電羊倉庫

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最近見た映画(2023年9月)

地獄の黙示録 特別完全版(2001年*1アメリカ、監督:フランシス・フォード・コッポラ、202分)

 スタニスワフ・レム「親衛隊少将ルイ十六世」や〈気分はもうカーツ大佐〉で興味があったので視聴。とても長い映画ということ、ベトナム戦争を題材にした映画ということ、いろいろあってなんだか大変なことになっちゃった映画ということ、賛否両論あるけど映画史に残る名作ということ知っていた。

 本国の評論家が「前半は百点、後半はゼロ点」と評したらしいけど、たしかに前半と後半でまったく違う映画になっていた。前半はかなり真っ当なベトナム戦争映画で、戦場の狂騒とある種の高揚感そして現実を叩きつける残酷さや狂気を描いていたけど、後半、というかフランス人たちが出てからはガラリと作風が変わって芸術的というか観念的というか哲学的というか、わかるようなわからないような会話劇が続く。おれは後半がゼロ点とは思わないけど、あれが良かったかと問われると……けどだからといって嫌いかと問われるそんなことは……と我ながら煮え切らない。面白かったのかつまらなかったのかよくわからん。ジャングルが舞台というもあるだろうけど、大規模な集団行動を強制されているわけでもなくて、どこかロードムービーっぽいところもあるのにとても閉鎖的で息苦しい。

 おれは戦争映画をほとんど見たことが無くて、比較できるのが『フルメタル・ジャケット』くらいなんだけど、どちらも前半と後半でかなり違うベクトルをとっているのも面白い。どちらかというと『フルメタル・ジャケット』のほうがリアリズム寄りで、『地獄の黙示録』は観念的というか登場人物が全般的に正気を失っていく気持ちの悪さがある。ちなみに色々なものを省いて骨格だけ観ると『コラテラル・ダメージ』も近いものがあるのもちょっと興味深い。

《印象的なシーン》母親からのテープレター。

 

 

ゴーン・ガール(2014年、アメリカ、監督:デヴィッド・フィンチャー、149分)

 こちらも前半と後半で別の作品になるタイプの映画。前半はミステリっぽくて後半はサスペンスっぽい。視点が一つから二つに増えてラストで合流するという構成はかなり良かったと思う。ミステリ-サスペンス作品だけど、ちょっと視点を変えると主人公の成長物語ともとれる。自業自得な面(ドン引き不倫ヒューマン)があるとはいえ、かなり苛烈な試練を与えられそれをどうにか乗り越えて人間として成長している。特に独占インタビュー以降では人が違ったよになる。まあ、だからあんなラストになってしまったわけだけど……。

 最初は主人公の好感度が下がり続けて、後半からはエイミーの好感度と主人公の好感度が反比例していく。一貫して好感を抱けるのはタナーくらい。エイミーはある意味もう一人の主人公。偶然も必然も利用して自分だけいろいろなものをまったく失わずにより良い生活に復帰していて怖いけど、怪物過ぎて一周回って好きになる。タイトルが「消えた少女」なのは彼女が捜索されている理由が児童文学のモデルだから、ということなのかな。それとも高い知能に反してある種の幼稚性があるという含みを持っているのかな。

 ラストは結局なにも解決していないような……と思ったけど前述の通り主人公の成長物語ととらえると前に進んでいる……かなあ。あと、どうでもいいことだけど、なぜか『ミスティック・リバー』とストーリーを混同していて「いつ川がでてくるんだろうなあ」みたいなことを考えていた。

《印象的なシーン》「猿回しの猿なら死刑にならない」

 

 

バブルへGO!! タイムマシンはドラム式(2007年、日本、監督:馬場康夫、116分)

 あまりたくさん観ているわけじゃないけど、邦画SFでは時間ものの打率がすこぶる良い。だからそういうジャンルの作品をネットで検索していてヒットしたのがこの作品。タイトルが示すようにSFコメディ映画なんだけど、そこまでパッと明るいわけではない。序盤はもちろん華やかなバブル期についてもどこか退廃的というか「結局この人たちはしっぺ返しを食らうんだよなあ」という哀しさがある。

 もちろんコメディとして笑えるところも多いし、ハッピーエンドで後味も良い。特に財務省に謎の地下施設があること、下川路が事実を知って態度を豹変させたのには笑った。真弓には「出世していない」と馬鹿にされていたけど、財務省に入っている時点で官僚としてはエリート中のエリートなんだよなあ。改変前現在、過去、改変後現在の三時間帯どこでも存在感があってもう一人の主人公っぽいところがある。

 時間ものとしても巧く出来ている。前振りが機能していて、ちゃんと結末から逆算して作ってある。ただ、アクションはギャグを含めてもイマイチだった。あと経済学的にはあれってどうだったんだろう。いや、何もしなくてもいつかは弾けると言っていて未来知識があるから崩壊とは無関係にどうにかしたということかな。

 物理的タイムトラベルだから改変後の2007年にはあの親子は二組存在するのでは? とか細かい(?)ところには粗があるけど、まあその辺は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか往年の名作も同じなんだし、コメディ系の作品では目を瞑ってもいいと思う。

《印象的なシーン》終盤のバイクによる突入。

 

 

僕らのミライへ逆回転(2008年、アメリカ、監督:ミシェル・ゴンドリー、102分)

 楽しいコメディ。良いタイトル。最初はどうしてもジェリーのキャラがきつかったけど、事態が好転していくのと並行して改善していく。一本目が見たことがある『ゴーストバスターズ』で助かった。以降のタイトルは観ていないものも多かったけど、一作目が知っている奴だったのは大きかった。

 サクセスストーリーとしての現実味はほぼゼロだけど、そんなことは序盤の電磁人間の設定の段階で提示してくれているから問題にはならない。和気藹々と地域住民と楽しく映画を作り、それが破綻してもなお足掻き、そして終局を迎える。泣く、まではいかなかったけどちょっとしんみりするラストシーンは印象的。

 ネットフリックスを思い出した。いや著作権違反のことじゃなくてビデオ屋さんから大きな企業に成長して、自分たちで映画を作り始めるところが。島本和彦アオイホノオ』で読んだDAICON FILMSF大会用に作ったアニメのことを思い出した。こっちは収録作が短いのに高額で取引できたことが共通点でもある。

《印象的なシーン》リメイク映画を量産している場面。

 

 

真夜中モラトリアム(2017年、日本、監督:磯部鉄平、23分)

 大きな出来事は起きないけど、雰囲気は独特でたまらないし、羨望のような嫉妬のような期待のような同情のような失望のような言葉で表現しにくい感情もある。おれはあまり好きではないけど良い作品だと思う。

《印象的なシーン》別れ際の松元の表情。

 

 

ワールドオブザ体育館(2014年、日本、監督:勝又悠、19分)

 MVみたいな作品だった。役者を含めて画面的なビジュアルはけっこう好きだけど、全般的な雰囲気はあまり好みではなかった。特にポエムが自己啓発っぽい雰囲気なのがちょっと……。ただ、雑多な体育館が心象風景を象徴的に表現しているところは好きだし、最後もそれなりに一歩踏み出すところはとても良いと思う。

《印象的なシーン》ピエロ、偉人、先輩の拍手。

*1:原版は1979年