電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

案内所

ポルノグラフィティ

《〇〇選》

「風景描写」10選

「心情描写」10選

「離別の歌詞」10選

「比喩表現」10選

「嘘と本当」10選

「悲観と陰鬱」10選

《もっと評価されるべき》

「俺たちのセレブレーション」

「Love,too Death,too」

「青春花道」

《歌詞解釈》

「ハネウマライダー」というポルノグラフィティを唄った曲

「メビウス(仮)」の可能性〔ぬいぐるみ、ネオメロドラマティック、老いた人〕

「ネオメロドラマティック」という寄り添い方

《ライブ感想》

「続・ポルノグラフィティ」感想〔おったまげて我が目を疑い震えた〕

「暁」感想[何度も終わりが来て時間感覚がバグった。そして温故知新な新曲]

《アルバム感想》

ポルノグラフィティ

10thアルバム『RHINOCEROS』感想

11thアルバム『BUTTERFLY EFFECT』感想

12thアルバム『暁』感想

岡野昭仁

1stアルバム『Walkin' with a song』感想

《そのほか》

ポルノグラフィティのちょっとしたデータ集

ポルノグラフィティの色彩

 

 

音楽系

タイトル縛りのプレイリスト

死ぬまでにお琴を習いたい

King Gnu、Official髭男dism、ハルカトミユキ[ブロガー経由で聴き始めたアーティスト]

 

 

映像作品

《最近見た存在する映画》

―2021年―

(ベスト5:「ミッドサマー 」「閃光のハサウェイ」「一分間タイムマシン」「バスターの壊れた心」「残酷で異常」)

09月(残酷で異常/狂った一頁/幻夢戦記レダ/ゴジラ/サイコ/ゴーストバスターズ)

10月(ミッドサマー/ジェーンドゥーの解剖/俺たちホームズ&ワトソン/片腕マシンガール)

11月(閃光のハサウェイ/SF巨大生物の島/カフカ「変身」/ヘンゼル&グレーテル/一分間タイムマシン/とっくんでカンペキ)

12月(ソウ/バスターの壊れた心/昆虫怪獣の襲来/項羽と劉邦 鴻門の会/あたおかあさん/ヤツアシ)

―2022年―

(ベスト5:「スキャナーズ」「ヘレディタリー」「孤独なふりした世界で」「メメント」「ドロステのはてで僕ら」)

1月(コマンドー/カルト/道化死てるぜ!/銀河ヒッチハイクガイド)

2月(マーズ・アタック!/ヘレディタリー/透明人間/ディアボロス/良いビジネス)

4月(プラットフォーム/ビンゴ/名探偵コナン 時計じかけの摩天楼/スマイル/Run Baby Run)

5月(曲がれ!スプーン/トップガン/ゾンビーバー/地下に潜む怪人)

6月(ハードコア/イミテーション・ゲーム/プロジェクトA/玩具修理者/Shutdown)

7月(ウィッカーマン/スキャナーズ/ゲーム/デッドコースター/縛られた)

8月(夏への扉/ポーカーナイト/蜂女の恐怖/デッド寿司/健太郎さん/高飛車女とモテない君)

9月(ガンズ・アキンボ/孤独なふりした世界で/ショウタイム/ストーカー/ジャックは一体何をした?/ANIMA)

10月(メメント/コラテラル・ダメージ/パニック・フライト/ミッション:インポッシブル/靴屋と彼女のセオリー/Two Balloons)

11月(キャメラを止めるな!/トレマーズ/ドロステのはてで僕ら/ルール/DAICON FILM版 帰ってきたウルトラマン/16.03)

12月(ファイト・クラブ/一度も撃ってません/必殺!恐竜神父/デストイレ/ドッペルゲンガー/Lost Senses)

―2023年―

1月(ユージュアル・サスペクツ/凍った湖/タッカーとデイル/ヒルコ/チャンスの神様/それからのこと、これからのこと)

2月(賢者の石/秘密の部屋/アズカバンの囚人/炎のゴブレット/不死鳥の騎士団/謎のプリンス/死の秘宝 PART1/死の秘宝 PART2)

3月(トップガン マーヴェリック/ゲット・アウト/スリー・フロム・ヘル/ファウスト/お雛様のヘアカット/おるすばんの味。)

4月(ノイズ/ミラクル・ニール!/ハード・コア/悪夢のエレベーター/I Just Wanted to See You/滲み)

5月(真・三國無双/かっこいいスキヤキ/アフリカン・カンフー・ナチス/とっととくたばれ/Letter to you/逢魔時の人々)

6月(名探偵ピカチュウ/隣のヒットマン/ブラック・レイン/マンディブル/ひとまずすすめ/ひとまずすすんだ、そのあとに)

7月(八つ墓村/プラネット・オブ・ロボット/Mr.&Mrs. スミス/パーム・スプリングス/ラ・ジュテ/モーレツ怪獣大決戦)

8月(騙し絵の牙/死体語り/ゲームの時間/N号棟/二人でお茶を/そこにいた男)

9月(地獄の黙示録/ゴーン・ガール/バブルへGO!! /僕らのミライへ逆回転/真夜中モラトリアム/ワールドオブザ体育館)

10月(明日への地図を探して/ロブスター/ビバリウム /PicNic/毒/白鳥)

11月(MONDAYS/ウィッチサマー/セミマゲドン /もしも昨日が選べたら/奇才ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語/ネズミ捕りの男)

《最近見た存在しない映画》

―2021年―

(ベスト5:「ビーイング」「劇場版ヒストリエ 完結篇」「脱走と追跡のサンバ」「劉邦項羽」「アゲハ蝶とそのほかの物語」)

10月(ビーイング/ボッコちゃん/劇場版ヒストリエ 完結篇/文字を喰う人)

11月(脱走と追跡のサンバ/プリティ・マギー・マネーアイズ/劉邦と項羽/ニッポンの農業の夜明けの始まり/暗がり)

12月(アゲハ蝶とそのほかの物語/ショート・ストーリーズ/エコに行こう!/三国志な一日/生涯)

―2022年―

(ベスト5:「ゴースト&レディ」「スペースキャットvsアースキャット」「ご機嫌直しまであと何単位?」「蟲の恋」「組織は文字でいっぱい!」)

1月(乙嫁語り/色彩、豊かな日常/夢野久作の「冗談に殺す」/時は貨幣なり)

2月(ゴーレム ハンドレッド・パワー/珈琲ハウスへようこそ/白猫姫/歩道橋の上から見た光景)

4月(美亜へ贈る真珠/フラッシュ・ムービー/ちょっとだけUターン/旅に出よう)

5月(李陵/従者の物語/アイアン・ドリーム/スケッチ)

6月(命のネジを巻く旅人サバロ/熱いぜ辺ちゃん!/天使のわけまえ/瞳の奥をのぞかせて/花束と空模様の理由)

7月(そばかすのフィギュア/クラッピー・オータム/流浪の民/夢みる頃を過ぎても/ご機嫌直しまであと何単位?)

8月(ゴースト&レディ/死ね、マエストロ、死ね/嘔吐した宇宙飛行士/蟲の恋/ネコと時の流れ)

9月(コンフェッション/シリウス・ゼロ/悪霊少女/組織は文字でいっぱい!/なき声)

10月(スペースキャットvsアースキャット/戦いの華/スーパーウルトラメガバトルドッチボールマッチ/ウオッチ・メイカー/宝石の値打ち)

11月(ネオ・デビルマン/永遠の森/頼むからゼニを使ってくれ!/猫語の教科書/魔法と科学)

12月(リボーンの棋士/シンパスティック・ドリーム/すべての種類のイエスたち/天下無敵宇宙大将軍コーケイ/眼は語る)

―2023年―

1月(空色/空間/空論/空虚/そらのはてへ)

2月(天使のハンマー/ファスト・ミュージック/もう勘弁してくれ!/スター・マウス/贈り物の意味)

3月(花と機械とゲシタルト/閨/ステンレス・スチール・リーチ/もう一度あなたと生きたいから、一緒に死にましょう/宇宙船生物号)

4月(裏バイト:逃亡禁止 劇場版/プロット・プロップ・プロンプト/鬨/鄭七世/未明の友)

5月(AWAY/閣/異星人対策完全マニュアル/ミュージック/走る)

6月(ソーシャル・エンジニアリング/スピニング/闢/落下/ガソリンスタンドでの一幕)

7月(早乙女さんにはもうデスゲームしかない/テアトルからの逃避/時が乱れ過ぎている!/閲/白い糸)

8月(午後の大進撃/俄雨/タイムマシンのハウツー/閭/一夜限りの友情)

9月(世界の果てまで何マイル?/閃/この夏、あなたのために華を/文字化けして読みにくいけど頑張って/雪景色)

10月(7.62ミリ/首/闌/グッド・デイ/世界は喜びで満ちている!)

