電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

小説

吉村清子『劇場版 ウマ娘プリティーダービー 新時代の扉』[別の調理法で味わうあの感動]

映画があまりにも面白かったので購入。実写/アニメ/漫画を問わずノベライズを読むのは久しぶり(たぶん『ハイ・ストリーマー』以来)で新鮮(?)だった。始まりと結末は原作と同じだけどそこに至る流れはけっこう違っていて、どちらかというと原作のほうが…

フィリップ・K・ディック『アルファ系衛星の氏族たち』[深刻で真剣なのにコミカル]

短編の「スパイはだれだ」を原型としたと思われる長編小説。ふんわり死にたがる主人公、精神的な病とそれに由来する閉鎖的な疑心暗鬼と陰謀、作家という職業、偽物として他人に成り代わる、妻とのトラブル、救いの手を差し伸べてくれる少女、不定形生物、星…

フィリップ・K・ディック『髑髏』[異文化と戦争]

収録作の一部は既読。ダーク・ファンタジー・コレクションの第十弾として刊行されているけれど、『人間狩り』よりもホラー色は薄めでファンタジー要素もそれほど多くない。ややマイナーな作品が多めに収録されていることを含めてディック拾遺集という印象が…

フィリップ・K・ディック『人間狩り』[ホラーテイストなディック作品集]

収録作の半分弱が既読。ダーク・ファンタジー・コレクションの第一弾として刊行され、全体的にホラーや怪奇色の強い作品が収録されている。唯一ユーモラスといえるのは「よいカモ」くらいだけど、これもどちらかというとブラックユーモアであまり素直には笑…

『Yuming Tribute Stories』〔青春の終わり。もう取り戻せない日々の痛み〕

松任谷由実さん*1の楽曲をトリビュートした短編小説アンソロジー。純文学に疎いおれでも知っているような有名作家陣がユーミンの名曲たちを活字として再構成している。題材になった楽曲に各作家の個性がそれぞれのやり方で乗せられていて興味深い。トリビュ…

フィリップ・K・ディック『市に虎声あらん』〔なんだかよかった。好きかもしれない〕

ディックの普通小説。SF/ファンタジー的な現象はまったく起きない主流文学小説で、事実上の処女作というべき作品らしい。正直、あんまり好みじゃないかなと思いながら読み進めていた。なにより肩ひじ張った文章にうんざりしていたけど、だいたい40ページくら…

フィリップ・K・ディック『ヴァリス〔新訳版〕』〔理解できたし面白いけど……やっぱり残念〕

思ったよりずっとわかる話だった。 旧訳で読んだときより物語の筋をちゃんと理解できたのは翻訳のおかげなのか年月がそうさせてくれたのか。新訳のほうが俗語をちゃんと俗っぽく翻訳してくれているみたいで、少なくとも本書については新訳のほうが正しいよう…

フィリップ・K・ディック『フロリクス8から来た友人』〔主人公がだいぶ不愉快だけどそれなりに面白い物語〕

マジで読むのやめようかと思った。というかディックじゃなかったらやめていた。一部登場人物が不愉快。以下、悪口の羅列。 デニーは人が見ている前では殴らないって、いやさっき思いっきり殴りかかってたでしょ。いや、なんだこいつ。マジで奥さんの方が正し…

杉山俊彦 『競馬の終わり』〔競馬とSFが楽しめる暗く楽しい問題作〕

待望の競馬SF。序盤の短文の連続(緊迫感を出したいわけでもないのになぜ?)に面食らって、正直試し読みもしないで買ったことをちょっと後悔したけど、それ以降はそんなことなくて安心した。よく「問題作」という評を聞くけど、これは確かに問題作としか言…

フィリップ・K・ディック『永久戦争』〔機械による戦争、政争、存在しない戦争、星間戦争〕

収録作品はすべて既読。戦争を題材にしたコンセプトアルバムだけどせっかく「ジョンの世界」が収録されているのだから「変種第二号」もセットで収録してほしかった。そこはちょっと残念。収録作の感想は大森望編『ディック短編傑作選』シリーズで書いたので…

