電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2022年12月)

リボーンの棋士(2024年、日本、監督:及川肇、128分)

 役者も演技巧者揃いでビジュアルの再現もかなりレベルが高い。ビジュアル面では特に土屋は完璧に近い役者を連れてきていた。エピソード自体はやや端折られていたけど川井役の役者の演技力はもっと絶賛されてしかるべき。対局シーンも原作の良さを損なわない緩急の効いたもので、将棋に詳しくなくても楽しめるはず。事実、おれも駒の動かし方くらいしかわからないけど十二分に楽しめた。

 映画は師弟対決となる伊達戦で終わってしまう*1けど、原作はもう少しだけ続きがある。原作は(断言はできないけど)たぶん打ち切りに近い終わり方をしてしまったけど、本作も好評を博しているみたいだし、ぜひ原作漫画も続きを連載してほしい。純粋な続編出なくても、例えば木城ゆきと銃夢 LastOrder』みたいにパラレルとして作ってくれも……と思っているファンはおれだけではないはず。

《印象的なシーン》伊達の鬼気迫る表情。

 

 

シンパスティック・ドリーム(1981年、イギリス、監督:マーシャム・マルタン、97分)

 やや変わり種の超能力バトルコメディ映画というべき作品。先進的なモンスターのデザインは素晴らしいものがあるし、風変わりなコンセプトをキッチリまとめていて、とても好感の持てる映画。もちろん、特にモンスターのデザインは、いま観るとやや古臭いけれど当時はかなり画期的だったはず。序盤と終盤で意味が変わる「夢」と「現実」の対比が素晴らしく、まさに「夢は神聖」だったわけだけど、希望の持てるラストにもキッチリコメディを絡めているのは流石の一言。

 夢の中の物語、ということでメタフィクションっぽい演出が入っているけど同じ役者が別の端役で登場するなどの遊び心もあるらしい。映画を観てから原作を読んだけど、思っていたよりアレンジが加えられていて驚いた。特に感動した「夢」と「現実」の対比はほとんど映画のオリジナルだったのはちょっと残念というか、なんとなくがっかりしてしまった。

《印象的なシーン》みどりの砂の中に沈んでいくタクシー。

 

 

すべての種類のイエスたち(2015年、日本、監督:好井奈採玲、104分)

 スーパー救世主大戦。

 最初に断っておくとティプトリー「すべての種類のイエス」とは全く関係がない。タイトルに使われている名称は作中では一度も使用されていないけど、まあ、どう考えても救世主のあの人なわけで……。キリスト教が比較的浸透していない日本ならではの作品だろうけど、いつかどこかで問題にならないか心配になる。いや、全般的に好意的に描かれているけど、そういう問題ではないだろうからなあ……。

 基本的にはコメディタッチで穏当に物語が進むけど、所々教義的に拙そうな描写あってヒヤヒヤさせられた。大きな流れはあるけどそれほど重要でもなく、騒動はそこそこにフワッと収束する。散漫といわれればその通りなんだけど、なんとなく含みがあるような気がする。

 文字通りたくさんの「イエス」が登場するのだけど、個人的には安彦良和『イエス』、中村光聖☆おにいさん』、光瀬龍/萩尾望都百億の昼と千億の夜』の「イエス」たちが出てきたのが嬉しかった。

《印象的なシーン》イエスたちの最期。

 

 

天下無敵宇宙大将軍コーケイ(1982年、日本、監督:川添芳雄、99分)

 80年代のロボットアニメの王道を征く作品で宇宙代将軍コーケイが皇帝菩薩ショーエンと死闘を繰り広げる痛快アクション娯楽ロボットアニメ。ちなみに、タイトルに無敵がついているけどちょくちょく負けているところも時代がでていて微笑ましい。あわや全滅か、というところまで何度追い込まれてもそのたびに息を吹き返して最後は至高の位に到達するというサクセスストーリーは小気味よくて、実際当時の人々にもウケが良かったらしい。

 単純明快で楽しいアニメだけどちょっとどうかなという描写も多い。ほとんどはギャグテイストになっているけど、例えば上司のコゥカンへの反乱を含む無数の反逆行為、一般市民を含む籠城者への兵糧攻め、等々やっていることは悪役でしかない。まあ、そもそもSF味で胡麻化されているけど世界観がかなり末世というのもあるんだろうけど。コーケイに限らず降参したやつらをことのついでくらいの感じで毒殺しているわけだし……。

 ラストは小さな惑星で皇帝の座に君臨し「はなはだしき物語の始まりである!」と宣言して終わるけど、コーケイのもとへ向かっていると思しき艦艇が一瞬映っているのが不穏。たぶん「刀が突き刺さった船の床」も何かを暗示しているんだろうなあ。

《印象的なシーン》ショーエンに威圧される勝利者コーケイ。

 

 

眼は語る(2019年、日本、監督:真崎有智夫、5分)

 直接的な描写は一切ないのに状況を理解させてくれる。ジャンルはホラーだけど怖い、というよりは気持ちが悪いタイプ。たぶん、食べてたんだと思うけど、だとすると最後のあれはどうやってたんだろう。

《印象的なシーン》「本当に食べてしまいたいほどきれいだ」

*1:原作終盤の土屋の成長を描き切れていない弊害が出ている。