《映画》

『トゥルーマン・ショー』[トゥルーマンと恋人と毒親とおれたち]

《ドラマ》

『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』[色とりどりの作品を押さえた良質なドラマ作品]

『世にも奇妙な物語 SMAPの特別編』[ゾッとする、意味深長な、笑みが零れる、どこか安心する、呵々大笑な……オチのついた物語たち]

『この動画は再生できません』[モキュメンタリー的ヒト怖と緩い空気のコントの融合]

《その他》

観たいのに入手困難な映画やドラマ

 

 

書籍の感想/雑記

《国内SF作家》

山野浩一

『山野浩一傑作選Ⅰ/Ⅱ』[不確かさ、漠然とした不安、そしてやっぱり文章がかっこいい]

『いかに終わるか: 山野浩一発掘小説集』[単なる落ち葉拾いに終わらない作品群。傑作につながるモチーフ、不条理そのもの等]

『花と機械とゲシタルト』[権威に対する多様な見方の物語。10年後にまた感想書きたい]

梶尾真治

『美亜へ贈る真珠[新版]』[ほろ苦い恋物語にSFのエッセンス]

星新一

―単作―

「白い服の男」[普遍性という最高の美点]

ショートショート集―

『ボッコちゃん』〔ファンタジー/SF強めの初期傑作選〕

『ようこそ地球さん』〔ズレの物語/よそ者たち〕

《海外SF作家》

フィリップ・K・ディック

―長編―

『宇宙の眼』[ぼくがかんがえたさいこうのせかい=他人には地獄]

『最後から二番目の真実』〔情報の虚実を扱った薄暗いけど明るいラストの作品〕

―短編集―

『アジャストメント』[生涯のテーマからさらっと笑えるコメディまで]

『トータル・リコール』[娯楽色が強くすっきり楽しく読める短編集]

『変数人間』[ショートショート、超能力、時代]

『変種第二号』[戦争と人造物+サスペンス=不安]

『小さな黒い箱』[変色した社会問題と神について]

『人間以前』[ファンタジーと子供たち。そして最良と最悪の発露]

―そのほか―

SFといえばフィリップ・K・ディック

ロジャー・ゼラズニイ

『地獄のハイウェイ』[単純明快な娯楽作品。やっぱりロードノベルが好き]

〈アルフレッド・べスター〉

『破壊された男』[めくるめく展開とハイテンポな文章がたまらない]

『イヴのいないアダム』[キレる名作短編とオムニバス式中編]

ハーラン・エリスン

『死の鳥』[エリスンのベスト短編集]

『世界の中心で愛を叫んだけもの』[暴力の嵐、愛情の渦、薬物の雷]

〈そのほか〉

『夏への扉』[ちょっとアレなところはあるけど楽しい小説]

『ストーカー』[古典的な冒険と現代的な発想の飛躍]

 

《アンソロジー

『世界ユーモアSF傑作選』〔会話よりもシチュエーションで笑いをとるタイプが多い〕

『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』[想像よりずっとバラエティパック]

『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』[短くキレのあるアンソロジー]

『博奕のアンソロジー』[多種多様な競技。審判としての博奕]

《文芸》

O・ヘンリ『O・ヘンリ短編集(一~三)』〔世界で愛される名作。いろいろな短編があって素晴らしいけどちょっと訳語が古めかしい〕

ロアルド・ダール『キス・キス』[意地悪いよなあ……]

ロアルド・ダール『あなたに似た人』〔暗がりの奇妙な味〕

J.L.ボルヘス『伝奇集』[短編小説/短編集の良さを再確認できた]

湊かなえ『往復書簡』[徐々に明かされる情報とオチの謎解きが気持ち良い短編集]

湊かなえ『往復書簡』[詳細感想版]

夢野久作『少女地獄』[ぷうんと匂い立つ血の香りと破滅への想い]

《ノンフィクション》

〈競馬〉

『名馬を読む』[中国史書で言えば本紀。生涯戦績、繁殖成績、社会現象、特異な事績など]

『名馬を読む2』[世家、列伝など。周縁事情、馬の関係性、時代、個性]

『名馬を読む3』[バラエティ豊かな名馬たちと最新の顕彰馬キタサンブラック]

〈歴史〉

『古代中国の日常生活』[小説仕立てで追体験する日々の営み]

『中国傑物伝』〔文明の擁護者、過小評価された男、バランサー、晩節を全うした者たち〕

《雑記》

夢野久作はサイエンス・フィクションの夢を見るか?

漢の歴史と正当性の感覚

印象的な小説のタイトル650選

 

 

漫画の感想/雑記

岩明均の描く女性と「自分ではない者を良く描く」ということ

キミは熱血ギャグ漫画家、島本和彦を知っているか?

 

 

嘘八百を書き連ねた創作文章

思い出:フリーにはたらく

思い出:手帳

思い出:「急に寒いやん」

生きていくためにとっても大切な薬物の話

さいきんよくみる変なゆめ

 

 

そのほか雑記

星新一はアル中を救う

学習:意味が分かるようになった瞬間

好きの言語化と嫌いの理由

読書感想文と方程式

はじめての遊戯王

完全初心者がマスターデュエルでプラチナtier1に上がった感想

野球のニュース見て漫画読み返してなんか落ち込んだ話

防犯の論理/倫理を知りたい

諡号と追号と名前の不思議

どうでもいいから読書が好き、だけど学ぶこともあるよね

最近見た映画(2023年11月)

MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない(2022年、日本、監督:竹林亮、82分)

 めっちゃ面白い。やっぱり時間循環ものはいいねえ。登場人物それぞれに個性があるけど不快感はなくて時間もの特有のイライラさせられるような描写もほとんどない。使い古されたテーマなだけに説明は最低限度に徐々にテンポアップしていくのは後発の作品ならではの工夫と思う。序盤に多用された瞳をアップで映して目覚めを描写するのはベタだけどやっぱり良い。第一目標(上申のための準備)→第二目標(部長の説得とブレスレットの破壊)→失敗/目標喪失→発見と目標の再設定→主人公の葛藤→解答と大団円、と過不足なくキッチリ作られている。素晴らしい。

 時間循環イムループSFで「永遠の休暇」や「現実逃避」ではなく、「繰り返される辛い労働」が題材になっているあたり日本的というかなんというか……けどだからこそループ者(ループ自覚者)が複数いることに意味のようなものが生まれているし、この作品の特色にもなっている。解決のカタルシスも個人というよりは集団によるものといえる。

 崎野の言い様からすると世界自体がループしてるのかな。いや、あれは単なる常套句とかそういう言葉で意味はないのか。森山のパソコンの画面はずっと変わらないけど本当に仕事しているのかな。ラストの結論は個人的には好きだけど、保守的になって一歩下がってしまったともとれる。エンドロール終わりに意外な伏線回収(?)が観れるのは純粋に嬉しい。

《印象的なシーン》部長への流暢なプレゼン。

 

 

ウィッチサマー(2020年、アメリカ、監督:ブレット・ピアース/ドリュー・T・ピアース、95分)

 一気コールって向こうにもあるのか。

 なんだかなあ、うーん、という感じのキャラクターたち。主人公は平均的なハイティーンと言えばそのの通りなんだけど、もうちょっと何か応援したくなるような魅力をつけてほしかった。あの悪質パリピたちは話の筋にほとんど関与していないから正直いらなかったと思う。マルとリアムは悪くないんだけどなあ。直接描写はないけど複数人犠牲になっていて、こんなに子供の命が軽い映画も珍しいと思う。子供を殺すのは欧米ではタブーに近いと聞いたことがあるけどホラーは例外なのかな。

 全体的な雰囲気は廉価版の『ヘレディタリー』で、まあオーソドックスで悪くはないけど……と思っていたら意表を突く展開。おお、すごい。ゾクゾクするぜ。良い映画じゃん! ……と軽く手のひら返しおれはこういうタイプの映画に甘い。ホラーとしてはあんまりかもしれないけど、その辺の描写の前振りについてはかなり良く出来ていたと思う。ラストにもう一段オチっぽいものがくっついていたけど、だとしたら妹は?どこかの段階で寄生(?)されてたってこと?