フィリップ・K・ディック『模造記憶』〔有名作と隠れた傑作となんともいえない作品とここでしか読めない短編と〕

収録作の大部分が既読。主に中期の作品を収録しているらしい。タイトルの通り「つくりもの」を題材にした作品が多い……わけでもなさそう。どちらかというと「追憶売ります」の存在感からタイトルがつけられたんじゃないかな。大森望編『ディック短編傑作選』…

フィリップ・K・ディック『悪夢機械』〔魘される悪夢から喩えとしての機械までバラエティに富む短編集〕

収録作はすべて既読。タイトルにあるように一夜の「悪夢」的な展開の作品(「調整班」「スパイはだれだ」「出口はどこかの入口」「凍った旅」)直喩比喩を含む「機械」的なものを扱った作品(「超能力世界」「新世代」「少数報告」)そのほかこの二つに括れ…

フィリップ・K・ディック『去年を待ちながら〔新訳版〕』〔ディック詰め合わせの良作〕

いいタイトル。ディック要素……懐古趣味(「パーキー・パットの日々」)、代替臓器で長生きする老人(『最後から二番目の真実』)、人造の疑似生物(『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)、特殊なドラッグ(『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』)、…

フィリップ・K・ディック『最後から二番目の真実』〔情報の虚実を扱った薄暗いけど明るいラストの作品〕

印象的なタイトル。内容のほうはそこそこ。作品全体を見るとわりとちゃんとしている(ディック比)けどかなりライブ感が作っているところがあって勢いで展開を決めて次の章でフォローして辻褄合わせているっぽい。だからキャラクターの性格や立場があまり固…

ジュディス・メリル編『SFベスト・オブ・ザ・ベスト』〔古さも目立つけど良質なアンソロジー〕

だいぶ昔にスタージョン目当てで上巻を古本屋で購入していた。そのまま読まずに本棚の肥やしにしていたけど、2022年に名作復刻キャンペーンで上下巻が新刊書店で入手できるようになったので「復刻されたことだし上下巻でそろえておこうかな」くらいの気持ち…

星新一『ようこそ地球さん』〔ズレの物語/よそ者たち〕

「デラックスな拳銃」 無用な多機能拳銃保有のチンケな男。 デラックス。強盗(?)。本来の用途とは無関係な機能をこれでもかと付けた携帯可能な道具、ということでスマートフォンを予見したといえなくもないけど、これはそういうことを気にするべき作品で…

星新一『ボッコちゃん』〔ファンタジー/SF強めの初期傑作選〕

「悪魔」 金貨と氷上と悪魔。 悪魔。お手本のようなショートショート。前振り、展開、オチ(そしてツボが湖の底にし沈んでいた理由≒初期設定の原因の提示)が完璧にそろっていて、しかも簡潔。巻頭を飾るにふさわしい作品。ちなみに、福本信行『賭博堕天録カ…

ロアルド・ダール『あなたに似た人』〔暗がりの奇妙な味〕

番組名はちょっと忘れてしまったけど、テレビで紹介されてたから読み始めた*1、という珍しいパターンの本。紹介していたのは芸人のカズレーザーさんで、「南からきた男」を推していた。同席していたコメンテーターは「味」もいいと言っていた。なるほどなあ…

フランチェスカ・T・バルビニ/フランチェスコ・ヴァルソ『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』[短くキレのあるアンソロジー]

イスラエルに続き非英語圏SFアンソロジー。前作(?)と比べてページ数がかなり減っていてちょっと心配になったけど、前作に負けず劣らず良いアンソロジーだった。 全体的にディストピア的で雰囲気は暗いけど主人公たちはどこか前向きで救いがたい物語が少な…

シェルドン・テイテルバウム /エマヌエル・ロテム『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』[想像よりずっとバラエティパック]

こういう珍しいアンソロジーを翻訳出版してくれるのは本当にありがたい。知らない作者に知らない作品がいっぱいだあ。 序盤の作品は正直あんまり好みじゃないなくてページ数の多さもあってしばらく放置してたけど、「信心者たち」からグッと面白くなって、そ…

