電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

フィリップ・K・ディック『市に虎声あらん』〔なんだかよかった。好きかもしれない〕

ディックの普通小説。SF/ファンタジー的な現象はまったく起きない主流文学小説で、事実上の処女作というべき作品らしい。正直、あんまり好みじゃないかなと思いながら読み進めていた。なにより肩ひじ張った文章にうんざりしていたけど、だいたい40ページくら…

江面弘也『名馬を読む4』[栄誉の二レース、年に一度の栄光、忘れられない勝ち方、砂塵の競走]

活字で読む名馬たちの物語。一冊を通したコンセプトがあるわけではなく、どの名馬/名レースも同じ紙幅で描かれていることから、全体の感覚としては二作目に近い。また「はじめに」にある通り一章は『名馬を読む』というより『名伯楽と名手を読む』といった感…

最近見た存在しない映画(2024年3月)

解放区(2025年、日本、監督:今井八朔、109分) 最初の数分を除いて一貫して夜の景色で構成された映画。やや画面が暗くて見ずらいところはあるけど、それだけにファンファーレや花火で彩られる画面の華やかさが際立っている。ほぼ一貫して夜という意味で逆…

最近見た映画(2024年3月)

ドグラ・マグラ(1988年、日本、監督:松本俊夫、109分) 大学生くらいのころにレンタルで視聴済み。2020年にBDが出たんだけど(主に資金的な)諸事情があって躊躇していたのを今回思い切って購入した。 夢野久作的なおどろおどろしい雰囲気や現実ぐらぐら感…

ポルノグラフィティ19thライブサーキット「PG wasn't built in a day」の簡単な感想

福岡公演に参戦してきました。 すげえ近かった。うっひょひょひょ、やったやったやったたー! 人生でこれ以上ステージに近づくことはないと思う。肉眼で壇上の人々が見えて、生の声なんじゃないかと錯覚しそうなほど間近な声が、楽器が、床を這って伝わって…

フィリップ・K・ディック『ヴァリス〔新訳版〕』〔理解できたし面白いけど……やっぱり残念〕

思ったよりずっとわかる話だった。 旧訳で読んだときより物語の筋をちゃんと理解できたのは翻訳のおかげなのか年月がそうさせてくれたのか。新訳のほうが俗語をちゃんと俗っぽく翻訳してくれているみたいで、少なくとも本書については新訳のほうが正しいよう…

最近見た存在しない映画(2024年2月)

ザ・リーチ(1953年、アメリカ、監督:ジェフ・シャセット、70分) おどろおどろしい雰囲気と不条理な宇宙生物の襲来、その対策に関する人間関係のいざこざ科学技術に創意工夫、そしてもう一段のオチ……と古典的な怪獣映画。もちろん映像技術的には現代の映画…

最近見た映画(2024年2月)

ベイビー・ドライバー(2017年、イギリス/アメリカ、監督:エドガー・ライト、113分) すごい。冒頭一発目のカーチェイスだけで元が取れる。音楽とカーアクションは文句なく素晴らしいけれどストーリーは良くも悪くもオーソドックスで新鮮味はない。個人的に…

King Gnu全アルバムの(簡単な)感想

ここでも書いたけど聴き始めたのは世間で評判になっていたからというのと好きなブログで推されていたから、というだいぶニワカな理由からだった。とりあえず公式YouTubeにアップロードされているMV動画をいくつか聴いてみるか……と何気なく聴いたのが「傘」だ…

フィリップ・K・ディック『フロリクス8から来た友人』〔主人公がだいぶ不愉快だけどそれなりに面白い物語〕

マジで読むのやめようかと思った。というかディックじゃなかったらやめていた。一部登場人物が不愉快。以下、悪口の羅列。 デニーは人が見ている前では殴らないって、いやさっき思いっきり殴りかかってたでしょ。いや、なんだこいつ。マジで奥さんの方が正し…

最近見た存在しない映画(2024年1月)

ドリブレッドをおくれ(2010年、アメリカ、監督:クラレンス・メツガー、124分) ほんの少しの水ドリブレッドを巡る人々の葛藤を淡々と描いている。背後にある陰謀論的世界と、それに関わっているはずなのに事態の進行から疎外され続ける主人公のK・カフ(K.C…

最近見た映画(2024年1月)

きさらぎ駅(2022年、日本、監督:永江二朗、82分) ネットロアを基にした映画で、元ネタは一応は読んだことあったし元ネタを原案に大幅にアレンジした映画ということは知っていたけど、まさかここまでパニック映画風になっているとは……けど、登場人物を増や…

杉山俊彦 『競馬の終わり』〔競馬とSFが楽しめる暗く楽しい問題作〕

待望の競馬SF。序盤の短文の連続(緊迫感を出したいわけでもないのになぜ?)に面食らって、正直試し読みもしないで買ったことをちょっと後悔したけど、それ以降はそんなことなくて安心した。よく「問題作」という評を聞くけど、これは確かに問題作としか言…

tvk『この動画は再生できません2』[ミステリ要素強めのホラーコメディ。ずっと眺めていたい緩さも健在]

待望の続編。やったぜ。前作と同じく25分を四話と手軽に楽しめるホラーコメディ。基本的な設定および構成も前作を引き継いでいるけれど、一話の冒頭に前作の補足(と最終話への伏線)となる映像が挿入されている。また、謎を解明した後に第三者視点での種明…

フィリップ・K・ディック『永久戦争』〔機械による戦争、政争、存在しない戦争、星間戦争〕

収録作品はすべて既読。戦争を題材にしたコンセプトアルバムだけどせっかく「ジョンの世界」が収録されているのだから「変種第二号」もセットで収録してほしかった。そこはちょっと残念。収録作の感想は大森望編『ディック短編傑作選』シリーズで書いたので…

