電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た映画(2023年11月)

MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない(2022年、日本、監督:竹林亮、82分)

 めっちゃ面白い。やっぱり時間循環ものはいいねえ。登場人物それぞれに個性があるけど不快感はなくて時間もの特有のイライラさせられるような描写もほとんどない。使い古されたテーマなだけに説明は最低限度に徐々にテンポアップしていくのは後発の作品ならではの工夫と思う。序盤に多用された瞳をアップで映して目覚めを描写するのはベタだけどやっぱり良い。第一目標(上申のための準備)→第二目標(部長の説得とブレスレットの破壊)→失敗/目標喪失→発見と目標の再設定→主人公の葛藤→解答と大団円、と過不足なくキッチリ作られている。素晴らしい。

 時間循環イムループSFで「永遠の休暇」や「現実逃避」ではなく、「繰り返される辛い労働」が題材になっているあたり日本的というかなんというか……けどだからこそループ者(ループ自覚者)が複数いることに意味のようなものが生まれているし、この作品の特色にもなっている。解決のカタルシスも個人というよりは集団によるものといえる。

 崎野の言い様からすると世界自体がループしてるのかな。いや、あれは単なる常套句とかそういう言葉で意味はないのか。森山のパソコンの画面はずっと変わらないけど本当に仕事しているのかな。ラストの結論は個人的には好きだけど、保守的になって一歩下がってしまったともとれる。エンドロール終わりに意外な伏線回収(?)が観れるのは純粋に嬉しい。

《印象的なシーン》部長への流暢なプレゼン。

 

 

ウィッチサマー(2020年、アメリカ、監督:ブレット・ピアース/ドリュー・T・ピアース、95分)

 一気コールって向こうにもあるのか。

 なんだかなあ、うーん、という感じのキャラクターたち。主人公は平均的なハイティーンと言えばそのの通りなんだけど、もうちょっと何か応援したくなるような魅力をつけてほしかった。あの悪質パリピたちは話の筋にほとんど関与していないから正直いらなかったと思う。マルとリアムは悪くないんだけどなあ。直接描写はないけど複数人犠牲になっていて、こんなに子供の命が軽い映画も珍しいと思う。子供を殺すのは欧米ではタブーに近いと聞いたことがあるけどホラーは例外なのかな。

 全体的な雰囲気は廉価版の『ヘレディタリー』で、まあオーソドックスで悪くはないけど……と思っていたら意表を突く展開。おお、すごい。ゾクゾクするぜ。良い映画じゃん! ……と軽く手のひら返しおれはこういうタイプの映画に甘い。ホラーとしてはあんまりかもしれないけど、その辺の描写の前振りについてはかなり良く出来ていたと思う。ラストにもう一段オチっぽいものがくっついていたけど、だとしたら妹は?どこかの段階で寄生(?)されてたってこと?

 ただ、本国では大絶賛されているらしいけど流石にそこまでの映画ではないと思う。おれは好きだけど。

《印象的なシーン》包帯の落書きから消えた人間を思い出す場面。

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セミマゲドン(2018年、アメリカ、監督:デヴィッド・ウィリス、82分)

 なにはともあれ完成させるって大切なんだなあ。

 創意工夫のかけらもない。すべて力技で解決。ビックリするほどチープな背景合成やセミとの格闘シーンは90年代のアーケードゲーム、いや素人が作ったフラッシュゲームのクオリティ。もちろん、ある程度はそういうコンセプトの映画なんだろうけど、ちょっとそれにしてもなあ。字幕では訳出されてなかったけど人類が地下に逃避するというシチュエーションについて『12モンキーズ』を例に出していたのはちょっと嬉しかった。

 なんだか悪口ばかり書いてきたけどストーリーや作風は割と好き。物語の筋が良いとかじゃなくて死んでも悲しくないドタバタが好きで、そういう意味では最高の作品だった。もっとお金かけて作ってみてほしい。ホームラン爆発には笑わせられたし、セミたちは妙にリアルで気持ち悪いけどしばらく見続けているとなんだか可愛らしくなってくる。エンドロールのメイキングが一番楽しかった。

《印象的なシーン》頭にアルミホイルを巻く理由。

 

 

もしも昨日が選べたら(2006年、アメリカ、監督:フランク・コラチ、107分)

 善人かなあ……まあ、この辺の匙加減がコメディでは難しいんだろうなあ。ちょっと疑問はあったけどコメディとしては笑えて楽しい気持ちになれて良い作品だったし、その方面では成功していたと思う。

 タイトルで典型的な過去改変系のSF映画だと思っていたら、全然違う設定で面食らってワクワクした。時間SFとしてはわりと変わり種の設定で巻き戻しによる再選択ができるわけでも未来を覗き見できるわけでもない。じゃあ、何ができるのかというと……という作品。

 家族に限らず周囲の人々に恵まれた人生だったのだろうなあ。本人よりむしろ周囲の方が善人だったような気がする。家族を大切に、というテーマは日本に限らずアメリカでも受けがいいんだろうなあ。ただそれはそれとして懸命に働くことは決して悪いことではないからそんなに悪しざまに描かなくても、とは思ってしまう。こりゃまた洋画にありがちななんとも言えない日本観だなあ……と思ってたら突っ込まれてた。魚を焼くのも待てないってなんだ? ……ああ、刺身を喰ってるやつらってことね。中東の顧客も紋切り型というか偏見というかそういうところがあったような気がするけど、どうなんだろう。

 やっぱりモーティーがいい。無条件に味方してくれる善人ではないけど、人の心を理解できない悪人でもない。テーマ的には最後の救いはないほうが良かった気もするけどせっかくのコメディだからねえ。コメディ部分もキッチリ笑えるし主人公の成長も描いていて感動するシーンもあり後味もスッキリ。良い映画でした。

《印象的なシーン》雨の中、最期の力を振り絞って息子のもとへ向かうマイケル。

 

 

奇才ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語(2023年、アメリカ、監督:ウェス・アンダーソン、39分)

 再びダールとカンバーバッチ。原作は未読。短い時間の中にダール→ヘンリー→チャテルジー→カーン→ヘンリー→ダールと目まぐるしく視点が変わり、それとともに物語の毛色も変わる。飽きとは無縁。鮮烈なオチがあるわけじゃないけど忘れがたい味がある物語。奇妙な味。

《印象的なシーン》ヘンリーの百面相。

 

 

ネズミ捕りの男(2023年、アメリカ、監督:ウェス・アンダーソン、17分)

 同じくダール。こちらも原作は未読……と思ってたらこれ《クロードの犬》の「ネズミ捕りの男」か。どうりでなんか聞き覚えのあるストーリーだと思ったんだよなあ。連作短編の一題だから覚えてなかった。声の描写(ナレーション)が素晴らしい。意地悪く残忍。パントマイム的な表現から人形、CG、人間と演技の手数が多い作品。

《印象的なシーン》ネズミの最期。