電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

King Gnu全アルバムの(簡単な)感想

 ここでも書いたけど聴き始めたのは世間で評判になっていたからというのと好きなブログで推されていたから、というだいぶニワカな理由からだった。とりあえず公式YouTubeにアップロードされているMV動画をいくつか聴いてみるか……と何気なく聴いたのが「傘」だった*1


www.youtube.com

 衝撃的だった。やっべえ。初めて聴いて一発でこんなに好きになったのはマジでポルノグラフィティ「アゲハ蝶」以来だった。すげえ。詳しくは後段で書くけどなんだかわからないけどリピートが止まらなかった。おれは心が初めて目に入ったものを親と思い込む鳥と同じだから初めて好きになったものがオールタイムベストであり続けることが多いのだけどKing Gnuも例外ではなく「傘」がいまのところ一番好きな曲だ。

 というわけで「傘」が収録されている『CEREMONY』から始めて遡って二枚のアルバムも聴くようになった。上に挙げたのでも書いたけどエリスン世界の中心で愛を叫んだけもの」を読んだ時の感覚に近くて、ぜんぜん知らない国の料理を食べているような気分だった。

 熱烈なファンとはいえない人間の感想だからファンからすればかなり浅いものになると思う。二人の歌唱の比較とか歌詞楽曲の傾向の検討とか歌詞解釈なんかはほとんどできない。タイトルの通り簡単な感想でしかないけど、まあ、枯れ木も山の賑わいということで。

 アルバム名、曲名、曲順等はすべて公式サイトから引用している。Spotifyで聴いているアルバムもあるからCDと差異があっても対応できていない。

 


『Tokyo Rendez-Vous』

 暗い。深い夜のイメージ。雨は降っていない。都会。唯一のアップテンポな曲「あなたは蜃気楼」にも嘲笑の色があって、ぱっと明るい印象はない。ただそれほど後ろ向きな印象はなくて、どこか眠れなくて起きているときにふと頭によぎる過去への煩悶や自傷的な感情を連想させる。タイトル(と表題曲)も含めてどこか上京してきた野望を抱く青年のイメージがあるのは、製作当時の若さが色濃く反映されているからかもしれない。深夜に酒を飲みながら聴きたくなるアルバム。

 喧騒と倦怠感を混沌に煮詰めている「Tokyo Rendez-Vous」。「あなたは蜃気楼」はイントロの嘲笑が忘れなられなくなる。緩急がついた二人の歌声の清濁に目が回る「Vinyl」。印象的なタイトルの「破裂」はラストの伴奏が消える瞬間がグッとくる。

 一番好きな曲は「ロウラヴ」。すげえ好き。曲も歌詞も歌声もすべてが哀しい。胸が抉られる。もうどうしようもない二人の関係性が虚しくも切実。三分程度の短い時間と少ない言葉でたくさんの情景と複雑な想いが思いうかぶ。哀しさ、虚しさ、夜、都会……このアルバムの要素がふんだんに盛り込まれている。

01. Tokyo Rendez-Vous
02. McDonald Romance
03. あなたは蜃気楼
04. Vinyl
05. 破裂
06. ロウラヴ
07. NIGHT POOL
08. サマーレイン・ダイバー

 

 

『Sympa』

 一連のインタールードが海難事故を連想させる。前作に比べてかなり聴きやすい(というか分かりやすい?)曲が多くて音楽低劣偏差値人間のおれにはありがたい。前半にアップテンポでノリがいい曲が多くて後半はグッとくる重いバラードが固まっている。アップテンポ系→中間→バラードとグラデーションを描いていて、なんとなく朝日が昇り沈むまでの一日を連想した。「Flash!!!」が爽快な一日の始まり。「Don't Stop the Clocks」は穏やかな昼下がり。「Prayer X」で夕暮れで「The hole」が就寝直前の深夜みたいな。もちろん、そんな法則(?)に完全に従っているわけじゃなくて、あくまでイメージだけど。

 ヒップホップなリズムで繰り出される荒んだスラム感がたまらない「Slumberland」。「Sorrows」の終盤に繰り出される脳が破壊されそうなギターソロを無限にリピートしてしまう。誠実と退廃が交差する「Hitman」。眠るまえに「It's a small world」で緩やかに「Bedtown」で激しく一踊り。「Prayer X」で頭を巡るミクロとマクロの生命。

 一番好きな曲は「Flash!!!」。単純明快にアップテンポで楽しくて反骨的でストレートにぶん殴って奮起させてくれる。〈Flash〉〈スピード〉〈輝ける〉〈光〉と首尾一貫した加速の表現が曲調と相まって目を眩ませる。あっという間に終わって数秒呆けてさあもう一回。

01. Sympa Ⅰ
02. Slumberland
03. Flash!!!
04. Sorrows
05. Sympa Ⅱ
06. Hitman
07. Don't Stop the Clocks
08. It's a small world
09. Sympa Ⅲ
10. Prayer X
11. Bedtown
12. The hole
13. Sympa Ⅳ

