電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2023年6月)

ソーシャル・エンジニアリング(2021年、ギリシア、監督:ディミトラ・ハリトス、79分)

 原作と同じくシンプルで良く纏まった映画。映像のレベルも高くて、特にナビゲーターがくるくると入れ替わる冒頭のシーンはとても印象的。ただ、この手の拡張現実の描写にはやっぱり時代が出ていて興味深い。

 ディストピア的な雰囲気がより強調されていて、画面の華やかさのわりに雰囲気が暗くて、それだけにラストの一変した景色には絶望の印象を受ける。……なんだけど、ほかの人が指摘していたけど、あれはむしろ希望を強調していて現実に立ち向かう強いシーンらしい。

 ただ、描写がやや不親切で、分かりにくいと言えばわかりにくい。欠点と言えばそれくらいかな。

《印象的なシーン》「ねじ回し屋が知っているのはそのうち半分が事実ってことだけさ」

 

 

スピニング(2019年、アメリカ、監督:ダレル・プレポン、98分)

 ちょっとベクトルは違うけど『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』を思い出させる作品で軽快なコメディ映画。刑事、泥棒、探偵のトリプル主人公作品でそれぞれが逃走と追跡の立場をクルクルと入れ替えつつ、目標物も古代ギリシアのコインから金の延べ棒(の中に隠されたチップ)、『くまのプーさん』の初版本、砂糖入れ、シューズ(の紐)、グラス、モネの絵画、そして……と目まぐるしく入れ替わるのもとても楽しい。

 複数の主人公がいるタイプの映画のなかでもかなり好きな作品で、やっぱりクライムストーリーはこれくらい展開が早いほうがいいよなあ。キャラクターとしてはやっぱりセブが好き。善悪のどちらかに寄りすぎないけど、中庸と呼ぶには躊躇してしまう感じが絶妙。

 コメディとしても質が高いし、サスペンス的な面もそれなりに良く出来ている。ただ、ブラックジョーク的な描写は作品の雰囲気と合っていないしなくてもよかったと思う。

《印象的なシーン》無秩序なステンドグラスに触れるセブ。

 

 

闢(2013年、日本、監督:千葉昇、88分)

 このタイトルでB級ゾンビ映画はほとんど詐欺に近いけど悪い映画ではなかった。コメディ要素もそれなりに笑えるし、アクションシーンもちゃんとしている。所謂走らないタイプのゾンビだけど、妙に疾走感があるのが本作の特徴でもあるらしい。もちろんB級だから特殊効果は安っぽいし、演技もなんとも言えないレベルの人が多い。

 いくつかのシーンは往年のゾンビ映画へのオマージュが込められているらしい。おれはゾンビ映画に詳しくないからわからないけど、マニアの評判はいいから良く出来ているのだと思う。おれが唯一気づいたのは、キックボードで逃げるシーンがほとんどそのまま『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だったことくらいだけど、これはオマージュというよりパロディかな。

 混沌と混乱の中、まさかの存在が新たな人類開闢の祖となるのはぐるりと一周回って斬新なラスト。まあ、ちょっと唐突すぎて世間では賛否両論……の否定よりの意見が多いみたいだけど、おれは割と好き。

《印象的なシーン》トマト缶をぶちまけたような出血シーン。

 

 

落下(2011年、日本、監督:福武浩嗣、170分)

 身震いが止まらない。延々と永遠に落下し続ける世界での事件を描いた作品だけど、映像の力が物凄くて、眩暈と嘔吐感が凄まじいことになる。それこそ、普通ならどんなに苦手な人でも三十分もすれば慣れてしまうだろうけど、カメラワークや脚本の工夫がそれを阻んでいる。鑑賞後は、いまこの瞬間、自分が大地の上に立っているという事実に感謝できるようになるだろう。

 物語の筋自体は素朴で分かりやすいけど、設定や世界観はかなり奇抜でとてもじゃないけど大衆向けとは言い難い。おれはそこが魅力だと思ったけど、アンバランスで気持ちが悪いと評しているひともけっこういた。ほかにも、やっぱりいくらなんでも時間が長すぎるという批判も多くて、これについては同意せざるをえない。『ブレードランナー2049』より長いんだよなあ。その時間の長さを苦に感じさせいための工夫はあるけど、それにしてもなねえ。

 ラストは本当の意味で「オチ」がつくわけだけど、ここについては褒めている人が大多数だった。ちなみに公開当時は4DXでも鑑賞できたらしいけど、気持ち悪くなって途中退席するが多かったらしい。

《印象的なシーン》爪が真横を通り過ぎていくシーン。

 

 

ガソリンスタンドでの一幕(1997年、日本、監督:真崎有智夫、10分)

 曇り空の描写が印象的な作品。薄暗い雰囲気は主人公の妄想を真に迫ったものにしてくれている。ただ、機材が安いからなのか画面が暗すぎて何が起きているのかほとんどわからない場面もあった。

《印象的なシーン》店員の歪んだ笑顔。