テンジュの国(2020年、日本、監督:関斯波、100分)
18世紀のチベットを舞台とした日常系のアニメ。美麗な衣装、雄大な草原の風景、多種多様な動物たち、そして異文化習俗がハイレベルな作画で映像化されている。二人の出会いから結婚の挙式までというメインの筋に、当時のチベットにおける薬草学や被服等に関する日々の営みとささやかな事件が挿入されて一つの物語を構成している。やや牧歌的でのんびりした雰囲気で進んでいき、もちろんそれが心地よいんだけど、どうしても起伏に富むとはいえないから、それが各所での低評価につながっているのだと思う。映像も演技も音響も過不足なく完成度は高いと思うけど、そこを重視しないならそういう評価も仕方ないかもしれない。
個人的にはやっぱり鳥葬が衝撃的だった。描写されている時間はほんの少しだったけど、かなり克明に描かれていたし、やっぱりそれまでの展開や暖かな雰囲気との落差が大きいだけにショッキングだった。あと一妻多夫制は本当に実在するのか、という驚きがあった。遊牧系の民族はレヴィレート婚を採用しがちな印象があるんだけど、その辺はどうなんだろう。
映画を見てから原作があることを知って、それから読んだんだけどかなりエピソードを入れ替えていること、ペマ(妹)のエピソードがかなり削られていることを知った。入れ替えはともかくペマが友人と喧嘩するエピソードは入れても良かったと思うんだけどなあ。あと、鳥葬は原作ではそれほど大きく取り上げられていなかったのには驚いた。アニメにするにあたってあそこをけっこう大きくピックアップするのか……。
《印象的なシーン》初めて手をつなぐ二人。
おれはミサイル(2010年、日本、監督:岩澤裕人、97分)
非人間を題材にしたSF作品は決して珍しいわけではないけれど、本作のように機械、それもほとんど使い捨てられることを宿命づけられた存在と組み合わせたのは慧眼なのだと思う。
前半の疑似空間での非人間的知性同士の会話劇では生命や生きがいというものへの認識の違い(もちろん、視聴者である人間との違いを含めた)というある種の哲学を味わうことができ、後半の実戦では、ドッグファイトやミサイルによる奇襲、そして最後の一発を放つための工夫などミリタリアクションとして純粋な娯楽を味わえる。一粒で二度おいしい。
終わりが見えない戦争とは地獄そのものである、みたいな意味の格言をどこかで読んだ記憶があるけれど、本作の混迷さはそれを体現している。また、どこか戦場としての密度が薄く、どうしようもないままある種の老衰で死んでいくことすら予感させる展開はうすら寒い虚無感を覚えさせられる。この孤独感と閉塞感はどこか『地獄の黙示録』を観たときの感覚に近い。
《印象的なシーン》発射される01。
見つめている(2000年、日本、監督:今井八朔、105分)
クラックされたパソコンの画面をただ茫然と見つめる男の回りで事態を解決すべく必死に奔走する人々、という映画を漫然と見つめる男を怒鳴りつける女性にくどくどと説教を続ける少年をひたすらこん棒で殴りつける幼子、というフェイクドキュメンタリーに夢中になっている異形の生物たちの宇宙船(?)を包囲殲滅戦と着々と進める液体状の生命体たちの鋭い針のような形の飛行隊、という漫画をひたすら描き続ける青年の周囲で暴力暴言非行の限りを尽くす彼の家族たち、という嫌がらせの映像が流れ続けるパソコンの画面をただ茫然と見つめる男。
クドイほどの入れ込構造で作中作の作中作の作中作の……とぐるぐると回り続ける。正直一周しかしていないし、もう一度見る気にはとてもなれないからちゃんと確かめてはいないけれど、大体こういう流れで正しいはず。
これは観るということの本質を突いた映画だ、という趣旨の評論を各所で見かけるけれど、正直そんな高度なことを描いているとは思えない。製作陣のインタビューを読んだわけじゃないから断言はできないけれど、単なる思い付きを思い付きのまま形にした映画というのが正しいんじゃないかな。かなり低予算っぽいし。
《印象的なシーン》「離れない。離れないぞ」
中古車クウキョナ販売店アイアンメイデン(2007年、アメリカ、監督:アンジェラ・パグリッシ、100分)
とても静かな雰囲気の映画で場末に集約された人間関係を中心に、ややファンタジーな設定を交えつつ、地に足の着いた、ともすれば地味といわざをえない緩やかな筋で物語が展開していく。ファンタジーと言えばファンタジーだけどそれほどおおそれてはいないし、大枠でいえばマジックリアリズムということになるのかな。
車に限らず、中古品を買い取る業者が一度は「この品(たいていは思い出深い品)がこんな安値のはずがない。インチキだ」と因縁をつけられるものらしい。それが店主であるジョゼフの負担となりそれから逃れるための彼の行動が物語の核となるのだけど、この詐欺師というモチーフは作中各所(不動産屋のアルフレッド、金融業者のミレー、政治家のブラウンなど)で顔をのぞかせ、不自然なほどジッと見つめる視線によってその役割が強調されている。気持ちの悪さと胸のざわめきが内臓をぐるぐると掻きまわす。
緩やかに、穏やかに、真綿で首を締めるように虐げられた人々が集う空間としての中古車販売店としてのアイアンメイデンは、たしかに彼らに居場所を提供してはいるものの行動基準が常に不安定で、彼らがなまじ共感能力に優れていることが事態を悪化させていく。行き詰った人間関係の破綻が、これ以上ないほど美しい澄みきった青空のもとで発生してしまうのがあまりにも哀しい。たぶん、もう一回見ることはないけど一見の価値はある映画だった。
《印象的なシーン》エンジンの修理をするケイシー。
閾値(2011年、日本、監督:真崎有智夫、11分)
主人公の屈折した感情がほとんどそのまま独り言の体をとって垂れ流されていて、そういう意味では映画的な楽しみは少なくドラマCDのような味もする。ただ、それによってラストの部屋の物と下階の物の無言のうちの対比的な羅列の意味するものが強調されている。
《印象的なシーン》「殺してやる」




