電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

案内所

 

ポルノグラフィティ

《〇〇選》

「風景描写」10選

「心情描写」10選

「離別の歌詞」10選

「比喩表現」10選

「嘘と本当」10選

「悲観と陰鬱」10選

《もっと評価されるべき》

「俺たちのセレブレーション」

「Love,too Death,too」

「青春花道」

《隠れてねえけど隠れた名曲》

「蝙蝠」

「Sheep 〜song of teenage love soldier〜」

《歌詞解釈》

「ハネウマライダー」というポルノグラフィティを唄った曲

「メビウス(仮)」の可能性〔ぬいぐるみ、ネオメロドラマティック、老いた人〕

「ネオメロドラマティック」という寄り添い方

《ライブ感想》

「続・ポルノグラフィティ」感想〔おったまげて我が目を疑い震えた〕

「暁」感想[何度も終わりが来て時間感覚がバグった。そして温故知新な新曲]

「PG wasn't built in a day」の簡単な感想

「PG wasn't built in a day」感想[心躍るアトラクションとシリアスな映画]

「FANCLUB UNDERWORLD 6」の簡単な感想

《アルバム感想》

ポルノグラフィティ

1stアルバム『ロマンチスト・エゴイスト』感想

2ndアルバム『foo?』感想

3rdアルバム『雲をも掴む民』感想

4thアルバム『WORLDILLIA』感想

5thアルバム『THUMP χ』感想

6thアルバム『m-CABI』感想

7thアルバム『ポルノグラフィティ』感想

8thアルバム『∠TRIGGER』感想

9thアルバム『PANORAMA PORNO』感想

10thアルバム『RHINOCEROS』感想

11thアルバム『BUTTERFLY EFFECT』感想

12thアルバム『暁』感想

岡野昭仁

1stアルバム『Walkin' with a song』感想

《そのほか》

ポルノグラフィティのちょっとしたデータ集

ポルノグラフィティの色彩

 

 

音楽系

《アルバム感想》

King Gnu全アルバムの(簡単な)感想

《そのほか》

タイトル縛りのプレイリスト

死ぬまでにお琴を習いたい

King Gnu、Official髭男dism、ハルカトミユキ[ブロガー経由で聴き始めたアーティスト]

好きな曲名500選

 

 

映像作品

《最近見た存在する映画》

―2021年―

(ベスト5:「ミッドサマー 」「閃光のハサウェイ」「一分間タイムマシン」「バスターの壊れた心」「残酷で異常」)

09月(残酷で異常/狂った一頁/幻夢戦記レダ/ゴジラ/サイコ/ゴーストバスターズ)

10月(ミッドサマー/ジェーンドゥーの解剖/俺たちホームズ&ワトソン/片腕マシンガール)

11月(閃光のハサウェイ/SF巨大生物の島/カフカ「変身」/ヘンゼル&グレーテル/一分間タイムマシン/とっくんでカンペキ)

12月(ソウ/バスターの壊れた心/昆虫怪獣の襲来/項羽と劉邦 鴻門の会/あたおかあさん/ヤツアシ)

―2022年―

(ベスト5:「スキャナーズ」「ヘレディタリー」「孤独なふりした世界で」「メメント」「ドロステのはてで僕ら」)

1月(コマンドー/カルト/道化死てるぜ!/銀河ヒッチハイクガイド)

2月(マーズ・アタック!/ヘレディタリー/透明人間/ディアボロス/良いビジネス)

4月(プラットフォーム/ビンゴ/名探偵コナン 時計じかけの摩天楼/スマイル/Run Baby Run)

5月(曲がれ!スプーン/トップガン/ゾンビーバー/地下に潜む怪人)

6月(ハードコア/イミテーション・ゲーム/プロジェクトA/玩具修理者/Shutdown)

7月(ウィッカーマン/スキャナーズ/ゲーム/デッドコースター/縛られた)

8月(夏への扉/ポーカーナイト/蜂女の恐怖/デッド寿司/健太郎さん/高飛車女とモテない君)

9月(ガンズ・アキンボ/孤独なふりした世界で/ショウタイム/ストーカー/ジャックは一体何をした?/ANIMA)

10月(メメント/コラテラル・ダメージ/パニック・フライト/ミッション:インポッシブル/靴屋と彼女のセオリー/Two Balloons)

11月(キャメラを止めるな!/トレマーズ/ドロステのはてで僕ら/ルール/DAICON FILM版 帰ってきたウルトラマン/16.03)

12月(ファイト・クラブ/一度も撃ってません/必殺!恐竜神父/デストイレ/ドッペルゲンガー/Lost Senses)

―2023年―

(ベスト5:「ユージュアル・サスペクツ」「トップガン マーヴェリック」「騙し絵の牙」「ゴーン・ガール」「MONDAYS」)

1月(ユージュアル・サスペクツ/凍った湖/タッカーとデイル/ヒルコ/チャンスの神様/それからのこと、これからのこと)

2月(賢者の石/秘密の部屋/アズカバンの囚人/炎のゴブレット/不死鳥の騎士団/謎のプリンス/死の秘宝 PART1/死の秘宝 PART2)

3月(トップガン マーヴェリック/ゲット・アウト/スリー・フロム・ヘル/ファウスト/お雛様のヘアカット/おるすばんの味。)

4月(ノイズ/ミラクル・ニール!/ハード・コア/悪夢のエレベーター/I Just Wanted to See You/滲み)

5月(真・三國無双/かっこいいスキヤキ/アフリカン・カンフー・ナチス/とっととくたばれ/Letter to you/逢魔時の人々)

6月(名探偵ピカチュウ/隣のヒットマン/ブラック・レイン/マンディブル/ひとまずすすめ/ひとまずすすんだ、そのあとに)

7月(八つ墓村/プラネット・オブ・ロボット/Mr.&Mrs. スミス/パーム・スプリングス/ラ・ジュテ/モーレツ怪獣大決戦)

8月(騙し絵の牙/死体語り/ゲームの時間/N号棟/二人でお茶を/そこにいた男)

9月(地獄の黙示録/ゴーン・ガール/バブルへGO!! /僕らのミライへ逆回転/真夜中モラトリアム/ワールドオブザ体育館)

10月(明日への地図を探して/ロブスター/ビバリウム /PicNic/毒/白鳥)

11月(MONDAYS/ウィッチサマー/セミマゲドン /もしも昨日が選べたら/奇才ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語/ネズミ捕りの男)

12月(コマンドーニンジャ/18歳の"やっちまえ"リスト/デス・レース /クレイジー・キラー/サマーゴースト/フランケンシュタインの怪物の怪物)

―2024年―

(ベスト5:「失恋科)」「フォードvsフェラーリ」「ハロウィンの花嫁」「ボーはおそれている」「インターステラー」)

1月(きさらぎ駅/ザ・シスト/アドレノクロム/ヴィーガンズ・ハム/マレヒト/狐狸)

2月(ベイビー・ドライバー/ゴーストライダー/バーン・アフター・リーディング/ファイナル・ガールズ/予定は未定/失恋科)

3月(ドグラ・マグラ/21ジャンプストリート/フォードvsフェラーリ/地球、最後の男/パパにとってママは?/黄金色の情景)

4月(ロンドンゾンビ紀行/22ジャンプストリート/Saltburn/アミューズメント・パーク/寫眞館/陽なたのアオシグレ)

5月(14番目の標的/世紀末の魔術師/瞳の中の暗殺者/天国へのカウントダウン/ベイカー街の亡霊/迷宮の十字路/銀翼の奇術師/水平線上の陰謀/探偵たちの鎮魂歌)

6月(紺碧の棺/戦慄の楽譜/漆黒の追跡者/天空の難破船/沈黙の15分/11人目のストライカー/絶海の探偵/異次元の狙撃手/業火の向日葵/純黒の悪夢)