 

 

『CEREMONY』

 バラエティ豊かでどこか余裕を感じるのは「白日」が日本の世代を代表するレベルの大ヒットを飛ばしたから……というのは邪推に近いか。おれみたいな音楽感性が死んでいる人間にも聴きやすいアルバムだけど、King Gnuらしい未知もある。全体を通してやや明るいイメージがあるのは「小さな惑星」「Overflow」が効いているのと「ユーモア」が明暗の中間にあるからかもしれない。家事をしながら、寝る前に、食事をしながら、ただ暇ができたから、隙あらば聴き返しているアルバム。月並み極まりない表現になるけどマジで名盤だと思う。

 前奏なしにハイテンポでかっ飛ばしていく「どろん」でまずはボルテージを上げる。「Teenager Forever」は青春を過ぎた視点から回顧しつつ過去は変わらないことを前向きに受け止める。ささやかな機知が効いた「ユーモア」。雪の描写が忘れがたい「白日」。アップテンポでもないのにこんなに高揚させられるのは「飛行艇」が唯一無二。アルバムの中でもっともおれが知っている音楽(J-POP?)に接近している「小さな惑星」は〈くしゃみをして笑い合うのさ〉がたまらなくなる。

 一番好きな曲は「傘」。おれにはどういう音楽ジャンルになるのかサッパリわからないけど、とにかく良い。耳心地が異常に良い言葉で繰り広げられる茹だった日常。対話のような回想のような他人のような自省のような事故の客観視のような歌詞。イントロとアウトロのみょんみょんみたいな音はいったいなんなんだろう。中毒になりそう。

さよなら
ハイになったふりしたって
心模様は土砂降りだよ
傘も持たずにどこへ行くの?

ここ好き。とても好き。すごく好き。

01. 開会式
02. どろん
03. Teenager Forever
04. ユーモア
05. 白日
06. 幕間
07. 飛行艇
08. 小さな惑星
09. Overflow
10. 傘
11. 壇上
12. 閉会式

 

 

『THE GREATEST UNKNOWN』

 これまでのアルバムも随処にインタールードを挿入する構成が多かったけど、このアルバムはインタールードが前後の曲を補強して繋ぎ合わせていて、アルバム一枚が通して一つの楽曲のようですらある。どういう計算が働いているのかはおれのすべすべ脳みそではわからないけど、とにかく一枚通して聴きたくなる。多くのシングル曲がアルバムアレンジで収録されていて、特に「千両役者」はかなり印象が変わっている。変化の方向性が抑制的だからアルバム全体の雰囲気に合わせているのかなと思う。アルバム全体では明暗というより落ち着いている、という印象が強い。

 咽喉が灼けそうなほど度数の高い洋酒のような「一途(ALBUM ver.)」。「逆夢」では寒い夜と強い意思の対比に情緒を揺さぶられる。疾走する「千両役者(ALBUM ver.)」では古めかしい言葉を休む間もなく撃ちつけられて「硝子窓」では〈高速〉に額を貫かれる。サビの切実さではほとんど唯一無二の「泡(ALBUM ver.)」。二人で歌っているのに独演会の「三文小説」。

 ちなみに「泡(ALBUM ver.)」は不思議な曲で、シングルで聴いたときは正直よくわからなくて好きではなかった(ずっと鳴っている音*2が舌打ちにしか聞こえなくてイラついたりした)けど、アルバムで通して聴いたらすごく好きになった。サビの切実さが歌い方と相まって〈胸をえぐ〉られる。

 一番好きな曲は「 ):阿修羅:( 」。〈修羅修羅修羅〉〈ピュアピュアピュア〉〈クタクタクタ〉〈ハラハラハラ〉と同語三連が麻薬の素。最初と最後の音は排莢っぽく聴こえる。トリップしている歌詞のようでもあり純粋な少年が遊んでいることを唄っているようでもある。歌詞を読んでいるといろいろ考えてしまうけど音として聴くと何も考えられなくなる。しゅらしゅら……しゅらしゅらしゅら? あれ、おわった。あたまおかしくなりそう。

01. MIRROR
02. CHAMELEON
03. DARE??
04. SPECIALZ
05. 一途(ALBUM ver.)
06. δ
07. 逆夢
08. IKAROS
09. W●RKAHOLIC
10. ):阿修羅:(
11. 千両役者(ALBUM ver.)
12. 硝子窓
13. 泡(ALBUM ver.)
14. 2 Μ Ο Я Ο
15. STARDOM(ALBUM ver.)
16. SUNNY SIDE UP
17. 雨燦燦
18. BOY
19. 仝
20. 三文小説
21. ЯOЯЯIM

 

*1:上に挙げた記事ではブログから直に『CEREMONY』に行ったように書いているけど説明が面倒くさくて省略していた。

*2:フィンガースナップ?