電羊倉庫

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フィリップ・K・ディック『フロリクス8から来た友人』〔主人公がだいぶ不愉快だけどそれなりに面白い物語〕

 マジで読むのやめようかと思った。というかディックじゃなかったらやめていた。一部登場人物が不愉快。以下、悪口の羅列。

 デニーは人が見ている前では殴らないって、いやさっき思いっきり殴りかかってたでしょ。いや、なんだこいつ。マジで奥さんの方が正しいだろ。ちゃんと口を回して説明しろよ。側からみたらやばいロリコン以外の何者でもない。P208の描写、マジでなんだこいつ。家族を事実上密告しておいて「おれたちはいっしょにいるべきなんだ」とかぬかすな。しかもその舌の根も乾かないうちにチャーリーのこと考えてるし、本当になんなんだ。ニックだけかと思ってたらお前もかよグラム。P296からの描写、ここでしばらく読むのやめた。マジで不愉快極まりない。いや、妻を捨てて新しい女のところに逃避するのはディック主人公あるあるだけど、この言い草はその中でも一二を争うほど酷い。P235-236の描写的に、主人公の俗物っぷりはある程度意図的なものなのかね。『創元SF文庫総解説』によるとディック本人も「金のためだけに書いたカス作品」と評しているらしく、ある程度は自覚的だったらしい。

 ただ、少なくとも終盤に入るまでは(良い意味でも悪い意味でも)先が読めなくてそれなりにワクワクさせられる。まあ、斜め上(いや、下かも)の結末が待っているわけだけど。P213で開示される「キャンプを撤廃して先手を打つ」という政策はちょっとうまいかも。まあ、あんまり意味なかったけど。P231で突然挿入される日本の侍と剣士のエピソードは宮本武蔵の巌流島のことかな。終盤の雰囲気は好き。

 モノをコピーする異星生物は「くずれてしまえ」を思い出す。まあ、本当にそれが主目的だったかは不明瞭なまま終わったけど。不条理な試験による公職の寡占は「ジェイムズ・P・クロウ」っぽいと思ってたけど、序盤の息子要素はすぐに立ち消えた。少女を取り合えってドタバタを始めたあたりから「待機員」と「ラグランド・パークをどうする?」に近い作品なのかもと認識を改めた。会話文のテンポ感やその場で辞表を書かされる将軍のコミカルさを含めてB級映画っぽくもある。もちろんかなり悪い意味で。

 大した仕事をしていないというコンプレックス、弱い立場のものに勇気付けれれる展開、生命力に溢れているけど近づけば破滅すると分かっている少女(自殺願望とやり直したいという願望、またはしがらみが存在しない時代への回帰願望)がディック要素かな。というかニックのことを「平均的な市民の代表選手」みたいに描いていたけど、あれがディック世界的な平均的市民だったらマジでろくでもないぞ。