7月(から紅の恋歌/ゼロの執行人/紺青の拳/緋色の弾丸/ハロウィンの花嫁/黒鉄の魚影/100万ドルの五稜星)

8月(ユメノ銀河/ビデオドローム/ハッピー・デス・デイ/ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男/「蠱毒」(poison)/ブルーホール)

9月(黄龍の村/エルム街の悪夢/アダプテーション/ジーサンズ はじめての強盗/消えない/お願いだから、唱えてよ)

10月(THE FIRST SLAM DUNK/ボーはおそれている/コカイン・ベア/男が女を殺すとき/海/見ている)

11月(リバー、流れないでよ/地獄の変異/蝋人形の館/運び屋/歪み/内見)

12月(インターステラー/マトリックス/テネット/レディ・プレイヤー1/犯人/友達の家)

―2025年―

1月(Sprinters' Story/ミッドナイトスワン/花に嵐/神回/帰ラないマン/ラヂオ幽霊)

2月(十二夜/侵入者たちの晩餐/タイムトラベルZ/ゼイリブ/すいません、撮れませんでした。/夜勤明け男子のモーニングルーティーン)

3月(ハングオーバー!/ファンタジー・アイランド/スーパーマリオブラザーズ/オカルトの森へようこそ/幽霊の日記/よすが)

4月(オットーという男/十戒/黄泉の兵士/サイコ・ゴアマン/信号/先生)

5月(ベイブ/アメリカン・サイコ/前田建設ファンタジー営業部/アナと世界の終わり/HOME PARADOX/きえてたまるか)

6月(ブレア・ウィッチ・プロジェクト/Mr.ノーバディ/ボクたちの交換日記/審判/地下城の魔物/舞いあがる塩)

7月(怪獣ヤロウ!/隻眼の残像/真夏の方程式/リゾートバイト/銀河健康センター/銀河健康センター-2SET-)

8月(乱歩地獄/クネクネ/フライトプラン/ナチゾンビVSソビエトゾンビ/誰の部屋/川のほとり)

9月(ビバリーヒルズ・コップ/インサイド/コーチ・カーター/きさらぎ駅 Re:/煩頭/なにもかもがうまくいかないすべての男たちへ)

 

《最近見た存在しない映画》

―2021年―

(ベスト5:「ビーイング」「劇場版ヒストリエ 完結篇」「脱走と追跡のサンバ」「劉邦項羽」「アゲハ蝶とそのほかの物語」)

10月(ビーイング/ボッコちゃん/劇場版ヒストリエ 完結篇/文字を喰う人)

11月(脱走と追跡のサンバ/プリティ・マギー・マネーアイズ/劉邦と項羽/ニッポンの農業の夜明けの始まり/暗がり)

12月(アゲハ蝶とそのほかの物語/ショート・ストーリーズ/エコに行こう!/三国志な一日/生涯)

―2022年―

(ベスト5:「ゴースト&レディ」「スペースキャットvsアースキャット」「ご機嫌直しまであと何単位?」「蟲の恋」「組織は文字でいっぱい!」)

1月(乙嫁語り/色彩、豊かな日常/夢野久作の「冗談に殺す」/時は貨幣なり)

2月(ゴーレム ハンドレッド・パワー/珈琲ハウスへようこそ/白猫姫/歩道橋の上から見た光景)

4月(美亜へ贈る真珠/フラッシュ・ムービー/ちょっとだけUターン/旅に出よう)

5月(李陵/従者の物語/アイアン・ドリーム/スケッチ)

6月(命のネジを巻く旅人サバロ/熱いぜ辺ちゃん!/天使のわけまえ/瞳の奥をのぞかせて/花束と空模様の理由)

7月(そばかすのフィギュア/クラッピー・オータム/流浪の民/夢みる頃を過ぎても/ご機嫌直しまであと何単位?)

8月(ゴースト&レディ/死ね、マエストロ、死ね/嘔吐した宇宙飛行士/蟲の恋/ネコと時の流れ)

9月(コンフェッション/シリウス・ゼロ/悪霊少女/組織は文字でいっぱい!/なき声)

10月(スペースキャットvsアースキャット/戦いの華/スーパーウルトラメガバトルドッチボールマッチ/ウオッチ・メイカー/宝石の値打ち)

11月(ネオ・デビルマン/永遠の森/頼むからゼニを使ってくれ!/猫語の教科書/魔法と科学)

12月(リボーンの棋士/シンパスティック・ドリーム/すべての種類のイエスたち/天下無敵宇宙大将軍コーケイ/眼は語る)

―2023年―

(ベスト5:「天使のハンマー」「鄭七世」「閣」「時が乱れ過ぎている!」「害虫駆除」)

1月(空色/空間/空論/空虚/そらのはてへ)

2月(天使のハンマー/ファスト・ミュージック/もう勘弁してくれ!/スター・マウス/贈り物の意味)

3月(花と機械とゲシタルト/閨/ステンレス・スチール・リーチ/もう一度あなたと生きたいから、一緒に死にましょう/宇宙船生物号)

4月(裏バイト:逃亡禁止 劇場版/プロット・プロップ・プロンプト/鬨/鄭七世/未明の友)

5月(AWAY/閣/異星人対策完全マニュアル/ミュージック/走る)

6月(ソーシャル・エンジニアリング/スピニング/闢/落下/ガソリンスタンドでの一幕)

7月(早乙女さんにはもうデスゲームしかない/テアトルからの逃避/時が乱れ過ぎている!/閲/白い糸)

8月(午後の大進撃/俄雨/タイムマシンのハウツー/閭/一夜限りの友情)

9月(世界の果てまで何マイル?/閃/この夏、あなたのために華を/文字化けして読みにくいけど頑張って/雪景色)

10月(7.62ミリ/首/闌/グッド・デイ/世界は喜びで満ちている!)

11月(地球に磔にされた男/有名悪女になったので好きに生きたいと思います/閥/おとなしい凶器/小説工場)

12月(と、ある日の二人/闘/メビウス/偉大なる夢/害虫駆除)

―2024年―

(ベスト5:「氷の礫が融けゆくように」「チドと危険に遊ぼう」「解放区」「行為の最中のあなた」「根雨符」)

1月(ドリブレッドをおくれ/カラー・プレリュード/輝くものは全て宝石/残響で踊る人/氷の礫が融けゆくように)

2月(ザ・リーチ/海鳴り/農場を守れ!/チドと危険に遊ぼう/竜が乗った女から生まれた男)

3月(解放区/シンデレラ・グレイ/異端なスター/Low Love/ディッジュディリ・トゥーリィ)

4月(泥男の恐怖/変身人間ちえ/アリストテレスの誤解/自動車大戦争/見える?)

