電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た映画(2023年10月)

明日への地図を探して(2020年、アメリカ、監督:イアン・サミュエルズ、99分)

 時間循環イムループSFに外れなし。面白い。この手の映画にしては自暴自棄バイオレンスなシーンがほとんどないのも好印象。最近見た映画だと『パーム・スプリングス』もそうだったけど、事象の発生原因については誤魔化しつつ解決方法についてはそれなりの理屈を提示しているけど、SFと呼べるほど科学的ではないけどファンタジーと呼ぶには現実的なところがある。理屈と感性のどちらにも偏りすぎていないというか、気持ちが冷めない程度にご都合主義というか、納得できる程度の嘘が絶妙というか。ループものにしては珍しく序盤と終盤が対応しているのもグッとくる。

 雨で終わるの良いなあ。「主人公」はたしかに彼女だったかもしれないけど、作中で成長したのは間違いなく彼だったよなあ。

 細かい所もいくつか。海外の古本屋って横に積むんだ……取りにくそうだけど。色々な作品を引用するところが実にオタクっぽい。何かというと知っているものと比較して喋ってしまうんだよなあ。ちなみに『パーム・スプリングス』は永遠の休暇のイメージだったけど、本作はどちらかというと現実からの逃避という意味で時間跳躍タイムリープSFの構造に近い。

 結末からは教訓を得ることもできるけど、それほど説教臭いものではないからぜひとも気楽な気持ちで観てほしい。そんな映画。

《印象的なシーン》レストランに忍び込み流れるように動きながら会話するシーン。

 

 

ロブスター(2015年、ギリシャ/フランス/アイルランド/オランダ/イギリス、監督:ヨルゴス・ランティモス、118分)

 うーん。面白かったような、そうでもないような。好きな気もするけど、気に食わなかった気もする。うーん……わかったような、わからないような。

 受付を経て異質な空間に閉じ込められる設定は『プラットフォーム』を思い出すけど、なんとなくモチーフも共通しているような気がする。宗教か神話がモチーフなのでは? どうなんだろう。その辺のことは詳しくないから判断がつかない。おれは雰囲気でこの映画を観ている。前半と後半で綺麗に別の領域へと動くけれど、罰の与え方が罪の原因となったものへの処罰(同害報復……はちょっと違うか)なことは共通しているあたり、性向が真逆なだけで同質なコミュニティーなのだろう。

 計画が露呈しても男の方が実質罰を受けなかったのはどういうことなんだろう。手帳の主はわかっていても相手については確信をもてなかったから? ちなみに主人公は同質の相手を求める傾向がある。酷薄さ、近視、盲目。だから親し気な男の視力を異常なほど気にしていたのだろう。そういう意味で一見無意味な行為でしかないラストも主人公の志向が如実に表れていて面白い。ただ、ラストは含みがありそうだけど、どっちなんだろう。同質を求める志向はホテルでの暮らしを見る限りある程度作っているものなわけで、そこまでの狂気を持っているわけではないから、やっぱりそういうことかな。

《印象的なシーン》綺麗な鬣のポニー。

 

 

ビバリウム(2019年、アメリカ/ベルギー/アイルランド/デンマーク、監督:ロルカン・フィネガン、97分)

 規則正しさが気持ち悪い。作り物が気持ち悪い。

 現実と非現実の境界線がとても曖昧で、直接的な描写はほとんどないのに不条理な暴力の印象が強い。未視聴だけど『ファニー・ゲーム』の暴力性に近いんじゃないかなとも思う。カッコウがモチーフだけど、巣に送り付けるんじゃなくて巣に誘い込んでいるあたり行動形式は寄生虫に近いような気もする。バッドエンドなわけだけど、もう一段酷いことすると思ってたからホッとした(もしくは肩透かしを食らった)。夫婦が必要だったこと、赤ん坊が男の子だったこと、ママを妙に強調していたこと、寝室を覗き見て学習しているような描写があったことからてっきり繁殖まで済ませてから埋めるのかと……いや、流石にそれやったらキツすぎるか。侵略的宇宙人かなと予想していたけどその辺はあまりハッキリとは描写されなかった。

 子育てに対する男女の違いを題材にしているとも取れるけど、たぶんそういう映画じゃない。どんな行動をとってもどうしようもなかった。それに、わかっていても子供は殺せないよなあ。

《印象的なシーン》屋根の上から見た景色

 

 

PicNic(1996年、日本、監督:岩井俊二、68分)

 こういう若者像見かけなくなったなあ。大人の変化なのか子供側の変化なのか。大人と子供という対立軸も見かけない気がする。

 時代柄しかたないところもあるけど病院のこういう描写はちょっとぎょっとしてしまう。主要人物三人とも絶妙に話が通じていないけどそれぞれに魅力がある。あの先生は現れるタイミングや行為を考えると、やっぱりそういうことなんだろうなあ。

 わたしが死んだら地球は滅亡する、って発想は割と好き。だからラストシーンでココは本気でツムジを救おうとしたんだろうなあ。

 昔のおしゃれな洋画を思わせる意味深長なオープニングも印象深い。

《印象的なシーン》サトルがもう一度塀の上に登ろうとする場面。

 

 

毒(2023年、アメリカ、監督:ウェス・アンダーソン、17分)

 おっ、ロアルド・ダールやん……ベネディクト・カンバーバッチやんけ!

 原作は既読。実験的な手法で撮られていて、メタフィクションのような舞台演劇的というか、とにかくそういう方面ではすごく面白い作品だった。ストーリーはほぼ原作そのままで、小説の緊迫感とラストの何とも言えない後味の悪さをキッチリ映像に仕上げている。

《印象的なシーン》ハリーの家に入るウッズ。

 

 

白鳥(2023年、アメリカ、監督:ウェス・アンダーソン、17分)

 同じくダール原作だけど、こっちは原作未読。同じく実験的な手法がとられている。役者は複数登場するけど、ほぼほぼ独り舞台で、一人称の回想という小説の形式を良く活かした作品だと思う。腹立たしい展開だけどなんともいえない救いのある物語。

《印象的なシーン》線路から湖へ移動する場面。