電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

2023-01-01から1年間の記事一覧

フィリップ・K・ディック『去年を待ちながら〔新訳版〕』〔ディック詰め合わせの良作〕

いいタイトル。ディック要素……懐古趣味(「パーキー・パットの日々」)、代替臓器で長生きする老人(『最後から二番目の真実』)、人造の疑似生物(『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)、特殊なドラッグ(『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』)、…

最近見た存在しない映画(2023年11月)

地球に磔にされた男(2017年、日本、監督:山田寛一、100分) 素晴らしい。時間SFの中でもかなり変わり種で理論はタイムトラベルだけどやっていることはパラレルワールドの移動で、落着はタイムリープものに近い。すげえや、時間ものの新機軸だ! 怠惰な男が…

最近見た映画(2023年11月)

MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない(2022年、日本、監督:竹林亮、82分) めっちゃ面白い。やっぱり時間循環ものはいいねえ。登場人物それぞれに個性があるけど不快感はなくて時間もの特有のイライラさせられるような描写もほとんど…

フィリップ・K・ディック『最後から二番目の真実』〔情報の虚実を扱った薄暗いけど明るいラストの作品〕

印象的なタイトル。内容のほうはそこそこ。作品全体を見るとわりとちゃんとしている(ディック比)けどかなりライブ感が作っているところがあって勢いで展開を決めて次の章でフォローして辻褄合わせているっぽい。だからキャラクターの性格や立場があまり固…

どうでもいいから読書が好き、だけど学ぶこともあるよね

タイトル、内容、著者、表紙デザイン、ジャンル、書き出し数ページ、ペラペラ捲った文字の並び、あとがき解説の文章、書評、知人の紹介等々、本を手に取る要因は人によってさまざまだ。おれは「財布が許してくれる範囲では」という但し書きがつくけど興味が…

最近見た存在しない映画(2023年10月)

7.62ミリ(1988年、チェコ、監督:オンドジェイ・ランパス、124分) 対象物を見ると死ぬ(別生物に変質する)という設定は(逆だけど)藤田和日郎『邪眼は月輪に飛ぶ』を思い出す。もちろん年代を考えると両者ともにまったく影響しあわないところで作られた…

最近見た映画(2023年10月)

明日への地図を探して(2020年、アメリカ、監督:イアン・サミュエルズ、99分) 時間循環タイムループSFに外れなし。面白い。この手の映画にしては自暴自棄バイオレンスなシーンがほとんどないのも好印象。最近見た映画だと『パーム・スプリングス』もそうだ…

ジュディス・メリル編『SFベスト・オブ・ザ・ベスト』〔古さも目立つけど良質なアンソロジー〕

だいぶ昔にスタージョン目当てで上巻を古本屋で購入していた。そのまま読まずに本棚の肥やしにしていたけど、2022年に名作復刻キャンペーンで上下巻が新刊書店で入手できるようになったので「復刻されたことだし上下巻でそろえておこうかな」くらいの気持ち…

星新一『ようこそ地球さん』〔ズレの物語/よそ者たち〕

「デラックスな拳銃」 無用な多機能拳銃保有のチンケな男。 デラックス。強盗(?)。本来の用途とは無関係な機能をこれでもかと付けた携帯可能な道具、ということでスマートフォンを予見したといえなくもないけど、これはそういうことを気にするべき作品で…

思い出:「急に寒いやん」

今週のお題「急に寒いやん」 「急に寒いやん」 あいつの口癖だ。だからこの季節には彼を思い出す。大学の同期で一回生のオリエンテーションで知り合った。あいつは見た目が派手……各種ピアスに輝く色の長髪……で、俺とはまさに正反対の男だった。学籍番号の並…

最近見た存在しない映画(2023年9月)

世界の果てまで何マイル?(1993年、アメリカ、監督:ウィリアムズ・クリスタルマン、103分) マジックリアリズム・ロードムービー。派手さはないけど、なんだかたまらなくなってくる。印象的なのは、やっぱりトーキング・マン。名に反して本当に一言も発す…

最近見た映画(2023年9月)

地獄の黙示録 特別完全版(2001年*1、アメリカ、監督:フランシス・フォード・コッポラ、202分) スタニスワフ・レム「親衛隊少将ルイ十六世」や〈気分はもうカーツ大佐〉で興味があったので視聴。とても長い映画ということ、ベトナム戦争を題材にした映画と…

ポルノグラフィティ10thアルバム『RHINOCEROS』感想

さまざまな年代、薄明りのイメージ。 全体的に夕暮れ(「wataridori」「Stand Alone」「バベルの風」)から日暮れ(「ANGRY BIRD」「Ohhh!!! HANABI」)や明け方(「ワン・ウーマン・ショー 〜甘い幻〜」「AGAIN」)のイメージが強く、朝方や昼日中は薄い。…

星新一『ボッコちゃん』〔ファンタジー/SF強めの初期傑作選〕

「悪魔」 金貨と氷上と悪魔。 悪魔。お手本のようなショートショート。前振り、展開、オチ(そしてツボが湖の底にし沈んでいた理由≒初期設定の原因の提示)が完璧にそろっていて、しかも簡潔。巻頭を飾るにふさわしい作品。ちなみに、福本信行『賭博堕天録カ…

陳舜臣『中国傑物伝』〔文明の擁護者、過小評価された男、バランサー、晩節を全うした者たち〕

純粋な短編小説というより評伝に近いスタイルで、春秋の范蠡から清末・民国初期の黄興までの傑物16人を採り上げている。内訳でいうと君主は四人(漢の宣帝、曹操、符堅、順治帝)だけで、あとは宰相や激動の人生を過ごした人物や在野の活動家などが多く、軍…