 ただ、本国では大絶賛されているらしいけど流石にそこまでの映画ではないと思う。おれは好きだけど。

《印象的なシーン》包帯の落書きから消えた人間を思い出す場面。

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セミマゲドン(2018年、アメリカ、監督:デヴィッド・ウィリス、82分)

 なにはともあれ完成させるって大切なんだなあ。

 創意工夫のかけらもない。すべて力技で解決。ビックリするほどチープな背景合成やセミとの格闘シーンは90年代のアーケードゲーム、いや素人が作ったフラッシュゲームのクオリティ。もちろん、ある程度はそういうコンセプトの映画なんだろうけど、ちょっとそれにしてもなあ。字幕では訳出されてなかったけど人類が地下に逃避するというシチュエーションについて『12モンキーズ』を例に出していたのはちょっと嬉しかった。

 なんだか悪口ばかり書いてきたけどストーリーや作風は割と好き。物語の筋が良いとかじゃなくて死んでも悲しくないドタバタが好きで、そういう意味では最高の作品だった。もっとお金かけて作ってみてほしい。ホームラン爆発には笑わせられたし、セミたちは妙にリアルで気持ち悪いけどしばらく見続けているとなんだか可愛らしくなってくる。エンドロールのメイキングが一番楽しかった。

《印象的なシーン》頭にアルミホイルを巻く理由。

 

 

もしも昨日が選べたら(2006年、アメリカ、監督:フランク・コラチ、107分)

 善人かなあ……まあ、この辺の匙加減がコメディでは難しいんだろうなあ。ちょっと疑問はあったけどコメディとしては笑えて楽しい気持ちになれて良い作品だったし、その方面では成功していたと思う。

 タイトルで典型的な過去改変系のSF映画だと思っていたら、全然違う設定で面食らってワクワクした。時間SFとしてはわりと変わり種の設定で巻き戻しによる再選択ができるわけでも未来を覗き見できるわけでもない。じゃあ、何ができるのかというと……という作品。

 家族に限らず周囲の人々に恵まれた人生だったのだろうなあ。本人よりむしろ周囲の方が善人だったような気がする。家族を大切に、というテーマは日本に限らずアメリカでも受けがいいんだろうなあ。ただそれはそれとして懸命に働くことは決して悪いことではないからそんなに悪しざまに描かなくても、とは思ってしまう。こりゃまた洋画にありがちななんとも言えない日本観だなあ……と思ってたら突っ込まれてた。魚を焼くのも待てないってなんだ? ……ああ、刺身を喰ってるやつらってことね。中東の顧客も紋切り型というか偏見というかそういうところがあったような気がするけど、どうなんだろう。

 やっぱりモーティーがいい。無条件に味方してくれる善人ではないけど、人の心を理解できない悪人でもない。テーマ的には最後の救いはないほうが良かった気もするけどせっかくのコメディだからねえ。コメディ部分もキッチリ笑えるし主人公の成長も描いていて感動するシーンもあり後味もスッキリ。良い映画でした。

《印象的なシーン》雨の中、最期の力を振り絞って息子のもとへ向かうマイケル。

 

 

奇才ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語(2023年、アメリカ、監督:ウェス・アンダーソン、39分)

 再びダールとカンバーバッチ。原作は未読。短い時間の中にダール→ヘンリー→チャテルジー→カーン→ヘンリー→ダールと目まぐるしく視点が変わり、それとともに物語の毛色も変わる。飽きとは無縁。鮮烈なオチがあるわけじゃないけど忘れがたい味がある物語。奇妙な味。

《印象的なシーン》ヘンリーの百面相。

 

 

ネズミ捕りの男(2023年、アメリカ、監督:ウェス・アンダーソン、17分)

 同じくダール。こちらも原作は未読……と思ってたらこれ《クロードの犬》の「ネズミ捕りの男」か。どうりでなんか聞き覚えのあるストーリーだと思ったんだよなあ。連作短編の一題だから覚えてなかった。声の描写(ナレーション)が素晴らしい。意地悪く残忍。パントマイム的な表現から人形、CG、人間と演技の手数が多い作品。

《印象的なシーン》ネズミの最期。

フィリップ・K・ディック『最後から二番目の真実』〔情報の虚実を扱った薄暗いけど明るいラストの作品〕

 印象的なタイトル。内容のほうはそこそこ。作品全体を見るとわりとちゃんとしている(ディック比)けどかなりライブ感が作っているところがあって勢いで展開を決めて次の章でフォローして辻褄合わせているっぽい。だからキャラクターの性格や立場があまり固まっていなくて、序盤と終盤でちょっとキャラクターの性格が違っているような気もする。致命的に矛盾して破綻してるというわけではないんだけどねえ。特にP213-215で唐突に挿入されるアダムズの電話パート。邪推かもしれないけどこのパートこそ勢いで書くだけ書いてあとで帳尻を合わせようとして苦労したんじゃないかなと思う。ただ、18章で唐突に始まる暗殺劇は良い出来でかなり楽しく読める。

 多人数視点はディックが長編で多用する手法だけど、解説にある通り本作では効果的だったかというとちょっと微妙かなあ。主要視点人物は三人で立場と行動理念もバラバラで群像劇色は強め。あとこれもディックによくある話だけど、序盤はかなり不親切で入りにくかった。どういう設定の世界で、どういう立場のどういうやつが何をしているのか。別に難解というわけではないけど、ちょっと物語に入りにくいところがある。どちらかというとニックのパートから始めたほうが分かりやすかったんじゃないかな。あと、なんだか重要アイテムっぽかった構文機があんまりストーリーに寄与していなかったのには正直ガッカリした。ディック自身の願望と妄想と苦悩が反映されたユニークなアイテムなんだけどなあ。声明文自体はオチで意味を持っているのは持っているけど、構文機にも見せ場(?)が欲しかった。

 本格的に面白くなってきたのは158ページの架空の存在のはずのヤンシーが現実に現れたところから。おお、ディックらしいじゃんいいよいいよー。モチーフ的には『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』と「小さな黒い箱」のマーサーと「父祖の信仰」の首席と共通している*1ところがある。虚構の人物/実在の人物。テレビからの説教≒伝聞の虚実。解説では四編の作品が直接の原型とされているけど、中でも「地球防衛軍」が直系ということになるかな。「地球防衛軍」を長編用に書き直した作品という印象。

 長編作品で不倫を含めた色恋沙汰的な描写がまったくないのは割と珍しいかな。あとどうでもいいけどヒトラーヒットラーで表記にぶれがあったのはどういうことなんだろう。

*1:時系列的には『最後から二番目の真実』/「小さな黒い箱」(1964年)→「父祖の信仰」(1967年)→『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1968年)。

どうでもいいから読書が好き、だけど学ぶこともあるよね

 タイトル、内容、著者、表紙デザイン、ジャンル、書き出し数ページ、ペラペラ捲った文字の並び、あとがき解説の文章、書評、知人の紹介等々、本を手に取る要因は人によってさまざまだ。おれは「財布が許してくれる範囲では」という但し書きがつくけど興味がわいた本は新刊古本を問わず可能な限り買うようにしていた。だって本は腐らないから。とりあえず手元に置いておけば、この世知辛い世の中で頻発する「いつか買おうと思っているうちに入手困難になる」という悲劇を回避することができる。そういうわけで積読本は増え続けていた。

 お察しの通り、過去形です。

 おれは読書が好きだけど語頭や語尾に狂の字がつくレベルではないから「積読本が増えた」といっても、本棚からあふれ出した積読本で居室が大変なことになっている人とか電子書籍を買いすぎて容量が大変なことになっている人とか、そういう段階には達していない。積んでいる冊数も一応は把握できる程度だしそのほとんどが文庫本だからキッチリ棚に収まりきっている。ひよっこもいいところだ。ぜんぜんたいしたことない。じゃあ、なんで片っ端から買うのをやめたのかというと、答えは簡単。たしかに本は腐らないけど、経年劣化によっておれの脳が先に腐る可能性がでてきたからだ。というのも読書は好きだけど読むのはかなり遅くて本棚の肥やしが増える速度に読破ペースがついていけていない。しかも、ただでさえ遅い言語処理能力が加齢とともにさらに衰えてきている。このままいったら冗談とかなしに死ぬまでに読み終わらないかもしれない。いや、マジで。さすがにゾッとしたから購入する本をある程度絞ることにして、時間をやりくりしコンディションを調整して毎日少しずつ読み進めて積読本をどうにか崩しつつある。ひとまずはいま持っている本を消化することに専念しよう!

