電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た存在しない映画(2023年11月)

地球に磔にされた男(2017年、日本、監督:山田寛一、100分)

 素晴らしい。時間SFの中でもかなり変わり種で理論はタイムトラベルだけどやっていることはパラレルワールドの移動で、落着はタイムリープものに近い。すげえや、時間ものの新機軸だ! 

 怠惰な男が非日常的な体験を経て成長して穏当な環境に落ち着くというのはベタだけど素晴らしい。印象深いラストシーンは当時の時世をこれ以上ないほどうまく活かしている。同様の題材なら『Letter to you 〜想いは時を越えて〜』を思い出すけど、フィクション係数を別の方向に振っていて興味深い。

 やっぱり実相寺が群を抜いて魅力的。登場機会はかなり少ないんだけど忘れがたい存在感がある。ドクだけどドクじゃないというか、バディじゃないけどバディっぽいというか。それぞれの世界でのそれぞれの廉太郎も多種多様で、一人複数役を見事にこなした役者にも万雷の拍手を送りたい。

《印象的なシーン》最後の世界での実相寺との会話。

 

 

有名悪女になったので好きに生きたいと思います(2024年、日本、監督:野呂雉啄、128分)

 当世流行の異世界転生もの……ではなく単なる悪女もののファンタジーアニメ。だからメタ知識も二周目の記憶もない。少女漫画が原作らしくてあまり触れたことがない異文化な映画だったけど、思っていたよりは理解できる作品だった。宮廷ものというと後宮で完結するタイプを連想するけど、本作はどちらかというと皇帝の代理執行から皇太子の臨朝称制で実際に政務を執るタイプの作品。そういう意味では即位していないけれど女帝に近いポジションで物語が進む。政治劇はかなり起伏に富んでいるし重臣たちは個性たっぷりで味方になったり敵になったりと目まぐるしい。退屈とは無縁な作品。

 というか、主人公は悪女というほど悪女ではないような気がする。まあ、ライバルの第二夫人への仕打ちはたしかに悪女でしかないけど対応自体はまっとうというか、ふつうに越権行為だったし政敵だったしねえ。夫はなんともいえないクズだけど魅力が溢れてたまらないから不思議だ。結局、主人公が辣腕を振るうのも惚れた弱みみたいなところがあるし。

 映像的にもかなりレベルが高くて、宮廷の煌びやかな描写はあやうく話の筋を忘れてしまいそうになるほど目を奪われる。登場人物も多いけどしっかり描き分けられていて見分けがつかなくなることはない。ただ、中盤以降の政治パートよりも序盤の夫との出会いのロマンスやそこからの貧しいながら幸せな生活のほうがどこか牧歌的で純粋に楽しかったような気もする。

《印象的なシーン》股肱の臣と意味深に視線を交わす場面。

 

 

閥(1967年、アメリカ、監督:アルフトン・レナスター、99分)

 ワイドスクリーンバロックハイテンポアニメーション。

 アクション友情恋愛組織個人技技術超能力帝国宇宙人とてんこ盛り。アップテンポなリズムでとても楽しいけれど、字幕の文体が古いのはいかんとも……まあ時代が時代だから仕方ないんだけど。「~なのである」「~するヘドロックである」ってのをやめてくれるだけでだいぶ違うんだけどなあ。もちろんそれを差し引いても迫力は抜群だけど。

 この映画は「どうしようもない悪人」がほとんど出てこない作品でもある。言えばわかってくれるやつが多いし、本人なりの正義感を持っている。全体的に不快感のあるキャラクターはいなくてどこに魅力のあるキャラクターがほとんどだった。グリーアがほぼ唯一の例外かなあ。まあそれにしても大して不快ではない。

 ちなみにオープニングで表示される原題になんとなく見覚えがあるなと思っていたらヴォークト『武器製造業者』が原作だった。マジか。あれをどうしてこんな邦題に仕上げたのか。

《印象的なシーン》ラストのイネルダとヘドロックの会話。

 

 

おとなしい凶器(2023年、アメリカ、監督:ウェス・アンダーソン、17分)

 先月に引き続きアンダーソンによるダール短編映像化企画の第三弾。古典的なミステリ作品で単純明快だけど惹きつけられるものがあるのはダールとアンダーソンに化学反応だろう。原作は既読だけど、いつ観てもパトリックが酷い。なんなんだろうこいつ。なんでこんなにラムチョップが旨そうなんだろうなあ。

《印象的なシーン》メアリーの笑い方。

 

 

小説工場(1889年、日本、監督:真崎有智夫、10分)

 たぶんロバート・シルヴァーバーグの異名(蔑称?)を題材にしているのだと思うけど、どちらかというと星新一……はちょっと褒めすぎだけど、そっちを目指したんだろうなあという作品。経過の描写はイマイチだけどオチはちょっと笑える。

《印象的なシーン》歩き回るマネキンのような第一段階の男。