フィリップ・K・ディック『模造記憶』〔有名作と隠れた傑作となんともいえない作品とここでしか読めない短編と〕

収録作の大部分が既読。主に中期の作品を収録しているらしい。タイトルの通り「つくりもの」を題材にした作品が多い……わけでもなさそう。どちらかというと「追憶売ります」の存在感からタイトルがつけられたんじゃないかな。大森望編『ディック短編傑作選』…

フィリップ・K・ディック『悪夢機械』〔魘される悪夢から喩えとしての機械までバラエティに富む短編集〕

収録作はすべて既読。タイトルにあるように一夜の「悪夢」的な展開の作品(「調整班」「スパイはだれだ」「出口はどこかの入口」「凍った旅」)直喩比喩を含む「機械」的なものを扱った作品(「超能力世界」「新世代」「少数報告」)そのほかこの二つに括れ…

最近見た存在しない映画(2023年12月)

と、ある日の二人(2025年、日本、監督:池地ツナ、88分) 原作にある独特の雰囲気が十二分に活かされた映画。個人的にはアニメで観たかったけど実写でこれほど原作再現ができているのはすごい。「と、ある日のわたしとタケル」「と、ある日の僕のひも」のみ…

最近見た映画(2023年12月)

コマンドーニンジャ(2018年、フランス、監督:ベンジャミン・コンブ、68分) パロディ満載大変愉快な映画。 タイトルの通りおバカな低予算自主製作映画。『コマンドー』と忍者をくっつけたタイトルで基本咳な設定はたしかに『コマンドー』のパロディだけど…

フィリップ・K・ディック『去年を待ちながら〔新訳版〕』〔ディック詰め合わせの良作〕

いいタイトル。ディック要素……懐古趣味(「パーキー・パットの日々」)、代替臓器で長生きする老人(『最後から二番目の真実』)、人造の疑似生物(『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)、特殊なドラッグ(『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』)、…

最近見た存在しない映画(2023年11月)

地球に磔にされた男(2017年、日本、監督:山田寛一、100分) 素晴らしい。時間SFの中でもかなり変わり種で理論はタイムトラベルだけどやっていることはパラレルワールドの移動で、落着はタイムリープものに近い。すげえや、時間ものの新機軸だ! 怠惰な男が…

最近見た映画(2023年11月)

MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない(2022年、日本、監督:竹林亮、82分) めっちゃ面白い。やっぱり時間循環ものはいいねえ。登場人物それぞれに個性があるけど不快感はなくて時間もの特有のイライラさせられるような描写もほとんど…

フィリップ・K・ディック『最後から二番目の真実』〔情報の虚実を扱った薄暗いけど明るいラストの作品〕

印象的なタイトル。内容のほうはそこそこ。作品全体を見るとわりとちゃんとしている(ディック比)けどかなりライブ感が作っているところがあって勢いで展開を決めて次の章でフォローして辻褄合わせているっぽい。だからキャラクターの性格や立場があまり固…

どうでもいいから読書が好き、だけど学ぶこともあるよね

タイトル、内容、著者、表紙デザイン、ジャンル、書き出し数ページ、ペラペラ捲った文字の並び、あとがき解説の文章、書評、知人の紹介等々、本を手に取る要因は人によってさまざまだ。おれは「財布が許してくれる範囲では」という但し書きがつくけど興味が…

最近見た存在しない映画(2023年10月)

7.62ミリ(1988年、チェコ、監督:オンドジェイ・ランパス、124分) 対象物を見ると死ぬ(別生物に変質する)という設定は(逆だけど)藤田和日郎『邪眼は月輪に飛ぶ』を思い出す。もちろん年代を考えると両者ともにまったく影響しあわないところで作られた…

最近見た映画(2023年10月)

明日への地図を探して(2020年、アメリカ、監督:イアン・サミュエルズ、99分) 時間循環タイムループSFに外れなし。面白い。この手の映画にしては自暴自棄バイオレンスなシーンがほとんどないのも好印象。最近見た映画だと『パーム・スプリングス』もそうだ…

ジュディス・メリル編『SFベスト・オブ・ザ・ベスト』〔古さも目立つけど良質なアンソロジー〕

だいぶ昔にスタージョン目当てで上巻を古本屋で購入していた。そのまま読まずに本棚の肥やしにしていたけど、2022年に名作復刻キャンペーンで上下巻が新刊書店で入手できるようになったので「復刻されたことだし上下巻でそろえておこうかな」くらいの気持ち…

星新一『ようこそ地球さん』〔ズレの物語/よそ者たち〕

「デラックスな拳銃」 無用な多機能拳銃保有のチンケな男。 デラックス。強盗(?)。本来の用途とは無関係な機能をこれでもかと付けた携帯可能な道具、ということでスマートフォンを予見したといえなくもないけど、これはそういうことを気にするべき作品で…

思い出:「急に寒いやん」

今週のお題「急に寒いやん」 「急に寒いやん」 あいつの口癖だ。だからこの季節には彼を思い出す。大学の同期で一回生のオリエンテーションで知り合った。あいつは見た目が派手……各種ピアスに輝く色の長髪……で、俺とはまさに正反対の男だった。学籍番号の並…

最近見た存在しない映画(2023年9月)

世界の果てまで何マイル?(1993年、アメリカ、監督:ウィリアムズ・クリスタルマン、103分) マジックリアリズム・ロードムービー。派手さはないけど、なんだかたまらなくなってくる。印象的なのは、やっぱりトーキング・マン。名に反して本当に一言も発す…