電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た存在しない映画(2023年7月)

早乙女さんにはもうデスゲームしかない(2023年、日本、監督:浜輪裕、105分)

 青春コメディ。監督を含めてかなり若手のスタッフで製作されていて役者も作品設定の通り高校生が起用されているらしい。撮影現場の雰囲気も良かったんだろうなあ、きっと和気藹々としていたのだろうなあ……というのが作品越しに伝わってくる。かなりレベルが高い自主製作映画って感じもする。良い意味でも悪い意味でも。

 ほぼ原作通りだったと思うけど「MMORPGしかない!」は完全にオミットされていた。まあ、ここ入れるにはお金も技術も足りないだろうから仕方ないよねえ。場面のほとんどが学校で完結するだけにかなり低予算で作られたらしいけど、肝心のデスゲームの器具類はかなり凝っていた。特に序盤の鉄球はCGではなく発泡スチロールを加工したものなのだけど、質量感がかなり本物っぽくて低予算映画らしからぬ迫力に仕上がっている。見た目はともかく重さはどうやって表現したんだろう……。

 超大作ではないけどサッパリしていて良い映画だと思う。

《印象的なシーン》「あれから、もう四年も経つのか……」

 

 

テアトルからの逃避(1998年、フランス、監督:リナ・シモン、130分)

 徹頭徹尾ドラマが起きない映画。いや、本当に登場人物は一様に平凡な一般市民でセリフも演劇らしさはかけらもなくて、物語の起伏どころか起承転結の起すらな存在しない。視覚面についても、衣装も画面も小道具も光陰も舞台も音響もなにもかもがなにひとつ凝っていない。

 こうやって筋だけ説明すると凄まじく退屈だけど、観てみると思いのほか楽しい。何か起こりそうで起きないことに焦らされる。焦らされ続けて、そのまま終わったけど。

 本格的なフランス映画って初めて観たけど、こういうものなのかな。聞きかじったフランス映画のイメージは難解とか芸術性が高いとかそういうのだけど……。というか、おれはフランス映画を観ていないのかもしれない。なにがフランス映画なのか良く分からなかったし、そもそもこれ本当にフランス映画なのか? というのも、この映画に関する公式の情報がどうしても見つからず制作国が断定できなかったから、やむを得ず監督名と劇中の使用言語から一応「フランス映画」としたけど、この映画がフランス映画であると断言できる公式の情報は見つけられなかった。なんなんだこの映画。本当にフランス映画なのか……というかそもそもこれ本当に映画だったのか。Amazonプライムにあったから何の疑問も抱かずに観たけど、実は単なるホームビデオを映画と称して垂れ流していただけなのでは……。

《印象的なシーン》フランスパンをむしゃむしゃ食べる場面。

 

 

時が乱れ過ぎている!(2022年、日本、監督:馬田縁富、97分)

 近年(大変ありがたいことに)邦画で流行している日常系SFコメディの集大成というべき作品で、時間旅行者タイムトラベラー時間跳躍者イムリーパー時間滑落者、タイムスリッパーそして時間循環者イムルーパーと人間が物理/非物理で時間移動する代表的な手法が勢ぞろいで、しかも過去と未来からは「手紙」「食べ物」「武器」といった重要アイテムから「糸くず」「血判状」「謎の生き物」などの意味不明なガラクタまで無責任に次々と送られてくるし、挙句の果てにさらにもう二種類の時間移動者が登場するに至ってはもう混沌を極めている。

 スラプスティックコメディの最高傑作。それぞれの時間移動方法で2022年に集結した彼らのドタバタ活劇は複雑に絡み合いすぎてもはや収拾不可能な地獄の様相を呈する。いやあ、本当にワクワクさせられました。というか、収拾つかないまま終わるんじゃないかと思っていた。それが複雑に絡み合った糸はラスト五分で完璧にほぐれて、あるべき場所へと収束していく。あんなに見事な終結ほかにない。軽快な序盤から怒涛の中盤、そしてコンパクトでシンプル且つ創意工夫にあふれるラストシーン。完璧。こういう邦画が観たかったぜ。

《印象的なシーン》孝行(1回目)と正面衝突しそうになったところを公志(三週目)に救われて、その直後に陽翔(β)に怒鳴りつけられ文吉(江戸時代)と直樹(大正時代)に慰められたところを孝行(32回目)に突き飛ばされて壁に激突し陽翔(Σ´)とともに激昂する孝行(1552回目)。

 

 

閲(2020年、アメリカ/イギリス、監督:アレクシス・スコット、150分)

 古代地中海世界を舞台にしたサイバーパンクSF映画。いや、サイバーパンクじゃなくて歴史改変系になるのかな。けど、電脳戦っぽいこともやってるし歴史改変というには技術が進歩しすぎているし……まあ、公式サイトの表記がサイバーパンクだからサイバーパンクということで。

 超大作なだけあって戦闘シーンの描写力は流石の一言。総司令官や側仕えの参謀、一軍の指揮官ではなく、一部隊の隊長クラスから一兵卒までの人物に焦点を当てているわけだけど、開けた平野の戦場を主軸にした首尾一貫した造りは素晴らしい。ストーリーについても、おれは余計な肉付けのないスマートな構成と思ったけど、素っ気なくて物足りないと思った人も多かったらしい。まあこの辺の両立は難しいから仕方ないかなあ。

 密集歩兵陣ファランクスの威容は視点を上下させることでより一層際立っている。4DXでの上映もあったらしいけど、感想サイトでは賛否両論だった。この手の映画では珍しいんじゃないかな。閲兵式での一幕で物語は閉じるけど、ここに関しては「物語が薄味だった」と批判している人も十分満足できたらしい。手元の動きだけでその後の展開を予期させる。

《印象的なシーン》画面に迫りくる大量の穂先。

 

 

白い糸(2025年、日本、監督:真崎有智夫、15分)

 とても好きな題材をとっているだけに、絶妙な尺足らずの構成が悲しい。もうちょっと長くやってくれても良かったんだけどなあ。公嗣くんのキャラデザと声優の演技はすごく好き。おれは固有名詞があったほうが分かりやすいと思うけど、どうなんだろう。あと、丞相はともかく宰相も歴史用語だから使えなくなるのかあ。

《印象的なシーン》激昂する皇帝。