電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2023年8月)

午後の大進撃(2003年、日本、監督:トニー浅利、65分)

 スラプスティックハチャメチャドタバタコメディ。主に90-00年代の『アフターヌーン』誌に掲載されていた漫画のキャラクターたちが所狭しと暴れまわる楽しいアニメーション。周年記念のお祭り企画で始まった漫画先品が大好評なのを受けて作られた作品で、資金的にもかなり余裕のある作品らしく豪勢な仕上がりになっている。同じく資金面で恵まれた作品というと『AKIRA』を思い出すけど、作品の方向性はほぼ真逆。ただ、作画や演技は遜色ないレベルだから、比較してみるのもある意味面白いかもしれない。

 特筆すべきはやっぱり声優が一人一役、一作品に一人キャラデザと作画監督がついていることだ。かなりの数のキャラクターが出てきて、中には数秒しか出番がないキャラもいるけど、それにすら個別に声優がついている。キャラデザの方は原作が合作漫画ということもあってかなり実験的な手法として導入されたらしい。当然画風が違うからキャラによってはかなり浮いていたりするから賛否両論でもあるらしい。諸々にお金がかかることはもちろん政策もかなり難航したらしく、映画としてはやや短めなのはそういう事情があるらしい。

 個人的には前半は岩明均寄生獣』、後半は弐瓶勉BLAME!』が取り上げられていたのが嬉しかった。コメディのセンスも両先生の傾向に寄せ居ている感じも良い。もちろん、知らない作品の方が多いのだけど、雰囲気だけでもかなり楽しい。ただ、かなりスラプスティックコメディに寄った作品で、あまりちゃんとした起承転結的なストーリーはない。そういう方向を期待すると肩透かしを食らうかもしれない。もっと気楽に酒でも鑑賞するのがいいのかもしれない。

《印象的なシーン》「シンイチ パーンチッ!」

 

 

俄雨(1997年、日本、監督:忽那水主、96分)

 薄暗く、陰鬱で、救いのない物語。雨音。どうしようもない人間関係が煮詰まった狭苦しい大学サークルを舞台にしていて、気持ちの良さや展開のカタルシスのようなものはカケラも存在しない。うじうじと悩みぞろぞろと動きうだうだと蠢く。ほぼ一貫して降り続ける雨が陰鬱さに拍車をかけるけれど、しばらくすると、どういうわけかこの雨に爽快さすら感じ始める。なんともいえない映画。

 そんな救いがたい物語だけど主要な四人の登場人物たちにはそれぞれ一人だけでも、だれか……なんというかちょっとでよくしてあげようと善意で動いてくれる人物さえいえてくれればこんなに閉塞した人間関係に囚われずにすんだのでは、と思わせえてならない。特に亮太がぽそぽそと口にする幼少期のエピソードを聴くとそう思ってしまう。まあ、そういう人がいなかったからこそのこの映画なんだろうけど……嫌な話だなあ。

 おれは好みじゃなかったけど、こういうのが好きな人にはたまらない映画だと思う。

《印象的なシーン》槇原が雨空をジッと見つめる場面。

 

 

タイムマシンのハウツー(2005年、アメリカ、監督:ポール・ワン、112分)

 比較的フィクション係数は低くサイエンス志向で実直なSF映画。もちろん、「大金持ちが極秘でタイムマシンを作るために世界各国から最高の科学者を招集して喧々諤々の論争を繰り広げる」という根本設定はかなり非現実的だけど、背景にある理論はかなり現実的……らしい。おれにはほとんどちんぷんかんぷんだけど、ちゃんとした科学者の人が褒めていたから正しいのだと思う。

 タイムトラベルについての理論はいくつかあるみたいだけど、本作でベースになっているのはワームホールを用いたタイムトラベルだ。ワームホールの発見(というか生成)とエキゾチック物質の生成(というか発見)が物語の半分を占める。ワームホールは現実と同じだけど、エキゾチック物質は現実(というか理論上の想定?)とは違う性質を持っていて……というのが本作の主な空想要素。

 ワームホール理論は『Steins;Gate』で見聞きしていたからわりと理解できたけど重力子放射線射出装置とエクトプラズムの説明は何を言っているのかサッパリ理解できなかった。なんか幽霊みたいなのが出てきてたけど、あれってなんだったんだろう。いや、理解できなくても映画は楽しめたけど、せっかくだから少しは勉強してみようかなあ。まずは入門書から。

《印象的なシーン》押しつぶされるタイムマシン。

 

 

閭(2023年、日本、監督:後藤亜里、123分)

 平地の田舎町で行われる土着の信仰行事。そこに現れる一癖も二癖もある旅行者たち……。

 今月観た映画にも『ミッドサマー』に影響を受けた作品があったけど、本作はそれとはまた別ベクトルでホラーというよりはサイコサスペンスで、だけど殺人事件は起きないし洗脳的な行為も行われない。そして、なにより『ミッドサマー』とは構図が逆になっているところも面白い。開放的な空間で行われる食事会、広場での舞踊、一斉に同じ感情を発露する人々、外来者を取り入れる閉鎖的な集団、と『ミッドサマー』的な行為が行われるけど、その行為の意味やそれがもたらす結果はまるっきり逆になっている。

 かなり衝撃的な結末を迎えるけど、あれってどうなんだろう。ちょっと解釈が分かれるというか、結局彼らは町を出ていくわけだけど、なんか本当に彼らなのかわからないようになっていて、しかもこれから向かう先の描写についても含みがあるというか……。

《印象的なシーン》阿多が震えながら笑う場面。

 

 

一夜限りの友情(2017年、日本、監督:真崎有智夫、23分)

 うーん。悪い映画じゃないと思うけど、ちょっとパンチが足りないかなあ。やや説明不足だし、おれは監督のインタビューを読んで意味が分かったけど、それがやりたいならもう素直にナレーションか独白で処理した方が良かったと思う。人通りの少ない深夜の街外れの雰囲気は好き。

《印象的なシーン》蹴っていた石ころが河原へと落ちていく場面。

大人の条件

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