こういう珍しいアンソロジーを翻訳出版してくれるのは本当にありがたい。知らない作者に知らない作品がいっぱいだあ。
序盤の作品は正直あんまり好みじゃないなくてページ数の多さもあってしばらく放置してたけど、「信心者たち」からグッと面白くなって、そのまま一気に読み終えた。
とびぬけた奇想はあまりなかったけど、全体的にきっちりプロットを作ってる作品が多い印象。ちゃんと展開してちゃんと終わる。ただ、序盤の諸作品がちょっと投げ出し気味というか「えっ、そこでそんなスパっと終わるの?」って作品が多くてちょっと……とは思った。個人的には奇想とまではいわないけど、もっとキッチリとしたオチがついた作品のほうが好きで、そういう意味では血沸き肉躍るようなテンションの上がり方はしなかった。
これは英語が読めない人間の哀しさだけど、ちょくちょくこなれてない感じの翻訳があった*1けど、これが翻訳者の問題なのか原著の小説の問題なのかはわからない。もしくは単におれの問題(単なる気のせい)かもしれない。
収録作品の中でも「立ち去らなくては」なんかはタイトルは好きだけど内容はそこそこ。「男の夢」なんかは短くて気が利いていて良かったし、「二分早く」は設定もオチも素晴らしく、「ろくでもない秋」は何ともいえない緩やかな雰囲気がなんだかグッとくる。けど、ベストはやっぱり「信心者たち」かな。テッド・チャン「地獄とは神の不在なり」やディック『宇宙の眼』のシルヴェスターのパートのような神へのSF的なアプローチとして、その二作品に勝るとも劣らない仕上がりだと思う。
やっぱり宗教が重要視される地域での「神」を取り扱う作品には独特の雰囲気があって良い。ただ、ちょっと難しいな、と思うのは、そういう地域性も一定ラインを超えると途端にSFはつまらなくなったりする*2ところなんじゃないかな、と思ったりする。イスラエルに限らず英米でも日本でもそう。SFのタイプにもよるけど、地域色が濃すぎると「いや、もうちょっと普遍性とかをさあ……」とテンションが下がってしまう。ここでも書いたけど、おれは普遍性がSFの最高の美点だと思っているからそう思うのかもしれない。
収録作一覧
ラヴィ・ティドハー
「オレンジ畑の香り」
ガイル・ハエヴェン
「スロー族」
ケレン・ランズマン
「アレキサンドリアを焼く」
ガイ・ハソン
「完璧な娘」
ナヴァ・セメル
「星々の狩人」
ニル・ヤニヴ
「信心者たち」
ニヤル・テレル
「可能性世界」
ロテム・バルヒン
「鏡」
モルデハイ・サソン
「シュテルン=ゲルラッハのネズミ」
サヴィヨン・リーブレヒト
「夜の似合う場所」
エレナ・ゴメル
「エルサレムの死神」
ベサハ・エマヌエル
「白いカーテン」
ヤエル・フルマン
「男の夢」
グル・ショムロン
「二分早く」
ニタイ・ベレツ
「ろくでもない秋」
シモン・アダフ
「立ち去らなくては」