アルカジイ/ボリス・ストルガツキー『ストーカー』[古典的な冒険と現代的な発想の飛躍]

公式YouTubeで気軽に視聴できる映画版を眺めていたら*1懐かしくなってきたので再読。 面白い。久しぶりに一気読みしたくらい。初めて読んだときは、基本的な設定だけは知っていたけど、想像よりずっとアウトロ寄りだったのに驚いたのを覚えている。ダンジョ…

ロアルド・ダール『キス・キス』[意地悪いよなあ……]

一度でも目にしたら忘れられない、印象的なタイトルの短編集。 久しぶりに読み返した。初読のときよりはるかに面白く感じたのは、やっぱり読んだ当時の偏見……というか思い込みがあったからかなと思う。奇妙な味の典型的作家って聞いて読み始めたのだけど、「…

宮内悠介リクエスト『博奕のアンソロジー』[多種多様な競技。審判としての博奕]

博奕を題材にしたアンソロジーということだけど、前書きにもある通り、サイコロやカードを使ったギャンブルに限らず「人生の岐路における選択」のような生活における選択も一つの博奕として取り扱っている。 以下、抜粋して感想。 梓崎優「獅子の町の夜」 か…

星新一「白い服の男」[普遍性という最高の美点]

SFの定義は千差万別、人それぞれにたくさんの回答がある。実在の科学をベースにしなければSFではないという人もいれば、面白ければ科学的に間違っていてもよいという人もいる。サイエンスフィクションであり少し不思議でありスペキュレイティヴフィクション…

山野浩一『花と機械とゲシタルト』[権威に対する多様な見方の物語。10年後にまた感想書きたい]

ありがとう小鳥遊書房……本当にありがとう。 山野浩一*1の唯一の長編作品で国内SF随一の稀覯本としてつとに有名だった本作だけど、実は一度読んだことがある。大学卒業してすぐくらいのころにどうしても読みたくて、ネットの海と神保町の穴蔵*2を探し回ったけ…

夢野久作『少女地獄』[ぷうんと匂い立つ血の香りと破滅への想い]

夢野久作といえば『ドグラ・マグラ』のイメージが強いと思うけど、どちらかというと短編作家という印象が強い。長編や中編も書いているけど、それよりも短くスパっと終わる作品の方が夢野久作の良さが出ていると個人的には思っている。そんなに構成にこだわ…

フィリップ・K・ディック『人間以前』[ファンタジーと子供たち。そして最良と最悪の発露]

「地図にない町」(The Commuter)翻訳:大森望 現実崩壊。とてもシンプルな作品で、ほかの同系列の作品と違って緊迫感には欠けるけど、あちらが主観的な恐怖ならこちらは徐々に現実を侵食されていくことへの客観的な恐怖を味わうことができる。過去改変によ…

フィリップ・K・ディック『小さな黒い箱』[変色した社会問題と神について]

「小さな黒い箱」(The Little Black Box)翻訳:浅倉久志 解説にある通り『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の原型となった短編*1で、ディック諸短編の中でも特に重要な作品。ディックが人間性について「感情移入能力」を重視したのは『アンドロイドは…

湊かなえ『往復書簡』[詳細感想版]

通常版が読んでもらえているので詳細版を作りました。 《構成》 全編が手紙のやり取りで構成された連作短編集。作品ごとに主要キャラクターは入れ替わるけど、登場人物や赴任先の国など、小さなつながりがある。ただ、それも直接関連しているわけではなく、…

フィリップ・K・ディック『変種第二号』[戦争と人造物+サスペンス=不安]

「たそがれの朝食」(Breakfast at Twilight)翻訳:浅倉久志 現実崩壊。短編の諸作品の中でも最も明快にディック的な「不安」が描かれている。時間軸の設定が絶妙で、近すぎず遠すぎない時間設定はラストシーンに説得力を持たせてくれるし、最後のセリフの…