 ……なんてことを内心宣言して、その心の舌の根も乾かぬうちに購入したのが講談社学術文庫《中国の歴史》シリーズ全12巻。文庫本とはいえそこそこ厚めの本を十二冊? ……いや、だって、Amazonでまとめ買いポイントバックのキャンペーンやってたから……それに中国史をある程度通して勉強しなおしたいと思ってたから……どちらにしろいつかは買う予定だったから……。

 とりあえず三巻目までは読み終わった。第一巻『中国の歴史1 神話から歴史へ 神話時代 夏王朝 』は殷王朝以前が対象で主に出土史料から中国各地の文明について概説している。馴染みのない年代で、しかも記述がかなり教科書的だから読み進めるのがかなりつらかったけど、おおよその文明の程度や神話のことを知れて良かった。第二巻『中国の歴史2 都市国家から中華へ 殷周 春秋戦国 』は著者の学説がふんだんに盛り込まれているらしくて、通説とは違うところもあるらしい。だから手放しに絶賛はできない(おれには学説の是非を検討できるほどの学識はない。史料もあんまり読めないし)けど、史料を参照しつつ矛盾点をあぶりだして整理し、そこに合理的な説明を加えようとしているのはとても刺激的だった。まあ、学説はいろいろな人が検証して批判を加えて修正していくことで出来上がるわけだから今後に期待という感じなのかな。第三巻『中国の歴史3 ファーストエンペラーの遺産 秦漢帝国 』は、ようやく馴染みのある時代で、前二冊とは違ってかなりすんなり読めた。基本的には通説の通りの記述で、おおまかに時代の流れを学べるという意味でも入門書として良い本。個人的には廷尉であった李斯のもとには各地の裁判状況が届いていたはずで、それを介して地方の状況を把握していたという指摘が面白かった。あとはP212の肉料理の話とか、P334の漢代女性の化粧の話とかトリビア的なものも楽しい。

中国の歴史1 神話から歴史へ 神話時代 夏王朝 (講談社学術文庫)中国の歴史2 都市国家から中華へ 殷周 春秋戦国 (講談社学術文庫)中国の歴史3 ファーストエンペラーの遺産 秦漢帝国 (講談社学術文庫)

 

 ほかにもいろいろ中国史の本を、主に漢代についての本を読み進めた。『中国刑法史研究 』は大学の時に読まされたような挫折してスルーしたようなと記憶があいまいだけど、興味がある分野だったので古本屋で購入。対象は古代史でだいたい春秋戦国から唐律までを扱っている。個人的には子供がいない死刑囚に子孫が断絶することを憐れんで妻を獄中に同宿させて妊娠してから死刑囚を処刑したエピソードが複数ある(もちろん例外的処理だけど)のが興味深く、なんともいえない哀しい気持ちになる。『漢帝国成立前史』は統一秦から前漢の成立まで順を追って解説していて、地理的な要素や統治能力の限界、それに史書の記述の方法から劉邦集団がいかに漢帝国を成立させたかを描いている。項羽と劉邦の争いで劉邦が勝利したのは当然の帰結……というわけではなく偶然が味方してくれた要素も大きいという指摘はなるほど。沢という非日常空間を知ったことでこの時代が立体的に理解できそうな気がする。あと漫画等の創作ではイマイチわからなかった章邯の名将っぷりが理解できたのも嬉しい。楚漢戦争を題材にした創作物の副読本に適した一冊。『呂太后期の権力構造 ―前漢初期「諸呂の乱」を手がかりに』前漢成立後高祖と恵帝から少帝二人まで内政に辣腕を振るった呂后の行動やバックボーンを分析し、前漢初期の政治構造と呂后の人物像に迫っている。呂后の行動をやや好意的に解釈するきらいはあるけど史料を基に功臣による「軍功受益」や呂氏の簒奪の意思などを批判的に検討している。「諸呂の乱」は呂氏による漢帝国への反乱というより宮廷クーデターで「誅呂の乱」というほうが正しいという指摘は納得できるけど、呂禄と呂産の野心については過小評価な気はする。呂后の兄の果たした役割や彼の死後に劉邦が皇太子交替を検討したことから呂后の権力の源の変化を論じていて非常に面白い。そういう視点で光武帝の皇后および皇太子交代劇を考察しても面白そう。皇統が恵帝と文帝で分かれていて、それゆえに正統性の問題から恵帝系が否定的に描かれるようになったというのが個人的には新鮮な視点だった。

中国刑法史研究 (1974年)漢帝国成立前史呂太后期の権力構造 ―前漢初期「諸呂の乱」を手がかりに

 いろいろ読んできたけど、ある瞬間にふと「どうして中国史が好きなんだろう」みたいなことを考え始めた。もちろん幼少期に生越嘉治 / 西村達馬『子ども版・三国志』とゲームの『三国無双』から横山光輝三国志』という黄金コースをたどって三国志が大好きになったから、昔取った杵柄というか三つ子の魂百までというか、そういう面があるのは間違いけどそれだけじゃ説明がつかない。なぜかというと中学生くらいまでは同じくらいの熱量を日本近現代史にむけていたからだ。それがある時期からパタリと興味をなくしていた。

 日本近現代史に限らず日本史自体にあまり触れなくなったのはどうしてだったかな、と記憶の糸をだどっていくと理由に思い当たるものがあった。といっても特別なイベントがあったわけじゃなくて、いろいろ史実を調べたりとかネットでの論争を眺めているうちに、それが現代問題と地続きなことをまざまざと見せつけられて嫌気がさしてきた。近現代史はどうしても現在とのつながりを無視することはできず現代まで続く根深く辛くやるせない問題の数々を直視せざるを得ない。それがなんだか嫌になって日本近現代史を、ひいては日本史自体から離れてしまった。

 翻って、どうして中国史(正確には古代中国史)を好きでいつづけられたかというと、どうでもいいからだ。いや、だって、みんな夏王朝の実在性とか『史記』と『漢書』の違いから見る当時の正統観の違いとか昆陽の戦いにおける新軍の実数とか曹操は漢の忠臣だったか否かなんて別にどうでもいいでしょ?

 もしかしたら本国の人にとってはどうでもよくないかもしれないけれど少なくとも異国に住むおれにとってはどうでもいいことだ。だからこそ純粋に研究成果であったり理論的な検討を楽しむことができる。知らないことに出会えると一点の曇りなく本当に嬉しい。日本史や、もしかしたら他の学問領域でもそうはいかない。そういう意味で近現代の中国史も関心はあるけど踏み込むのがちょっと怖い。

 こざこざと書いてきたけど、一言でいうと現実逃避だ。だからいい歳して(繊細なティーンじゃあるまいし)現実に向き合わずに逃げ続けている劣悪な人間、と非難されたらぐうの音もでない。けれど、逃避もそれなりに大切だ……と思いたい。読書好きの人から見れば不誠実極まりない態度かもしれないけど、おれにとっての読書はやっぱりそういうものだ。

 これはフィクションでも同じで、だからおれはSF/ファンタジー歴史小説が好きなんだと気づいた。もちろん、SFやファンタジーでも社会問題への意識を持った作品はいくらでもある。というより、名作と謳われている作品のほとんどが社会問題を意識しているような気がしなくもない。けれど、おれが好きな作品はどちらかというとアイディア重視でいうなれば「変な話」なことが多い。そしてそういう作品は往々にして社会問題とは一定の距離を置いていることが多い……と思う。だからおれはSF/ファンタジーの先見性とか啓蒙性、批評性についての議論は読んでいてもあまりピンとこない。そういう視点でSFを読んでいないことの方が多いからだ。

 ……けど、まったく教訓を得ないわけではない。ちゃんとした読書好きの方への言い訳みたいになるけど、おれは映像作品から書籍類全般のすべての娯楽から、それなりのことを学び取って自分自身の礎にしている。

 中国史なら前掲の『中国の歴史2』は上に書いた通り内容には賛否があるみたいだけど、史書の読み解く姿勢は称賛してもいいものがある。古代中国の春秋時代については戦国時代に成立した史書によって知ることができる。そして戦国時代の史書は戦国時代の人々の価値観やその時期の権力者の都合に制約を受ける。これらの史書春秋時代の偉人である孔子をどう評価しているか、理想化された王朝である周をどう認識しているかは、その書物が成立した国の権力者が何を肯定し何を否定したいかによって変化する。言い換えると「当時の都合によって記述がゆがめられている」のだ。だから、書いてある記述をそのまま受け入れることはできず、まずはその史書が成立した背景を探っていく必要がある。公平と名高い司馬遷陳寿*1ですら史書には書けないことがあったり諸々の事情を婉曲に表現せざるを得なかったわけだし、そうでなくても史家もその時代の倫理観等に縛られざるを得ないのだから、その辺をある程度差っ引いて史書を読むことが不可欠だ。こういう史書へのアプローチは現代の歴史学では必須らしくて前掲の『漢帝国成立前史』『呂太后期の権力構造』にもそういう意識が存在する。

 長々と書いて結局何が言いたいのかというと証言や記録には限界があるということだ。どのような媒体であれ取捨選択が発生た時点で選者の主観が入らざるを得ず、その人の都合が反映されてしまう。そして悪口は言う側の都合も大きいということ。火のない所に煙は立たぬはたしかに正しいけど、悪口を言う側に相応の理由がありそうならその辺を差っ引いて考えなくてはいけない。これはけっこう普遍性があることで政治家/政党の○○とか文筆家業の◇◇とか△△人とか会社の上司/部下とか老人若者とかそういう特定の属性に向けた法則(?)じゃない。権力を持つ人/組織に限らず、ヒトには大なり小なりそういうところがあるし、なんならおれはそんなことをできることこそが知性だとすら思う。

