電羊倉庫

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アルカジイ/ボリス・ストルガツキー『ストーカー』[古典的な冒険と現代的な発想の飛躍]

 公式YouTubeで気軽に視聴できる映画版を眺めていたら*1懐かしくなってきたので再読。

 面白い。久しぶりに一気読みしたくらい。初めて読んだときは、基本的な設定だけは知っていたけど、想像よりずっとアウトロ寄りだったのに驚いたのを覚えている。ダンジョンに潜って宝物を獲得するっていう古典ファンタジーをきっちりSFに変換した作品ってイメージ。ゾーンに潜るときの描写は圧巻。ピクニックの忘れ物たちの名称やストーカーたちの綽名もぐっとくる。三章でのタイトルコールと各種考察はSF的でとても良い。公務員試験講座の先生が言っていた「二次元世界の住人は絶対に三次元のことを理解できない。次元が違うというのはそういうこと」を思い出した。

 SFでは珍しく(?)奥さんをそれなりに大切にしていてよかった。というかこういう夕方且つ雨のイメージってディックと被るから余計にそう思ったのかもしれない。ディックはけっこう妻を捨てて若い女に乗り換えたりするから……。主人公に限らずキャラクターが全体的に善悪に二分されない感じもよかった。アウトロだけど典型的な救いがたい悪いやつとかではないというか。ラストもすごくよかったけど、個人的にはエピローグまで描ききってはっきりとハッピーエンドにしてくれたほうが好き……けど、まあそこまでやったら台無しかな。あと、wikiに二章で「妻と不仲になりつつあり……」みたいな記述があったけど、そうかなあ。あんまりそういう印象はなかった。そこまで関係性が悪化している感じはなかったけど、おれの感性がおかしいだけかもしれない。異星人が相互理解不能な上位存在という意味ではレムと共通している。ただ章ごとの技術の進歩やゾーンへの対応の変化がもっとわかりやすければ……と思うのは単におれの読解力が足りないだけか。

 やっぱり原作のほうが好きだなあ。映画版の『ソラリス』もそうだったと思うけど、どうしてもSF要素(というかSF的な知性への考察?)が薄くなっているのが気になってしまう。おれが科学オンチだからというもあるけど、空想科学という意味でのSF要素は薄まっても気にならないけど発想の飛躍という意味でのSF要素が薄くなると魅力が半減してしまう。もちろん、ここでも書いたけど映画版には映画版の魅力がある。

 参考までにAmazonレビューを見に行ったら「S.T.A.L.K.E.R.2」の予習を兼ねて購入している人もけっこういた。世界観の元ネタということで気になるけど、この手のゲームは苦手だから手は出さないかなあ。

*1:作業中に垂れ流しにしてたりする。もちろんロシア語はまったくわからないからストーリーは追えないけど、音を楽しみつつ終盤の好きな場面では画面を観るというのもけっこう楽しい。