいグラデーションで奏でられる呻くような笑い声

 

 

ドッペルゲンガー(2017年、日本、監督:曽根剛、3分)

 どこかCM的な雰囲気のある作品。明快なオチもないしメッセージ性も(作中で強調しているほど)高くはないけど、役者のビジュアルと味のあるナレーションだけでも十分楽しめた。五分にも満たない短さが良い方向に作用しているからだろう。あと監督が日本人というのには驚いた。

《印象的なシーン》「空の蒼い色」のどこか淀んだ空色。

 

 

Lost Senses(2013年、ドイツ、監督:Marcin Wasilewski、6分)

 アニメーションは良く出来ていて言葉が分からなくても視覚で楽しめる。ただ、哀しい。もっとコメディ的な展開を期待していただけにちょっと面食らった。作風的にもうちょっと救いを暗示させるようなラストでも良かったんじゃないかなあ。

《印象的なシーン》砕けた破片から眼を探す場面。