 漫画でいけば士郎正宗攻殻機動隊』のおかげでおれは多様性の信奉者になれた。おれは割と本気で「いろんなやつがいっぱいいるのが一番良い」と思っている。現代社会における「多様性」の重要性はある程度の年齢の人には等しく理解してもらえると思うけど、どうしてなのか説明できる人は少ないと思う。もしくは倫理的な面から回答する人が多いんじゃないかな。けど、倫理は信用できない。だいぶ上の方に書いたけど「子供がいなくて家を絶やすのが可哀そうだから妻を同衾させて妊娠したら後顧の憂いなしということで処刑します。死刑囚も涙流して喜んでいます」とか現代人からすると美談とは言い難いけど、家を存続させることが極めて重要だったから成立した。ちなみに古代中国では親を殴ったり罵ったりしただけで死刑になったりもする。文化が違う。

 倫理は時代によって様変わりするから信頼できない。おれは違う回答を知っている。『攻殻機動隊』P334-342の人形使いと少佐の問答だ。破局に強くなるには「多様に変化するゆらぎをもった存在」になるほかなく、電子生命体である人形使いはその「ゆらぎ」を獲得するため少佐と融合しネットの海に変種グライダーを流し続けるになる。

なぜなら私のシステムには廊下や進化の為のゆらぎや自由度(あそび)が無く破局に対して抵抗力を持たないからだ・・・・

コピーをとって増えた所で「1種のウイルスで例外なく全滅する」可能性を持つ・・・・コピーでは個性や多様性が生じないのだ…

士郎正宗攻殻機動隊』(講談社、1991年、P339)

 多様性を尊重しなければならないのは、それによって破局に強くなれるからだ。だからおれはアーサー・C・クラーク幼年期の終わり』の「人類の進化」は好きではない。というか間違っているとすら思う。いくら強大で素晴らしい存在であっても単一の存在である限り、どうあっても破局に弱くなるはずだからだ。

 小説ではやっぱり星新一白い服の男」だ。ここでも書いたけど正義も煎じ詰めていくと別の正義と衝突してしまうことを(おそらく著者自身の意図とは離れて)的確に表現している。これもやっぱり普遍性のある原理だ。

 どうでもいいこと、どうでもいい話、どうでもいい筋書き。そんな娯楽を純粋に味わいながらもそこから普遍性のある何かを引き出せる。それが読書の醍醐味の一つだと思う。

 だから社会問題を扱った作品から逃げても許してください……そんなに怒らないで……学んだりすることもあるから……。

*1:ちなみに陳寿については田中靖彦「陳寿の処世と『三国志』」がCiNiiで読める。面白いからぜひ一読を。

最近見た存在しない映画(2023年10月)

7.62ミリ(1988年、チェコ、監督:オンドジェイ・ランパス、124分)

 対象物を見ると死ぬ(別生物に変質する)という設定は(逆だけど)藤田和日郎邪眼は月輪に飛ぶ』を思い出す。もちろん年代を考えると両者ともにまったく影響しあわないところで作られたのは間違いない。両作共に映像的な迫力は甲乙つけがたいハイレベルだけど、結末についてはほぼ正反対ともいえるもので、特に達成感と悲哀と虚しさが入り混じるマルチンの表情は必見の価値あり。しばらくその場面だけリピートして観返したくらい素晴らしかった。

 事の発端を描いたシーンでミサシュとダナに不倫関係があったかのように匂わせる描写があって感想サイトでは賛否両論だけど、おれは良かったと思う。必ずしもミサシュは家庭で幸福を感じていたわけではなく、だからこそその妻がマルチンに半狂乱で食ってかかるシーンが原作よりやるせなく辛いものに仕上がっている……と思う。

 ラストの変容にともなう意識の変化の悍ましさは筆舌に尽くしがたいものがある。それまでやや煩いほどに挿入されていたナレーションが効果的に作用している。自己犠牲の物語でもあるけど、渇望していた「光」を見たシーンは一つの救いでもあって、それがなおのこと哀しい。

《印象的なシーン》マルチンの最期の姿。

 

 

首(2023年、アメリカ、監督:ウェス・アンダーソン、17分)

 アンダーソンによるダール短編映像化企画の第三弾。シリーズ共通の実験的な手法は本作でも健在。ダール特有の残酷さが発揮される切迫した選択の場面、そして対照的なバジル卿とレディ・ターンの表情は忘れがたいものがある。

《印象的なシーン》バジル卿の笑み。

 

 

闌(1992年、日本、監督:新木翔、100分)

 珠玉のラブストーリー。やや群像劇的で男女、男男、女女の三組のストーリーが並行し時に交差しながら進行して一句。それぞれ二人は自然であり不自然でもある。噛み合っているけど噛み合っていない。滑らかでもあり濁ってもいる。向かい合っているし背を向け合ってもいえる。撞着語法のようなものを列挙してしまったけど、そうとしかいえない、なんとも言えないし一筋縄ではいかない人間のある種のリアルさが描かれている。ただ、人間関係の妙なリアルさに反してストーリーはややフィクション係数が高くてバッドにもグッドにもややご都合主義的なところがあるけど決して悪いものではない。前振りもちゃんとしているし、設定の中でできることとできないことがハッキリしていて、そのルールから逸脱はしていないから筋は通っているはず。

 結局のところこの映画はハッピーエンドだったのかはひとによって解釈が分かれているけど、おれは基本的にハッピーエンドだったと思っている。野中が終盤登場しなくなっていたことが引っかかっていた人も多いけど、あれは山野が放送室に来なかったことがちゃんと前振りになっているから決して悪い意味ではないはず。

 役者陣は当時にしては無名の若手ばかりを起用しているみたいだけど、これがかなり効果的だった……とレビューサイトに書いてあった。いまでこそスターだらけになってしまったけど公開当時は本当に新鮮で「本当に存在する人間のドラマを隠し撮りした」映像を見ているような気持ちになれたらしい。すごい映画体験だなあ。

《印象的なシーン》買い物に行こうと誘ったときの上田の表情。

 

 

グッド・デイ(2017年、アメリカ、監督:カート・ビクスビイ、119分)

 晴天の描写が絶妙でとても気持ち悪い。本当に気持ち悪い。一貫して好天気で背景にピントを合わせない手法が極めて効果的に使われていて、背景で何かが起こっているけど具体的な現象は朧げにしかわからない。前面の喜劇はハッキリ映るのに後面の悲劇はぼんやりとしか映らなくて、それが内臓を震わせて吐き気がしてくる。日常の楽しい暮らしの背面にある多くの悲劇、という意味では社会派の映画だけどそこに向き合わなくても楽しめる映画でもある。

 ジャンルとしてはホラーコメディ、ブラックユーモアに分類されるらしい。前面で起きていることは文句のつけようがない良質なコメディで、だからこそ後面の暴力の残忍さが際立ち、重なり合わさって笑顔が引き攣る。序盤はただの日曜大工にみえたものが終盤で実は凄惨な行為だったことがわかったりと伏線回収(?)もある。

 かなり人を選ぶタイプの映画で、実際レビューサイトでも賛否両論らしい。おれはかなり好きな映画だったけど途中で気分が悪くなって十分くらい休憩を挟んだくらいだから、苦手な人は耐えられないのも良く分かる。サブスクサービスで観れて良かった。たしかに映画館で観てたらきつかったかもしれない。

《印象的なシーン》拳銃の発射音。

 

 

世界は喜びで満ちている!(2000年、日本、監督:真崎有智夫、30分)

 子供らしい残酷な物語かと思っていたら……実態がわかった瞬間の悍ましさと哀しさはなんともいえない。仮想世界の崩壊という意味ではディック的な感覚も楽しめる。

《印象的なシーン》サッカーのシーン。

最近見た映画(2023年10月)

明日への地図を探して(2020年、アメリカ、監督:イアン・サミュエルズ、99分)

 時間循環イムループSFに外れなし。面白い。この手の映画にしては自暴自棄バイオレンスなシーンがほとんどないのも好印象。最近見た映画だと『パーム・スプリングス』もそうだったけど、事象の発生原因については誤魔化しつつ解決方法についてはそれなりの理屈を提示しているけど、SFと呼べるほど科学的ではないけどファンタジーと呼ぶには現実的なところがある。理屈と感性のどちらにも偏りすぎていないというか、気持ちが冷めない程度にご都合主義というか、納得できる程度の嘘が絶妙というか。ループものにしては珍しく序盤と終盤が対応しているのもグッとくる。

 雨で終わるの良いなあ。「主人公」はたしかに彼女だったかもしれないけど、作中で成長したのは間違いなく彼だったよなあ。

 細かい所もいくつか。海外の古本屋って横に積むんだ……取りにくそうだけど。色々な作品を引用するところが実にオタクっぽい。何かというと知っているものと比較して喋ってしまうんだよなあ。ちなみに『パーム・スプリングス』は永遠の休暇のイメージだったけど、本作はどちらかというと現実からの逃避という意味で時間跳躍タイムリープSFの構造に近い。