5月(Relink/Ruina/エターナル・リーグ・オブ・ネフィア/冠を持つ神の手/哀しさ)

6月(ミーアンの冒険/ホイッスラー/キャニオン・アイオン/教義と教条/さいご)

7月(スノードームの中にいるようで/悪党モアトゥー・アウトドアプール/スターター:アイディアの始まり/スティグミ/暴力)

8月(テンジュの国/おれはミサイル/見つめている/中古車クウキョナ販売店アイアンメイデン/閾値)

9月(アレルゲン/行為の最中のあなた/半端ない繁華街わけわかんない/クラック・イン・アウタースペース/予防措置)

10月(ヴィヴァーチェ/寂寥の劇場/太陽に向かって/ワニの初恋/手招きの声)

11月(指令と市場/ナーサリー、ハッタリ、バッサリ!/あの人のトランペット/宇宙ラーメン「青星」/ピエロ)

12月(フェアリーエンペラー/星降る夜に/根雨符/スコットのグロット/おーい、ここだよ)

―2025年―

1月(精神強奪者/弱者/前へ…!!/大事なマリーナ/博士と音の調べ)

2月(タイムストーム/見上げれば通天閣/バイカラー・ムーン/下水道のSEO/写真の前で)

3月(言伝/あくたれ/刻み込む支配欲/最低の映画/とっておきの贈り物)

4月(不能犯のストーカー/熱いぜ天馬!/殉死/タイムスリップお笑い芸人/珈琲の景色)

5月(史/防犯探偵/キャンピングカーは一週間/無頼な風 鉄/経済的身体)

6月(春風にようこそ/陽の当たる場所/チク・タク/アトリエで楽しめ/バスケットボールの風景)

7月(あなたにニュースをお伝えします/銀ヤンマ/共同使用講堂/マウザー/マイナスの感情)

8月(沼地の君たち/真実の男/ディア・デビル/凛烈な夜の寒さ/理解)

9月(宇宙の果てには売店がある/扇のかなめ/骨の音/交通局から撞球場へ/氷の礫が融けゆくように)

 

《映画》

『トゥルーマン・ショー』[トゥルーマンと恋人と毒親とおれたち]

『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』感想

『告白 コンフェッション』感想

『RTTT』と『新時代の扉』の比較――補強と変貌――

《ドラマ》

『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』[色とりどりの作品を押さえた良質なドラマ作品]

『世にも奇妙な物語 SMAPの特別編』[ゾッとする、意味深長な、笑みが零れる、どこか安心する、呵々大笑な……オチのついた物語たち]

『この動画は再生できません』[モキュメンタリー的ヒト怖と緩い空気のコントの融合]

『この動画は再生できません2』[ミステリ要素強めのホラーコメディ。ずっと眺めていたい緩さも健在]

『ユーミンストーリーズ』〔観るユーミン。上品で優しく厳しい物語〕

《その他》

観たいのに入手困難な映画やドラマ

 

 

書籍の感想/雑記

《国内SF作家》

山野浩一

『山野浩一傑作選Ⅰ/Ⅱ』[不確かさ、漠然とした不安、そしてやっぱり文章がかっこいい]

『いかに終わるか: 山野浩一発掘小説集』[単なる落ち葉拾いに終わらない作品群。傑作につながるモチーフ、不条理そのもの等]

『花と機械とゲシタルト』[権威に対する多様な見方の物語。10年後にまた感想書きたい]

梶尾真治

『美亜へ贈る真珠[新版]』[ほろ苦い恋物語にSFのエッセンス]

〈草上仁〉

『キスギキョウジ氏の生活と意見』[奇想とアイディアでいっぱいの短編集]

『大人になる時』[意外で奇想でホラーな短編集]

星新一

―単作―

「白い服の男」[普遍性という最高の美点]

ショートショート集―

『ボッコちゃん』〔ファンタジー/SF強めの初期傑作選〕

『ようこそ地球さん』〔ズレの物語/よそ者たち〕

『悪魔のいる天国』〔大人のための寝かしつけ物語〕

『ボンボンと悪夢』〔恐喝と強盗と宇宙人〕

『宇宙のあいさつ』〔時事への皮肉と因果応報の物語たち〕

〈そのほか〉

杉山俊彦 『競馬の終わり』〔競馬とSFが楽しめる暗く楽しい問題作〕

 

《海外SF作家》

フィリップ・K・ディック

―長編―

1950(死後出版)
『市に虎声あらん』〔なんだかよかった。好きかもしれない〕
1955
『偶然世界』[ヒーロー不在のワイドスクリーンバロック]
1956
『ジョーンズの世界』[初期らしい生真面目な良作]
『いたずらの問題』[ささやかなディストピアとユーモア]
1957
『宇宙の眼』[ぼくがかんがえたさいこうのせかい=他人には地獄]
『宇宙の操り人形』[エンタメな長篇と侵略の短篇三作]
1959
『時は乱れて』[主流文学の匂いとディックSFと]
1960
『未来医師』[ディックの書いた『火星のプリンセス』]
『ヴァルカンの鉄槌』[ディックの悪い所は薄めで娯楽要素満載]
1962
『高い城の男』
1963
『タイタンのゲーム・プレイヤー』
1964
『火星のタイムスリップ』
『最後から二番目の真実』〔情報の虚実を扱った薄暗いけど明るいラストの作品〕
『シミュラクラ〔新訳版〕』[すべてにせもの]
『アルファ系衛星の氏族たち』[深刻で真剣なのにコミカル]
1965
『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』
『ドクター・ブラッドマネー』[核戦争後の世界で日常生活群像劇]
1966
『空間亀裂』
『去年を待ちながら〔新訳版〕』〔ディック詰め合わせの良作〕
『テレポートされざる者』→『ライズ民間警察機構』[びっくりするほど眠くなるけど、すごく好き]
1967
『逆まわりの世界』
『ザップ・ガン』
『ガニメデ支配』[妙にキレイなB級SF]
1968
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
1969
『ユービック』
『銀河の坪直し』
1970
『死の迷路』
『フロリクス8から来た友人』〔主人公がだいぶ不愉快だけどそれなりに面白い物語〕
1972
『あなたをつくります』[なんかすごいの読んだぞ]
1974
『流れよわが涙、と警官は言った』
1975
『ジャック・イジドアの告白』[不発だった終末とそれからの人生の始まり]
1976
『怒りの神』[交互に味わえる大家の作風]
1977
『暗闇のスキャナー』[好きなような嫌いなような傑作]
1981
『ヴァリス〔新訳版〕』〔理解できたし面白いけど……やっぱり残念〕
『聖なる侵入〔新訳版〕』[読んでいると哀しくなってくる]
1982
『ティモシー・アーチャーの転生〔新訳版〕』[迷宮からの脱出と原点回帰]
1985(以下、長編は死後出版)
『アルベマス』[『ヴァリス』の原型にして『暗闇のスキャナー』の後継者]
『小さな場所で大騒ぎ』
1987
『メアリと巨人』
1988
『ニックとグリマング』

―短編集―

ディック傑作集

『パーキー・パットの日々』

『時間飛行士へのささやかな贈物』

『ゴールデン・マン』

『まだ人間じゃない』

ディック作品集

マイノリティ・リポート

ペイチェック

『シビュラの目』[政治と遠くからの声]

ディック短編傑作選

『アジャストメント』[生涯のテーマからさらっと笑えるコメディまで]

『トータル・リコール』[娯楽色が強くすっきり楽しく読める短編集]

『変数人間』[ショートショート、超能力、時代]

『変種第二号』[戦争と人造物+サスペンス=不安]

『小さな黒い箱』[変色した社会問題と神について]

『人間以前』[ファンタジーと子供たち。そして最良と最悪の発露]

新潮文庫三部作

『悪夢機械』〔魘される悪夢から喩えとしての機械までバラエティに富む短編集〕

『模造記憶』〔有名作と隠れた傑作となんともいえない作品とここでしか読めない短編と〕

『永久戦争』〔機械による戦争、政争、存在しない戦争、星間戦争〕

ダーク・ファンタジー・コレクション

『人間狩り』[ホラーテイストなディック作品集]

『髑髏』[異文化と戦争]

その他

『地図にない町』

『人間狩り』

『宇宙の操り人形』[エンタメな長篇と侵略の短篇三作]

ウォー・ゲーム

『ウォー・ヴェテラン』[異星人との戦争の哀しさ]

―そのほか―

SFといえばフィリップ・K・ディック

ロジャー・ゼラズニイ

『地獄のハイウェイ』[単純明快な娯楽作品。やっぱりロードノベルが好き]

『キャメロット最後の守護者』[機械とヒトと上位存在]

〈アルフレッド・べスター〉

『破壊された男』[めくるめく展開とハイテンポな文章がたまらない]

『イヴのいないアダム』[キレる名作短編とオムニバス式中編]

ハーラン・エリスン

『死の鳥』[エリスンのベスト短編集]

