電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2023年10月)

7.62ミリ(1988年、チェコ、監督:オンドジェイ・ランパス、124分)

 対象物を見ると死ぬ(別生物に変質する)という設定は(逆だけど)藤田和日郎邪眼は月輪に飛ぶ』を思い出す。もちろん年代を考えると両者ともにまったく影響しあわないところで作られたのは間違いない。両作共に映像的な迫力は甲乙つけがたいハイレベルだけど、結末についてはほぼ正反対ともいえるもので、特に達成感と悲哀と虚しさが入り混じるマルチンの表情は必見の価値あり。しばらくその場面だけリピートして観返したくらい素晴らしかった。

 事の発端を描いたシーンでミサシュとダナに不倫関係があったかのように匂わせる描写があって感想サイトでは賛否両論だけど、おれは良かったと思う。必ずしもミサシュは家庭で幸福を感じていたわけではなく、だからこそその妻がマルチンに半狂乱で食ってかかるシーンが原作よりやるせなく辛いものに仕上がっている……と思う。

 ラストの変容にともなう意識の変化の悍ましさは筆舌に尽くしがたいものがある。それまでやや煩いほどに挿入されていたナレーションが効果的に作用している。自己犠牲の物語でもあるけど、渇望していた「光」を見たシーンは一つの救いでもあって、それがなおのこと哀しい。

《印象的なシーン》マルチンの最期の姿。

 

 

首(2023年、アメリカ、監督:ウェス・アンダーソン、17分)

 アンダーソンによるダール短編映像化企画の第三弾。シリーズ共通の実験的な手法は本作でも健在。ダール特有の残酷さが発揮される切迫した選択の場面、そして対照的なバジル卿とレディ・ターンの表情は忘れがたいものがある。

《印象的なシーン》バジル卿の笑み。

 

 

闌(1992年、日本、監督:新木翔、100分)

 珠玉のラブストーリー。やや群像劇的で男女、男男、女女の三組のストーリーが並行し時に交差しながら進行して一句。それぞれ二人は自然であり不自然でもある。噛み合っているけど噛み合っていない。滑らかでもあり濁ってもいる。向かい合っているし背を向け合ってもいえる。撞着語法のようなものを列挙してしまったけど、そうとしかいえない、なんとも言えないし一筋縄ではいかない人間のある種のリアルさが描かれている。ただ、人間関係の妙なリアルさに反してストーリーはややフィクション係数が高くてバッドにもグッドにもややご都合主義的なところがあるけど決して悪いものではない。前振りもちゃんとしているし、設定の中でできることとできないことがハッキリしていて、そのルールから逸脱はしていないから筋は通っているはず。

 結局のところこの映画はハッピーエンドだったのかはひとによって解釈が分かれているけど、おれは基本的にハッピーエンドだったと思っている。野中が終盤登場しなくなっていたことが引っかかっていた人も多いけど、あれは山野が放送室に来なかったことがちゃんと前振りになっているから決して悪い意味ではないはず。

 役者陣は当時にしては無名の若手ばかりを起用しているみたいだけど、これがかなり効果的だった……とレビューサイトに書いてあった。いまでこそスターだらけになってしまったけど公開当時は本当に新鮮で「本当に存在する人間のドラマを隠し撮りした」映像を見ているような気持ちになれたらしい。すごい映画体験だなあ。

《印象的なシーン》買い物に行こうと誘ったときの上田の表情。

 

 

グッド・デイ(2017年、アメリカ、監督:カート・ビクスビイ、119分)

 晴天の描写が絶妙でとても気持ち悪い。本当に気持ち悪い。一貫して好天気で背景にピントを合わせない手法が極めて効果的に使われていて、背景で何かが起こっているけど具体的な現象は朧げにしかわからない。前面の喜劇はハッキリ映るのに後面の悲劇はぼんやりとしか映らなくて、それが内臓を震わせて吐き気がしてくる。日常の楽しい暮らしの背面にある多くの悲劇、という意味では社会派の映画だけどそこに向き合わなくても楽しめる映画でもある。

 ジャンルとしてはホラーコメディ、ブラックユーモアに分類されるらしい。前面で起きていることは文句のつけようがない良質なコメディで、だからこそ後面の暴力の残忍さが際立ち、重なり合わさって笑顔が引き攣る。序盤はただの日曜大工にみえたものが終盤で実は凄惨な行為だったことがわかったりと伏線回収(?)もある。

 かなり人を選ぶタイプの映画で、実際レビューサイトでも賛否両論らしい。おれはかなり好きな映画だったけど途中で気分が悪くなって十分くらい休憩を挟んだくらいだから、苦手な人は耐えられないのも良く分かる。サブスクサービスで観れて良かった。たしかに映画館で観てたらきつかったかもしれない。

《印象的なシーン》拳銃の発射音。

 

 

世界は喜びで満ちている!(2000年、日本、監督:真崎有智夫、30分)

 子供らしい残酷な物語かと思っていたら……実態がわかった瞬間の悍ましさと哀しさはなんともいえない。仮想世界の崩壊という意味ではディック的な感覚も楽しめる。

《印象的なシーン》サッカーのシーン。