電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2023年3月)

花と機械とゲシタルト(1987年、日本、監督:山岡治、99分)

 かなり尖った絵柄で、正直パッケージを見たときはあまり良い印象を受けなかったけど、想像よりずっと原作と合った雰囲気を出せていた。デフォルメが効いた絵柄にどこか暗めの色調、そして抑揚の効いた動画と完成度は高い。ストーリーはやや圧縮されているけど、目につくような妙な改変はない。ただ、鳥氏と椎茸嫌いの彼女が(ほぼ)オミットされていたのは不満。まあ、仕方ないといえば仕方ないんだけど……。

 髭さんのオブジェクトの書き込みは『AKIRA』を思い出させる凄まじさがある。というより玩具などが移りこんでいるあたり『童夢』へのリスペクトがあるのかもしれない。我が出没する際にエフェクト等の演出を入れず何気なく現れ何気なく消えていく感じにしていて、個人的には素晴らしいと思ったけど感想サイト等では「特別感がない」と評判が良くなかった。

 本作はアニメーションだけど、実写の計画があったことを小鳥遊書房版で知った。『なりすまし』というタイトルで監督との共同脚本までは出来上がっているらしいけど、映画を撮るまでには至っていないらしい。できればそちらも結実してほしいところだけど、やっぱり難しいのかな……。

《印象的なシーン》助手が汝から彼になる瞬間。

 

 

閨(2005年、イギリス、監督:トーマス・ブラクトン、112分)

 法律を題材にしたファンタジー作品。架空の世界を舞台に、何が罪であるか→刑罰の正当性の根拠→どのような理論で刑罰を制限するか、といった感じで問題発生から秩序を保つためのルールとしての刑法の法理が練り上げられていく描写には知的興奮を覚える人も多いはず。有識者によると間違いというか「○○を前提にするのならば、その結論では筋が通らない」的なシーンもそれなりにあるらしいけど、その辺はまあ娯楽映画ですからご愛嬌ということで。

 ただ、このタイトルはちょっと堅すぎるし分かりにくくて損していると思う。原題を直訳すると『法と倫理の争い』で、もうちょっと捻って『ルールとモラルの境目』とか……だとまだ堅いからもっと柔らかくして、そんな感じの方向で一般受けしやすいタイトルにしたほうが良かったんじゃないかな。「国家による寝室への介入のぜひ」が作品の焦点の一つだったからこのタイトルも間違いというわけではないのだけど、それでもなあ。説明過剰な邦題もちょっとどうかなと思うけど、こういうシンプルすぎる邦題もそれはそれでちょっと……なんてのは我儘が過ぎるか。

《印象的なシーン》不作為犯という概念を理論的に練り上げていくシーン。

 

 

ステンレス・スチール・リーチ/吸血機伝説!(1970年、アメリカ、監督:ハリー・デンマーク、78分)

 やや画面が暗すぎるところがあるけど、簡潔明瞭で楽しく最後にはちょっとほろりとくる良い娯楽映画だった。前半と後半がキッチリ分かれているタイプの映画で、前半は男と吸血鬼の追跡と逃走、後半は吸血機の潜入と二作のショートムービーを繋げて作ったかのような作品に仕上がっている。

 原作はショートショートに近い分量でハイライト部分にだけ焦点を当てた切れ味のある作品に仕上がっているけど、本作ではその前の段階として地球最後の男ケニントンと彼を狙う吸血鬼フリッツの物語を書き起こしている。それによって吸血機であるロボット(原作では名無しだったが映画ではジムと呼ばれている)との友情を引き立てている。爽快な後味に一抹の寂しさが混ざる良作の娯楽映画。

《印象的なシーン》フリッツ最期のジョーク。

 

 

もう一度あなたと生きたいから、一緒に死にましょう(2022年、日本、監督:海月、100分)

 すげえタイトル。

 内容はほとんどそのまま。冒頭でビックリするほど古臭い病棟のシーンがあるけど、その辺は原作の漫画からして典型的なメロドラマのパロディ的なところもあるらしい。まあ、全体的な内容は村田椰融『妻、小学生になる。』っぽいなあとかタイトルは椎名うみ青野くんに触りたいから死にたい』っぽいなあ……と思わなくはない。原作者はその辺の作品が世に出る前から構想を練っていたと言い張っているみたいだけど、まあ、ねえ……。

 ただ、主人公の性格や倫理観が比較的堅実なのは良かった。やや極端とはいえ年齢や美醜の問題や死ぬことへの恐怖が一般的な倫理から外れていなくて、それが彼女の母親が登場してからの怒涛の展開に繋がっている。というか「衝撃のラスト!」という謳い文句で本当に衝撃的だったのは初めてかもしれない。原作はまだ未完結で映画オリジナルの展開らしいけど、これを上回るラストを作るのはちょっと難しいんじゃないかな。

《印象的なシーン》暗い路地に佇む少女。

 

 

宇宙船生物号(1990年、日本、監督:真崎有智夫、5分)

 ささやかなショートアニメ。単純明快だけど、描写のぼやかし方が絶妙で時間の短さもあってオチには驚かされた。ただ、いまのご時世に観るとなんともいえない気分になる。

《印象的なシーン》新天地への発進。