『世界の中心で愛を叫んだけもの』[暴力の嵐、愛情の渦、薬物の雷]

『ヒトラーの描いた薔薇』[苦痛と暴力と傲慢な神]

〈そのほか〉

『夏への扉』[ちょっとアレなところはあるけど楽しい小説]

『ストーカー』[古典的な冒険と現代的な発想の飛躍]

 

《アンソロジー

『世界ユーモアSF傑作選』〔会話よりもシチュエーションで笑いをとるタイプが多い〕

『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』[想像よりずっとバラエティパック]

『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』[短くキレのあるアンソロジー]

『チェコSF短編小説集』[とおい国からのSF]

『究極のSF』〔名前負けしない素晴らしいアンソロジー〕

《20世紀SF》[いろんな作品がいっぱいあるのは良いことだなあ]

『博奕のアンソロジー』[多種多様な競技。審判としての博奕]

『Yuming Tribute Stories』〔青春の終わり。もう取り戻せない日々の痛み〕

 

《文芸》

O・ヘンリ『O・ヘンリ短編集(一~三)』〔世界で愛される名作。いろいろな短編があって素晴らしいけどちょっと訳語が古めかしい〕

ロアルド・ダール『キス・キス』[意地悪いよなあ……]

ロアルド・ダール『あなたに似た人』〔暗がりの奇妙な味〕

J.L.ボルヘス『伝奇集』[短編小説/短編集の良さを再確認できた]

多和田葉子編『カフカ ポケットマスターピース 01』[饒舌な不安をごくごくと飲む]

湊かなえ『往復書簡』[徐々に明かされる情報とオチの謎解きが気持ち良い短編集]

湊かなえ『往復書簡』[詳細感想版]

夢野久作『少女地獄』[ぷうんと匂い立つ血の香りと破滅への想い]

吉村清子『劇場版 ウマ娘プリティーダービー 新時代の扉』[別の調理法で味わうあの感動]

宮城谷昌光『草原の風』[爽やかな皇帝の物語]

浜崎達也『劇場版 Steins;Gate 負荷領域のデジャヴ』[補足も説明も十二分に施されたノベライズ]

 

《ノンフィクション》

〈競馬〉

『名馬を読む』[中国史書で言えば本紀。生涯戦績、繁殖成績、社会現象、特異な事績など]

『名馬を読む2』[世家、列伝など。周縁事情、馬の関係性、時代、個性]

『名馬を読む3』[バラエティ豊かな名馬たちと最新の顕彰馬キタサンブラック]

『名馬を読む4』[栄誉の二レース、年に一度の栄光、忘れられない勝ち方、砂塵の競走]

〈歴史〉

『古代中国の日常生活』[小説仕立てで追体験する日々の営み]

『中国傑物伝』〔文明の擁護者、過小評価された男、バランサー、晩節を全うした者たち〕

積読本との闘いの記録》

今年読んだ本の簡単な感想2024

《雑記》

夢野久作はサイエンス・フィクションの夢を見るか?

漢の歴史と正当性の感覚

未知を読む昂奮と苦痛/既知を読む気楽と退屈

印象的な小説のタイトル650選

 

 

漫画の感想/雑記

岩明均の描く女性と「自分ではない者を良く描く」ということ

キミは熱血ギャグ漫画家、島本和彦を知っているか?

 

 

嘘八百を書き連ねた創作文章

《思い出》

思い出:フリーにはたらく

思い出:手帳

思い出:「急に寒いやん」

思い出:となり街

《文体の舵をとれ》

文章練習①

《そのほか》

生きていくためにとっても大切な薬物の話

さいきんよくみる変なゆめ

 

 

そのほか雑記

星新一はアル中を救う

学習:意味が分かるようになった瞬間

好きの言語化と嫌いの理由

読書感想文と方程式

はじめての遊戯王

完全初心者がマスターデュエルでプラチナtier1に上がった感想

スティルインラブ育成シナリオ[絶賛も酷評もしっくりこない傑作シナリオ]

野球のニュース見て漫画読み返してなんか落ち込んだ話

防犯の論理/倫理を知りたい

諡号と追号と名前の不思議

どうでもいいから読書が好き、だけど学ぶこともあるよね

嘘だからフェイクドキュメンタリーホラーが好き

フィリップ・K・ディック『ペイチェック』[分厚いだけにバラエティ豊かな短篇集]

 全575ページとディックの短篇集では最もページ数の多くてそれだけにバラエティ豊かな短編を収録してある。ディックの娯楽SFとしては他の追随を許さない「ペイチェック」のような明るい後味の作品もあれば「たそがれの朝食」のような時事性が極めて強い暗澹とした気分になる後味の作品もある。そういう意味でかなりお得ではあるけど、この本でしか読めない作品はないし発行年数とページ数の関係で本自体がやや脆くて破損しやすい欠点もあるから、無理に手に入れなくても良い一冊ではある。既に感想を書いている作品は省略した。

 

「小さな町」(Small Town)翻訳:小川隆

 現実崩壊。「パーキー・パットの日々」にも通じる現実逃避としての人形遊びがディック得意の現実崩壊的ホラーに結びついた作品。地下室で作業をするときに機関士の制帽を被るのが、彼が作っている町のディティールと相俟ってなんだか哀しい。鄙びた家庭が徐々に閉じていき、背筋が寒くなるラストへと落ちていく。

 

「自動工場」(Autofac)翻訳:大瀧啓裕

 人工侵略的外来種が文字通り「タネ」を放出するオチは、状況が絶望的なのに脱力感がある。一方的に物資を供給される状況では「パーキー・パットの日々」と共通するけど、本作の方が主体的に状況を打破しようと動く。そして、そうやって動くからこそ状況悪化してしまう。もちろん「パーキー・パットの日々」に比べて資源の枯渇という切実さがあるのだけど。

 

 

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 訳者あとがきによると本書は映画『ペイチェック』公開に合わせて新たに編集された短編集らしい。本書の発行当時(2004年)までに映画化されたディック作品のリストも載っている。また、既刊の翻訳本から採録したものがほとんどみたいで、当時のマニアが買うメリットはあまりなかったのかもしれない。個人的には初めて手にしたディックの短篇集ということで思い出深い一冊ではある。再読してみると硬軟明暗バランスも良くて、本書をディック入門時(というか海外SF入門時)に読めたのはかなり幸運だったのかも。

 上でも書いたけどページ数由来の脆さと経年劣化で数ページ破損してしまったから、ひとまず手には取らずに本棚の肥やししておこうと思う。……と書くと『トイ・ストーリー』的な罪悪感が湧くけど、こればっかりはしょうがない。

 ベストは「ペイチェック」。この流れで読むと娯楽作品としての上手さが特に際立つ。やっぱ、こういうの良いよなあ。ここでも書いたけど、読んだ当時は「ジョンの世界」が一番気に入っていたけど、今回はこっちに軍配を上げた。良い変化なのか悪い変化なのか。まあ、この辺は読んだときのコンディションにもよるからねえ。

収録作一覧(当該短編の感想はリンク先)

「ペイチェック」
「ナニー」
「ジョンの世界」
「たそがれの朝食」
「小さな町」
「父さんもどき」
「傍観者」
「自動工場」
「パーキー・パットの日々」
「待機員」
「時間飛行士へのささやかな贈物」
「まだ人間じゃない」*1

*1:別題:「人間以前」

最近見た存在しない映画(2025年10月)

黎明(2000年、日本、監督:武谷統子、123分)

 スペースコロニー型長距離星間飛行体キルクスを舞台にした長大でミクロな世界のSF作品。構成としてはキルクスの仁志と凛の会話→キルクス前史→仁志たちの時代→再び仁志と凛の会話という構成になっていて、真ん中の二パートは播種船の壮大な歴史や仁志たちの世代の人々の社会改革運動といった大きな視点で見たストーリーとなっているのに対して仁志の孫である凛の物語は極めてミクロな個人の生活に関する者に終始している。