 結末からは教訓を得ることもできるけど、それほど説教臭いものではないからぜひとも気楽な気持ちで観てほしい。そんな映画。

《印象的なシーン》レストランに忍び込み流れるように動きながら会話するシーン。

 

 

ロブスター(2015年、ギリシャ/フランス/アイルランド/オランダ/イギリス、監督:ヨルゴス・ランティモス、118分)

 うーん。面白かったような、そうでもないような。好きな気もするけど、気に食わなかった気もする。うーん……わかったような、わからないような。

 受付を経て異質な空間に閉じ込められる設定は『プラットフォーム』を思い出すけど、なんとなくモチーフも共通しているような気がする。宗教か神話がモチーフなのでは? どうなんだろう。その辺のことは詳しくないから判断がつかない。おれは雰囲気でこの映画を観ている。前半と後半で綺麗に別の領域へと動くけれど、罰の与え方が罪の原因となったものへの処罰(同害報復……はちょっと違うか)なことは共通しているあたり、性向が真逆なだけで同質なコミュニティーなのだろう。

 計画が露呈しても男の方が実質罰を受けなかったのはどういうことなんだろう。手帳の主はわかっていても相手については確信をもてなかったから? ちなみに主人公は同質の相手を求める傾向がある。酷薄さ、近視、盲目。だから親し気な男の視力を異常なほど気にしていたのだろう。そういう意味で一見無意味な行為でしかないラストも主人公の志向が如実に表れていて面白い。ただ、ラストは含みがありそうだけど、どっちなんだろう。同質を求める志向はホテルでの暮らしを見る限りある程度作っているものなわけで、そこまでの狂気を持っているわけではないから、やっぱりそういうことかな。

《印象的なシーン》綺麗な鬣のポニー。

 

 

ビバリウム(2019年、アメリカ/ベルギー/アイルランド/デンマーク、監督:ロルカン・フィネガン、97分)

 規則正しさが気持ち悪い。作り物が気持ち悪い。

 現実と非現実の境界線がとても曖昧で、直接的な描写はほとんどないのに不条理な暴力の印象が強い。未視聴だけど『ファニー・ゲーム』の暴力性に近いんじゃないかなとも思う。カッコウがモチーフだけど、巣に送り付けるんじゃなくて巣に誘い込んでいるあたり行動形式は寄生虫に近いような気もする。バッドエンドなわけだけど、もう一段酷いことすると思ってたからホッとした(もしくは肩透かしを食らった)。夫婦が必要だったこと、赤ん坊が男の子だったこと、ママを妙に強調していたこと、寝室を覗き見て学習しているような描写があったことからてっきり繁殖まで済ませてから埋めるのかと……いや、流石にそれやったらキツすぎるか。侵略的宇宙人かなと予想していたけどその辺はあまりハッキリとは描写されなかった。

 子育てに対する男女の違いを題材にしているとも取れるけど、たぶんそういう映画じゃない。どんな行動をとってもどうしようもなかった。それに、わかっていても子供は殺せないよなあ。

《印象的なシーン》屋根の上から見た景色

 

 

PicNic(1996年、日本、監督:岩井俊二、68分)

 こういう若者像見かけなくなったなあ。大人の変化なのか子供側の変化なのか。大人と子供という対立軸も見かけない気がする。

 時代柄しかたないところもあるけど病院のこういう描写はちょっとぎょっとしてしまう。主要人物三人とも絶妙に話が通じていないけどそれぞれに魅力がある。あの先生は現れるタイミングや行為を考えると、やっぱりそういうことなんだろうなあ。

 わたしが死んだら地球は滅亡する、って発想は割と好き。だからラストシーンでココは本気でツムジを救おうとしたんだろうなあ。

 昔のおしゃれな洋画を思わせる意味深長なオープニングも印象深い。

《印象的なシーン》サトルがもう一度塀の上に登ろうとする場面。

 

 

毒(2023年、アメリカ、監督:ウェス・アンダーソン、17分)

 おっ、ロアルド・ダールやん……ベネディクト・カンバーバッチやんけ!

 原作は既読。実験的な手法で撮られていて、メタフィクションのような舞台演劇的というか、とにかくそういう方面ではすごく面白い作品だった。ストーリーはほぼ原作そのままで、小説の緊迫感とラストの何とも言えない後味の悪さをキッチリ映像に仕上げている。

《印象的なシーン》ハリーの家に入るウッズ。

 

 

白鳥(2023年、アメリカ、監督:ウェス・アンダーソン、17分)

 同じくダール原作だけど、こっちは原作未読。同じく実験的な手法がとられている。役者は複数登場するけど、ほぼほぼ独り舞台で、一人称の回想という小説の形式を良く活かした作品だと思う。腹立たしい展開だけどなんともいえない救いのある物語。

《印象的なシーン》線路から湖へ移動する場面。

ジュディス・メリル編『SFベスト・オブ・ザ・ベスト』〔古さも目立つけど良質なアンソロジー〕

 だいぶ昔にスタージョン目当てで上巻を古本屋で購入していた。そのまま読まずに本棚の肥やしにしていたけど、2022年に名作復刻キャンペーンで上下巻が新刊書店で入手できるようになったので「復刻されたことだし上下巻でそろえておこうかな」くらいの気持ちで下巻も購入。で、そこからもかなりの時間を経てようやく読み終えた。

 

 

『上』

 読んだことあった作品はレナルズのやつだけで、わりと新鮮だった。で、目的のスタージョンだけど、面白いのは面白かったけど、スタージョン特有の絶妙な説明不足がすこしだけきつかった。だいたいのことはわかるけど、ちょっとわかりにくい。ただ、スタージョンにしては珍しくどんでん返し的なオチがついていたのはなんだか嬉しい。かなり古い作品なだけに全体的になんともいえない読みにくさはあったけど、時の篩にかけられているだけにそれなりに良く出来た作品が多かった。

 個別でいくと「闘士ケイシー」はスラング感と不気味なような温かいようなラストが良い。「孤独な死」は絶妙に上手くいかない、けれど優しさがあって「賢者の贈り物」的なところがある。「跳躍者の時空」は猫SFだけど、やっぱり愛猫家のはしくれとしてはたまらないものがある。ちょっと違うけど『裏バイト』の公園のやつを思い出す「異星人ステーション」も印象深い。「時は金」は読んだことあって、やっぱり良い作品だなあと再確認した。皮肉がちくちく痛むけど、どこか突き放した感覚が心地よい。

収録作一覧

ウォルター・M・ミラー・ジュニア
「帰郷」
シオドー・スタージョン
「隔壁」
ゼナ・ヘンダーソン
「なんでも箱」
リチャード・M・マッケナ
「闘士ケイシー」
クリフォード・D・シマック
「孤独な死」
フリッツ・ライバー
「跳躍者の時空」
キャロル・エムシュウィラー
「狩人」
デーモン・ナイト
「異星人ステーション」
シオドー・L・トマス
「衝突針路」
マック・レナルズ
「時は金」
ロバート・アバーナシイ
「ジュニア」

 

『下』

 すげえ良かった。高打率。作家目当てで買った上巻よりはるかに満足度は高い。破綻した世界やある種のディストピア世界のような暗い雰囲気の作品と、会話劇を中心にした気軽なユーモアのある作品まで幅広い。

 個人的には競馬SFである「驚異の馬」が最大の収穫だった。設定はかなりB級SF的だけど、血統、競走とハンデ、民衆の熱狂とライバルたちの困惑、繁殖と競馬要素はかなりちゃんとしている。「マリアーナ」はちゃんとした作家による良質なディック感覚を味わえる。「プレニチュード」「浜辺に行った日」はどちらもある種のポストアポカリプスを題材にしているけど並べて収録しているのは比較の意図があるのかな。「率直フランクに行こう」はフランクをダブルミーニングで使っているのが小憎いほどうまい。すごく好き。アシモフやシェクリーのような著名な作家はもちろん、本書以外で名前が出てこないような作家でもかなり良い作品が多かった。すごくいい。「ちくたく、ちくたく、ケルアック」のタイトルは好きだけど内容はそんなに。「思考と離れた感覚」がイマイチだったわりに長いのもちょっと……。「ある晴れた日に」は好きだけど内容を理解できたのかと問われるとあまり自信がない。なんとなく好きとしか言えない。

