電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2025年9月)

宇宙の果てには売店がある(2025年、日本、監督:山本淳、121分)

 ショートムービー集……というより映像の断片集といった感じの映画。極めて短い映像の詰め合わせで、次々と休む間もなく生活感のあるSF世界を提供してくれるというわんこそば的シネマエクスペリエンス。

 原作の「宇宙に散らばる161の断片」をかなり忠実に映像化している。一頁で完結する物語……というか不思議が存在する世界の描写というべきか……をおおよそ一分、ものによっては三十秒程度で描いている。

 原作の良さを十二分に活かした映画だったと思う。日常にある少し不思議、もしくは惹句にもなっている「SFのSは生活のS」が体現された作品だった。本当にその一瞬だけを切り抜いたものから、前後の展開を予感させるものまで想像よりもバリエーションが多彩。その反面、一貫したストーリーが存在しないことが眠気を誘うという人もいるらしく、そういう意味では人を選ぶ映画かもしれない。

《印象的なシーン》保温しすぎたご飯のような色の空。

 

 

扇のかなめ(2030年、日本、監督:高藤武、120分)

 名前の通り「扇のかなめ」を目指したい、という少女海場かなめの物語。父親に連れて参加した(させられた)草ソフトボールチームから始まりクラブチームでの四苦八苦から強豪校での苦闘の日々を丹念に描く。原作は小説らしくて、高校を卒業するまでが学生篇で、そこからは大学篇とプロ篇と続いていくらしいけど、映画は学生篇のみに絞って作っているらしい。時間の経過によって主人公含めてメインキャストの役者が入れ替わるのはけっこう挑戦的な試みだったと思うけど、個人的には成功していたと思う。全体的に演技は上手いし、役柄に対してリアルに近い年齢帯の役者を起用しているから違和感も少ない。

 基本的には正道のスポコン映画だけど、ところどころ過去事象の再体験によってキャラクターたちの過去や未来までも案に描写するという手法によってやや入り組んだ人間ドラマを構築している。過去の記憶を思い出せる中心人物がかなめであることも、彼女がチームの扇のかなめであることを示唆している。

 ちなみに感想を漁ってみると「大学篇の終わりからが本番なのに」とか「プロ篇こそがこの作品の本質」みたいな意見が目立っていた。おれは原作を読んでいないからなんともいえないけど、映画単体で見ても過不足ない作りだったし綺麗にまとまっていたから、これでよかったと思う。好評なら続編が作られるかもしれないし、そっちに期待すべきなんじゃないかな。

《印象的なシーン》刺すような牽制球。

 

 

骨の音(1992年、日本、監督:山石明、78分)

 どういう内容だったのか、と問われると答えに困ってしまう。なんというか……含みがあるような気がするけど、そういうことじゃなくてもっとストレートに受け取って良いような気もする。不思議な作品。

 終始落ち着いた雰囲気で進行していく。あまり派手なストーリーではないけど、アクション……というか生々しい暴力描写はあるし、全体的な役者のレベルが高いこともあって眠気とは無縁の作品に仕上がっている。

 終盤のカオリの台詞は忘れがたいものがあるけど、最初は正直どういう意味なのかよくわからなかった。なんども映画を見なおして考えてみたんだけど……あれってやっぱりフラッシュバックに近いものだったのかな。中村の自殺的な行動と電車の十によって彼が自殺した元カレと重なって見えて、だからああ叫んで、「おまえはあいつじゃない」と伝えた(宣言した?)……ってことかなと思っているけど、どうだろう。

 生死と涙、死んだ子犬、眼、骨と子犬が寄り添う暖かな絵。誰かと寄り添い生きた獣。

《印象的なシーン》砕けるな!!

 

 

交通局から撞球場へ(2008年、アメリカ、監督:アンジェラ・パグリッシ、100分)

 しがない平凡な公務員がビリヤード場では一転して華やかな名物プレイヤーに変貌するという設定はやっぱり魅力的。屈服して鬱屈とするしかない日常生活で味わう臓器が垂直に落下していくような感覚を如実に描いたうえで、華やかで楽しく競い合える空間を描写することによる落差は、ある意味でおれたちが日々の暮らしの中で体験していることでもある。たまにイベントに参加すると、別に自分が主役というわけではないのにそう思えてしまう……という人も多いだろう。

 基本的な物語の筋はわりと単純。田舎町のビリヤード場でスタープレイヤーだった主人公が大規模な大会に出場することで自分が井の中の蛙であることを思い知りつつも、それでもビリヤードを嫌いにはなれずに、それまでの信望を失いながらも地道に努力して再び大会にチャレンジするというもの。高いところから突き落とされて、そこから徐々に這い上がり最初よりも高い位置に到達するという物語の典型だけど、丁寧に料理してあるからちゃんと美味い。

 どこか物悲しさもありつつ、決してバッドエンドではないラストシーンは必見の価値がある。実はちょっと別の作業をしながら見ていたんだけど、このあたりのシーンがあまりに良かったから手が止まって魅入ってしまったくらいだった。

《印象的なシーン》スッと立ち上がるジョセフ。

 

 

氷の礫が融けゆくように(2066年、日本、監督:真崎有智夫、12分)

 狂い。硝子の世界。画面が綺麗。一人称視点。SFのようなファンタジーのような。妙に美味そう。融ける、砕ける、消える。嘔吐。喪失。彷徨。

《印象的なシーン》激しく揺れる画面。