 大きな視点の喪失と半径三メートルの幸不幸、と評した文芸評論家がいたらしい。間違いではないと思うけど、そういうゼロ年代文芸評論的な文脈でみる作品ではないんじゃないかな。それに本作を(変種の、という但し書きを付けているとはいえ)セカイ系としているのは流石にちょっと……。

 作り自体はやや散漫なところがある。尺に対して情報を詰め込みすぎてメインストーリーが分かりにくい。映像はハイレベル。邦画のSF作品のなかでは頭一つ抜けた出来だと思う。やや変わった設定をしているけど、SFとしてみるべきところはそのくらいかなあ。逆に言えばオーソドックスに出来ているわけで、SFに新規性を求めていないなら映像美だけでも充分鑑賞に値するはず。

《印象的なシーン》ソーダ味の飴玉を美味しそうに頬張る仁志。

 

 

ラヴ・レター(2014年、日本、監督:渡邉昌平、87分)

 一貫して一人称視点で作られているのが薄気味悪い。古典的な「信頼できない語り手」の作品ではあるんだけど、どこか含みがあり、それがまた気持ちが悪い。ストーリーはオーソドックスなホラーなんだけど演出手法がかなり変わっていて、どこか含みを持たせてある。違和感が気色悪い。

 ……これってループしているんじゃないかな。いくらなんでも犯人の男の思い込みが激しすぎるし、それに被害者の女性の言動にも不自然なところがある。もっと強く拒絶してしかるべきはずのに、どこか哀しそうに男を見ているシーンがある。記憶の破損、という言葉が意味深に繰り返されているのもそういうことなんじゃないかな。……まあ、なんでもリープとかループとかそういう時間SFで解釈しようとするのはオタクの悪い癖か。

 これを書いていて知ったんだけど本作には精神的(!?)続編が存在しているらしい。ネタバレを踏まない程度にざっと調べた感じホラーではなさそうだけど、一体どの辺が続編なんだろう。

《印象的なシーン》充血した眼。

 

 

和多田と多和田(2029年、日本、監督:田和太、95分)

 変わり続けることを恐れない……それを賞賛することができるのは「変わり続けた末にバケモノになってしまった人」を知らないからだ。変貌は、それが適応や進歩のためであったとしても、時に人間を怪物に変えてしまう。

 ガールミーツガール系の青春映画……と呼べるのは前半だけで後半は成長して変わってしまった二人のささやかな地獄が延々と垂れ流される。前半が苦しみや妬み嫉みを含みながらも相対的には爽やかな青春劇に終始していただけに落差がよけいに痛い。

 ほとんど不意打ちに近い悪趣味な展開は公開当時相当批判されて、実際興行的には振るわなかったらしい。おれはサブスクで見たから(それに前評判をある程度把握していたから)そんなに嫌悪感はなかったけど、たしかに映画館でこれ体験したら怒ってたかもなあ……。

《印象的なシーン》チョコレートを分け合う二人。

 

 

蒼い雫(1997年、アメリカ、監督:アーサー・カーティ、96分)

 涙の理由は問題ではない。重要なのはその涙がどこへと流れていくかだ。

 刑事もののファンタジー映画、というやや変わり種の設定にハードボイルド要素が付け加えられていてカオスと化した作品。物語の筋自体は極めて深刻で登場人物たちも至極真剣なのに、世界観のファンシーさが笑いを誘ってくる。これって笑っていいのか? と思わず疑問に思ってしまうほど、本作は真面目な作品だ。

 もちろん、製作陣は初めからコメディとして作っているらしいけど……いや、本当にどう書いていいか迷うんだけど「笑えるし泣けるし感動する」という感想で、笑えると泣けると感動するが並立しないのは初めての体験だった。笑える人は泣けないだろうし感動しない。逆もまた然り。

 変な映画だった。たぶん人生で五本の指に入るほど。

《印象的なシーン》「雫をこちらに」

 

 

「純粋無垢」は「馬鹿」の言い間違いさ(2099年、日本、監督:真崎有智夫、3分)

 社会派映画……ってことになるのかな。流石に全肯定はできないけどちょっと考えさせられるところがある。極めて偏った意見に引っかかるけど、そのあたりは尺の短さが救ってくれているところもある。

《印象的なシーン》「怒りは幅広く注目を集めることはできるが、それによって人を動かすことはできない」

最近見た映画(2025年10月)

タイムカット(2024年、アメリカ、監督:ハナー・マクファーソン、91分)

 ダイヤルアップ接続の音が懐かしい。そっか、2003年のパソコン事情ってこんな感じだったか……。一応生きていた時代がタイムトラベルの対象になっていることがなんだか感慨深かった。

 序盤は「いったいどこに着地させるつもりなんだろう」とちょっと不安だったけど、思っていたよりはキッチリまとめてきたし後味も爽やかなものがあって良かった。ただ、もうちょっとマーダーホラーパートが多めだと嬉しかったかも。SF的な設定が詳細に語られるタイプの作品ではなかったけど、たぶん世界がある程度の修正力を発揮するという『STEINS;GATE』の世界線に近いタイプの世界だったのかな。

 ただ、重要人物であるサマーがいまいち魅力的じゃなかったのがちょっと残念ではあった。普通の子だったといえばそうなんだけど、もうちょっと好感を抱けるようなシーンがあっても良かったんじゃないかな。いや、別に特段マイナスの要素があったわけじゃないんだけど、加点要素が乏しいのがなあ……。

《印象的なシーン》「眩くて強い何かが突然消えてしまうと、空間と時間に波紋が残るのだ」


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レンフィールド(2023年、アメリカ、監督:クリス・マッケイ、93分)

 小説の『吸血鬼ドラキュラ』のキャラクターを基に創った作品らしい。ドラキュラの物語を現代にアレンジした感じの作品っぽい。ホラーコメディに分類される作品で、序盤はポップに人が死んでいく感じも笑えて楽しかったけど、中盤からはややコメディ色が薄くなり、共依存からの脱却という現代的なテーマを交えたシリアス寄りのアクション作品となる。オチはホラーコメディらしく後味爽やかで楽しいのも良い。

 個人的にはもうちょっとコメディ要素強めのほうが好みだけどこれはこれで良く出来ていたと思う。アクションはキレていたしラブストーリー要素も見ていて微笑ましかった。まあ、レンフィールド君の元の家族のことがひっかかるところではあったけど。

 雰囲気もストーリーも尺もお手ごろなところに収まっている、とても良い意味で手軽な映画だった。

《印象的なシーン》「動けよ……」

 

 

来る(2018年、日本、監督:中島哲也、134分)

 ジャンルとしては社会派ホラーに分類されるかな。夫婦間における子育ての意識の違いや所謂毒親の影響力といったことが中盤までのメインテーマになっている。ややホラーの文脈から外れた物語だけど、それなりに見ごたえがあった。ただ、この辺の家族や子育てといった方面の問題意識がラストに回収されていないような気がする。……いや、うわべを取り繕わずに子供を見捨てなかったから二人は生還できたと考えると回収されてはいるのか。もちろん、知紗の残忍なまでの無垢さを含めて。

 序盤に提示された秀樹のエピソードがもっとストーリーに絡んでくると期待していたのだけど、秀樹の死とともにあっさりフェードアウトしたのはちょっと残念だった。あと、真琴がベランダで弾けたはずなのにどうして浴室にいたのか、野崎の気づきと怪奇現象の発生タイミングが合いすぎていることの不自然さ、等々ちょっとスッキリしないところもあった気がするけど、もしかしたら何か澪としていたのかもしれない。

 なんだかおかしい気がするけど、ラストのお祓いオールスターの大スペククルが楽しすぎて正直どうでも良くなった。あのシーンだけでこの映画は観る価値がある。

《印象的なシーン》オムライスの国の夢。

 

 

ディック・ロングはなぜ死んだ(2020年、アメリカ、監督:ダニエル・シャイナート、100分)

 ブラックコメディという触れ込みと印象的なタイトルに惹かれて見たんだけど……いやブラックではあったけどいうほどコメディだったか……?

