電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

フィリップ・K・ディック

フィリップ・K・ディック『人間狩り』[ホラーテイストなディック作品集]

収録作の半分弱が既読。ダーク・ファンタジー・コレクションの第一弾として刊行され、全体的にホラーや怪奇色の強い作品が収録されている。唯一ユーモラスといえるのは「よいカモ」くらいだけど、これもどちらかというとブラックユーモアであまり素直には笑…

フィリップ・K・ディック『市に虎声あらん』〔なんだかよかった。好きかもしれない〕

ディックの普通小説。SF/ファンタジー的な現象はまったく起きない主流文学小説で、事実上の処女作というべき作品らしい。正直、あんまり好みじゃないかなと思いながら読み進めていた。なにより肩ひじ張った文章にうんざりしていたけど、だいたい40ページくら…

フィリップ・K・ディック『ヴァリス〔新訳版〕』〔理解できたし面白いけど……やっぱり残念〕

思ったよりずっとわかる話だった。 旧訳で読んだときより物語の筋をちゃんと理解できたのは翻訳のおかげなのか年月がそうさせてくれたのか。新訳のほうが俗語をちゃんと俗っぽく翻訳してくれているみたいで、少なくとも本書については新訳のほうが正しいよう…

フィリップ・K・ディック『フロリクス8から来た友人』〔主人公がだいぶ不愉快だけどそれなりに面白い物語〕

マジで読むのやめようかと思った。というかディックじゃなかったらやめていた。一部登場人物が不愉快。以下、悪口の羅列。 デニーは人が見ている前では殴らないって、いやさっき思いっきり殴りかかってたでしょ。いや、なんだこいつ。マジで奥さんの方が正し…

フィリップ・K・ディック『永久戦争』〔機械による戦争、政争、存在しない戦争、星間戦争〕

収録作品はすべて既読。戦争を題材にしたコンセプトアルバムだけどせっかく「ジョンの世界」が収録されているのだから「変種第二号」もセットで収録してほしかった。そこはちょっと残念。収録作の感想は大森望編『ディック短編傑作選』シリーズで書いたので…

フィリップ・K・ディック『模造記憶』〔有名作と隠れた傑作となんともいえない作品とここでしか読めない短編と〕

収録作の大部分が既読。主に中期の作品を収録しているらしい。タイトルの通り「つくりもの」を題材にした作品が多い……わけでもなさそう。どちらかというと「追憶売ります」の存在感からタイトルがつけられたんじゃないかな。大森望編『ディック短編傑作選』…

フィリップ・K・ディック『悪夢機械』〔魘される悪夢から喩えとしての機械までバラエティに富む短編集〕

収録作はすべて既読。タイトルにあるように一夜の「悪夢」的な展開の作品(「調整班」「スパイはだれだ」「出口はどこかの入口」「凍った旅」)直喩比喩を含む「機械」的なものを扱った作品(「超能力世界」「新世代」「少数報告」)そのほかこの二つに括れ…

フィリップ・K・ディック『去年を待ちながら〔新訳版〕』〔ディック詰め合わせの良作〕

いいタイトル。ディック要素……懐古趣味(「パーキー・パットの日々」)、代替臓器で長生きする老人(『最後から二番目の真実』)、人造の疑似生物(『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)、特殊なドラッグ(『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』)、…

フィリップ・K・ディック『最後から二番目の真実』〔情報の虚実を扱った薄暗いけど明るいラストの作品〕

印象的なタイトル。内容のほうはそこそこ。作品全体を見るとわりとちゃんとしている(ディック比)けどかなりライブ感が作っているところがあって勢いで展開を決めて次の章でフォローして辻褄合わせているっぽい。だからキャラクターの性格や立場があまり固…

フィリップ・K・ディック『人間以前』[ファンタジーと子供たち。そして最良と最悪の発露]

「地図にない町」(The Commuter)翻訳:大森望 現実崩壊。とてもシンプルな作品で、ほかの同系列の作品と違って緊迫感には欠けるけど、あちらが主観的な恐怖ならこちらは徐々に現実を侵食されていくことへの客観的な恐怖を味わうことができる。過去改変によ…

フィリップ・K・ディック『小さな黒い箱』[変色した社会問題と神について]

「小さな黒い箱」(The Little Black Box)翻訳:浅倉久志 解説にある通り『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の原型となった短編*1で、ディック諸短編の中でも特に重要な作品。ディックが人間性について「感情移入能力」を重視したのは『アンドロイドは…

フィリップ・K・ディック『変種第二号』[戦争と人造物+サスペンス=不安]

「たそがれの朝食」(Breakfast at Twilight)翻訳:浅倉久志 現実崩壊。短編の諸作品の中でも最も明快にディック的な「不安」が描かれている。時間軸の設定が絶妙で、近すぎず遠すぎない時間設定はラストシーンに説得力を持たせてくれるし、最後のセリフの…

フィリップ・K・ディック『変数人間』[ショートショート、超能力、時代]

「パーキー・パットの日々」(The Days of Perky Pat)翻訳:浅倉久志 偽物。真剣にお人形さん遊びをやっている大人たちは滑稽だけど切実さがある。何度読んでもルールがよくわからないけど、このゲームの本質は懐古にどっぷり浸り変化や進歩を徹底的に拒む…

フィリップ・K・ディック『トータル・リコール』[娯楽色が強くすっきり楽しく読める短編集]

「トータル・リコール」(We Can Remember If You Wholesale)翻訳:深町眞理子 現実崩壊。旧題の「追憶売ります」のほうが洒落てるけど、やっぱり映画にはあやかっていかないとね。映画はリメイク版しか観ていないし記憶もちょっとあいまいだけど、かなり原…

フィリップ・K・ディック『アジャストメント』[生涯のテーマからさらっと笑えるコメディまで]

「アジャストメント」(Adjustment Team)翻訳:浅倉久志 現実崩壊と上位存在。解説にもある通りいかにもディックらしい作品。世界の変化に気が付く場面(P35-39)の焦燥感は流石。ただ、その直後の電話ボックス直送のシーンはちょっと笑ってしまった。しが…

SFといえばフィリップ・K・ディック

男はバカだから「初恋の人」を生涯忘れられずに引き摺り続ける、と何かで読んだ記憶がある。これはたぶん真理で、そして「初恋の作家」にも同じことがいえる。少なくともおれはそうだ。 ディックを初めて読んだのは大学一年生のころだった。せっかく大学生に…

フィリップ・K・ディック『宇宙の眼』[ぼくがかんがえたさいこうのせかい=他人には地獄]

偏った人間が考えた「最高の世界」から抜け出す物語。 ディックは「現実/非現実」みたいな作品より「人間/非人間」みたいな作品のほうが好きで、幻想的なSF作家みたいに評されてるのがあんまり気に食わなかったけど、改めて読んでみるとやっぱりそういうのも…