電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た映画(2023年8月)

騙し絵の牙(2021年、日本、監督:吉田大八、113分)

 面白い。最序盤は葬儀から始まることもあってやや雰囲気が暗く「この感じで続いていくならちょっと嫌だなあ」と思っていたけどハイテンポエンタメでサスペンス要素も良く出来ていてとても楽しかった。フィクション係数とリアリティが絶妙なラインで共存している。

 いいキャラクターたちだったなあ。最初は実直に文学を愛している(やや愚直な)有能若手編集者でしかなかった高野がある種のしたたかさを身に着けるところはめっちゃ好き。年齢帯がまったく違うけどポルノグラフィティ「悪霊少女」的な成長だと思う。速水は役者含めて本当に完璧でこの映画の魅力の一端を担っている。いろいろやったけど、速水はちゃんと文芸を愛しているところが良いよね。あと、二階堂先生、ちょっと筒井康隆先生っぽいなあと思ってたけど、この対談によるとモデルの一人だったらしい。

 本編の感想とはズレるけど西太后のこと思い出した*1清朝末期の人で毀誉褒貶が激しく三大悪女呼ばわりされるんだけど、最近は再評価が進んでいて実際はそれなりに有能なちゃんとした人だったという評価が主流らしい。ただ、それでも光緒帝の改革ムーブを阻止しているのはちょっと……。もちろん光緒新政が全面的に正しいとも思わないし、立場的に保守ムーブするのも理解できる。それなりに理屈も通っているけど、そもそもあの時代のあの状況下で保守的になっていること自体が……とけっこう本作と重なるところがある。

《印象的なシーン》「オモチャでいいじゃない。みんなで使えば」

 

 

死体語り(2019年、ブラジル、監督:デニソン・ラマーリョ、110分)

 大迷惑くそヒューマンズじゃん。二人とも、いや、三人とも。君たちスリーヒューマンズ(二人くらいヒューマンじゃなくなったけど)のいざこざで、どれだけ周りに迷惑かけるの。というか、もう少しちゃんとどうにかしようとしろよ。実際にどうにかできるかはともかく対策を打とうとしようよ。事態を突破するためにいろいろやって、そういう試行錯誤の末に解決方法を見つけるからカタルシスなんでしょ。オカルト否定派の設定ならともかく、死体の声が聴こえるオカルトヒューマンなんだからすんなり受け入れて行動しろよ。あと解決方法の提示にその人使うならもうちょっと交流を深めるとか、ある程度その本人からの好感を抱かれているシーンとか入れてくれないと、機械仕掛けの神様感がすごいことになっているよ。

 ……と、もうちょっと王道のミステリホラーかと思って観始めたから不満が多かったけど、B級よりの心霊ホラー映画とわかればそれなりに楽しめる映画。賛否のあったらしいラストだけど、個人的には良かったと思う。あの状況(とやらかした行為)から主人公が幸せになってもちょっと納得できないところもあるし、かといって妻の完全勝利はいくらなんでも後味が悪すぎる。良い落としどころだったんじゃないかな。あと死体がしゃべる演出はとても良く出来ていた。

 もっと気楽な気持ちで観たかった。設定から『ジェーン・ドウの解剖』的なシリアスさを期待していたところがあったから、それでハードルがあがりすぎていたんだよなあ。

《印象的なシーン》ものを言わぬ妻との会話。

 

 

ゲームの時間(2015年、インド、監督:カーシク・マクハージー/ニコン、90分)

 アンバランスな映画だった。序盤の雰囲気は割と好きで、暑苦して閉塞的だけど楽観的で楽しそう。そして徐々に不穏な空気が出てきてショッピングモールで展開するパニックホラーもけっこう良い。ただ、そのあと三十分くらいゲームの由来を回想するだけで終わってしまったのは……あと字幕が妙にカタコトだったのはどういうことなんだろう。

 あまり出来がいいとは言えない映画だったけど、ショッピングモールでのゴア描写(というか臓物描写)はそれなりに良くできていた。惜しむらくはそこくらいでしか臓物が描かれていないというところで、もうちょっとそっち方面に振っていればバランスも良くなっていたと思うんだけどなあ……。

 あと、出てくる呪い(?)のゲームってルドーじゃない? と思ったら原題が「Ludo」でそのまんまだった。それで調べて知ったけど、元はインド土着のボードゲームだったものをイギリスが植民地時代に本国に持ち込んでヨーロッパに広まったらしい。その辺を勘案すると歴史的な皮肉を込めた映画……といえなくもなくもないかなあ。

 どうでもいいけど、どこを探しても商品リンクが見つからなかったのでfilmarksのリンクを張っておきます。おれはネットフリックスで観ました。

《印象的なシーン》謎の機械的構造物の上に鎮座する血まみれの女。

filmarks.com

 

 

N号棟(2021年、日本、監督:後藤庸介、103分)

 閉塞的で不気味な雰囲気はとても良かったけど、やや展開に緩急が足りていないところがあった。ホラー要素はどちらかというとビックリ系が多かったのもちょっと不満だけど、序盤の窓の白い人影なんかは不気味でグッときた。廃アパート(と思われていた空間)が舞台だけど、現代日本を舞台に疑似的なクローズドサークルをつくるのにそんなやりかたがあるんだ、とちょっと感心した。いや、おれは和製ホラーには疎いから割とありがちな設定なのかもしれないけど。

 開放的な空間で行われる食事会、広場での舞踊、一斉に同じ感情を発露する人々、外来者を取り入れる閉鎖的な集団、と『ミッドサマー』っぽいところがあるなあ、と思っていたらオマージュをこめていらしい*2

 えらく酷評しているひとが多いけど、そこまで言われるほど悪い映画じゃないと思う。

《印象的なシーン》アパートの窓から見える白い人影。

N号棟 [DVD]

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二人でお茶を(2015年、イギリス、監督:Mark Brennan、15分)

 雰囲気も良くて適度に笑えて、ハラハラとイライラもそれなりにある。短くまとまった良い映画だったけど、字幕が機械翻訳らしくてかなり酷い。いや、台詞が少ないタイプの映画だったら我慢できるけど、これはそういう映画じゃないのだから、せめて人力で多少の校正くらいはしてほしかった。いや、前振りがわりとちゃんとしているから大体の意味は分かるんだけどさあ……。

《印象的なシーン》ウーロン茶の意味が分からない二人。

二人でお茶

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そこにいた男(2020年、日本、監督:片山慎三、33分)

 うわあ……うわあ……うわあ……嫌な世界だなあ。まあ、なんていうか、うーん……。おれはメインのターゲット層ではなかったけど、短く纏まっていて演出も演技も過不足なく、とてもちゃんとした映画だったから、こういうのが好きな人にはお勧めできる良い作品だと思う。なるほど名前かあ*3

《印象的なシーン》名前が発覚するシーン。

*1:近代史は詳しくないから聞きかじっただけなので間違っていたらごめんなさい。

*2:インタビューは読めていなくて、このレビューからの孫引きだから間違っていたらごめんなさい。

*3:余談というか、とても個人的な話なんだけど、知人がむかし似たようなことをやられて、そいつも偽名がショウだったから猶更「うわあ……」ってなった。