 セクシャルマイノリティを扱ったシリアスな映画とみることもできる。三人組への軽蔑の視線は警察機構にマイノリティが自然と溶け込んでいることとの対比と読めないわけではないとは思う。ただ、あれはそういう問題ではないような気もするし、そういうテーマが物語全体に掛かってきているわけでもない。だからもっと純粋にブラックコメディとしてみるのが良いと思うのだけど、そうなるとコメディというところに引っかかって……まあ、英語の駄洒落的な要素とか両サイドの絶妙な頭の悪さに由来するすれ違いなんかはなんとなく笑えはするけど、起きていることの深刻さを打ち消せるほどの笑いにはなっていないし、マイノリティ/マジョリティへの皮肉や諧謔として機能しているわけでもない。うーん……いや、出来が悪いとまではいかないけど期待していたものが出てこなくて肩透かしを食らったというのが正直なところ。

 保安官はとっさについた嘘だと言っていたけど、たぶん本当にあったんだろうなあ。だから序盤から真相を暴くことをどこか渋っているような態度を見せていたのだろうし。

《印象的なシーン》ガソリンスタンドでの一幕。

 

 

ろうか(2025年、日本、監督:ぱん、3分)

 シンプルなシチュエーションホラー。不穏を煽る音響が素晴らしい。特に0:38近辺のブーンという音が印象的。

《印象的なシーン》最後の顔。


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ノック(2025年、日本、製作:未明シアター、2分)

 怪談を素直に実写化したという趣の作品。音響が良い味を出している。やっぱりドアを開けたのがよくなかったのかな。

《印象的なシーン》「ここだよ」


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ポルノグラフィティFANCLUBツアー「FANCLUB UNDERWORLD 6」の簡単な感想

 福岡公演に参加してきました。

当日は隣のドームで野球の試合があったこともありめっちゃ混んでいた。

 人生初のライブハウス。想像していたよりもずっと近い。席が存在しないライブ自体が初めてでどのくらいのものか分からなかったから、整理番号的にはもっと前に行けたけど一階やや前方辺りに位置どった。それでも近い。ポルノがそこにいる。岡野昭仁さん*1新藤晴一さん*2が肉眼で観察できる。視線も手の動きも見える。前回参加した「PG wasn't built in a day」もかなり近い席でテンション爆アガリだったけど、やっぱり箱の違いっておおきいんだなあ。違うタイプの近さに感激する。文化祭のステージの距離感。ポルノグラフィティが同級生だった。えっ、もしかしてNO SCORE? おれは十六歳で学生服着てあいつらとタメ口きいて駄弁って笑って喧嘩して……?

 前回と同じくネット配信等がないから一曲づつ感想を書くことはできなくて、全体的な雰囲気や一言コメントだけになる。詳細な感想はDVD/BDが発売されてから書く予定。

 以下、簡単な感想。

 ファンへの強烈なサプライズプレゼント。頭と尻尾を予想通りで挟んで前後の記憶が吹き飛ぶほどの衝撃がサンドイッチされていた。ライブで演奏頻度が高い所謂定番曲はアレンジが強めに、披露される機会が少ない楽曲は原曲に忠実寄りに演奏してくれたのがたまらなく嬉しい。

 ド頭一発目の「INNERVISIONS」は予想通り。「FCUW5」を踏襲してアルバムの曲順だろうという当然の予測もあるけど、待機中に流れていた音楽が「INNERVISIONS」のイントロだったからね。ラップパートも手拍子だったけど、リズムに合わせるのがちょっと難しかった。不思議なほど若さを感じさせる。「グァバジュース」は大好きな楽曲なのにほとんど記憶に残っていない。理由はサウダージのノーマイク歌唱があまりにも衝撃的だったから。一曲フルでマイクなし。最前列ではないおれにも伝わる圧倒的な歌唱。最前の人、よく正気を保っていられてなあ。楽器もボーカルに合わせた絶妙な音量感。ほとんど陶酔してた。だから直前の記憶が消し飛ばされた。返して! ぼくの「グァバジュース」を返してよ! おれは「グァバジュース」を聴いてグァバブレンドジュースを飲み始めたくらい「グァバジュース」が好きなのに……。あっ、これ書いていてようやく思い出せたけど〈そして笑顔うかべて引き金をひくんだね〉のところで顳顬に指鉄砲を突き付けていたのが良かった。早く聴きなおしたい。「愛なき・・・」はかなり原曲に忠実だった記憶がある。ロック調でダウナー。ただ、低音のパートがやや歌いにくそうだったような印象もあった。

 MCで昭仁が「いまから変わった曲をやるけど初めてライブに来た人はあとで詳しい人に聞いてみてね」みたいなことを言っていて、おれはてっきり「サボテン」をインディーズバージョン(「小さな鉢のサボテン」)でやるのだと勘違いして*3油断していた。「FCUW5」の「ヒトリノ夜」みたいなサプライズ枠だと思って単純にワクワクしてしまった。油断大敵。「オレ、天使」のイントロが流れ、明らかにいつもとは別の前口上が流れ始める。「Cupid」という言葉が聞こえた瞬間、おれの脳内で爆発する感情の昂り。「オレ、Cupid」は……やっぱりほとんど記憶に残っていない。意外性に打ちのめされてほとんど茫然としていた。「オレ、天使」に比べてよりロック寄りになっていたこと、歌詞がかなり変わっていたことだけは覚えている。いまになってもっと聴きたい、聴きなおしたい、歌詞を読みたい。それほどの衝撃を受けたのに「サボテン Sonority」の記憶が一応残っているのは知っている曲が流れたことに安心したからかもしれない。モニターの雨の演出がシンプルながらグッとくる。晴一がやや自虐的に語っていた「Name is man ~君の味方~」 だけど、会場の雰囲気にもっとも合った曲だったと思う。ゆったりとした雰囲気とライブハウスの規模感がマッチしていた。「デッサン #2 春光」はライブで聴けて良かった。ゆっくり心に染みこんでくる大人が受け入れるべき哀しさ。

 ややしんみりした雰囲気から明転して始まったのは「激ムズポルノ音当てクイズ大会」。えっ、そんなことまでやってくれるんですか。おれは指名されなかったけど、何人か当てた人がいて、心底うらやましかった。クイズの内容は全部覚えているわけではないけど、「幸せについて本気出して考えてみた」だけは即座にわかったことは覚えている。ただし「ROLL」は見事に「鉄槌」に引っかかってしまった。生演奏で音当てクイズがやれるとはなんて贅沢な時間だったんだろう。すっげえ楽しかったし盛り上がってとても良かった。楽しかったからDVD/BDに収録してくれないかなあ。

 再び演奏に戻る。爆発するいつもの楽しさミュージック・アワーで踊りはしゃいで汗かいて最高だった。最近は「暁」で披露されたファンクなアレンジで演奏される傾向があって、もちろんそっちも大好きだけど素材の味もやっぱり良いね。「空想科学少年」は……これがまた素晴らしい。ギターのリフに脳を灼かれる。あのミョミョミョミョンミョンっていう謎の音、ギターだったのか。ライブの非インスト曲でボーカルよりもギターに惹かれたのは初めてかもしれない。「Report21」はこの定番曲の「ミュージック・アワー」を抑えてライブで一番楽しかった曲かもしれない。瞬間的にびっくりするほど汗かいた。「夜明けまえには」はややロック寄りになっていた気がする。さらりと終わったことが却って次の曲を予感させた。