収録作一覧

コードウェイナー・スミス
「夢幻世界へ」
マーク・クリフトン
「思考と離れた感覚」
フリッツ・ライバー
「マリアーナ」
ウィル・ワーシントン
「プレニチュード」
キャロル・エムシュウィラー
「浜辺へ行った日」
ブライアン・W・オールディス
率直フランクに行こう」
ジョージ・バイラム
「驚異の馬」
アルジス・バドリス
「隠れ家」
ロバート・シェクリー
「危険の報酬」
デーモン・ナイト
人形使い
アヴラム・デイヴィッドスン
「ゴーレム」
リチャード・ゲーマン
「ちくたく、ちくたく、ケルアック」
アイザック・アシモフ
「録夢業」
ティーヴ・アレン
「公開憎悪」
シオドア・R・コグズウェル
「返信」
シャーリー・ジャクスン
「ある晴れた日に」

 

 

――――――

 上述の通り、スタージョンの短編が読めればそれでいいやくらいの気持ちで買ったけど、予想外に収穫の多いアンソロジーだった。特に「驚異の馬」はずっと探していた競馬SFにこんなところで出会えるとは……本当に意外性を含めて大発見だった*1

 上下巻のどちらが好きかというと、やっぱり下巻かな。単純に打率が高いというのもあるけど、「驚異の馬」のような作品を見つけられたのがかなり嬉しい。収録作品の傾向もバランスが取れているような気がする。上巻のベストは「時は金」かな。「隔壁」や「闘士ケイシー」も良かったけど、「時は金」が最もキッチリとまとまっている。下巻は……難しい。「驚異の馬」と言いたいところだけど「マリアーナ」の瞬発力や「率直フランクに行こう」のユーモラスな事態の加速も捨てがたいし、「危険の報酬」の高純度な娯楽も……うーん……いや、けど、好みも含めて「マリアーナ」かな。

*1:さっき検索してみたら競馬の終わり (集英社文庫)という純競馬SF作品があることも知った。いつか購入して読みたい。

星新一『ようこそ地球さん』〔ズレの物語/よそ者たち〕

「デラックスな拳銃」

 無用な多機能拳銃保有のチンケな男。

 デラックス。強盗(?)。本来の用途とは無関係な機能をこれでもかと付けた携帯可能な道具、ということでスマートフォンを予見したといえなくもないけど、これはそういうことを気にするべき作品ではないのだろう。やることなすことケチ臭いのにどこかスマートに見えるのは描写の妙かもしれない。ある種の爆発オチ。

 

「雨」

 排泄物でも狐の嫁入り

 タイムトラベル。状況説明パートからタイムトラベルへの飛躍、そして大オチが炸裂する。かなり短いページ数の中で場面が未来-過去-現在と三回も、しかも有効に場面を転換しているテクニックにはもっと注目していきたい。タイトルがシンプルなのもオチの下品さを際立たせていて素晴らしい。

 

「弱点」

 一人一呑一殺。

 宇宙人。序盤の呑気な会話劇から徐々に滲み出てくる焦燥感が良い。やや長めの作品でもあるし、もっと描写を濃厚にすれば短編ホラーに仕上がる気もする。

 

「宇宙通信」

 木製人に紙は残酷。

 宇宙人。完全な相互理解は不可能であることを前提にはしていたけど、そもそもの前提が……というファーストコンタクト系作品の典型例として教科書に載せたい作品。最後の最後で理由が判明してストンと腑に落ちる構成も上手い。

 

桃源郷

 桃源郷……いや、地獄みたいな星だ!

 宇宙人。かなり単純な作品。まあ、直前の状況的にそんな簡単に騙されるか? と思わなくもない。地獄のような惑星の描写に時代を感じる。

 

「証人」

 愚民どもは納税するためだけに存在する。

 皮肉の効いたオチの一言が忘れがたい。絶対に言ってないけど韓非子が言ってそう。脚本家の筆が走り始める場面が好き。スラプスティックだけど楽しくないブラックコメディ。閉塞感のある建物内で盥回しにされる姿はレム『浴槽で発見された日記』を思い出す。

 

「患者」

 催眠術で未来予知、そして予防。

 辻褄はあっていないような気はするけど、短く纏まっているしまあいいか。もう一段オチを付けた漫画版も印象深い。

 

「たのしみ」

 予言と埋められた現金、そして祭り。

 田舎の長閑な雰囲気と村人の無機質さが相まって夏の設定なのに肌寒い。余韻が残るラストが気持ち悪い。ちょっと『TRICK』や『ミッドサマー』を思い出した。通信機器が未発達な時代特有の作品ともいえる。

 

「天使考」

 天使たちの競争。

 一度読んだら忘れられない、とても印象的なタイトル。やや長めの作品で、働く天使たちの創意工夫エピソード集というか、どこか説話集みたいな雰囲気もある。夢の中のコマーシャルが好き。驚くようなオチがついた作品とは言えないけど、オールタイムベストに挙げる人もけっこう多いんじゃないかな。

 

「不満」

 猿の宇宙船。

 宇宙人。一人称視点に張り付いた文体が適度に伏線(というよりオチへのヒント)をボヤかしてくれている。畳みかける饒舌さの末にオチがあるのも巧い。ヒトの側にはそれほど悪意がなさそうなところがなんとなく哀しい。虐待とは思ってないんだろうなあ。

 

「神々の作法」

 人前で喧嘩をするのはやめましょう。

 宇宙人。地球人類を神と勘違いした異星人の物語なわけだけど、オチはどこか親のふるまいから間違った学習をしてしまった子供を題材にしているとも読める。

 

「すばらしい天体」

 自然動物惑星へ連れていくよ。

 宇宙人。隊長が謹厳な雰囲気を出しておいて居残っているのがなんだか可笑しい。まあ、たしかにそのまま連れていかれても幸せになれるような気はする。ユートピアディストピアと解釈できなくもない。

 

「セキストラ」

 インカの復讐。

 星新一の処女作。具体的な人名や会社名、手紙や新聞記事を介して物語を進める書簡形式など、ほかの作品ではあまり見られない要素が盛り込まれているのも一作目ならではなのだろう。ラストが「だれに知られることもなかった記事」なのが良い。

 

「宇宙からの客」

 ビッグマウスには気を付けよう。

 宇宙人。乾いた笑いが零れる。個室衛星とあるけど、到着の過程を考えると普通に追放刑だったんだろうなあ。なんだか世界は良い方向に向かっているから、なんとかこのまま胡麻化し続けてほうが幸せな気もする。「二大陣営」の対立軸には時代を感じる。

 

「待機」

 傲慢さに滅びる。

 宇宙人。「桃源郷」の別アレンジともいえる。さも高潔で誇り高いようにふるまいながら終盤でそのメッキが剥がれ、そして逆襲を食らう。異星進出における典型的な問題点を簡潔に描いている。皮肉たっぷりの「もっとも、たいしたものも、あるまいがね」がたまらない。けど、タイトルはどういうこと……?

 

「西部に生きる男」

 偽物VS偽物。

 かなりコントっぽい作品で、目まぐるしく立場と戦略が入れ替わり、キチンとオチがつく。サッパリした読み味が素晴らしい。微笑みが浮かぶ爽快感。

 

「空への門」

 制度は科学技術の奴隷。

 夢を抱きそれに向けて絶え間なく努力を積み重ねてようやく叶ったと思ったらほどなくして科学技術がその努力を全否定してしまう、というあらゆる産業に通じる無常が描かれている。ちなみに優しい救いを添加した漫画版も良い作品ですのでぜひ。

 

「思索販売業」

 人間暇になっても高尚なことなんか考えませんよねえ。

 訪問販売。相手をしっかりおだてつつ商品を売りさばき、それによって生じた成果によって自分が窮地に陥る。因果応報の構造が良く出来ている。高尚なことではないけど思索の成果ではありますからね。「波状攻撃」の成功でもあり失敗でもある。

 

「霧の星で」

 ここが楽園。

 うわあ……そういう作品じゃないんだろうけど、なんというか身がつまされる。わざわざ「若々しい救助隊員」と描写することで、地の文には描かれていない男の心情をほのめかしてくれている。無人島への漂流にすれば非SFとしても成立する。ラストの一言が純真で残忍。

 

「水音」

 エクトプラズムなペット。

 うーん……あまりピンとこなかった。いや、オチは理解できるけど……うーん。ラストの一言はわりと好き。

 

「早春の土」

 オウムが見えたら土の中へご招待。

 それぞれが自分の世界を持ってある程度自由に行動できると聞くと『ドグラ・マグラ』の解放治療場を思い出す。記者の躁な感じと冷静な患者が好対照になっている。オウムが見えるといったときの妙な反応も良く出来ている。

 

「友好使節

 面従腹背

 宇宙人。星新一の地球人にしてはかなり冷静で論理的に行動しているけど、相手方も負けず劣らず優秀だったがゆえに起きた悲喜劇。来訪者のほうもそれなりに善意に解釈しているところが微笑ましい。

 

