電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た存在しない映画(2023年5月)

AWAY―アウェイ―(2021年、日本、監督:茂戸実、107分)

 とても良く纏まっていている誠実な映画。やや過剰な演出もあったけど、全体的に落ち着いていて役者も演技巧者揃い。ただ、パニックホラー的な側面がかなり強化されていているから、そういうのが苦手に人は注意が必要かもしれない。

 ほぼ原作通りだったけど、数人のキャラクターが削られている。また、原作では四月一日から三月二十一日に巻き戻る構成だったけど、映画では一直線の時系列になっている。不満に思っている人もいたけど、この辺はまあ仕方ないんじゃないかな。結果的にはわかりやすくなっているわけだし。

 原作である萩尾望都『AWAY』の原案は小松左京「お召し」なんだけど、原案よりも年齢層が上がっていて二世界間である程度コミュニケーションがとれるようになっている。「お召し」が上位存在による不条理をテーマにしているのに対し、『AWAY』は震災をモチーフにした作品と言えわけだけど、映画ではその違いを上手く咀嚼している。

 本編への感想とはちょっとズレるけど一つだけ。この映画を観て「オチが「お召し」と違う! 監督が勝手に自分の政治的な意図を盛り込んだんだ」みたいなことを言っている人がいたけど、オチは原作と同じです。そもそも原作の漫画がどうして「お召し」を原作じゃなくて原案にしたのか……文句付ける前に少しは調べてくれよ。というかこの映画観るのに「お召し」は読んでいるのに『AWAY』は読んでないのか。

《印象的なシーン》白い少年が「世界の秘密」を語る場面。

 

 

閣(2009年、中国、監督:郭進宣、118分)

 上古代中国っぽい異世界*1を舞台に剣と魔法の大冒険が繰り広げられる、というかなり変わり種の映画。上古代中国の世界観はかなり細かく作りこんでいる*2のにファンタジーの方はかなりおざなりというか……「ファイア」と唱えると火が熾り、「サンダー」で雷が落ちるのはいくらなんでも古典的すぎる。最初は翻訳の問題かと思ったけどそういうわけでもないみたいだし……。

 ただ、それ以外の面では特に文句をつけるところはない。感想サイト等でも絶賛されていたけど、中盤に広野を三人で彷徨うシーンはそれぞれの信仰(土地の神である「毫土」月神「姮娥」風を司る神「鳳凰」など)の特色が出ていて素晴らしかった。個人的には沚の領主である馘に遺跡の探索を願い出るシーンが好きで、殷王朝中興の祖である武丁が密かに物語に絡んでいたことが発覚するわけだけど、伏線や前振りが巧妙に張り巡らされていて、一度観終わってからもう一度ここに戻ってくるとその仕掛けに気づいてさらに感動する、という正のループに陥ること間違いなし。

 ちなみにモチーフが殷王朝の中期なのにどう考えても紂王(帝辛)をモチーフにした人物も出てくるけど、そのくらいはご愛嬌ということで。まあ、紂王の描写に関して言えばちょっと文献資料に寄りすぎというか、発掘史料によると紂王はそこまで酷い人物じゃなかったらしいけど、その辺は製作年代的に仕方ないかなあ。

《印象的なシーン》鉞を振り上げて呪文を唱える場面。

 

 

異星人対策完全マニュアル(2019年、アメリカ、監督:H・W・リチャード、97分)

 楽しみながら科学を学べる、が売り文句の映画。随所に科学的な雑学や実務的な知識を織り交ぜつつストーリーも楽しめる。類似の映画と一味違うのは、ある種の教育作品という枠組みでありながら娯楽から逃げていないこと。起承転結がキッチリしていることは当然としてユーモアもあり時にはキツイジョークを交えながらキャラクターも魅力的で思わず息をのむようなシーンもある。娯楽と学習が高いレベルで共存している、本当の意味で「夏休みに親子で観たい映画」だと思う。

 個人的には周期表の意味がわかったことが一番の収穫だった。いや、もちろん学生の頃に教わりはしたけど、お恥ずかしながらあの頃は何を言っているのかサッパリわからなくて……。あと、要所要所でナレーションによる解説が挿入されるけど、堅苦しくせず尚且つ娯楽に偏りすぎないのは流石の一言。

 欠点らしい欠点が見当たらない良作の映画だけど、まあ、唯一ポーキング博士というネーミングセンスだけはちょっと流石に欠点かなあ……。

《印象的なシーン》ポーキング博士の講演。

 

 

ミュージック(2022年、日本、監督:三崎政助、125分)

 ミュージカル映画というよりミュージックビデオ映画というべき作品。一本のストーリーの中で突然音楽が流れだすところは共通しているけど、ミュージカルと違いミュージックビデオパートは心情描写やストーリーの進行のようなことは行われず、純粋に映像的な描写を楽しむ時間となっている。

 かなりの曲数がそれも全曲フルコーラスで使用されている関係上、ストーリーはやや薄味。ただ、最低限の起承転結はあるし変な肉付けがされていないだけ観やすくていいのかもしれない。個人的にはポルノグラフィティ「星球」が流れるダンスフロアのシーンがお気に入り。あとはジョカフギ「同根の蛇」や米津玄師「ひまわり」ハルカトミユキ「二十歳の僕らは澄みきっていた」ミセス・ペンザビー「ミセス・ペンザビーは例外!」LUNKHEAD「id」筒松卓正「スラプスティック・コメディ」は特に使われ方が上手かったと思う。

 酒を片手に友と談笑しながら眺めるのには最適の映画……かもしれない。

《印象的なシーン》カメラを睨め上げる麻衣子。

 

 

走る(2004年、日本、監督:真崎有智夫、10分)

 うーん……まあ、うん。映像はそこそこちゃんとしている*3けど、ストーリーはなんというか……あんまりかなあ。ただ、謎の緊迫感はある。

《印象的なシーン》すれ違った男の表情。

*1:たぶんモチーフは殷王朝中期。

*2:人口や都市の技術力はかなりそれっぽい。

*3:安いカメラで撮った割には、という但し書きはつくけど。