 ラストは『foo?』から飛び出して最新曲「THE REVO」。こちらも予想通りだった。最新曲でアルバムの曲数的に時間的余裕もあるから、という当然の予測もあったけど、なにより「夜明けまえには」前のMCがあまりにあっさりだったこと、それと昭仁の「アルバムからはこれが最後」という言葉が前振りになっていたから、やっぱりやるよねって心構えができていた。会場のほとんどの人が初聴きだったであろうこともあってややノリきれていないところもあったけど、シンガロングの部分も含めて、徐々に勝手がわかって盛り上がった。〈さらば過去よ〉からの言葉のラッシュに打倒されそうになる。尻上がりに加速していく楽しさがライブを締めくくってくれた。

野球の試合が長引いたこともあって帰りは意外と混んでいなかった。

 FCUW初体験だったけど想像以上に楽しかった。9年ぶりかあ……これ毎年やってくれないかなあ。いや、毎年やるなら福岡には来てくれないよなあ……けど、本当、二年おきくらいのペースでやってほしい、と思えるくらい純粋に楽しかった。

 願い事たった一つだけもしも叶えてくれるなら「オレ、Cupid」を音源化してほしい。早急に。DVD/BDよりも早く音源で聴きたい。とにかく聴きたい。デジタル・ダウンロード専売でもいいから。聴き返したさすぎてのたうち回っている。

*1:以下、敬称略。

*2:以下、敬称略

*3:曲順も「オレ、天使」と「サボテン」を逆で記憶してしまっていた。

フィリップ・K・ディック『あなたをつくります』[なんかすごいの読んだぞ]

 なんだかすごい小説だった。

 商売がうまくいかず崖っぷちにいる男たちが乾坤一擲の新商品を開発する。それはシミュラクラと呼ばれる模造人間で、大量の資料を読み込ませることで過去の偉人を精密に再現することができる。その開発の気苦労とか人間関係のいざこざ、そのシミュラクラを売り込む先の実業家サム・K・バローズとの丁々発止のやり取り……というのが本編三分の二くらいの内容。シミュラクラはディック頻出のモチーフである機械生命体(アンドロイドとか殺人兵器とか)。プリスという名前は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』に登場するネクサス6型のアンドロイドと同じである。プリスが『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』で重視された感情移入能力に欠けることは明らかなのに対して、作られた存在であるシミュラクラたち、特にリンカーンを模したシミュラクラは思いやりに満ちている。これはまさに『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の主題である「人間性」というものを、立場を逆にして描いているのだ。ディックにとって「人間性」とは人造物であるか否かで決まるものではない。心の在り様で決まる。だからこそ、シミュラクラであるリンカーンはヒトを思いやり、プリスは他人の気持ちを歯牙にもかけない驕慢さを見せる。こいつはすごい作品だ。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』をさらに一歩先に進めた傑作になるぞ!!

 ……ところがどっこい、そうは問屋が卸さない。プリスがバローズの元へと去ってから主人公のルイスは狂気を加速させる。元々ちょっと精神的に不安定だったのが恋心を抱いていたプリス*1が完全に自分たちを見捨てて栄達(……と呼ぶにはいかがわしすぎるけど)していくことで理性のタガが外れて感情のコントロールを失ってしまう。自分が何をしたいのか自分自身でよくわからないままにプリスを追いかけてシアトルへ旅立つ。取り戻すのかいっそプリスを殺すのか自分が死ぬのかバローズを殺すのか。思い付きで行動するから事態が迷走し始める*2。錯綜した精神状態は結局破綻してしまい、政府管轄の治療施設に収容されることになる。

 施設に収容されてからの約50ページはまったくSFではない。ただひたすらルイスの治療が描写される。幻覚による現実崩壊感覚はディック的であるがSFの文脈によるものではない。もちろん、この治療方法は現実にあるものではないだろうから、それをもってSF要素が活きていると強弁できないこともないけど、少なくともそれまで約350ページかけて描いてきたシミュラクラを巡る物語は最終的な物語の結末に何にも寄与しない。

 SFだけどSFじゃない。

 解説によると本作はディックが主流文学で身を立てようとしていた時期に書かれた作品らしい。元々ディックはSFではなくて主流文学を志していたわけで、そういう意味で本作はディックの未練と商業作家としての技能が歪な形で結合した作品であるといえる。前半部分はかなり良い意味で従来のディックらしいSF作品だったのが、急転直下まったく別の作品に変貌して、SFから離れたところに着地する。前半部は確かに『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の変奏曲的な作風だったけど、後半部は『暗闇のスキャナー』の前身的な作品だったように思う。

 群像劇的な作風の多いディックだけど、本作は完全に一貫してルイスから視点が動かない。ルイスは徐々に精神に変調をきたすのだけど、それ以前に序盤からして自分の子供くらいの女の子に本気で恋をするヤバさをもっていたし、なんともいえない粘着質な気性に嫌気がさして少しずつ好感度が落ちていく。だから序盤はプリスに苛立っていたけど、段々彼女の罵倒がに爽快感を覚えるようになった。特にP281-282の罵倒は爽快。

 プリスは驚くほど性格と口が悪いけど、罵詈雑言の主な対象がルイスだからなのか、それとも突き抜けすぎてちょっと笑えてくるからなのか、あまり嫌いになれない。もちろん身近にいてほしくはないけど。もっとも、プリスの言動は患っている病気に因るよところも大きいのだからあまり軽く扱うべきではないのかもしれない。ただ、「病気で自身でコントロールできることではないのだから強く責めるべきではない」と「それはそれとして腹が立つ」は両立しえると思う。

 面白かったかと問われると即答できない。不思議な作品だった。少なくとも前半部を読んだときに期待した作品ではなかった。隠れた名作とまではいえない。けれど、好き……かもしれない。いや、そこまで好きではない気がするけど嫌いではない。それにSFから離れたラストシーンにはどこか爽快感がある。

 本作は『暗闇のスキャナー』の前身的な作品かもしれない、と書いたけど、そう考えたときに本作の読後感が『暗闇のスキャナー』とは真逆だったことに気づく。傑作とは言い難いけど、どちらかというと好き寄り。ハッピーエンドとは言い難いけど、読後感はどこか爽やか。本を閉じて「なんだかすごい作品を読んだぞ」としばらく茫然としたことが、おれの本作への評価そのものだったのだと思う。

*1:おい、ビジネスパートナーの娘だぞ/ちょっとは年齢差のことを考えてくれよ……というのはいつものことだけど、それに加えて本作に関しては「いやいやルイスさん、プリスのどこがそんなに良いんですか。言っちゃ悪いけどびっくりするほど性格が悪いっすよ」と言いたくなってしまう。黒髪の健康そうな若い娘ならなんでもいいのか?