「螢」

 天然と人工。

 作中で提示される出世する人物観は某所なら人在扱いされそう。みんな! 人財になろうね!! ハハッ。まったく関係ないけど「ラセンウジバエ解決法」を思い出した。

 

「ずれ」

 一つずつ隣へ、喜劇。

 すごく好きな作品。スラプスティックな楽しいコメディ。作品を体現したシンプルなタイトルも良い。一人には救いを、一人には期待のみを、一人にはプライドと現実のせめぎ合いを、一組には究極の二者択一を、もたらす。そのすべてが「楽しい」の範疇に収まっているところが素晴らしい。ちなみにドラマ版も良く出来ているのでぜひ。

 

「愛の鍵」

 欲しい言葉と言いたかった言葉。

 かなり実直にロマンティックな物語で、文体もどこかいつもと違っているような気がする。「美しいといっても、それは彼女が恋をしていたから、生き生きとして美しく見えるのかもしれない。」という文章が好き。

 

「小さな十字架」

 貧者を救う十字架。

 寓話的な物語で、意外性はほとんどないけど優しくて良い物語だと思う。最初の男がどこか楽観的でのんびりしているのに対して次の少女が深刻な雰囲気なのが痛々しく、それだけに救いを示唆するラストが印象深い。

 

「見失った表情」

 機械的な表情。

 SFとしても恋物語としてもかなりオーソドックス。意外性には乏しいけれど全体の雰囲気は割と好き。なんだか楽しそう。

 

「悪をのろおう」

 鬘で呪いを回避だ。

 含み笑いが零れる。無関係な人もエスカレートして正義を叫ぶ描写がオチの脱力に直結しているのは、単純明快で良い。

 

「ごうまんな客」

 そりかえった生き物は、偉い。

 アメリカンジョークみたいな話。それまでのお追従の描写が妙に切実なこともあって、なんともいえない苦笑いが零れる。

 

「探検隊」

 スケールが違う。

 宇宙人。彼らからするとおれたちは虫とか小動物くらいの感覚なんだろうなあ。「プレゼント」を思い出すけど、あっちには一応の善意がある。

 

「最高の作戦」

 バカな男と女。

 宇宙人。宇宙人に仮託して男女の関係性を描いている。やや紋切型ではあるけど、それが微笑ましさにもつながっている。

 

「通信販売」

 商売は相手を見てからやりましょう。

 宇宙人。サイズ感の違いによるディスコミュニケーションは「探検隊」とも共通している。ただ、こちらはオチの展開よりも前段の成功談のほうが物語として興味深いものがある。そっちがメインでも良かったんじゃない、とすら思ってしまう。

 

「テレビ・ショー」

 必要な性教育

 不良と優等生の性質を逆転させている。行為自体は人工授精でスキップするにしても、とりあえず男の側はどうにかしないと問題の解決にはならないか。時間通りにテレビを見るよう要請(強要)されるという意味ではディック「祖父の信仰」を思い出す。

 

「開拓者たち」

 不時着した特効薬。

 何世代にもわたって積み重ねてきた閉塞感と絶望感が薄暗い雰囲気を醸し出している。それだけに宇宙船の中に積み込まれた特効薬を躊躇なく使用しようとたくらんでどよめきながら近づく群衆の切実さと残忍さも際立つ。ただ、それやってたらクールー病になるんじゃないかな。

 

「復讐」

 哀しき復讐の連鎖。

 宇宙人。うわあ……うわあ……こんなに報われない臥薪嘗胆があるのか。始まりと終わりがキチンとつながっているのは、やっぱり巧い。始まりはどんな出来事だったんだろう。

 

「最後の事業」

 冷凍、未来、宇宙人、食事。

 宇宙人。いかにも星新一的な厭世ストーリーから後半は一変してファーストコンタクトブラックコメディへと転調する。合理はある一定ラインを超えたときに不合理へと様変わりする。ある種のポストアポカリプスとも解釈できる。

 

「しぶといやつ」

 物理で除霊はできません。

 宇宙人。うーん。同じ題材なら「狙われた星」のほうが良く出来ていると思う。けどこちらはタイトルが捻っていて気が利いている。現世にしがみつくしぶといやつ。

 

「処刑」

 生命。

 傑作。ディストピア世界、残酷な設定、火星で出会う/見かける人々やその痕跡、主人公に起こる変化(≒成長)が完璧な均衡とって終盤の展開へと収束していく。傍から見れば発狂としか思えない行為も主人公の出す結論としてちゃんと機能している。素晴らしい。星新一の短編小説の代表作。ここでも書いたけどドラマ版も漫画版もそれぞれ少しだけ違ったベクトルで作られていて興味深い。

 

「食事前の授業」

 ヒトの授業とは一言も言っていない。

 宇宙人。というか上位存在かな。ディック味のある作品。おれたちは地球に巣くう黴みたいなものだからねえ。クロカビ、黄色いカビ、白いカビという表現の威力がすごい。

 

「信用ある製品」

 矛と盾。

 宇宙人。これには韓非くんもにっこり笑顔……にはならないか。去り際の誰も聞いていないのにぺらぺらと口上を述べるところが皮肉っぽくて良いし、それによってラストの吐き捨てるような「どこの星も、みなおなじだ……」も際立つ。

 

「廃墟」

 現行人類とは一言も言っていない。

 星新一の文明批判がやや強めに出ている作品。強い爆発物、が何を意味しているのかは明白だけどそれだけにオチの異形にはなんともいえない気持ちを抱いていしまう。ただ、<POST>の下りはちょっと笑ってしまった。

 

「殉教」

 あの世、という宗教。

 タイトルが良い。すごく良い。もちろん内容も申し分ない。星新一らしい乾いた合理主義が広がっていく描写は薄気味悪く、事態が加速度的に進行していくテンポ感もたまらない。理論的な機械とそれによって証明された楽園の存在によって発生する宗教。その信仰の対象に科学を含んでいるところが素晴らしい。だからこそ、ラストの「信じる能力が欠けている」ことの説得力が増すし、どちらかに優劣をつけないバランスにもつながっている。終盤の男の活動については『孤独なふりした世界で』を、霊界との胡散臭い交信については『裏バイト』の「葬儀屋スタッフ」を思い出した。映像化してほしいけど、ちょっと画面がキツくなりすぎるかなあ。

 

 

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 文庫本ではなく『星新一 ショートショート1001』で読んだので、原本と多少の異同はあるかもしれない。

 全体的にSF色が強めで『ようこそ地球さん』とタイトルの通り宇宙人が出てくる作品が多い。ファーストコンタクトものの基本はディスコミュニケーションだから、そういう意味ではズレが主題ともいえる。

 個別感想の箇所でも書いたけど「セキストラ」は星新一にしては長めの作品で処女作なだけに、多人数の書簡形式や現実的な人名や題材自体がやや性的な要素を含むなど他の作品ではあまりみられない作風もみられる。「処刑」「殉教」は長めの作品で、設定的には中編から長編でまとめても名作になっていたほどに秀逸なところがあるのに、それをこの形式でまとめてくれているのがたまらない。『ようこそ地球さん』というのは元々「不満」「神々の作法」「すばらしい天体」の三作品で構成されるオムニバス作品の総称だったらしいけど、本書では独立した作品として収録されている。どれも地球生物が他の惑星を訪れる話で、それぞれまったく違う味がしていて面白い。「蛍」「小さな十字架」はどこか優しさのある物語でやや異質。

 ベストはやっぱり「処刑」……いや「殉教」「天使考」も……けど「神々の作法」「証人」の皮肉もたまらないし「ずれ」や「悪をのろおう」「思索販売業」のユーモアも捨てがたくて……とちょっと難しい。

 ちなみに、本当にどうでもいい話だけど「天使考」は小学校高学年か中学一年くらいの頃に題名をパロディにして作文(エッセイ系/小説系/読書感想文のいずれか)を書いた記憶がある。作文の内容はサッパリ覚えていないけど書いたことだけ覚えているあたり、当時のおれにとってこのタイトルがいかに衝撃的だったかが良く分かる。

 

 

収録作一覧

「デラックスな拳銃」
「雨」
「弱点」
「宇宙通信」
桃源郷
「証人」
「患者」
「たのしみ」
「天使考」
「不満」
「神々の作法」
「すばらしい天体」
「セキストラ」
「宇宙からの客」
「待機」
「西部に生きる男」
「空への門」
「思索販売業」
「霧の星で」
「水音」
「早春の土」
「友好使節
「螢」
「ずれ」
「愛の鍵」
「小さな十字架」
「見失った表情」
「悪をのろおう」
「ごうまんな客」
「探検隊」
「最高の作戦」
「通信販売」
「テレビ・ショー」
「開拓者たち」
「復讐」
「最後の事業」
「しぶといやつ」
「処刑」
「食事前の授業」
「信用ある製品」
「廃墟」
「殉教」