最近見た存在しない映画(2023年8月)

午後の大進撃(2003年、日本、監督:トニー浅利、65分) スラプスティックハチャメチャドタバタコメディ。主に90-00年代の『アフターヌーン』誌に掲載されていた漫画のキャラクターたちが所狭しと暴れまわる楽しいアニメーション。周年記念のお祭り企画で始…

最近見た映画(2023年8月)

騙し絵の牙(2021年、日本、監督:吉田大八、113分) 面白い。最序盤は葬儀から始まることもあってやや雰囲気が暗く「この感じで続いていくならちょっと嫌だなあ」と思っていたけどハイテンポエンタメでサスペンス要素も良く出来ていてとても楽しかった。フ…

ロアルド・ダール『あなたに似た人』〔暗がりの奇妙な味〕

番組名はちょっと忘れてしまったけど、テレビで紹介されてたから読み始めた*1、という珍しいパターンの本。紹介していたのは芸人のカズレーザーさんで、「南からきた男」を推していた。同席していたコメンテーターは「味」もいいと言っていた。なるほどなあ…

岡野昭仁1stアルバム『Walkin' with a song』感想

音楽と故郷と光。贈り物でいっぱいのおもちゃ箱。 詞曲の提供だけで総計20名*1ものミュージシャンが関わっているだけに彩り豊かなアルバムに仕上がっている。全体の雰囲気はやや落ち着いている印象があって、それは『Walkin' with a song』歌を抱えて歩いて…

さいきんよくみる変なゆめ

みなさんこんにちは、電々(id:dennden)です。お久しぶりです。……ほんと、お久しぶりです。いまこの時点で49日もブログをさぼっていました。二か月近く何の音沙汰もなく放置してしまって、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。なんだか何をする気力も起…

最近見た存在しない映画(2023年7月)

早乙女さんにはもうデスゲームしかない(2023年、日本、監督:浜輪裕、105分) 青春コメディ。監督を含めてかなり若手のスタッフで製作されていて役者も作品設定の通り高校生が起用されているらしい。撮影現場の雰囲気も良かったんだろうなあ、きっと和気藹…

最近見た映画(2023年7月)

八つ墓村(1977年、日本、監督:野村芳太郎、151分) 片田舎を舞台に腐敗した旧家と現地の奇妙な伝承を巡って殺人事件が発生し、外部の人間が捜査に乗り出す……というとおれはテレビ朝日『トリック』を思い出すけど、たぶんこの時期の諸作品がその源流なのだ…

フランチェスカ・T・バルビニ/フランチェスコ・ヴァルソ『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』[短くキレのあるアンソロジー]

イスラエルに続き非英語圏SFアンソロジー。前作(?)と比べてページ数がかなり減っていてちょっと心配になったけど、前作に負けず劣らず良いアンソロジーだった。 全体的にディストピア的で雰囲気は暗いけど主人公たちはどこか前向きで救いがたい物語が少な…

最近見た存在しない映画(2023年6月)

ソーシャル・エンジニアリング(2021年、ギリシア、監督:ディミトラ・ハリトス、79分) 原作と同じくシンプルで良く纏まった映画。映像のレベルも高くて、特にナビゲーターがくるくると入れ替わる冒頭のシーンはとても印象的。ただ、この手の拡張現実の描写…

最近見た映画(2023年6月)

名探偵ピカチュウ(2019年、アメリカ/日本、監督:ロブ・レターマン、104分) 思っていたよりCGの出来がいいなあ、というのが第一印象。質感が不気味の谷に落ちるギリギリにいて、表情の豊かさや仕草の可愛らしさは素晴らしいものがある。ポケモンが生活に溶…

最近見た存在しない映画(2023年5月)

AWAY―アウェイ―(2021年、日本、監督:茂戸実、107分) とても良く纏まっていている誠実な映画。やや過剰な演出もあったけど、全体的に落ち着いていて役者も演技巧者揃い。ただ、パニックホラー的な側面がかなり強化されていているから、そういうのが苦手に…

最近見た映画(2023年5月)

映画 真・三國無双(2021年、香港/中国/日本、監督:ロイ・チョウ、118分) 中国の『三国志演義』を基にした日本のゲーム『三國無双』シリーズを原作にした香港と中国と日本の合作映画がグルっと一周回って日本に翻訳輸入されてきたらしい。というか『三国無…

死ぬまでにお琴を習いたい

最近、米津玄師さん*1をよく聴いている。 STRAY SHEEP (アートブック盤(Blu-ray)) アーティスト:米津玄師 SME Amazon それまでも身内にそれなりのファンがいたからそれなりに耳にしてはいた。姉はハチ時代から母は「Lemon」から好きでよく「この曲*2がいい」…

シェルドン・テイテルバウム /エマヌエル・ロテム『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』[想像よりずっとバラエティパック]

こういう珍しいアンソロジーを翻訳出版してくれるのは本当にありがたい。知らない作者に知らない作品がいっぱいだあ。 序盤の作品は正直あんまり好みじゃないなくてページ数の多さもあってしばらく放置してたけど、「信心者たち」からグッと面白くなって、そ…

アルカジイ/ボリス・ストルガツキー『ストーカー』[古典的な冒険と現代的な発想の飛躍]

公式YouTubeで気軽に視聴できる映画版を眺めていたら*1懐かしくなってきたので再読。 面白い。久しぶりに一気読みしたくらい。初めて読んだときは、基本的な設定だけは知っていたけど、想像よりずっとアウトロ寄りだったのに驚いたのを覚えている。ダンジョ…