電羊倉庫

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最近見た映画(2023年1月)

ユージュアル・サスペクツ(1995年、アメリカ、監督:ブライアン・シンガー、106分)

 あっ、これだったのか。

 やや凝った構成(現在/病院、現在/警察、過去の三パートある)で開始しばらくはちょっと混乱したけどわかってしまえばそれほど複雑な話ではない。クライムストーリーということしか共通点がないけど『オーシャンズ』シリーズのような集団で仕事をする男たちはそれだけで魅力的だった。まあ、悪さもこちらのほうがだいぶ上だけど。

 吹き替えで観たんだけど、語りがいいなあ。オチはだいたい二択に絞れる人が多いと思う。驚愕のどんでん返し的なキャッチコピーがつきがちみたいだけど、そこまでのものを期待するとちょっと肩透かしを食らうかもしれない。ただ終盤にある情報の畳みかけからの「歩みの変化」は文句なく絶品。

 まったく別ジャンルだけど、仕掛けのベクトルとしてはあの作品に似ている……と具体的にいくつか作品名を挙げたいけどそれ自体がかなり重大なネタバレになってしまう。伏線、というよりはオチのための細かい前振りが多くて答え合わせという意味で二週目が楽しみ。「100分の映画を二周できるほど暇じゃねえよ」という人であっても冒頭の五分だけでも見返してほしい。オチの納得感が増すはず。

《印象的なシーン》手で墓穴を掘るシーン。

 

 

凍った湖(2015年、オーストリア、監督:ニコラウス・ロイトナー、88分)

 雰囲気は好き。雪の街はただそれだけで画面が映える。よく言えばオーソドックス、悪く言えば平坦なストーリーだけど大きな破綻もない*1しセリフ回しやBGM等に大仰な感じがないのは好き。ただ、盛り上がりに欠けるというか淡々としすぎているところはあると思う。物語の構造自体は比較的単純だけど、町の人々の関係性とアホーナーの親族関係がイマイチよくわからなくて混乱した。まあ、ふんわり理解できていればそれで充分ではあるのだけど。ラストはちょっと驚いたけど悪くない雰囲気がある。あと、白銀の世界で字幕を白色で表示するのは見づらいからやめてほしい。

 続編があるらしいけどこの感じだとちょっと食指が伸びないかな。田舎町でのカーニバルの仮装+殺人事件ということで『ウィッカーマン』を連想したけどそういうタイプの作品ではなかった。

《印象的なシーン》教会での「灰の水曜日」

凍った湖

凍った湖

  • Maria Hofstätter
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タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら(2010年、カナダ/アメリカ、監督:イーライ・クレイグ、89分)

 人を見かけで判断するのはやめましょう。人の話はちゃんと聞きましょう。危険物の近くでは慎重に行動しましょう。

 楽しいコメディ作品。相互不理解でこんなに笑ったのは久しぶり。現実感が薄くてバタバタ人が死んでもまったく悲しくない。というか作中人物ですら自分の友達が死んでいるのにたいして悲しんでいなくて、妙に好戦的なのも笑いを誘う。いや、正統派ホラー作品だったらそっちのほうが正しいんだけどねえ……。そういう意味ではホラー映画のパロディ的な側面もあるのだと思う。

 よそ見事故、転倒串刺し、人間ウッドチップ、顔面釘刺し、誤射、顔面芝刈り、焼死(転がって火を消せ!)とバラエティ豊か(?)な死にざまで楽しませてくれる。ちなみにどんなに追い詰められても決してバッグを離さずに走り続けた女学生がいたり、ラストが冒頭に繋がっていたり、ちょっとした会話が決着に寄与していたりと細かい工夫(?)もある。ただ、表題ではデイルなのに字幕ではデールと表記にぶれがあるのもちょっと気になる。

《印象的なシーン》「自分の墓を掘らされてるぜ」

 

 

ヒルコ/妖怪ハンター(1991年、日本、監督:塚本晋也、90分)

 ホラーというよりは怪奇ミステリに近いと思う。田舎町の暑い夏休みのある日、という雰囲気がとても良い。学校をクローズドサークルにしているのも、その理由付けもそれほど無理がない。ただ、彼が電話線を切っていることの説明はなかったと思うんだけど、事故で切ってしまったということだったのかな。

 妖怪ハンターの名を冠しているけど、ヒルコは妖怪ではないしハンティングしているわけでもないような……と思っていたら原作からして作者の本意ではないタイトルだったらしい。原作はまったく読んでいないけど画風は知っているし、ちょっと調べた感じだと少なくとも主人公の雰囲気はだいぶ違っているようだけど、ファンはやっぱり納得していなかったりするのかな。あと感想サイトで「キンチョールはねえだろ」と怒っている人がいたけど、それはたしかにそうかも。

 ヒルコが床を這って動くときのスピード感は素晴らしい。大好き。『鉄男』と同じ監督(というか本作は『鉄男』の次作)で、あのスピード感も好きだったから、自分の感覚に一貫性があるような気がして嬉しい。

《印象的なシーン》丘に寝そべって星空を眺める二人。

 

 

チャンスの神様(2003年、日本、監督:香月秀之、19分)

 短い作品だから仕方ないけど圧縮しすぎだなあ。登場人物全般に絶妙に好感が持てないなあ。ファンタジー的な展開はいいけど、それをやるならもう少し「そういう世界ですよ」という前振りが欲しかったなあ。ただ、その辺をもうちょっと洗練したら『世にも奇妙な物語』に入っていてもおかしくないくらいの作品とは思う。オチもベタといえばベタだけど個人的にはけっこう好き。

《印象的なシーン》取り分を分け合う二人。

 

 

それからのこと、これからのこと(2020年、日本、監督:石橋夕帆、15分)

 何か起こりそうでなにも起きない。何とも言えない雰囲気と少ない台詞で表現される感情が心を撫でる。画面の綺麗さとエンディングで流れる端正な音楽が印象的な作品。どちらかというと「これからのこと」のほうが好き。

《印象的なシーン》先輩の「俺も好き」に反応する後輩。

*1:捜査がえらく強権的なのはそういうお国柄なのかな?