電羊倉庫

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最近見た映画(2024年1月)

きさらぎ駅(2022年、日本、監督:永江二朗、82分)

 ネットロアを基にした映画で、元ネタは一応は読んだことあったし元ネタを原案に大幅にアレンジした映画ということは知っていたけど、まさかここまでパニック映画風になっているとは……けど、登場人物を増やしたのは無意味ではなくてキチンとオチに寄与しているし人気がない田舎町という薄気味悪さはちゃんと抑えている。短い時間できちんと纏まっていてやや意外なオチもついてくる。ただ、ビックリどっきり系の演出が多かったのはちょっと違ったような気がする。終盤に至ってはちょっとゾンビものっぽくなっているし。

 大まかに現在、回想、再突入の三パートに分かれている。回想パートは基本的にPOVで進むけど、これが「体験談を語る」という形式≒語り手の信頼性というオチの根幹に関わってくるから奇を衒っただけの演出ではなかったと思う。画面の揺れの関係でちょっと見ずらいところはあったけど、良い工夫だったんじゃないかな。演技はちょっと安っぽいけど、このタイプのホラーではこれくらいのほうが観やすくていいのかもしれない。

 追突消滅してからbgm含めて雰囲気変わってて笑った。わかりやすく嫌なやつから死んでいったなあ。POVであることを含めてどこかゲームっぽい演出だったと思う。フリーゲームっぽいというか。そういう意味で再突入後の展開はフリーゲーム特有の全ルートコンプ特典のグッドエンドシナリオともいえる。やや後味が悪いところも含めてわりといい映画だった。

《印象的なシーン》生存者に運転できる者がいるかと尋ねる春奈。

 

 

ザ・シスト 凶悪性新怪物(2020年、アメリカ、監督:タイラー・ラッセル、73分)

 マットサイエンティストB級映画としてかなりオーソドックス(というか原点回帰?)な作品で舞台設定や小道具、人間関係までかなり昔の映画っぽい雰囲気があるけど、たぶんオマージュ(パスティーシュ?)なのだろう。2020年らしさはほとんど感じられない。クローズドサークルを作るための理屈はかなり強引だけど、こういう映画にはあまり整合性を求めるものではないだろうからねえ。

 叫び方がやや単調だけどパニックホラーとしては単純明快で観ていてけっこう楽しかった。主役の看護師は作品が切羽詰まるにつれて妙に若返ってみえたけど、どういう現象なんだろう。メイクの問題? 怪物のデザインは想像の1.5倍くらい気持ち悪い。我ながら阿保っぽいけど、よりにもよって焼き芋食べながら観たせいでちょっと気分が悪くなっていったん映画を止めてしまった。

 題材的に長くやるとダレるだろうから潔く一時間ちょっとで終わらせたのは英断だったと思うけど、エンジンがかかり始めるまで思ったより長くてガイ先生の不快さも相まってちょっと見るのがきつかった。全体的に『カメラを止めるな!』の前半パート見てる気分だった。オチはちょっと意外で面白かったけど、投げた位置的にすげえ転がっていったことになるよなあ。

《印象的なシーン》エンディング後の楽しそうなメイキング。

 

 

アドレノクロム(2017年、アメリカ、監督:トレバー・シムズ、84分)

 ホラートリップムービーみたいな説明だったけど、そういう映画ではなかった。少なくもホラーではない。基本的に笑うか怒鳴るか叫んでる。なんか最終的にはアクション映画になった。トリップはしてたけどなんか安っぽいというかそれ以前というかなんというか……もっと技巧的な演出が観たかったなあ。

 ゲームのおつかいみたいな小遣い稼ぎのお仕事は『マンディブル』でもやっていたけど向こうだと一般的なのかね。正気と幻視の区別がつかなくなるのはトリップムービーならではだけど、正直途中から誰が誰で何を目的に行動しているのかがよくわからなくなった。

 あんまり……な映画だったけど、構造でいえばディック『スキャナー・ダークリー』も一皮むけば同じ物語だったような気もする。いや、さすがに一皮はいいすぎで二、三皮はあっただろうけど、基本的には同じような気もする。ドラッグはもちろん、陰謀論的な世界観を含めて。

《印象的なシーン》最初のトリップ(?)。

 

 

ヴィーガンズ・ハム(2021年、フランス、監督:ファブリス・エブエ、87分)

 かなり攻めた設定してるなあ……。

 植物だけを食べた動物は旨い、という俗説は『ジョジョの奇妙な冒険』で初めて知ったんだけどフランスにもそういうのがあるのかな。全編にわたるブラックユーモアになんともいえない乾いた笑いが零れる。このタイプの映画で事実上の実行者のほうが常識を持っているのは珍しいんじゃないかな。夫は良くも悪くも普通の人で少なくとも二人目まではやや愚鈍ではあるけどまともな感性をもっていてちゃんと躊躇したり妙な理屈をこねて逃げ出そうとしているのに対して、妻の方は明らかに楽しみ始めてる。

 ネットで聞きかじった話だけど、フランスはこういう社会問題が噴出しているらしくて映画にもそれが反映されがちらしい。そういえば『キャメラを止めるな!』にもそういう要素が入っていたなあ。ヴィーガンというよりは若者の先鋭化と相互不理解が背景のありそうな気もする。それにブラシャール夫妻は貧富の格差やあからさまな差別感情という別の社会問題を体現している。作中で殺害されるヴィーガンに過激派が少ないのもなんというか……。

 こんな映画なのに作中に登場する肉類はどれも旨そうなのは流石ですね。

《印象的なシーン》「これがあんたの手口?」

ヴィーガンズ・ハム

ヴィーガンズ・ハム

  • マリーナ・フォイス
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マレヒト(1995年、日本、監督:佐藤智也、30分)

 雰囲気はかなり好き。砂漠(砂丘?)で単調な任務に就く孤独な兵士、地下の家、配給されたガイノイド、重装備にテープレコーダー、そして亡命。世界観はどこかディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を思い出す。このタイプの映画で少数側がこの手の思想しているのは珍しい気がする。青くさい若者の過激派的なイメージなのかな。

《印象的なシーン》青い樹液を流す奇妙な植物。

マレヒト

マレヒト

  • なにわ天閣
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狐狸(2022年、日本、監督:高梨太輔、17分)

 タイトルと内容は適合しているようでしていない気がする。ラストがちょっと不完全燃焼だったからアタッシュケースの中身をちゃんと明かして殺し屋(?)の表情と行動の意味をオチとして描写してほしかった。随所に挟まるコメディっぽい部分はあんまりいらなかったような気がする。

《印象的なシーン》ラストの殺し屋(?)の表情。

狐狸

狐狸

  • 井上英治
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