電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2023年1月)

空色(1980年、日本、監督:今井八朔、60分)

 60分という、映画としては決して長いとはいえない時間で幼少期から壮年期までを違和感なく描いているのはもっと評価されてしかるべき。遊び盛りから働き盛り、純真から欺瞞、自由から責任、と移り変わっていく様は哀しくもあり美しくもある。特段事件があるわけでもない当たり前の生活の描写は、ともすれば退屈だけど、そこは60分という波乱のない時の経過にギリギリ耐えられる絶妙な枠組みが最良の形をとっている。

 決して恵まれた人生ではなかったけれど、幸せだった。というより、この作品では過去と現在で幸福と不幸の対比を作ってはいない。純真ではなくなったし辛いことも増えたけれどそれでも悲観するような生活ではない。それでもノスタルジーは存在するし、どこか過去を美化することもある。それがバランスが良いというか……ちょっと言葉では説明しきれない。

 終盤は爽やかさと寂しさが混ざり合い、独特の雰囲気を醸し出している。日向でみた夢の温かみは、再視聴へと食指を伸ばさせるのに十分な魅力がある。

《印象的なシーン》ラストシーンの爽やかな青空。

そらいろ

そらいろ

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空間(1990年、日本、監督:大塚似鳥、60分)

 はずれてしまった者たちの哀しみ、という公開当時のキャッチフレーズは現代でも色褪せない魅力を放っている。映画の内容と関係あるのかというと……うーん……まあ、ねえ……。

 シンプルなタイトルは名は体を表していて、物語の筋はきわめて簡潔。感想サイトでは「○○は△△の暗喩であって、□□という裏のテーマがある」とか「××という深い哲学的な深みがある」みたいなことを書いている人がいたけど、個人的には不適当というか……訓詁学に片足突っ込んでいると思う。

 結局のところシンプルな物語は、ただシンプルに楽しむのが良いのだと思う。そういうタイプの映画にしても出来は褒められたものではないような気もするけど、まあ、そこは一時間くらいの映画ですからねえ。

《印象的なシーン》ゆっくりと天井の四隅を見渡すシーン。

 

 

空論(2000年、中国、監督:廉相奢、60分)

 なにもない。なにもなしえない。なにものこっていない。

 印象的なモノローグで始まる物語は時間と空間を大胆に飛び越えて展開し「空論」という終着点へ向けて収束する。ワイドスクリーンバロック並みに目まぐるしく展開して、これでもかとギミックを散りばめて山盛りキャラクターを登場させる手法は娯楽の極致といったところ。ただ、やっぱり疲れる。ついていくのに精いっぱいでとても考察なんてする気にはなれない。ところどころなにをやっているのかさっぱり理解できないところもあったけど、再視聴する気にはちょっとなれないかな。

 考察できるほどの教養はないけど一つだけ。中盤に登場する名無しの男は、優秀な父親の著作に親しみ頭の回転が早くて名声があったけど、実務にかかわるのを両親や重役の老人から反対される。けれど社長の鶴の一声で現場のトップに起用され、案の定失敗してしまう。あれってたぶん趙括が元ネタだろうなあ。いろいろ人間関係や出来事がそのままだし。まあ、この世界の趙括は死ななくて済んだわけだけど。

《印象的なシーン》「論ずるに値しない」

 

 

空虚(2010年、イタリア、監督:エンリコイサム・ベロッキオ、60分)

 頭が、痛い。

 なんでこんなものを書いているんだろう。だれも読みはしないのに。なんでこんなに頭を悩ませて考えているんだろう。だれも褒めてはくれないのに。なんでこんなことをしているんだろう。なんにもなりはしないのに。

 空虚、という言葉から連想されるたくさんの感情がこの映画にはある。けれど言語化できない。どう表現していいかわからない。けれど、たくさんの感情が、そして理論がこの映画の中にはある。

《印象的なシーン》牢獄のような個室の中央に落ちている本を拾う主人公。

大いなる空虚

大いなる空虚

  • トーマス・ジェーン
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そらのはてへ(2020年、日本、監督:真崎有智夫、30分)

 解き放たれた光が天に昇っていくシーンは美しくも恐ろしい。意味深な表情がこれから起きることを暗示しているともとれるけど、素直に受け取れば実直なハッピーエンドということになる。含みがあるのか、それともストレートな作品なのか。観るたびに感想が変わりそうな気もしている。

《印象的なシーン》屋上で見せる眼だけが笑っていない笑顔。