電羊倉庫

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最近見た映画(2021年10月)

ミッドサマー(2019年、カナダ、監督:アリ・アスター、147分)

 凄かった。ジャンルはホラーらしいけど怖いというか気持ちが悪いというほうがしっくりくる。スゲエ気持ち悪い。ネットで見かけた「山田と上田がいないTRICK」というのがこれ以上ないほど適切な評論だと思う。「TRICK」からギャグを抜いて作るとこうなるのか……。ゴアシーンもなくはないけど、どちらかというと薬物陶酔によるサイケデリックなシーンのほうが印象的。あとは絶妙に不安をあおる音楽、イラスト、演出、芝居のすべてが心を抉りにくる。自分はタイプ的に深く刺さるほうではなかったかもしれないけど、それでも傑作と思えるあたり、こういうタイプの映画にしてはかなり広く受け入れられていて、それが各方面から絶賛される理由なんだろう。個人的な感覚になるけど、ホラーというよりはサスペンスという箱に入れたほうがしっくりくる。

《印象的なシーン》ダニーがメイクイーンとして食事する際の蠢く植物。

ミッドサマー(字幕版)

ミッドサマー(字幕版)

  • フローレンス・ピュー
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ジェーンドゥーの解剖(2016年、アメリカ、監督:アンドレ・ウーヴレダル、86分)

 とてもシンプルな映画でほとんどのシーンがティルディン邸で完結する。遺体(?)解剖もゴアといえばゴアだけどそれほど派手でもない。けど不穏な空気をずっと強調しているからか、そんな地味なシーンが続いても緊張感が切れない。面白かったけど、もう少し死せる孔明生ける仲達を走らす的な、そういう上手さを期待していたから、身勝手だけどちょっと残念だった。ホラー的なところは「ミッドサマー」のときもちょっと思ったけど、キリスト教的な意味合いを含んだ演出はいまいちピンとこない。こういうところは最近のホラー漫画の主流の都市伝説的なやつとか仏教や神道をちょっと絡めたやつのほうが怖いあたり、やっぱり現実感というか日常感のようなものが重要なのかなあ。あと余談だけど猫がひどい目にあうから苦手な人は見ないほうがいいと思う。

《印象的なシーン》すべてが終わったあとの晴れ空。

 

 

俺たちホームズ&ワトソン(2018年、アメリカ、監督:イータン・コーエン、89分)

 一時間半くらいの単純明快なコメディが観たいなと思ったんだけど、うーん……あんまり、というか正直面白くはなかった。コメディ部分は全体的に笑えなくて、特に冒頭のお着替えドタバタはイライラするだけだったし、極めつけは後半のミュージカルシーンで、イライラを通り越して本気で不快だった。あとは「ホームズは賢明で絶対に間違えない」という前提の前半の動きも不愉快だった。終盤でそれがひっくり返されるわけだど、だったらもうちょっとホームズの自省とかそういうものを入れたほうが良かったと思う。ホームズものはBBCの『SHERLOCK』くらいしか観てないから断言はできないけど、ホームズだけじゃなくてワトソンも変人なのは真新しかったんじゃないかな。まあそれも不快感の一要素だったわけだけど。全体の筋は嫌いじゃないし、死体安置所やディオゲネス・クラブでのやりとりなんかは割と楽しく観れた。ラスト付近やホームズっぽい超人らしさなんかはそれなりによくできてたと思う。これでもう少しだけギャグが笑えたらなあ……。

《印象的なシーン》タイタニック号で爆弾を処理するためにシミュレートするシーン。

 

 

片腕マシンガール(2008、アメリカ、監督:井口昇、96分)

 正統派B級映画。馬鹿馬鹿しいタイトルに恥じない奇抜で非現実的な設定なのに、登場人物はみんな大真面目で役者も真剣に演じている。だから椅子に正座する忍者の末裔のヤクザが出てこようと、切断面からどう考えてもスプリンクラーが顔をのぞかせていても、なぜか朝も早くから手間のかかる揚げ物を作っていようと、右腕を素揚げのされても「痛んでる」で済ませて問題なく動かし続けていようと、白けることなく100分近くを楽しめる。キャラクターたちが真剣だからごく自然に笑うこともできる。お手本みたいなB級映画だと思う。ちなみに制作国はアメリカだからジャンル的には洋画だけど制作陣は全て日本人で、事実上の邦画。それと設定にわりに(?)アクションシーンはけっこうレベルが高かった。

《印象的なシーン》杉原家で学生忍者三人衆と戦う場面。