*2:この辺の作風は『タクシードライバー』なんかに近いかも。

ハーラン・エリスン『ヒトラーの描いた薔薇』[苦痛と暴力と傲慢な神]

 エリスンの第三短篇集(日本オリジナル)。二作目の『死の鳥』が実質的なベスト短編集だっただけに、どうしてもやや見劣りするところはあるけど、それでもエリスンエリスン。やっぱり素晴らしい。ただ、前二作よりもイマイチ度合いが高い作品もいくつかある。特に「ロボット外科医」は一通りエリスンに触れてから読むと印象がかなり変わる。最初期の作品なだけにまったくエリスンっぽくない。かなり悪い意味で普通のSF小説エリスンは最初からエリスンじゃなかったんだ! 人間性、感情移入能力の重視という意味でディックとかに近いとさえ思ってしまう。

 以下、気に入った作品の簡単な感想。「苦痛神」は文章だけでいったら一番好きかもしれない。暴力と哀しさ。「死者の眼から消えた銀貨」は普通小説でより根深い所にある差別意識を取り扱っている。完璧な善人など存在しえないという物語でもある。バシリスクはすさまじい暴力小説。戦争という人間の業と本国の人々の残忍さ、そして力を付与することでより残忍な結末へと主人公を導く蛇の神。エリスン特有の濃厚な暴力描写が主題とこれ以上ないほどキッチリ噛み合っている。誰が悪いとかそういうことではない。人と人ならざる者の残忍さ。「血を流す石像」は解説にある通り血の破壊とカタルシスに終始した作品。それだけに暴力の濃度は高い。「クロウトウン」は内宇宙的な作品。ぬるりと非現実的な世界へと足を踏み入れていく茫洋とした感覚が素晴らしい。彼のそれまでの所業とマンホールから降りていく下水道というシチュエーション、怒りというよりは客観的な罪と報いという趣が強い描写、暗示される情報、そのどれもが凄まじい。ヒトラーの描いた薔薇」は神という存在への不信感をヒトラーという存在を扉にして描いている。タイトルになっているのに最初と最後にしか出てこないヒトラーがそうとは思えないほどの存在感を放つ。「大理石の上に」は知っている神話が出てきてちょっと面食らったことを覚えている。もう一つ上の存在になっていたはずだったのに。

 ベストは「バシリスク」と悩むけどやっぱり「クロウトウン」かな。小説としての完成度の高さは互角だけど、題材と手法はこちらのほうが好みだから。

 どうして兄さんはあたしたちに、、、、、、、、、、、、、、こんな仕打ちをしてくれたの、、、、、、、、、、、、、? どうして、、、、
 なぜならそれは、おれが人間だからだ。弱い人間であり、人間ならばだれしも、そんなことに堪えられる、などと期待されるべきではないからだ。なぜならおれは生身の人間でり、それに堪えるべきだと規定しているルールブックではないからだ。なぜならおれは一睡もできない状態に置かれ、それ以上はそこにいたくなどなかったから、そしてだれもおれを救ってくれるものはいなかったからだ。なぜならおれは生きたかったからだ。(P150-151「バシリスク」)

収録作一覧

「ロボット外科医」
「恐怖の夜」
「苦痛神」
「死者の眼から消えた銀貨」
バシリスク
「血を流す石像」
「冷たい友達」
「クロウトウン」
「解消日」
ヒトラーの描いた薔薇」
「大理石の上に」
「ヴァージル・オッダムとともに東極に立つ」
「睡眠時の夢の効用」

最近見た存在しない映画(2025年9月)

宇宙の果てには売店がある(2025年、日本、監督:山本淳、121分)

 ショートムービー集……というより映像の断片集といった感じの映画。極めて短い映像の詰め合わせで、次々と休む間もなく生活感のあるSF世界を提供してくれるというわんこそば的シネマエクスペリエンス。

 原作の「宇宙に散らばる161の断片」をかなり忠実に映像化している。一頁で完結する物語……というか不思議が存在する世界の描写というべきか……をおおよそ一分、ものによっては三十秒程度で描いている。

 原作の良さを十二分に活かした映画だったと思う。日常にある少し不思議、もしくは惹句にもなっている「SFのSは生活のS」が体現された作品だった。本当にその一瞬だけを切り抜いたものから、前後の展開を予感させるものまで想像よりもバリエーションが多彩。その反面、一貫したストーリーが存在しないことが眠気を誘うという人もいるらしく、そういう意味では人を選ぶ映画かもしれない。

《印象的なシーン》保温しすぎたご飯のような色の空。

 

 

扇のかなめ(2030年、日本、監督:高藤武、120分)

 名前の通り「扇のかなめ」を目指したい、という少女海場かなめの物語。父親に連れて参加した(させられた)草ソフトボールチームから始まりクラブチームでの四苦八苦から強豪校での苦闘の日々を丹念に描く。原作は小説らしくて、高校を卒業するまでが学生篇で、そこからは大学篇とプロ篇と続いていくらしいけど、映画は学生篇のみに絞って作っているらしい。時間の経過によって主人公含めてメインキャストの役者が入れ替わるのはけっこう挑戦的な試みだったと思うけど、個人的には成功していたと思う。全体的に演技は上手いし、役柄に対してリアルに近い年齢帯の役者を起用しているから違和感も少ない。

 基本的には正道のスポコン映画だけど、ところどころ過去事象の再体験によってキャラクターたちの過去や未来までも案に描写するという手法によってやや入り組んだ人間ドラマを構築している。過去の記憶を思い出せる中心人物がかなめであることも、彼女がチームの扇のかなめであることを示唆している。

 ちなみに感想を漁ってみると「大学篇の終わりからが本番なのに」とか「プロ篇こそがこの作品の本質」みたいな意見が目立っていた。おれは原作を読んでいないからなんともいえないけど、映画単体で見ても過不足ない作りだったし綺麗にまとまっていたから、これでよかったと思う。好評なら続編が作られるかもしれないし、そっちに期待すべきなんじゃないかな。

《印象的なシーン》刺すような牽制球。

 

 

骨の音(1992年、日本、監督:山石明、78分)

 どういう内容だったのか、と問われると答えに困ってしまう。なんというか……含みがあるような気がするけど、そういうことじゃなくてもっとストレートに受け取って良いような気もする。不思議な作品。

 終始落ち着いた雰囲気で進行していく。あまり派手なストーリーではないけど、アクション……というか生々しい暴力描写はあるし、全体的な役者のレベルが高いこともあって眠気とは無縁の作品に仕上がっている。

 終盤のカオリの台詞は忘れがたいものがあるけど、最初は正直どういう意味なのかよくわからなかった。なんども映画を見なおして考えてみたんだけど……あれってやっぱりフラッシュバックに近いものだったのかな。中村の自殺的な行動と電車の十によって彼が自殺した元カレと重なって見えて、だからああ叫んで、「おまえはあいつじゃない」と伝えた(宣言した?)……ってことかなと思っているけど、どうだろう。

 生死と涙、死んだ子犬、眼、骨と子犬が寄り添う暖かな絵。誰かと寄り添い生きた獣。

《印象的なシーン》砕けるな!!

 

 

交通局から撞球場へ(2008年、アメリカ、監督:アンジェラ・パグリッシ、100分)

 しがない平凡な公務員がビリヤード場では一転して華やかな名物プレイヤーに変貌するという設定はやっぱり魅力的。屈服して鬱屈とするしかない日常生活で味わう臓器が垂直に落下していくような感覚を如実に描いたうえで、華やかで楽しく競い合える空間を描写することによる落差は、ある意味でおれたちが日々の暮らしの中で体験していることでもある。たまにイベントに参加すると、別に自分が主役というわけではないのにそう思えてしまう……という人も多いだろう。

 基本的な物語の筋はわりと単純。田舎町のビリヤード場でスタープレイヤーだった主人公が大規模な大会に出場することで自分が井の中の蛙であることを思い知りつつも、それでもビリヤードを嫌いにはなれずに、それまでの信望を失いながらも地道に努力して再び大会にチャレンジするというもの。高いところから突き落とされて、そこから徐々に這い上がり最初よりも高い位置に到達するという物語の典型だけど、丁寧に料理してあるからちゃんと美味い。

 どこか物悲しさもありつつ、決してバッドエンドではないラストシーンは必見の価値がある。実はちょっと別の作業をしながら見ていたんだけど、このあたりのシーンがあまりに良かったから手が止まって魅入ってしまったくらいだった。

《印象的なシーン》スッと立ち上がるジョセフ。

 

 

氷の礫が融けゆくように(2066年、日本、監督:真崎有智夫、12分)

 狂い。硝子の世界。画面が綺麗。一人称視点。SFのようなファンタジーのような。妙に美味そう。融ける、砕ける、消える。嘔吐。喪失。彷徨。

《印象的なシーン》激しく揺れる画面。